希望郷岩手キャンパストーク(平成22年6月2日)

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ページ番号1000957  更新日 平成31年2月20日

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訪問学校:岩手県立大学宮古短期大学部
開催場所:宮古市

  • 訪問学校:岩手県立大学宮古短期大学部
  • 実施日:平成22年6月2日(水曜日)
  • 場所:岩手県立大学宮古短期大学部

写真:キャンパストークの様子1

司会
こんにちは。それでは、ただいまから県北・沿岸移動県庁希望郷いわてキャンパストークを開催いたします。
まず、このキャンパストークの意義を話しますが、本学の学生、君たちのことですけれども、君たちに岩手県に対する理解や興味を深めてもらい、今後の岩手県の、特に沿岸圏域の振興にぜひ一緒になって取り組んでもらいたい、そういうメッセージを発信したいということから、本学宮古短大部で初めて実施されるものであります。
最初に、達増知事から講義をしていただき、その後君たちと意見交換をするという形で進めてまいります。
それでは、本日の講師、達増知事のプロフィールを簡単に紹介いたします。昭和58年に盛岡第一高校を卒業され、昭和63年、東京大学法学部を卒業されました。同年の4月に外務省に入省され、平成3年にアメリカ、米国のジョンズ・ホプキンス大学国際研究高等大学院を修了されております。その後、在シンガポール日本大使館の二等書記官、外務省国連局科学課、外務大臣官房総務課課長補佐等を歴任され、平成8年から衆議院議員を4期連続務められました。そして、平成19年4月30日に岩手県知事に就任され、そして現在に至っておられます。今日は、いわて三陸の未来と若者への期待というテーマでご講演をいただきます。それでは、達増知事よろしくお願いいたします。

