内外情勢調査会盛岡支部懇談会における知事講演「ポストコロナの岩手県」

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ページ番号1050221  更新日 令和4年2月24日

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とき:令和3年11月26日
ところ:ホテルロイヤル盛岡

はじめに

 本日は、内外情勢調査会盛岡支部懇談会で講演の機会をいただきまして、誠にありがとうございます。本日の演題は、「ポストコロナの岩手県」です。
 新型コロナウイルスの流行は、本当に大切な事は何かを人々に考えさせ、地方が、そして日本が、本来のあり方を取り戻す、獲得する、そういう可能性を拓いています。
 これは、東日本大震災津波の経験から得られる可能性と軌を一にするものです。
 そこで、本日の内容としましては、「1 新型コロナウイルス感染症の流行と脱東京一極集中」、「2 岩手県の新型コロナウイルス感染症対策」、「3 東日本大震災津波の経験・復興の成果」、「4 ポストコロナの岩手県」という構成で、お話をしたいと思います。
 注 本稿の内容は、令和3年11月26日時点のものです。

1 新型コロナウイルス感染症の流行と脱東京一極集中

(1)人々の意識と社会環境の変化

 地方消滅という危機感から、国が平成26年11月に「まち・ひと・しごと創生法」を制定し、全国の都道府県と市町村がビジョンや総合戦略を定め、国を挙げて、総力を結集して、地方創生に取り組んできました。しかし、東京一極集中は逆に加速したという状況でした。
 一方で、今般の新型コロナウイルス感染症は、都市部を中心に拡大し、東京圏などに人口が集中することのリスクを改めて浮き彫りにしました。地方への移住や就業に対して、国民の関心が高まり、東京圏から地方への人の流れが見られます。
 コロナ禍で生まれた人々の意識と社会環境の変化を、まず見てみたいと思います。

《地元(岩手県)志向の強まり》
 若者の地元志向が強まっています。
 岩手県の高校生の県内就職率は、東日本大震災津波以降、年々上昇傾向にありましたが、新型コロナウイルス流行の影響を受けた今年3月の卒業者では、過去20年で最高となる71.4%が県内に就職しています。東日本大震災津波直後辺りの割合が57%台ですから、70%を超えたというのは、新しいステージに入ったというくらいの増加です。
 ちなみに、来春、令和4年3月卒業予定の高校生の9月末現在の県内就職内定者割合もかなり増え、73.5%で、統計が開始された平成8年度以降で最高となっています。
 岩手経済研究所が県内企業の新入社員を対象に毎年実施している意識調査結果によると、令和2年と令和3年の「就職先として県内企業を選んだ理由」では、いずれの年も「地元への愛着がある」が最多で、特に、今年は昨年から9.5ポイント増え、約半数となっています。また、「希望の会社があった」も昨年から12.7ポイント増えており、地元企業への注目が高まっています。
 岩手県民の生活環境の良さに対する認識も高まっています。
 日本リカバリー協会が昨年実施した調査結果によりますと、コロナ禍前後で「居住地域に対する満足度がどのくらい向上したか」という項目で、岩手県は、男性が全国6位、女性が全国1位となっています。
 「通勤満足度」という項目では、岩手県は、男性が全国1位、女性が全国5位となっています。大都市圏に比べて、交通機関を利用する際の感染リスクへの不安や通勤時間への不満が少なかったことが要因として考えられます。
 県ゆかりの方の県内定住も増えています。
 「地域おこし協力隊の都道府県別任期終了者数と定住率」というデータがありますが、岩手県は全国4位で、任期終了者数に占める定住者数の割合が7割を超えています。
 実際に岩手県に定住している隊員によりますと、その理由として、岩手県民の人柄の良さや広大で多様な自然、人が多過ぎない快適な生活環境、都会では感じられなかったやりがいのある仕事に従事することができる、といったことを挙げています。

