(1)農業、林業、水産業

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ページ番号1067483  更新日 令和6年3月13日

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【農業】

  ア 水稲

水稲

(現状)

 既に全国で、高温による品質の低下等の影響が確認されており、本県でも、米粒の内部に亀裂が生じる胴割粒やデンプンの蓄積が不十分で白く濁って見える白未熟粒の発生など、生育条件によって品質の低下したコメが確認されています。

(将来予測)

 登熟期間の気温が上昇することにより、全国的に品質の低下が予測されています。    

 また、「環境省環境研究総合推進費S‐8 温暖化影響評価・適応施策に関する総合的研究」注1(以下「S‐8研究」という。)における研究成果では、収量を重視した場合は、全ての気候モデルにおいて収量が増加すると予測されていますが、品質を重視した場合は、複数の気候モデルにおいて、21世紀末には収量が減少すると予測されています。

 将来の降雨パターンの変化はコメの年間の生産性を変動させ、気温による影響を上回ることも想定され、様々な生育段階で冠水注2処理を施した試験では、出穂期の冠水でコメの減収率が最も高く、きちんと整った形をしている米粒の割合である整粒率が最も低くなることが示されています。


注1 環境省環境研究総合推進費S‐8 温暖化影響評価・適応施策に関する総合的研究:環境省が公募し、環境政策に貢献する研究として2010(平成22)~2014(平成26)年度の間に実施された研究で、日本全国及び地域レベルの気候予測に基づく影響予測と適応策の効果の検討等を行った。

注2 冠水:洪水等で田畑や作物が水につかること。

  イ 果樹

りんご
リンゴの着色不良(資料:岩手県)

(現状)

 成熟期のリンゴやブドウの着色不良・着色遅延等が全国的に報告されており、本県においても、リンゴの一部の品種で着色不良等が確認されています。

(将来予測)

 リンゴについて、21世紀末になると4℃上昇シナリオでは東北地方の主産地の平野部で、2℃上昇シナリオでは東北地方の中部・南部など主産県の一部の平野部で、適地よりも高温になることが予測されています。

 また、ブドウについては、RCP4.5シナリオを用いた予測では、着色不良が2040年以降に大きく増加するとされています。

 本県においても、高温による生育不良や栽培適地の変化等による品質低下などが懸念されます。


注 RCP4.5シナリオ:将来の温室効果ガスが安定化する濃度レベルと、そこに至るまでの経路のうち代表的なものを選び作成されたもので、中位安定化シナリオのこと。

  ウ 麦、大豆等(土地利用型作物)

(現状)

 小麦では、茎が伸び始める茎立ちの早期化と、春先の低温による凍霜害が見られています。

 また、大豆では、夏季の高温・乾燥によるさやの数(着莢数)の減少、登熟期それに伴う収量や品質の低下が見られる年もあります。

(将来予測)

 小麦では、融雪後の高温に伴う生育促進による凍霜害リスクの増加が懸念されています。また、出穂から成熟期までの平均気温の上昇による減収が危惧されます。

 大豆では、開花期前後の高温や干ばつ等による青立ちの発生増加が懸念されます。また、夏季の高温・乾燥による着莢数の減少、登熟期の高温による小粒化に伴う収量や品質の低下が懸念されます。


注 青立ち:さやは成熟しているにもかかわらず、茎葉が青々としている状態。

  エ 野菜等

(現状)

 キャベツなどの葉菜類、ダイコンなどの根菜類、スイカなどの果菜類等の露地野菜では、多種の品目でその収穫期が早まる傾向にあるほか、生育障害の発生頻度の増加等も見られています。

 リンドウでは高温による花弁の着色不良が見られており、花きにおける高温による開花の前進・遅延や生育不良が報告されています。

 また、近年、頻発する台風や大雪等の自然災害により、園芸施設の倒壊や破損の被害が発生しています。

(将来予測)

 葉根菜類は、生育期間が比較的短いため、栽培時期をずらすことで栽培そのものは継続可能な場合が多いと想定されます。

 キャベツ、レタスなどの葉菜類では、気温上昇による生育の早期化や栽培成立地域の北上、二酸化炭素濃度の上昇による重さの増加が予測されているほか、果菜類(トマト、パプリカ)では気温上昇による果実の大きさや収量への影響が懸念されます。

 また、自然災害により、園芸施設が被害を受けるリスクが高まる可能性があります。

  オ 畜産・飼料作物

(現状)

 畜産は、気温の上昇により乳用牛の乳量の低下や、肉用鶏のへい死が発生しています。

 動物感染症は、現在は、明らかな影響は確認されていません。

 飼料作物は、寒地型牧草では、高温と乾燥による生育の停滞や、一部夏枯れの状態が確認されています。

(将来予測)

 畜産は、乳牛の乳量減少、肉牛等の増体の遅れ、牧草の収量の減少や栽培適地の移動等が懸念されます。

 動物感染症は、野生動植物や昆虫類等の生息域や生息時期の変化による家畜伝染性疾病の流行地域の拡大や流行時期の変化、海外からの新疾病の侵入が懸念されます。

 また、渡り鳥等の飛行経路や飛来時期の変化による鳥インフルエンザの発生期間の拡大が懸念されます。                    飼料作物は、気温の上昇により、寒地型牧草で夏枯れリスクが高まり、雑草の侵入が広がる可能性があります。