写真:キャンパストークの様子2

達増知事
皆さん、こんにちは。岩手県立大学宮古短期大学部の皆さん、今日は移動県庁という企画の一環でこの希望郷いわてキャンパストークをこちらでやっております。沿岸移動県庁ということで、県庁は普段盛岡の内丸にあるのですが、その県庁が今ここにあるというつもりで取り組んでほしいということであります。
そもそも私にとって岩手全体というのはどこが中心、どこが端のほうということもなく、岩手全体が私の守備範囲で、普段どこにいるかというのは、たまたま盛岡の内丸にいることが多いのですけれども、そこが知事のいる場所と決まっているわけではないのでありまして、普段ここにいてもいいのです。ただ、いろいろ仕事の関係上、盛岡の近くにいることが多いというだけでありまして、よく沿岸のほうに来ると、「遠くからようこそ」とか言われるのですけれども、ここも私の仕事場であり、また私の家のようなものだというふうに思っています。盛岡が県庁所在地というのは条例で決まっているわけではないのですよね。事実上、昔からたまたまそうなっているだけであります。ですから、これはすべての岩手県民の人にそういう意識を持ってほしいのですけれども、自分のいるところが岩手の中心、さらにいえば世界の中心と考えてもいいのです。「世界の中心で愛を叫ぶ」という映画、小説がありましたけれども、自分が生きている場所、勉強していたりとか、働いていたりとか、あるいは生活している場所でもいいのですけれども、そここそ世界の中心だという意識を持って普段からいてもらうといいのだと思います。そうでないと何かどこかよそに中心がある、そこは盛岡なのか、仙台なのか、あるいは東京、はたまたワシントンだったりするのか、どんどん自分というのが阻害されてきますので、やはり自分のところが中心であるというふうに考えてもらうといいと思います。
そして、今日のこのいわてキャンパストークの主な題材として、いわて県民計画というのがありまして、手元にいわて県民計画の概要という資料が配られていますね。岩泉に住んで働いている三上亜希子さんのイラストが使われております。このイラストをかいた三上亜希子さんは「農家の嫁の事件簿」というブログで大変有名になりまして、何かの賞で全国一位に輝いたのですよね、ブログの全国一位に輝いて、小学館から本になって出てもいます。岩泉の釜津田は、いわゆる過疎地なのですけれども、三上さんにとってはそこがまさに世界の中心であり、釜津田における驚きと喜びに満ちた農家ライフをブログにして大変評判をとった人であります。三上亜希子さんにはこのいわて県民計画を決定するときの県の総合計画の委員にもなってもらって、中身の決定にも貢献してもらったのですけれども、できた計画のこの普及にも一役買ってもらっています。
皆さんは、岩手のこれからをどのようにしていきたいと思うのでしょうか。こういう県の長期計画というのは昔からありまして、昭和38年度に最初のができてから今まで8本こういう長期計画ができています。昔は経済成長率、人口の伸び率、そういったもので計算して10年後の世の中はこうなっている、岩手では経済規模はこのぐらい、それまでにこのくらいの予算を使って、道路はこのくらい増やせるだろう、こういう施設を増やせるだろう、そういう中で福祉や教育はここまでやるみたいな、そういう計画の立て方をしていました。
まず、経済規模とか、人口の規模とか、そういう数字が先にあって、それに県民の暮らしや仕事のありようを合わせていくような形で計画がつくられていたわけです。しかし、まだまだ道路が不便で道路整備を増やしていかなければならないところが岩手にもたくさんありますし、教育や福祉の関係で施設を整備していかなければならないところはまだまだあります。しかし、民が力をつけてきた個人あるいは世帯、昔に比べますとはるかに力をつけてきていて、自分の夢を実現する、自分の希望を叶える、それを自分の力でやっていくことがかなりできるようになっています。昔は、日本はとても貧乏で、岩手のような地方は輪をかけて貧乏でありましたから、公の力で地域を開発していかないと一人一人の暮らしや仕事というのは成り立たなかったわけでありますけれども、世界にはまだまだ公の力を使わないと個人の幸せが実現しないような貧しい国が世界にはたくさんあるのですが、日本はかなり成熟した社会、経済も成長し、社会も発展してきていて、一人一人がうまくやり、また運にも恵まれれば自力でかなりの程度自己実現をすることができる。こういう世の中でありますから、県の計画を考えるに当たっても、10年後こういう自分でいたい、10年後何をやっていたい、そういう県民一人一人の希望を束にすることで県の10年後の姿があらわれてくるだろう、そういう発想で計画の策定をしました。これは135万県民一人一人つかまえて10年後どうするとか、そういう強権的なやり方でやったわけではなく、いろいろアンケートをとったり、また作文コンクール、そういうので募集をしたりとか、いろんな地域、団体、そういったところから代表の人に意見を出してもらったりとか、いろんな形で意見を集め、三上亜希子さんもメンバーだった県の総合計画審議会というところで議論を重ね、取りまとめてもらって、去年の秋に完成したのがこのいわて県民計画という長期計画です。