《地方志向の強まり》
 全国的な地方志向の強まりとして、昨年5月から12月までの東京都、東京圏、岩手県の人口の社会増減です。
 コロナ禍において、東京都では、昨年5月に、比較可能な平成25年7月以降初めての転出超過になりました。その後も、7月以降、6か月連続で転出超過が続き、昨年から今年にかけて話題になっています。年間では転入超過になっていますが、転入超過数は前年に比べて6割減っています。
 1都3県の東京圏でも、昨年7月に初めて転出超過となり、年間では転入超過となりましたが、その数は、7年ぶりに10万人を下回ったということです。
 そして、岩手県では、7月以降、6か月連続で転入超過となっています。前年同月の転出超過から転入超過に変わっています。
 コロナ禍で、本社機能を東京都心から移転する企業が増えています。
 日本経済新聞の調査によりますと、令和2年度に東京23区から本社を移転した企業は、前年度に比べ24%増えています。1都3県の東京圏から本社を移転した企業は、今年上半期で186社、前年同期比で46.5%増と、過去10年で最多となっています。
 地方への本社機能移転が相次いでいて、有名なのは、パソナグループです。兵庫県淡路市、淡路島に移転して、約1,200人が今後移住する予定と言われています。
 岩手県でも、今年6月、サイバーセキュリティを専門とする株式会社エルテスが紫波町に本店を移し、今後3年間で延べ1,000人の雇用計画を発表しました。コロナ禍による働き方の変化で、企業が都心にオフィスを持つ意味が薄らぎ、自然豊かな地方に移転する流れが加速しています。
 都会に暮らす人々の地方移住や柔軟な働き方への関心も高まっています。
 ふるさと納税総合サイトの株式会社トラストバンクが発表した地方暮らしへの関心調査によると、東京都在住者の約6割が地方暮らしへの関心が高まったと回答しており、前年比14.5ポイントの増です。また、地方で暮らしたい地域として回答があった都道府県の中で、岩手県は全国11位の4.7%であり、昨年度から人気急上昇ということです。
 コロナ禍を契機とした都市部の人口密集リスクやライフスタイルの見直しなどにより、東京都に住む人々が、岩手県をはじめ、豊かな自然環境や快適な生活環境がある地方での暮らしに関心を高めているということです。
 さらに、内閣府が発表した調査結果によりますと、東京23区に居住する20代の49.1%が、地方移住に「関心がある」と回答しています。今年9月の内閣府の報告書に示されているデータでは、来春卒業予定の大学生や大学院生の57%が、テレワークなどが進み、働く場所を決められる場合には「地方に住みたい」と答えているということです。
 また、内閣府の調査によりますと、昨年、東京23区内で、約5割、48.4%の就業者がテレワークを行ったということです。そして、テレワークの実施によって、23区内就業者の56%の方々の通勤時間が減少し、その72.7%が今後も減少した通勤時間を保ちたいと考えているということで、働く場所についての認識が大きく変化しています。
 日本経済新聞社とパーソルキャリア株式会社の調査によると、20歳代で、転職する時に、柔軟な働き方の整備を重視するという割合が76.8%、約8割です。若年層ほど働き方の整備に敏感と言えると思います。
 企業においても、コロナ禍で導入したテレワーク等の新しい働き方を、コロナ収束後も継続すると回答した企業が半数以上に上っています。コロナ禍でテレワークを導入した企業が68.1%、そのうち約5割の企業が更にそれを続けたいということです。県としても、岩手県内のテレワーク環境の充実やサテライトオフィス設置に向け、施策を強化しています。
 「関係人口」という言葉がありまして、居住地以外に出身の都道府県がある「出身者」や、出身者以外で特定の都道府県を応援したい「応援者」など、都道府県と何らかの関わりを持つ人を「関係人口」と呼んでいます。
 ブランド総合研究所によると、関係人口の約4割が、年1回以上、関係している都道府県へ訪問しています。さらに、関係人口の約2割が移住意欲を持っているということです。
 岩手県は、居住人口に占める関係人口の比率が全国12位となっています。つまり、岩手県外にいる岩手出身者や、岩手県外から岩手を応援したいという人の、居住人口に対する比率が高いということです。関係人口は200万人を超え、202万5千人というデータになっています。
 休暇中、旅行先などで一部の時間をテレワーク等による仕事に充てる、いわゆる「ワーケーション」。「バケーション」と「ワーク」を合わせた言葉です。昔、小説家が温泉宿に缶詰めにされて、小説を書いたというようなことがありますが、それを、普通に、みんなでやろうというのが「ワーケーション」です。「実際、どこでやりましたか」という質問に対し、岩手県は北海道に次ぐ全国2位になっています。
 関係人口の増加、そして、それがまた「ワーケーション」などを通じて、交流や移住の拡大につながっていくものと期待できます。
 地方への応援についてですが、ブランド総合研究所のデータで、今住んでいる都道府県と出身都道府県を除いて、ボランティア活動や寄付活動をしたい都道府県を尋ねた結果、岩手県は、ボランティア活動をしたい行き先として第4位に入り、寄付をしたい都道府県として第8位に入っています。
 震災の被災地が上位に入ってきているという感じではありますが、岩手を応援したいという人がこのように多くいらっしゃいますので、県としても、是非、期待に応えていきたいと思います。

《DX活用による新しい働き方・暮らし方・学び方》
 コロナ禍前の2019年の「世界デジタル競争力ランキング」では、日本は世界63か国中23位で、欧米諸国や韓国・台湾などのアジア各国から大きく差をつけられていましたが、コロナ禍を契機としたDX、デジタルトランスフォーメーションによる新しい「働き方」「暮らし方」「学び方」は、今後、進展が見込まれます。
 リモート化やデジタル化、また、5Gなどによる情報通信技術の活用は、これまで感じていた都会と地方の生活の質のギャップを埋めることにつながります。
 テレワーク導入や農業・建設現場における先端技術の活用は、生産性を大きく向上させます。物流におけるドローン活用やシステム構築による効果的な情報発信は、県民生活の利便性を飛躍的に向上させます。遠隔授業の実施やリモート出演・オンライン鑑賞の環境整備は、教育や様々な経験機会の充実につながります。
 岩手県では、今年7月に、産・学・行政・金融で構成する「いわてデジタルトランスフォーメーション推進連携会議」を設立しまして、これを中心に、今後、各分野の取組を加速して参ります。
 グローバルコンサルティング企業のアクセンチュア株式会社代表取締役社長、江川昌史(えがわあつし)さんは、様々なテクノロジーをフル活用できる30年後、東京と地方の生活コストの差は現状から更に広がり、地方の生活コストは東京の約半分になると述べています。その上で、地方に人を呼び込むためには、テクノロジーの進化を積極的に受け入れて、生活必需コストを最小限に抑えることができるかどうかが、重要な要素になると続けています。
 地方の魅力を引き出し、地方に人を呼び込む手段として、DXを積極的に活用していくことが必要です。岩手県においても、DXを推進し、豊かで活力ある社会を創っていきたいと考えています。

