JICA海外協力隊:吉田 恵美さん(フィリピン派遣)

ページ番号1022709  更新日 令和1年8月23日

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  • 青年海外協力隊(獣医・衛生 酪農指導)
  • フィリピン共和国派遣(2018年11月から)

あなたの近況を教えてください

お住まいの国(地域)はどんなところですか。(地理、気候、言語、宗教、食事、文化・風習など)

 フィリピン共和国は、日本から飛行機で4~5時間ほど南に飛んだ場所にあります。大小7,000以上の島々から成り、インドネシアに次いで世界で二番目に島が多い国です。フィリピンといえば、お手軽な英語留学先というイメージが強いと思いますが、実はすべてのフィリピン人が英語を理解するわけではありません。フィリピンでは、日本人と同じように学校で英語を第一外国語として学び、小学校から国語(タガログ語)以外の授業は英語で行われます。フィリピン人の英語力は日本人よりずっと高いですが、学校に行けなかった低所得者や年配者は英語を話せません。タガログ語、英語の他に、フィリピンには170もの独自の言語が存在すると言われています。しかしながら、話す言葉が違えばたとえフィリピン人同士でも全く会話が通じません。これが、フィリピンで英語の教育に力をいれている理由です。

 フィリピンは熱帯雨林気候に属し、その気候は大きく乾季(11月~6月)と雨季(7月~10月)に分かれます。フィリピンで最も暑い時期は『Summer season』とよばれ、日本のようにジメっとした不快感はないのですが、とにかく暑く、日差しが痛くて肌を露出できません。フィリピンの夏を覚悟して迎えた私ですが、岩手生まれ岩手育ちの私には想像以上に過酷なものでした…。日中だけでなく夜もエアコンなしでは過ごせません。ですが、フィリピンの電気代は日本並みに高いので、エアコンを毎日使えば電気代は馬鹿になりません。初めてのフィリピンでの夏は、電気代節約のため殆どエアコンを使わずに過ごしましたが、次ぎの年も同じことを出来る自信はありません…。ちなみに、フィリピンのエアコンは、スーパーもバスも飛行機もとにかく寒すぎて、私は何度も風邪をひきました…。フィリピンに旅行に行く際は、長袖の服を一着は持っていくことをお勧めします。

 さて、日本と違うフィリピンの文化といえば、何といってもミリエンダでしょう。フィリピン人は、朝昼晩の三回の食事の他、各食事の間にミリエンダと呼ばれるおやつの時間をとります。ミリエンダは何よりも優先されると言っても過言ではありません。会議がミリエンダタイムをまたげば主催者がおやつを用意し、たとえ会議中でも、みんなもぐもぐおやつを食べます。ただし、おやつといっても日本の様なチョコレートやクッキーという可愛いものではありません。彼らにとっては、米以外の食べ物は全ておやつ。つまり、パンもパスタもハンバーガーもミリエンダ。そして、コーヒーには必ず大量の砂糖をイン。『ブラックコーヒーください』と注文しても、なぜか微糖コーヒーが出てきます。言わずもがなですが、フィリピンは肥満体国です。この国の大きな課題の一つは、間違いなく国民の健康維持(生活習慣病予防)でしょう。

 フィリピンの面白い文化を語るなら、クリスマスは欠かせません。フィリピンはアジア諸国では珍しいカトリックの国なので、クリスマスは一年で一番大切なイベントです。ただし、日本のようにイブとクリスマス当日だけが盛り上がるのではなく、月の名前に『ber』が付く期間、つまり9月(September)から12月(December)の間は、ずっとお祭り騒ぎです。9月からクリスマスのデコレーションがされ、あちこちでビデオケ(各家庭のテレビを使って歌うカラオケ)の爆音が昼夜を問わず鳴り響きます。たとえ深夜0時過ぎであっても…。この国には『近所迷惑』という言葉は存在しないようです。日本はチキンとケーキがクリスマスの定番メニューですが、チキンの代わりに豚の丸焼き『レチョン』を食べます。レチョン専門店もありますが、一般家庭で作ることも珍しくなく、クリスマスシーズンは、あちこちから豚の叫び声が聞こえます…。

 さて、話は変わって、私の任地について少しご紹介します。私はセブ島のすぐ隣の島、ネグロス島にあるドゥマゲテという場所に住んでいます。名前を聞いた事のある人は殆どいないでしょう。ネグロス島はフィリピン国内で四番目に大きな島で、砂糖の一大生産地として有名です。現地で話される言葉はビサヤ語(セブアーノ語)で、これはセブ島や、世界遺産であるチョコレートヒルズがあるボホール島でも話されている言葉です。ドゥマゲテには、沢山の外国人が住んでいます。それは、この街に大学や語学学校が沢山あり、外国人留学生が多いからです。しかし、見かけるのは若者だけではありません。沢山の外国人の中でも、目立つのは白人の高齢者です。彼らはいつも海沿いのレストランやバーでまったりとお酒を楽しんでいます。彼らは働いている訳ではなく、退職後、残りの人生を楽しむべく現地に移り住んでいるのです。こういう背景があるので、ドゥマゲテは別名、『学園都市』または『紳士の町』とも呼ばれています。