中を開いてもらいますと、県民計画というもののあらましが2ページに書いてあり、3ページには今世の中がどうなっているかという現状認識が大ざっぱに書いてあります。今の世界は、情報通信技術が発達して、グローバル化というのが進んでいます。これは、国境を越えて人や物やお金、そして情報が移動して活発に行き来し、地球が一つになっていく、それがグローバル化であります。これは、岩手にとってチャンスでもあり、ピンチでもある。世界が一つになっているので、リーマンショックというアメリカのある大きな金融機関が破綻したことが回り回って岩手における自動車とか電気、電子関係の工場の生産の激減につながって雇用が厳しくなるというような、そういうマイナスの影響もあります。一方、プラスの影響としては景気がよければ岩手で生産される自動車や電気、電子製品、またその部品などがどんどん世界にも輸出され、県民が所得を得ることができます。最近は、農林水産業、岩手の農林水産物にも関心が高まって中国のほうで岩手のアワビであるとか、ナマコであるとか、そういったのを輸入したいということもあり、グローバル化というのはピンチにもなるし、またチャンスにもなる。そこをどうピンチを乗り越え、チャンスを生かしていくかということが問われていくわけであります。
それから、人口減少、少子高齢化ということが日本全体大きな課題なのですが、岩手にとっても大きな課題です。これは、一つにはそもそも1人当たりが生む子供の数が減っていくという、そういう少子化があるのですけれども、岩手の場合は人口の社会減、結婚する数あるいは子供を生む数が減ることを人口の自然減と言いますけれども、岩手から人が岩手県外に出ていってしまう、これが人口の社会減と言います。そういう結婚、出産にまつわる人口減が自然減で、引っ越しとか、そういう異動にまつわる人口減が人口の社会減で、岩手は1990年代には人口の社会減というのは余り深刻ではなくて、1,000人ぐらいしか減らない時期があったのです。岩手も景気がよくて、岩手に働く場が多かった時代が年間1,000人ぐらいしか人口の社会減がありませんでした。ところが、21世紀に入って民間部門の景気の悪化、また公共部門、公共事業の削減などで岩手県内の雇用が悪化し、また中央との格差……。中央という言葉を使ってしまいましたが、東京周辺とかあっちのほうとの格差が広がって、それで1年間に流出人口、帰ってくる人口と出ていく人口との差なのですけれども、差し引きで2,000人、3,000人、4,000人とどんどん増えて6,800人まで増えてしまいました。一昨年6,500人ぐらいに減り、去年6,300人ぐらいだったかな。6,000人台で徐々に減って、人口の社会減に歯どめがかかってはいるのですけれども、岩手県内に働く場があればもっと岩手に残る、あるいは岩手に戻ってくる、そういうことが予想されます。そうそう、詳しく言いますと人口の社会減、出ていった人と入ってきた人の差なのですけれども、岩手の場合、高校卒業時あるいはその上の学校を卒業するころにどっと外に出て、しばらくして戻ってくる、20代終わりから30代ぐらいにかけて戻ってくる、行って帰ってくるというのがかなりあったのです。それが顕著だったのが1990年代で、帰ってくる人がかなりいたので、人口の社会減が1,000人ぐらいにとどまっていました。ですから、今世紀に入って一旦出ていった人が戻ってこない、あるいは戻ってこれないということが拡大したというのが岩手が直面する課題であります。
こうした現状認識に基づきまして、次に概要版の4ページを見ていただきますと、岩手の未来を拓く3つの視点というのがあります。「ゆたかさ」、「つながり」、「ひと」という3つの視点。人口減少、人口の社会減のことを考えても、やはりもうちょい岩手として豊かになっていく必要がある。ただ、経済的に豊かになるだけでいいということでもなく、ここで言う豊かさというのは心の豊かさとか、あるいは自然環境に恵まれている環境の豊かさとか、そういうのも含む岩手ならではの豊かさという意味で使っています。単にお金が儲かる、所得が高いというだけの豊かさではなくて、その意味で(2)の「つながり」というのが大事になるのですけれども、人と人とのつながりから来る豊かさ、自然とのつながり、地域とのつながりから来る豊かさ、そういうのも含めた豊かさであり、そういう豊かささだからこそつながりをはぐくむということでそのゆたかさを目指していくという、そういう構造になっています。つながりをつくっていくためには人が大事ということで、3番目にひとを育むということが入ってきます。
特に岩手の今後10年というのを考えたときに、その10年間何か巨大な大規模施設を岩手に誘致して、それに今後10年をかけるとか、そういう時代ではもうないだろうと、今後10年岩手を発展させていくための最大の宝、最大のチャンス、それは人づくり、今岩手にいる人たちにすくすく育ってもらう。また、今岩手にいなくても、これから岩手に来るであろう人でもいいし、生きてまた帰ってくる人でもいいのですが、いずれ人づくりということが岩手の10年にとって一番大事であろうという認識から「ゆたかさ」、「つながり」、「ひと」という3つの視点の整理がなされております。
そして、5ページの真ん中にあります基本目標いっしょに育む「希望郷いわて」、これが新しい10年計画、岩手県民計画の基本目標です。県民一人一人が希望を持つ。誰もが希望を持つことができる。その結果、岩手全体に希望があふれているような、そういう岩手にしていこうというのが基本目標であります。