(2)岩手県の可能性

 コロナ禍の影響を受けて、脱東京一極集中の流れは確実に起きていますが、その流れを岩手県への流れとすることが求められます。
 そこで、「岩手県の可能性」についてお話しします。
 これまで紹介してきた、人々の価値観や行動様式の変化、急速なデジタルシフトは、ポストコロナの岩手県にとってチャンスです。そのチャンスを生かしていくためには、岩手県の強みや、岩手県における新型コロナウイルス感染症対策、東日本大震災津波の経験・復興の成果を生かしていくことが必要です。

《恵まれた自然環境》
 改めて、岩手県の強みですが、まず、全国的に見て、また都会から見て、恵まれた自然環境です。
 北海道に次ぐ全国2位の森林面積、また、「三陸復興国立公園」と「十和田八幡平国立公園」という2つの国立公園があります。「三陸復興国立公園」は、三陸ジオパークでもあります。
 そして、全国トップクラスの再生可能エネルギーのポテンシャルがあり、太陽光、風力、地熱などの積極的な導入が進められています。

《良好な生活環境》
 岩手県には密になりにくい生活環境、すなわち、人口密度の低さがあります。1平方キロメート当たり、東京都は6,354人、大阪府は4,631人、宮城県は316人もいますが、岩手県は80人ということです。
 これは、日本の中では、非常に少ない数字ですが、フランス、スペインの国としての人口密度と同じくらいの人口密度ですので、やはり、人間にとって暮らしやすい、生きていくのに丁度良い人口密度というのは、実は、岩手県ぐらいの人口密度なのではないかと思います。
 そして、全国2位の住宅敷地面積が可能になっていますし、全国2番目の治安の良さというものがあります。

《活力ある産業基盤》
 北上川流域における自動車や半導体関連産業を中心とした産業集積の進展と雇用の伸びという、全国的にも非常に珍しい製造業の発展が、今、岩手県で起きています。
 農林水産業についても、オリジナル品種「金色(こんじき)の風」「銀河のしずく」などのブランド米、ブロイラーや牛肉等の畜産物は定評があり、生産の拡大が進んでいます。サケ、マス、サンマの漁獲量は、近年減少し、問題になっていますが、全国上位の漁獲量があります。
 そして、ILC国際リニアコライダー。これは、基礎研究の大型施設ですが、科学の発展という側面だけでなく、世界中から研究者や技術者が集まる国際研究拠点が形成され、経済効果が期待されますし、また、科学、さらには国際分野で活躍する人材育成など、様々な効果が期待されます。

《世界遺産・先人》
 岩手の強みを見ていく時に、やはり文化の面が大事です。
 まず、御所野(ごしょの)遺跡、平泉、橋野鉄鉱山(はしのてっこうざん)と、3つの世界遺産がありますが、これは奈良県、鹿児島県と並んで国内最多です。世界文化遺産に限ると、奈良県と並び、西の奈良県、東の岩手県が、3つずつ世界文化遺産がある県です。
 そして、日本や世界で活躍した多くの先人が岩手の強みです。いわゆる「賢治・啄木」、このお2人は文学者として有名ですが、2人とも、今日のSDGsの原型と言えるような共生の考え方を、100年前に発信していました。
 宮澤賢治は、「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」という、SDGsの「誰一人取り残さない」の理念に通じるものを発表していましたし、石川啄木は、「人間はすでに祖先を忘れ、自然にそむいている」というエコロジー、自然環境問題に関する発言を、当時からしていました。

《連携・協働の基盤》
 岩手県の特徴的な社会的連携・協働の基盤も、岩手の強みです。
 岩手県は、人口10万人当たりの医師数が全国41位で、医師偏在指標は全国最下位と、医師少数県であり、それに比例する形で民間病院の数も全国と比較して少ないため、必要にも迫られ、全国最多の県立病院があります。
 この県立病院を中心とした医療ネットワークが、今般の新型コロナウイルス感染症対策に、非常に有効に機能しました。入院病床の確保や応援看護師の派遣などを迅速に行うことができ、都会で多く発生した、患者のいわゆる「たらい回し」ということを起こしませんでした。
 それから、岩手県では、半世紀以上にわたり、「教育振興運動」というものを続けています。学校、家庭、地域の連携です。「子供に机を、お土産には本を」というスローガンから始まっており、当初は、非常に切実な学力向上を目的とした運動だったのですが、時代が進むにつれ、健全育成や生きる力、さらに復興教育という要素も取り入れて、発展しています。
 また、「いわて未来づくり機構」、そして、「いわてネットワークシステム」という、いわゆる産学官連携の組織についても、全国的に定評があるものが岩手県にはありまして、活動を続けています。

《岩手県の強み》
 このような、恵まれた自然環境、良好な生活環境、活力ある産業基盤、世界遺産・先人、連携・協働の基盤といった岩手県の強みを、ポストコロナの岩手県に生かしていこうということです。

