牛の1型糖尿病

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ページ番号1007928  更新日 平成31年2月20日

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糖尿病は発症素因を有する個体が、加齢、肥満あるいは環境の影響を受けて、膵臓のランゲルハンス島β細胞から分泌されるインスリンが相対的あるいは絶対的に不足することに起因する内分泌疾患である。代謝異常は糖質に留まらず、脂質や蛋白質にもおよぶ。本病の発生は犬と猫において一般的であるが、牛では稀である。

本病に罹患した家畜は体重減少、多渇多飲、頻尿などの異常により気づかれ、糖尿、高血糖、低インスリン血症あるいはグルコース投与後に上昇した血糖値の低下速度の著しい低下により診断される。

牛の本病は人例の1型糖尿病(人例の全糖尿病の5から10%を占める)に近似することが指摘されている。すなわち、前者の人例ではコクサッキーウイルスB4感染などにより、膵島β細胞を構成するペプチドとの分子相同性による交叉反応が生じることや、細胞性免疫機能が障害されることなどにより、β細胞に対する抗体が出現し、主にT細胞によりβ細胞が破壊され、内因性インスリンが絶対的に欠乏することにより引き起こされる。牛例では牛ウイルス性下痢(BVD)ウイルスの持続感染あるいは口蹄疫ウイルス感染により、自己免疫性リンパ球性膵島炎が誘発され、本病が発現する。BVDウイルスに持続的に感染している牛における正確な糖尿病発生率は不明であるが、10%前後であったとの報告がある。本病に罹患し易い遺伝的素因の存在についても、今後の詳細な検索を待つ必要があるが、現時点では否定的に考えられている。

牛における本病の主要病変は膵臓に観察され、急性型と慢性型に大別される。急性型の膵島は空胞変性と顆粒減少を示す細胞により構成され、膵島内およびそれらの周囲にリンパ球浸潤を伴う。慢性例の変化は膵島の総数と容積の減少により特徴づけられ、小葉間と腺房間の線維化、少数の膵島における構成細胞の空胞変性ならびに軽度のリンパ球浸潤がみられる。

本病の発生例

平成18年12月に管内の1農場で、BVDウイルスに持続的に感染していた16か月齢の黒毛和種雌牛が著しく削痩し、高血糖、糖尿およびケトン尿を示した。血漿糖耐性(糖消失率:0.25)およびインスリン濃度(1ミリリットルあたり2.7から4.9マイクロユニット)はともに著しく低下した。主要な病理学的変化は膵島の総数と容積の減少であり、少数の膵島における膵島細胞の空胞変性を伴っていた。同変性細胞の細胞質に少量のアルデヒドフクシン陽性顆粒あるいはインスリン抗原が存在した。以上の検査成績から、当該例をBVDウイルス持続感染と関連した1型糖尿病と診断した。以前に当所でBVDウイルス持続感染牛あるいは粘膜病と診断した計30例の牛の膵臓に、1型糖尿病が示唆される病変は観察されなかった。

(病性鑑定課)

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