そして、6ページに進みますと計画らしくなってきますけれども、生活分野に応じた基本目標、基本政策が6ページに掲げられています。この希望郷いわてなるものを実現させていくために必要な諸政策、この産業、雇用分野の産業創造県いわての実現ということから始まって、分野ごとに7本の柱が立てられています。この7つの基本、7つの政策というものが基本になっていくのですけれども、これを補い、さらに発展させるものとして、7ページの上の箱の中に「岩手の未来を切り拓く6つの構想」というのがあります。この構想というのは、この7つの政策のほうが政策分野ごとにカチッと縦割りで整備されているその縦割りを越えて分野横断的な取り組みでありますとか、またそれぞれの分野を突き抜けて未来に進んでいくような新しいジャンル、そういったものをここに盛り込んであります。沿岸地方が深く関わるものとして最初に挙げられている「海の産業創造いわて構想」というのがありますね。三陸の海の資源を生かした多彩な産業の展開、海洋関係の研究を進める。これは、産業、雇用と、あと農林水産業と一緒に取り組んでいくものでありますし、教育文化も関係してきますし、また環境分野も関係してくる。いろんな政策分野が絡んでくる、そういう構想であります。
この6つの構想をつくるに当たっては、岩手の未来を切り拓く構想グランプリというのをやりまして、約80件の応募をいただいたのですが、その中の優秀なものを取り入れたりもしています。その下ですね、地域振興の展開方向ということで、右のほう、岩手の4つに分けた図が書かれています。県北広域振興圏、県央、沿岸、県南、4つの振興圏、それぞれの地域の個性を生かした産業振興を図っていこうということでそれぞれの地域、市町村は市町村でさまざまな取り組みをしているのですが、この市町村の壁を越え、広域で取り組むと有効な政策がいろいろあります。例えば観光ですね、例えばここ宮古市も浄土ヶ浜を初めすばらしい観光資源がいっぱいあります、食べ物もおいしいし。ただ、東京なり、あるいは外国なりから、ここだけに来てくれとか、ここだけに1週間いてくれといって、じゃ、そうしますというのは難しいわけでありまして、ちょっと足を伸ばして北山崎のほうにも行くとか、あるいは南のほうの大槌、釜石のほうにも行ってみるとか、あるいは大船渡、碁石海岸のほうまで足を伸ばすとか、沿岸という広域で取り組むと効果的なもののわかりやすくいえば観光ですよね。観光というのはなかなか市町村単独でやるよりも同じ地域の市町村、連携して取り組むほうが効果的でありまして、またそれはワカメのような沿岸共通の産物を売り出していくときも三陸ワカメで売っていって知名度を高めるほうがそれぞれの市町村ごと、あるいは漁港ごとの名前で売っていくよりも知名度を高めやすいわけであります。
ちなみに、私は先週高知県に行ってきたのですけれども、高知県というのは岩手県の沿岸に地形が似ているのです。高知県というのは、海に面した県なのですが、海からすぐ山になっていて、山林が占める割合が47都道府県の中で一番高いのです。だからほとんど山の県と言ってもいいのですが、岩手の沿岸地方というのがまさに海に面してはいるのですけれども、すぐ山になって、山林の占める面積が高い。岩手の沿岸の大きさと高知県の大きさというのは大体同じくらいなので、岩手の沿岸が協力すれば高知県に負けないパワーを持っていると思います。岩手沿岸にある地域資源、農林水産物、風光明媚な観光地、またいろんな文化、郷土芸能のような伝統文化、また若い人たちの活動から生まれる若者文化、決して高知県にひけをとらないものが岩手の沿岸部だけであると思っておりまして、そういう力を引き出していくために広域振興圏という取り組みを進めていくこととしております。
一番下に県政運営の基本姿勢、「県民と一緒に未来を拓く新たな県政へチェンジ!」というのがありますけれども、いわての未来づくりを支える専門集団として云々と、これ県職員のことでありまして、これは公務員改革や、また県の行財政改革のことであります。この公務員改革、また行財政改革の一環としまして、いわてI援隊運動というのを去年の秋からやっています。このパンフレットには載ってないのですけれども、I援隊の「I」で、これは坂本竜馬の海援隊の「海」の字を岩手の頭文字でありますアルファベットの「I」に置きかえたそういうものでありまして、わかりやすく説明すると県職員一人一人が坂本竜馬になったつもりになって、県という組織を海援隊みたいな組織にしていこうという試みであります。海援隊というのは土佐藩の下部組織なのですけれども、にもかかわらず土佐藩の藩士でなくてもそこに入れたわけです。脱藩した人でもいいし、ほかの藩の人でもいい。そして、貿易を通じてお互いを豊かにしていこうという共通の目標、豊かさを目標にしているところがいわて県民計画と同じなのですが、ゆたかさを目指すに当たってつながりづくりでゆたかさを目指す。貿易というのは、海を越えて売りたい人と買いたい人をつないでいくのが貿易、そういうつながりづくりで豊かさを目指す。坂本竜馬の海援隊は薩摩、長州を結びつけるとか、イギリスと薩摩を結びつける、新政府を結びつけるとか、そういう結びつけるということを得意としていた集団です。