2 岩手県の新型コロナウイルス感染症対策

(1)岩手県の新型コロナウイルス感染症対策の体系

 岩手県では、新型コロナウイルス感染症対策として、「命を守る」、「感染者数を減らす」、「社会生活・経済活動を支える」という対策を行ってきました。

《命を守る》
 「命を守る」ということについて、岩手県では、早い段階から、新型コロナウイルス感染症が命をも奪う重大な感染症であるということを、各界の代表の皆さんと認識を共有していました。
 先ほど紹介した「いわて未来づくり機構」が、昨年7月、岩手県医師会の小原会長、岩手医科大学の小川理事長を招いて、新型コロナウイルスをテーマに会を開き、その場で、新型コロナウイルス感染症は「血管内皮障害」であり、単なる「風邪」とは全く違うものであるという認識を共有しました。この前提の下、オール岩手で対応に当たることを確認し、「いのちと健康を守り、生活となりわいと学びを支える岩手宣言」を行いました。
 日本の大都市部では、陽性と分かっても、医療機関での検査を受けられずにそのまま自宅待機となり、今年夏の第五波のピーク時には、感染者が自宅療養中に死亡してしまうという事例が多く起きました。
 岩手県では、感染者は全員、軽症者や無症状者でも、医療機関でのCT検査と血液検査を受けた後に、全て医療機関への入院又は宿泊療養施設で療養をしています。また、国が定義する濃厚接触者に限らず、感染が疑われる方に広く速やかにPCR検査等の調査を実施して、早期に感染者を確認するようにしています。
 さらに、クラスターが発生した施設では、医療施設であれば、医療スタッフと入院患者全員にPCR検査をするのはもちろんですが、一度陰性と出た場合でも、同じ方に対して、数日おきに複数回のPCR検査を実施しています。あるクラスターでは、7日程度の間隔を空けて計12回の検査を実施し、8回目の検査で初めて陽性と出た例もあります。
 ワクチン接種体制では、限られた医療資源をフル活用してワクチン接種を進めるため、オール岩手で市町村の接種体制を支援する仕組みを整備しました。「ワクチン接種・市町村支援チーム」を県に置き、県医師会に県職員が駐在しています。医師・看護師のほか、歯科医師にも協力をいただいて、医療従事者を確保しました。接種対象者が多い地域では、県による大規模接種も行いました。

《感染者数を減らす》
 新型コロナウイルス感染症で「亡くなる方を減らす」には、「感染者数を減らす」ことが重要です。これは当たり前のことではありますが、最近、死者数や重症者数が大事で、感染者数はあまり大事ではないといった風潮もあります。しかし、やはり、感染者数というのは大事であるという話です。
 死亡率が低くなっていくとしても、感染者数が著しく増えると、死亡者も増えるわけです。また、感染者数の増加によって、医療体制がひっ迫し、首都圏で多く起きていた「たらい回し」や、自宅療養で亡くなるケースなど、救える命が救えない事態が生じてしまうわけです。
 岩手県では、今年の第五波において、「岩手緊急事態宣言」を行いました。これは、県全体の人口10万人当たり直近1週間の新規感染者数が、「ステージ3」の基準として定められた「15人」を超えた場合に、「岩手緊急事態宣言」を発するというものです。
 この宣言下では、県民の皆さんに不要不急の外出の自粛をお願いしました。また、県の施設を原則休館にしたり、利用の制限を行いました。さらに、途中で、感染が再拡大したので、感染者数が特に増大している地域、具体的には盛岡市を「重点対策区域」の対象として、飲食店に対する営業時間短縮要請を行いました。
 そして、人口10万人当たり直近1週間の新規感染者数が「10人」を下回ったら宣言を解除するということを予告して、実際に「10人」を下回ったところで宣言を解除しました。
 宣言発出から現在までの人口10万人当たり直近1週間の新規感染者数の推移を見てみます。
 8月12日に宣言を発し、8月20日の25.9人をピークとして、その後、一旦減少傾向を見せましたが、依然として15人を超えていました。また、その後、再び増えましたので、医療のひっ迫を避ける必要から、盛岡市を対象に、8月30日から9月12日まで、飲食店に、20時までの営業時間の短縮を要請しました。
 その結果、感染者数は、どんどん下がるパターンに入り、9月16日に10人を下回る9.6人となりました。この人口10万人当たり直近1週間の新規感染者数が10人未満になった9月16日に、宣言を解除したわけです。その後、宣言解除の9月16日から新規感染者数は更に減り続け、今に続く「ほぼゼロ」状態が、10月に入ってから、ここ2か月くらい続いています。
 9月16日に宣言を解除する時に、「まだ人口10万人当たり直近1週間の新規感染者数が9.6人もいるので、更に1週間から2週間、様子を見た方が良いのではないか」という声もありましたが、御紹介したように、急速に下がるトレンドが既にありましたので、9月16日時点において、そこから1週間後は、この勢いで更に下がっているということを見越して、宣言を解除したということです。
 新規感染者数が上がったり、下がったり、同じレベルをずっと動いていて、ようやく「10」を下回ったというような時は、少し様子を見なければなりませんが、「25」や「23」といった水準から、急速に減り続けて「10」を切ったら、それはもう「10」を切った時点で宣言を解除しても良いということです。ひとえに、数値をにらんで、客観的な基準に基づいて、行動制限をお願いしたり、解除したりするというやり方でやったわけです。

《社会生活・経済活動を支える》
 新規感染者数が「ほぼゼロ」になったのは良かったのですが、この間、社会経済活動は極端に低下しました。仕事を失って収入が減った家庭、売上が減って経営が悪化した事業者の皆さんなど、県民の社会生活や経済活動に大きな影響が出ました。
 そのため、収入面で困窮が生じる家庭や事業者の方々への支援、また、人口10万人当たり直近1週間の新規感染者数が10人を下回っている時には消費の喚起を行うというような、社会生活・経済活動を支えることが必要です。
 県のホームページにも掲げていますし、色々な機会に、色々な形で発表し、新聞広告も載せたりしていますが、収入が減った家庭への支援や保護者の家計が急変した家庭への支援、資金繰り支援のための融資や、「地域企業経営支援金」等による経営業績が悪化した場合の支援などを行っています。
 消費喚起策では、県による「いわて飲食店安心認証制度」を設け、認証店の利用を働き掛けるという消費促進を行っています。今でも行っていますので、どんどん利用していただきたいと思います。
 「いわての食応援プロジェクト」と「いわて旅応援プロジェクト」、それぞれ「Go Toイート」の県版、「Go Toトラベル」の県版と言った方が分かりやすいかもしれませんが、今でも行っています。「岩手緊急事態宣言」を解除した後、10月の頭から行っていますので、多くの利用をいただいていますし、今年の年末を越えて、来年1月以降も続けていく方向で行っていますので、年末年始にも利用いただければと思います。