あなたの活動(仕事、勉強、取組)について教えてください。

 私はドゥマゲテで、獣医師として活動しています。私の活動の目標は、島で飼われている乳牛から搾られる牛乳の質と量を向上させることです。私のフィリピンでの職場は、National Dairy Authorityという、農業省(日本でいう農林水産省)の下にある組織です。フィリピンでは、子供を中心とした低所得者の健康促進のため、『Milk Feeding Program』と呼ばれる取組みを進めています。要は、子供に牛乳を飲ませて、幼いうちから、しっかりした体格を作ろうという訳です。しかしながら、フィリピンの牛乳の自給率はわずか2%で、国内で流通している牛乳の殆どが他国から輸入したものです。そこで、自国での牛乳の生産率を上げるために、農業省を中心に酪農業の普及に取組んでいます。ところが、ご存じのとおりフィリピンは年中暑さが厳しく、涼しい場所を好む乳牛にとっては非常に過酷な環境です。さらには、雨の降らない乾季の間は、乳牛の餌となる草が育たず、牛たちは可哀そうなくらいガリガリの状態です。これでは、生きていくのに精一杯で、牛乳を作れる訳がありません。また、栄養が足りないだけでなく、一部の乳牛は乳房炎という病気に罹っています。おっぱいに細菌が感染して、おっぱいが腫れあがったり、牛乳が出なくなったりする病気です。乳房炎になった乳牛の牛乳を、人が飲むことはできません。さらに困ったことには、乳牛が病気になっても、治療できる薬や資材も殆どありません。つまり、病気は予防するしかないのです。私は、乳牛の栄養状態を改善するために、農家さんと一緒に牧草を育てたり、病気を予防し牛乳の質を良くするために、牛乳の検査結果を踏まえたより良い飼い方のアドバイスをしています。

写真:家畜市場
活気あふれる家畜市場
写真:酪農農家の子供たち
酪農農家の子供たちと
写真:妊娠鑑定の様子
乳牛の妊娠鑑定
写真:生乳を顕微鏡で検査
生乳検査

 

印象に残っている出来事はありますか。

 深夜、家に泥棒が来たことがあった。幸い、物は盗られませんでしたが、とても怖い思いをしました。警察署に行き、現場検証などをしてもらいましたが、ポリス達のずさんな対応には正直失望しました。しかしその反面、アパートの住人と管理人さんの対応がとても親切でした。一人暮らしの日本人女性が怖い思いをしたと知ると、彼らは一致団結して私を守ってくれようとしました。『フィリピンで暮らすには、こういう点に気を付けたほうがいい』とアドバイスしてくれたり、『何かあったら、大声を出すか、このブザーを押すんだよ。そうしたら、すぐ駆け付けるからね』と自分の防犯ブザーをくれました。この件をとおして、犯罪が日常茶飯事なこの国では、悪いことを考える人たちに関心を持たせるような隙のある行動が彼らを招き入れたのだと、油断した自分に非があったのだと知る事ができました。日本人の目で見ると、『フィリピン人はいい加減だな』と思う事もしょっちゅうですが、外国人の私に対しても人情味溢れる彼らに、実は結構救われています。

岩手に関することについて教えて下さい。

岩手(日本)を離れて、あらためて感じた岩手(日本)の良いところはありますか。

 とにかく、町も店も自然も、どこもかしこも全てが美しいです。日本人にとっては当たり前ですが、ごみがその辺に山積みになってないのが、とても素晴らしいことだと感じます。フィリピンにはゴミの処理技術もリサイクル技術もないため、捨てられたゴミはごみ山へ運ばれそのまま放置されています。そして、仕事のない貧しい人々が、そこから少しでもお金になりそうなものを拾い集めて生活しています。実は、私が協力隊に参加した動機のひとつが、このごみ山で生きる人々でした。

 日本では、ごみを分別したりポイ捨てしないのはもはや常識ですが、フィリピンに住んでいると、これがどんなに特別なことなのかを実感します。

写真:現地のごみ山
任地のごみ山

岩手について話題になったことや、PRしていただいていることはありますか。

 私は、フィリピンで酪農に携わっているので、現地の農家さんに岩手県の畜産について度々紹介します。『乳牛の他にも、豚や鶏、肉牛などたくさんの家畜がいて、日本でもトップクラスの畜産が盛んな場所だよ。一つの農家に、乳牛が何十頭、何百頭といて、乳量も10倍以上だよ』と話すと、酪農家さんは『どんな風に家畜が飼われているのか、見てみたい。学びたい。』と言います。私の住む島では、一つの酪農家に乳牛が平均2~3頭しかいません。搾乳も機械を使わず手搾りです。彼らにとって岩手の畜産は、まさに先進地です。

岩手県の皆さんにメッセージをお願いします。

 日本を離れて、その良さに改めて気づきました。恵まれた環境にいると、小さな幸せを当たり前だと思いがちですが、それを幸せだと感じられる自分でありたいなと思います。

写真:山岳民族に古着提供をしている様子
山岳民族に古着提供のアクティビティ
日本文化紹介アクティビティ参加者の集合写真
他の隊員と、日本文化紹介のアクティビティ
写真:新聞紙で兜作り
新聞紙で兜作り

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