これからの県というのもそういう結びつきをつくっていく機能、商社が持っているような機能、貿易商社が持っているような機能を大いに発揮していかなければだめだと思っています。そして、そういう結びつきをつくっていくためには人づくりというのが、さっき説明したいわて県民計画の視点なわけですけれども、海援隊というのも、先週高知県の坂本竜馬記念館で海援隊の規則とか読んで改めて確認しましたが、学びの場と位置づけられていたのですね。海援隊というのは学問所である。そこで、海援隊大使は航海術を学んだり、英語を学んだり、この短大学部は英語も重視しておられるようですけれども、英語を学んだり、あとは国際法を学んだりとか、そういう学びの場でもあった。県という組織も本質的に学びの場だし、そうでなければならないと思っております。それで、県を海援隊みたいにしていこうというわけなのですが、まず隗より始めよ、県職員からそういう運動をスタートするのですが、これは県職員も県職員ではないように脱藩ならぬ脱県の勢いで古い職員の枠を越えて県職員ではない人たちとも対等に一緒に仕事をして、民間企業であるとか、県内のNPO、いろんな団体あるいは個人でもいいのですが、そういう人たちと対等に仕事をする中で豊かさを実現していこうというのがI援隊運動なので、それは県を飛び越えて広く岩手全体に広がってほしいという運動であります。
最近岩手県の経済界の皆さんもこれに賛同し、県の商工会議所連合会としてI援隊運動をやるということを徹底してくれています。ですから、皆さんも入隊の手続とか要らないので心の中で、よし、自分もI援隊やろうと思えば、もうそのときからI援隊大使でありますので、ぜひぜひそういうことも考えてほしいなと思っております。
さて、いわて県民計画の説明はそのくらいにしますが、改めて三陸沿岸における海洋産業の振興というテーマで少しお話をします。これさっき6つの構想のトップに掲げていました海の産業創造いわて構想ということの補足説明にもなるのですけれども、三陸沿岸というのは世界三大漁場の一つに面しているわけです。三陸沖の海というのは暖流と寒流が合流し、それが北に行ったり、南に行ったりしながら、非常に豊富な魚がとれる。そして、養殖漁業にも大変向いている世界三大漁場の一つであり、本当に有数の漁場であります。また、国が指定している国立公園でもありまして、非常に風光明媚。南のほうは典型的なリアス式海岸、そして北のほうは隆起してできた、これもまた世界有数のがけで構成される海岸の美しさ、世界に誇れる資源であります。そして、この沿岸圏域には県立大学の宮古短期大学部があるほかにも、大船渡には北里大学の海洋生命科学部という学部があります。そして、東京大学の海洋研究所のセンターが大槌町にはあります。また、県の水産技術センターが釜石市にあります。こういう高等教育機関、また研究機関がこの岩手の沿岸には幾つもあります。こうした海洋関連研究機関の集積を生かして、また豊富な海の資源を生かして岩手において海洋産業の振興というのを大きく進めることができると私たちは考えております。
新しい分野として、三陸沖の石油天然ガスなどの新しい海洋資源の可能性を研究する活動というのがあります。また、北里大学を中心に海洋バイオテクノロジー関連の研究支援ということが展開しています。北里大学がやっている海洋バイオテクノロジー関連の研究というのは、いろんな珍しいものが海の中にはありまして、その体の成分にはとても人間に役立つ成分を持っているものがある。いまだ発見されていない、そういう有効成分を海の生き物から取り出して、それを薬にしたりとか、健康補助食品にするとか、そういう研究が進んでいます。そういう体制を強化するために、県でもいわて三陸海洋産業振興指針というのを去年策定しまして、そして今年の4月から沿岸広域振興局の中に海洋産業担当を配置して、その指針に沿った重点施策を推進しているところであります。
それと関連して、最近県のほうで注目しているのがジオパークですね、これは珍しい地質上の特質、そういうのを持っているところをジオパークとして、その地質研究を盛んにするとともに、それを観光とか、あとは生徒がそこに集まる、そういう教育に活用したり、そういうジオパークというのが世界、また日本のあちこちにあるのですけれども、岩手の三陸の海岸というのは典型的なリアス式海岸、また隆起したがけ、それだけでもものすごく貴重なのですけれども、そもそも何でそういう地形になったかといいますと、北上高地という山の塊が片や沈降、沈んでリアス式海岸になり、また北のほうは隆起してがけになっているのですが、この北上高地の山の塊というのは、昔は北上島と地質学者が呼ぶ島で、日本列島が形成されるはるか以前からあったものなのだそうです。日本列島が形成されるというのは1億年よりは新しい何千万年か前のことなのですけれども、北上島のほうはもう数億年前から存在していたと。この北上島の北半分のほうは恐竜時代、ジュラ紀とかその頃にできていて、だからモシリュウという恐竜の化石が岩泉の小本あたりに茂師というところがあるのですけれども、あの辺でモシリュウという恐竜の化石がとれています。あと久慈のあたりで琥珀がとれますでしょう。琥珀がとれるところというのは、映画ジュラシックパークにあるようにジュラ紀の頃の地層なわけであります。