(2)一人ひとりに寄り添った対応

 新型コロナウイルス感染症対策には、独特の、一人ひとりに寄り添う対応というものがいくつかありますので、紹介します。

《不安やストレスの相談対応》
 まず、「こころのケア」です。世界全体として、近代になってから初めて経験すると言っていいような、大規模かつ深刻なパンデミックであり、不安やストレスに関する相談対応が非常に重要です。
 また、特に、「女性のためのつながりサポート事業」を別立てして、「いわて女性のスペース・ミモザ」を開設し、コロナ禍で、特に、生活や仕事の面で困難を抱えている、不安を抱いている女性への支援に力を入れています。女性用品の配付など、話題になっているような政策分野にも踏み込んでいるところです。

《情報発信》
 それから、「情報発信」です。特に、人口10万人当たり直近1週間の新規感染者数15人を超えたら「岩手緊急事態宣言」、10人未満になったらそれを解除と言っていますので、今どうなっているのか、そして今日の新規感染者数は何人かということを、ほぼリアルタイムで県民が共有できるように、迅速な情報発信を心掛けています。
 LINEアカウントを使った「岩手県新型コロナ対策パーソナルサポート」、また、立ち寄った飲食店や施設などで、後で感染者が判明した時にそれをお知らせする「もしサポ岩手」というシステムも作ってあります。
 さらに、ツイッターやTikTokなど、若者が利用しているSNSを一通り活用して、情報発信に努めています。

《誹謗中傷対策》
 そして、新型コロナウイルス感染症対策で、もう一つ重要なのが「誹謗中傷対策」です。
 これは、全国的にかなり深刻な例もありましたし、岩手においても、他県から入ってくる人に対する厳しい対応などの色々な問題がありました。感染者、また、その関係する人たちへの誹謗中傷、これは人権擁護の観点から決して許されるものではありませんので、思いやりの気持ちを持って、冷静に行動するようにということを、一貫してお願いしています。
 昨年7月29日に、岩手県で最初の陽性判明者が出るまで、誰が第1号になるかというような緊張感が高まりましたが、「第1号の方には、共感を持って、優しくしていただきたい、責めないでほしい、咎(とが)めないでほしい」ということを訴えました。
 岩手県のそういうやり方は、アメリカの新聞「ワシントン・ポスト」からも取材を受け、これは、日本だけの問題ではなく、世界共通の課題であると、認識を新たにしました。

《新型コロナウイルス感染症対策の成果》
 新型コロナウイルス感染症対策の成果と言って良いと思いますが、「命を守る」、「感染者数を減らす」、「社会生活・経済活動を支える」、そして、「一人ひとりに寄り添う」。これらの柱を、ポストコロナの岩手県に生かしていきたいと思います。

3 東日本大震災津波の経験・復興の成果

(1)東日本大震災津波からの復興の理念

 東日本大震災津波の経験・復興の成果を振り返りたいと思います。
 2011年、平成23年の4月に、「復興の基本方針」を策定し、「被災者一人ひとりの幸福追求権を保障する」、「犠牲になった方々の故郷への思いを継承する」、これらを2つの原則として掲げました。
 そして、8月に、復興計画ができる時には、復興の目指す姿として「いのちを守り 海と大地と共に生きる ふるさと岩手・三陸の創造」を掲げ、これが、今の「いわて県民計画(2019~2028)」の基本目標「東日本大震災津波の経験に基づき、引き続き復興に取り組みながら、お互いに幸福を守り育てる希望郷いわて」に引き継がれています。

《誰一人取り残さない》
 東日本大震災津波以降、復興に当たって、岩手県では、「誰一人取り残さない」ということを自然体でやってきましたが、2015年に国連が採択したSDGsの理念として、「誰一人取り残さない」が盛り込まれ、その後、世界で広く知られるようになってきました。
 岩手県からすると、復興を今までずっとそのようにやってきた中で、国連でも、同じようなことを考えているのだなと、後から知ったわけです。

《復興は災後開発》
 SDGsというのは、「Sustainable Development Goals」、「持続可能な開発目標」であり、「開発」です。
 元々は発展途上国の開発ですが、先進国も合わせて、地球全体、世界全体の開発についての目標を掲げているのがSDGsです。その視点からしますと、東日本大震災津波などの大規模災害からの復興も「災後開発」、「post-disaster development」だと捉えられると思います。
 ですから、復興の基本理念とSDGsの基本理念は共通しており、「誰一人取り残さない」ということになります。

(2) 「誰一人取り残さない」社会の発信

 「誰一人取り残さない」という発信は、最近の復興関連の色々な大規模イベントでも、岩手から発信してきたところです。

《復興五輪(東京2020オリンピック・パラリンピック)の理念の発信》
 今年開催された「東京2020オリンピック・パラリンピック」の聖火リレーにおいて、岩手県内では28の市町村で聖火リレーを行い、また、それに先立って、聖火リレーが回らない5つの町村で聖火展示を行い、結果として、33全ての市町村を聖火が訪れる格好になりました。オリンピック・パラリンピック組織委員会のおかげなのですが、県内全ての市町村を聖火が訪問したというのは、岩手県だけなのではないかと思います。
 また、オリンピックの開会式で、被災3県の子どもたちが、聖火の最終ランナーの一歩手前の大役を果たしましたが、そういったところからも復興五輪を発信することができました。
 パラリンピックでも、採火・集火というイベントがありまして、こちらは、33全ての市町村で採火した火を、盛岡で集火し、一つにして、パラリンピック会場に送り出しました。