  カ 病害虫・雑草

(現状)

 現在は、明らかな影響は確認されていません。

(将来予測)

 気温上昇により害虫の年間の世代交代数が増加することに伴う発生量の増加が懸念されます。また、国内の病害虫の発生増加や分布域の拡大により、農作物への被害が拡大する可能性があります。

 雑草の一部種類で気温上昇により定着可能域が拡大・北上する可能性があります。

  キ 農業生産基盤

(現状)

 農業生産基盤に影響を与える降水量については、多雨年と渇水年の変動の幅が大きくなっているとともに、短期間にまとめて雨が強く降ることが多くなる傾向が見られています。

(将来予測)

 気温の上昇により融雪流出量が減少し、用水路等の農業水利施設における取水に影響を与えることが予測されています。

 また、集中豪雨の発生頻度や降雨強度の増加により農地の湛水被害等のリスクが増加することが予測されています。

【水産】

  ア 回遊性魚介類(海面漁業)

(現状)

 海面では、海水温の変化に伴う海洋生物の分布域の変化が世界中で報告されています。また、日本近海においても、日本海を中心に高水温が要因とされる分布・回遊域等の変化が報告されており、本県の主要魚種であるサケ、サンマ、スルメイカは漁獲量が減少しています。                                            

 一方、ブリやサワラなどの暖水系回遊魚の漁獲量は増加しています。

(将来予測)

 21世紀半ば以降に予測される気候変動により、海洋生物種の世界規模の分布の変化や生物多様性の低減を指摘する報告があります。

 また、世界全体の漁獲可能量が減少し、4℃上昇シナリオの場合、21世紀末の漁獲可能量は、21世紀初めと比較して約2割減少すると予測された結果もあります。日本周辺海域においても、サケ・ブリ・サンマ・スルメイカ・マイワシ等で分布回遊範囲及び体サイズ変化に関する影響予測が報告されています。

 特に典型的な冷水性魚種のサケは、地球規模で海水温が上昇した場合、その分布域は本県よりも北方へ移動すると予測されています。

  イ 増養殖等(海面養殖業)

(現状)

 海水温の上昇の影響と考えられる生産量の変化などが全国的に報告されており、本県においても気候変動に適応した養殖技術等の開発が行われています。

(将来予測)

 ワカメ養殖においては、海水温の上昇は生長に必要な栄養塩の減少をもたらし、収穫量への影響が懸念されます。

 また、4℃上昇シナリオの場合、21世紀末には芽出し時期が現在に比べ約1か月遅くなることや漁期が短くなることが予測されています。                                                      

 ホタテガイ養殖においては、海水温の上昇による生残率の低下やこれまで出現していなかった有害・有毒プランクトンの発生が懸念されます。

  ウ 増養殖業(内水面漁業、養殖業)

(現状)

 内水面漁業・養殖業が気候変動により受けた影響はまだ顕在化していませんが、国内では高水温によるワカサギのへい死が報告されています。

 また、三陸沿岸では親潮の接岸による海水温低下がアユ資源量の減少要因として報告されています。

(将来予測)

 研究では、21世紀末ごろの西日本において、海洋と河川の水温上昇によるアユの遡上時期の早まりや遡上数の減少が予測されています。

  エ 沿岸域・内水面漁場環境等(造成漁場)

(現状)

 海水温の上昇により、南方系魚種の水揚げが確認されています。                                      

 また、冬場の海水温が高めに推移することに伴い、ウニ等が活発に活動し、コンブ等が成長前に食べ尽くされたことなどによる藻場の減少が確認されています。

(将来予測)

 海水温の上昇による藻場を構成する海藻種や現存量の変化、南方系の植食性魚類等の増加に伴う食害等によって藻場が減少し、アワビ等の漁獲量の減少が懸念されています。

【その他の農業、林業、水産業】

  ア 野生鳥獣の影響(鳥獣害)

(現状)

 全国的にニホンジカ等の分布が拡大していることが確認されており、積雪深の低下に伴い、越冬地が高標高に拡大したことが確認されています。

 また、ニホンジカの生息適地が1978(昭和53)~2003(平成15)年の25年間で約1.7倍に増加し、既に国土の47.9%に及ぶと推定されており、この増加要因としては積雪量の減少が大きく影響している可能性が指摘されています。

 本県においてもニホンジカやイノシシなどの野生鳥獣の増加、生息域の拡大により、農林業被害が生じています。

(将来予測)

 ニホンジカについては、気候変動による積雪量の減少と耕作放棄地の増加により、2103年における生息適地が、国土の9割以上に増加するとの予測があります。

 気温の上昇、積雪量の減少や積雪期間の短縮化は、ニホンジカ等の生息域を拡大させる懸念があります。これにより、自然植生への影響や農林業の被害が増大することも想定されます。

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