沿岸南部はさらに古いのです。ウミユリの化石とか、古生代の地層からできていて、これは4億年とか5億年とか前までさかのぼる地層でありまして、日本にはほとんどない地層、そもそも沿岸南部の古生代の地層というのがゴンドワナ大陸だったかな、何とか大陸という今はない大陸移動説の昔あった巨大大陸の土で堆積が進んで形成された地層で、今のオーストラリアとかの南半球のほうで形成されたものが大陸移動でこの辺に来て、北半分と合体して北上島になったそうです。だから、ひょっこりひょうたん島という人形劇が昔あって、井上ひさしさんという岩手ゆかりの人が脚本書いて、昔NHKの人形劇でやった島が移動して歩くというお話なのですけれども、そんな感じでこの北上高地から岩手沿岸という巨大な島は地球をまたにかけて移動してきて、今ここに落ちついているわけであります。ですから、その地質学上の珍しさというのはものすごいものがあります。ロマンがあると思いませんか、沿岸南部のほうのウミユリの化石とかちょっと掘ると出てくるのですよね、大船渡、さらにちょっと内陸に入って一関市の沿岸寄りのあたりのほうでは古生代の化石が簡単にとれるのですけれども、それははるか数億年前、南のほうの海で形成された。そういうはるか昔、南のほうの海で形成された貝やら何やらの死がいが積み重なって石灰質……。そういう石灰質が多いので、南は滝観洞、北のほうは龍泉洞、安家洞とか鍾乳洞も多いわけです。そういう古代の命にはぐくまれた山の塊。ですから、そこに生えてくる森林も非常に実り豊かな、マツタケも非常にたくさんとれますし、そういう恵み豊かな北上高地、そういう土砂が川を流れて、この岩手沿岸の湾に流れ込むのでカキとかアワビとかものすごくいいものがとれる。そういう古代の命にも支えられた豊かな自然の恵みというのがこの岩手の沿岸地方にはあるということであります。
地方がどんどん直接外国に打って出ていくという話をいたしましょう。岩手県は、今年上海万博に出展していますということを知っていた人いますか、岩手県は上海万博に出展している。これは結構いますね。
5月1日から始まっている上海万博、その開幕の日から2カ月間、岩手県は南部鉄瓶を70個ぐらい展示しています。これは、上海に大可堂というもともとプーアル茶を商う会社で、そのお店でプーアル茶を飲ませたりもしていたのですが、そこが岩手の南部鉄瓶も売ってくれるようになったのです、数年前から。去年大口取引があって、私も上海大可堂に行ってお礼を言ったりしていたのですけれども、来年上海万博だねと。大可堂がプーアル茶を展示するブースを出そうと思っているという話になったので、ではそこに南部鉄瓶も並べてもらえまいかと言ったら、それはいいねということで話は盛り上がり、たまたまそういう話をしていたところにプーアル市の市長さんも来ていたのです。プーアル市というのは中国雲南省という東南アジアとの境にある中国の内陸の南の端の省、雲南省、そこにプーアル市という市があって、プーアル茶という中国茶はそのプーアル市のあたりでしかとれません。野生のゾウがいる本当に田舎の市で、プーアル市を走る高速道路に「ゾウ注意」という看板が立っていますからね。この辺もシカとかタヌキの絵で注意の看板がこの辺も立っているのですけれども、あっちは「ゾウ注意」の看板が立っている。そのプーアル市の市長さんも上海に出てきていて、うちもかませてくれないかということで、話が盛り上がり、それで今年上海万博に岩手県、プーアル市、上海大可堂の3者でお金を折半して出展料を3分の1ずつ出して出展するということを実現しました。岩手の地方の自治体プラス中国の民間企業、その3者の共同でやった取り組みでありまして、普通は万博に地方自治体が参加するときには日本政府にお願いして、日本館のどこかに出させてもらうというのが普通のやり方なのですけれども、それだと長くて1週間、短いと二、三日しか出させてもらえません。実際20近い都道府県や大きい市が日本館、日本産業館ということで出展をしますけれども、順番にやらなければならないので、1週間とか二、三日しか出すことができません。でも、岩手は全く独自のルートを使って出展を確保したので、2カ月間も出すことができるのです。
地域主権という言葉が最近言われているのですけれども、国家主権……、普通主権というのは国に使われる言葉、そういう自立して、独立した集団について言われるものなのですけれども、地方自治体、岩手県のような地方自治体もやりようによっては国に頼らず独自に外国に打って出る立派な主権国家のようなことができるのだということの一つの例だと思っています。地方の人たちが主体性を持って自由に自分たちの暮らしや仕事をよくしていく取り組みができれば、そこに地域主権というものが実現していると私は思っておりまして、それが地方分権の改革、地域主権改革というものをああでもない、こうでもないという議論がいろいろあるのですけれども、議論は大事ですし、制度の改革も必要です。ただ、要は中身であって、まず地方が本当に自立できるのだと、自分たちの力で自由に世界にも打って出られるのだということをまずやっていく、実績を積み上げていくことが大事だと思って、そういうことをやっております。
それでは、時間となりましたので、私からの話はここまでにして、あとは質疑応答に移りたいと思います。ありがとうございました。