《SDGsの17の目標に沿った岩手県の復興》
 SDGsの17のGOALS・目標と、岩手県の復興で行ってきたことを照らし合わせてみました。
 地域コミュニティの防災体制強化や、岩手県が力を入れてきた再生可能エネルギー導入促進、水産業関係ですとか、産業振興関係、それから人材育成の関係、観光産業振興というのもSDGsの中に位置付けられます。被災者の生活安定、住環境の再建、学校教育、こころのケア、地域コミュニティの再生・活性化もそうです。
 大災害から立ち直っていく復興には、発展途上国が経済発展していないが故に直面している課題と共通の課題があります。地震や津波による破壊を受けた地域は、発展途上国の状態と同じようになってしまい、改めて、道路を作ったり、色々な建物を建てたり、人が住むところを確保したり、水の確保や食べ物の確保などからやり直していかなければなりません。復興のプロセスというのは、発展途上国が開発を進めていくプロセスと、ほぼ重なると言えます。
 そういう経験を、岩手県はしっかりと積むことができ、また、やり方として、SDGsの考え方に沿ったやり方で行うことができました。この成果は、これから大型災害に襲われたところや、あるいは、災害に襲われてはいないが、不利な条件下で発展しようとしている発展途上国にも参考になるものだと思います。

(3) 未来に追いつく復興

 「未来に追いつく復興」という考え方で復興を進めてきました。岩手県としては、2011年、震災が起こる前の10年前の時点に10年かけて戻すのではなく、あくまで、10年後のあるべき姿に、10年かけて追いついていくような復興をしなければ駄目だということを言っていました。
 そういう「未来に追いつく復興」という考え方で、2011年当初からやってきました。その後、国連の防災関係の色々な会議の中で、「ビルド・バック・ベター―より良い復興」というコンセプトが掲げられまして、完全に元に戻すのではなく、元の状態より良くしていくような、そういう復興が大災害等には必要だということが、今、世界共通の認識になっています。
 阪神・淡路大震災の頃はそうではなく、神戸港などは、震災前の状態に戻すという考え方でした。しかし、その間に、世界中の港湾が、どんどん巨大化、大型化し、釜山や上海など、アジアにもどんどん大型港湾ができていくのに、神戸港は何年かかけて、何年か前の状態に戻るような復興をしてしまったので、その後、苦労していると聞いています。
 今、日本、また世界共通の考え方として、復興というものは、前より良くしていくものだと認められています。やはり、復興というのは、「開発」、「development」の意識を持って進めていくべきものであるということが言えると思います。

《復興道路の整備》
 おかげさまで、震災前にはなかったものが、今、岩手にはできています。
 復興道路により、利便性が革命的に良くなったと言え、宮古・盛岡横断道路の区界(くざかい)地域の辺りなどは、SF映画のワープのように、空間をパッと移動する感じで、今、移動できるようになっています。

《地域リーダー人材育成》
 それから、ハードウェア、物の復興だけではなく、人材育成です。
 経済同友会が、岩手県だけではなく、被災3県において、人材育成に非常に力を入れていただき、それを県が引き継いだり、あるいは県独自の人材育成プログラムを加えたりして、復興の中で、人材育成を進めています。
 「経営未来塾」、「未来創造塾」というのが、元は、経済同友会が行っていたもので、人材育成の柱になる事業でありました。後に、県が引き継いで「さんりく未来創造塾」にしたものです。
 これらの取組の結果、若者や女性を中心に、起業や新事業創出が多く起きています。

《ILC国際リニアコライダー、再生可能エネルギーの導入》
 前にはなかった新しい物を作るという意味で、その究極が、ILC国際リニアコライダーです。ILCも、ビルド・バック・ベター、より良い復興という中に位置付けて進めていきます。
 再生可能エネルギー・クリーンエネルギーの導入も、過去になかったようなものを、どんどん広げていこうということです。

《事実・教訓の伝承》
 復興には、事実・教訓の伝承が大事であり、ようやく最近になって、そうした取組ができるようになってきました。そして、今だからこそ、この事実・教訓の伝承に力を入れなければなりません。
 今年の2月に、「東日本大震災津波を語り継ぐ日条例」を作り、3月11日を「東日本大震災津波を語り継ぐ日」と定めました。
 また、「東日本大震災津波伝承館」ができて、伝承の拠点になっていますし、今年11月、「防災推進国民大会」、いわゆる「ぼうさいこくたい」を釜石市で開催することができました。

《東日本大震災津波の経験・復興の成果》
 「誰一人取り残さない」、そして、「未来に追いつく」という東日本大震災津波の経験・復興の成果を、ポストコロナの岩手県に生かしていきたいと思います。

4 ポストコロナの岩手県

(1)ポストコロナ社会とは

 ポストコロナとずっと言ってきましたが、改めて、ポストコロナ社会を定義しますと、「ア 新型コロナウイルス感染症対策を続ける社会」、「イ 地元志向・地方志向が強まる社会」、「ウ 本当の人生を求める社会」という3つの要素がポストコロナ社会にはあると思います。