司会
それでは、知事どうもありがとうございました。これから意見交換に移りたいと思います。知事の講義に対する意見、質問等あるいはせっかくの機会ですから、この際知事に聞いてみたいこと、知事に訴えたいことなんていうのもある方もいるかもしれませんが、積極的に発言をしてください。それでは意見、質問等がある人は手を挙げてください。

発言者
2年の学生です。出身地は平泉町です。今日はありがとうございました。
岩手県の現状で、今高齢化が大変進んでいるというのが挙げられていて、そういう対応策といっても、一つの手段としてコンパクトシティというのが今結構考えられていると思うのですが、その中で、またまちなかの衰退によって郊外のほうが発展していると思います。その中で大型店の出店がまたそのまちなかの衰退の原因にもなっていると思われるのですが、大型店を規制することに対してはどう考えていますか。

達増知事
大型店が出展する、また出店を希望するに当たっては、いろんな計画を出してもらって、またその地域の人たちといろいろ話し合う機会を持つ、今そういう制度になっています。地域によっては、大型店に来てもらって、それで地域を活性化しようとか、そういう地域もあります。また、逆にいやいや、大型店に来てもらったら困るという地域もあります。あとその中間で、これ盛岡の例なのですけれども、大型店がシネコン、映画コンプレックスと一緒に進出しようとして、大型店はいいけれども、シネコンが一緒ならば困るとかということでシネコンなしで、映画館なしでショッピングセンターだけ来る、それがイオン盛岡店の今の姿なのですが、そういうふうに地域と相談しながら役に立つところは出店し、また地域として困るところはちょっと遠慮してもらうというようなことができればいいと思っております。

司会
ほかに質問、意見等ある人手を挙げてください。最前列。

発言者
2年の学生です。出身地は宮古市です。先ほど4つの地域振興圏についてのお話がありましたが、その4つの地域振興圏の中で地域間の経済格差を拡大する方向に向かっていますが、どのようにして格差の是正について取り組んでいくつもりですか。

達増知事
まずは、それぞれの広域、4つの広域それぞれが頑張ってそれぞれの経済成長を目指してもらうというのがあるのですけれども、そういう中で沿岸広域、そして県北広域というのがなかなか経済の伸びが伸び悩んでいるので、そういう意味では、県のいろんな産業振興の支援としては4つの地域に等分するのではなくて、やはり県北・沿岸のほうに重点を置いて振興施策を行って、それで格差の縮小を図るようにしたいと思います。

発言者
もう一つ聞きたいことがあるのですけれども、自分は宮古市出身なので、最近ニュースで県立宮古病院が大きく取り上げられて、医師不足などの問題が改めて問題視されていますが、どのようにしてこれから医師を確保して地域の医療を守っていきたいとお考えですか。

達増知事
医師不足解消については、いろいろあるのですよ。まず、県の保健福祉部の中に医師不足対策チームみたいなのがあって、それで全国にスカウトを派遣して、岩手出身で県外の病院で働いているお医者さんとか、片っ端から働きかけて岩手で働いてくれないかみたいなことをやっています。あとは新しくお医者さんになる人たち、これは岩手の場合だと岩手医科大学医学部というのが岩手にある唯一のお医者さん養成の学校なので、そこの定員を増やして、それで岩手においてお医者さんになっていく数を増やすということをやっています。
あとはそもそも日本全体のお医者さんの数が低く抑えられているという問題もありますので、そこは国に働きかけて、日本全体として医師不足を是正するように働きかけています。また、そうはいっても日本全体では都会のほうはお医者さんが結構、つまり地域格差ですよね、同じ日本の中でもお医者さんの密度が高い地域と低い地域とがあるので、密度の低い、特に岩手沿岸のようなところでお医者さんを確保できるような、それはもう国の命令あるいは推薦システムでどこか都会のほうから岩手沿岸にお医者さんに来てもらうような、こういう新しい制度を立ち上げなければならないと思います。これも国のほうに提案して、機会あるごとに厚生労働省とか、総務省とかの関係と相談しておるところです。

司会
ありがとうございました。時間の関係であと1人ぐらいかな。
どうぞ、質問、意見等ある人、手を挙げてください。最前列お願いします。

発言者
2年の学生です。軽米出身です。よろしくお願いします。
現在全国的に産業の衰退が起きていますが、岩手の産業振興のためにどのような産業振興策がありますか。

達増知事
究極の産業振興策は人づくりでありまして、一人一人が今より1%仕事の生産性を高めれば岩手全体の成長率が1%上がり、10%高めれば岩手全体の経済成長率も10%高まるわけであります。だから、人間力を高めていくというのが産業振興の上で一番本質的で、そして効果的なところなのです。だから、やっぱり教育を中心とした人材育成ということをきちっとやっていくことが大事かなと思っています。あとは儲かりそうなことは何でもやるという勢いで南部鉄瓶を上海に持っていって宣伝するというところから始まって、三陸鉄道で今度婚活列車という、そういう若い男女専用車両で三鉄を走らせるという企画もあり、それで全国から人を集める。三鉄はほかにもいろいろ、久慈アリスという三鉄のアニメキャラみたいなキャラがあって、去年の秋に三鉄25周年を記念して、そういうキャラが全国の主要鉄道にいるのです、鉄道娘というのですが。それのサミットを久慈でやったら本当に日本津々浦々からそういう鉄道ファンとか、アニメファンとか、フィギュアファンとか、そういう人が集まったりしました。やれることは何でもやるということですよね。それを岩手のあらゆる地域、また農林水産業、商工業、観光等々、サービス業あらゆる分野でやっていくということだと思います。

司会
それでは、そろそろ定刻になりました。本日お忙しい中を貴重な講義と意見交換の場を設けていただいた達増知事に盛大な拍手を送りたいと思います。

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