《ア 新型コロナウイルス感染症対策を続ける社会》
 ポストコロナ社会というのは、新型コロナウイルスの流行が終わった後のことではないのかと思う向きもあるかもしれません。
 昨年、新型コロナウイルスが発生し、1月、2月、3月、4月と経って、「ウィズコロナ」、「ポストコロナ」という言葉が出てきました。「ポストコロナ」という言葉には、新型コロナウイルス収束後の状態も入っているのですが、新型コロナウイルスが発生してしまった後という意味合いもありますので、今も、もう「ポストコロナ」であろうと思います。
 「ポストコロナ」というのは、新型コロナウイルスが発生してしまった後の状態、もう「ビフォアーコロナ」には戻れないという状態です。新型コロナウイルスが発生してしまったから、もう今は「ポストコロナ」です。新型コロナウイルス感染症対策もしなければならない今を含めて、「ポストコロナ」と、今、使っています。
 「岩手緊急事態宣言」は、人口10万人当たり直近1週間の新規感染者数「15人」を超えたら宣言発出、「10人」を下回ったらそれを解除という、情報共有に基づく県民運動の手法で行ったわけですが、こうしたやり方が、今後も有効ではないかと考えています。
 今、新型コロナウイルスの感染は、ゼロに近い状況にありますが、第六波はいつか来る、必ず来るという予測もあります。
 しかし、今後、新たな変異株や、ワクチンが効かない状況、もしそういう状況が再度きたとしても、「岩手緊急事態宣言」のやり方を行えば、新規感染者数を一定以上増やさないようにして、そして、出来るだけ早く、「ほぼゼロ」に持っていくということができるのではないかと考えています。

《イ 地元志向・地方志向が強まる社会》
 新型コロナウイルス感染症の経験により、大都市部は、感染症というものに対して極めて脆弱であるということが明らかになりました。感染が広がりやすいですし、また、それを抑えるための行動制限として、経済を止めるような、大きな、強い行動制限も必要になるのが、大都市部です。
 そういう大都市部ではなくて、地方へという流れが、人々の価値観や行動様式の転換、そして、そこにデジタル技術の進歩が相まって、一層強まっていくということが想定されます。
 地方にとっては、東京一極集中を是正するチャンスと言っても良いわけです。京都大学と日立製作所の共同研究がありますが、AIを活用し、2050年に向けたシミュレーションを行うと、未来シナリオとして、「都市集中型」と「地方分散型」の大きく2つに分かれるということです。
 そして、持続可能性という観点から比較すると、「都市集中型」より「地方分散型」の方が望ましいということで、感覚的に当たり前と言えば当たり前かもしれませんが、AIで精密なシミュレーションをしても、やはり「地方分散型」の日本にした方が良いという研究成果が出ているということです。

《ウ 本当の人生を求める社会》
 都会での、新型感染症の脅威や日々の過度な競争によるリスクやストレスの下での生活は、所得を増やすということを追い求めるには有利かもしれません。
 しかし、今、安心して、生きがいを感じながら、仕事と生活を両立させる生き方というものを、地方でなら実現できるのではないかという見方が高まってきていると思います。いわば、「本当の人生があるのは地方」という言葉に集約できるような意識の転換が起きてきていますし、また、それを更に強めていこうということです。
 日本共創プラットフォームの代表取締役社長、冨山和彦(とやまかずひこ)さんは、グローバル型をG型、ローカル型をL型と定義して、G型とL型の産業や企業について論じています。
 G型企業は目立つし、大きくて有力ですが、日本のG型企業が生み出すGDPは、せいぜい3割程度に過ぎないということです。そして、行き過ぎたグローバル化によって過度な競争が行われ、多くの人材が都会に埋もれてしまっているということを指摘されています。また、都会の若者の多くは、都会にあるL型産業、小売や顧客密接のサービス産業などで働いていて、都会特有の事情で、結婚や子どもを持つことに不安があるまま年を重ねてしまっていると指摘されています。
 一方、岩手県をはじめ地方では、L型産業が主流なわけですが、介護・医療・飲食・観光など、需要はあるのに人手不足ということが起きていて、活躍できる場は多くあるのに人がいない。ですから、都会から地方のL型産業に移ってくれれば、のんびりした田舎暮らしではなく、活躍できる場で、働き、生きていくことを地方で実現できると、冨山さんは主張しています。

(2)重視すべき政策

 では、ポストコロナ社会に、具体的にどのような政策を進めていくかです。

《ア 地域医療体制を強化する》
 まず、地域医療体制の強化が必要です。これは、岩手県ではずっと重要課題として取り組んできているのですが、今回、コロナ禍で、日本全体が、地域医療体制が弱いということが明らかになりました。
 大都会の地域医療体制、東京としての地域医療体制や大阪としての地域医療体制がありますが、それが弱かったが故に、大勢の方々が自宅療養中に亡くなってしまうということが起きたわけです。
 日本は、人口当たりの医師数が他の先進国と比べて少ないということは言われていたのですが、病床数は多い、施設は充実しているというイメージがありました。しかし、病床は多くても、それはまず、かなりの部分が精神科に使われているのです。そして、後は、リハビリ等の慢性期など、治っていく時のための病床の数が多く、急性期の、特に高度な医療を行う病床数や体制については、イギリスやドイツ、アメリカなどと比べた時に、著しく弱いということが指摘されています。
 コロナ病床、特に、重症化した方々に使うコロナ病床というのは、急性期医療体制の中でも、かなり高度な医療が提供できるような体制を作っておかないと駄目なのですが、そこが日本は弱い。民間ベースで常に持っているということは難しく、国や自治体の関与がないと駄目なところでして、医師不足、地域偏在の解消と同時に、その部分に、国、自治体が関与し、地域医療体制を強化していくことが必要です。
 昨年1月、「地域医療を担う医師の確保を目指す知事の会」という、医師不足県の有志が集まった会を発足させました。国への政策提言や医療関係者・行政関係者との対話、また、国民への機運醸成などの活動を行っていて、この知事の会の提言の中身は、厚生労働省の医師需給分科会で取り上げられるなど、政府にも、かなり聞いてもらっています。

《イ 地元志向・地方志向に対応する》
 そして、地域医療体制の強化の次に必要なことが、地元志向・地方志向に対応することです。せっかく若い皆さんが地元志向・地方志向を強めているにも関わらず、それが空振りに終わってしまうことがないように、地元側、そして地元の大人たちが、若者の地元志向・地方志向に応えることが重要です。
 活躍の場を用意し、また、活躍の場に関する情報を提供していかなければならないということで、例えばですが、県では、「いわてダ・ヴィンチ」という、若い人たちの間で多く読まれている「ダ・ヴィンチ」という雑誌の体裁で、就業促進情報を提供しています。このような雑誌を作り始めて、3冊目になります。表紙は、お笑いトリオの四千頭身(よんせんとうしん)の後藤拓実(ごとうたくみ)君です。大船渡市で生まれ、岩手県出身のお笑い芸人の中で最も成功していると言える方ではないかと思います。岩手の若者の代表のような彼を表紙にして、雑誌を出し、情報発信しています。
 それから、「岩手で輝く若手人材PR動画」は、県内企業で実際に働いている若い人たちの様子ですとか、発言、トークを、高校生や大学生、専門学校生や短大生などにも見てもらおうという企画です。
 岩手に残りやすい環境の整備としては、多くの企業に協力いただいている「いわて産業人材奨学金返還支援制度」、岩手の企業に就職すれば奨学金の返済を支援するという制度を進めています。
 また、「性別による固定的な役割分担意識をなくそういわて宣言」です。同じような宣言を、今年11月に行われた北海道東北地方知事会議においても発信しましたが、地方はこれが強いが故に、若い女性が出て行くという指摘が多くあります。
 性別による固定的な役割分担意識は、家庭の中にあったりしますし、また、企業、会社の中にもあり、そして、地域の中にもあったりする。そういう古い、「女はこうだ」、「女子はこうだ」というような中で、早く東京に出なければという思いに駆られる人たちが出てこないような、地元の意識転換が必要です。「東京2020オリンピック・パラリンピック」の準備から開催に至る動きの中でも問題が出たように、性別による固定的な役割分担意識というのは色々なところで、日本全体として、重要課題であるとみなされてきており、県としてもこれに力を入れたいと思います。
 さらに、単身、結婚、子育てのライフステージに応じた若者への住宅支援です。本当は、結婚する全ての男女、あるいは20歳になった時点や、25歳になった時点で、まとまったお金をプレゼントできれば、非常に効果的な政策だと思うのですが、お金を貰った人が県外に出てしまうと効果が出ませんし、そこを強制するのは難しいので、まずは、県外に持ち出せない物を、安い価格で、あるいはタダで使ってもらうということで、住宅支援から取り掛かっているところです。
 関係人口が拡大しているという話を最初にしましたが、それに対応するものとして、人的交流の促進です。
 そして、「デュアルライフ東北」。これは東北経済連合会が力を入れており、岩手県も参加しているのですが、分かりやすく言うと、副業です。東京で普段行っている仕事とは別に、岩手にも副業を持ってもらい、行ったり来たり、あるいはどちらかにいながらにして、それぞれの仕事ができるようにしていくという、このデュアルライフというのが、最近、流行っています。
 岩手県独自の事業としては、「遠恋(えんれん)複業課」があります。遠距離恋愛をもじって、「遠恋複業課」という架空の部署が、県庁にあるかのごとく看板を掲げて、マッチング支援をしています。多くの都会の人材が、岩手の企業で仕事をするということが、近年増えてきています。
 移住・定住の相談会というのは昔からありますが、どんどん進化しています。また、最近は、オンラインで実施したり、リモートで参加できるなど、様々な工夫をしながら行っています。
 岩手の良さを、特に若い皆さんに知ってもらい、情報を共有するため、「いわて暮らしアンバサダー」として、著名人にアンバサダー、大使役をやってもらうということもやっています。
 さらに、「移住支援金」について、東京23区から地方に移住した人には、国の予算で支援金がありますが、23区だけが対象のため、23区以外の東京都や周辺3県からの移住者にも支援金をということで、金額は減ってしまいますが、県独自の事業を付け加えています。

《ウ 本当の人生を可能にする》
 今の「いわて県民計画(2019~2028)」は、2019年からの10年計画ということで、「東日本大震災津波の経験に基づき」ということが外せませんし、「引き続き復興に取り組みながら」とあるように、復興はまだ続いています。
 そして、「お互いに幸福を守り育てる希望郷いわて」ということで、様々な、多様な価値観が求める希望を実現できる、一人ひとりそれぞれの幸福度を高めることができる、そういうことを目標に掲げているわけです。
 漠然と幸福にしようというイメージだけの戦略ではなく、幸福度を高めるのに関わる政策分野を10に整理しました。土台になる2つと、柱になる8つです。
 それぞれに関して、指標をしっかりとチェックしながら取組を進めています。「健康・余暇」であれば「健康寿命」、「仕事・収入」であれば「一人当たり県民所得」など、数字をしっかりと見ています。そういった指標を「幸福関連指標」と呼んでいますが、政策ごとの「幸福関連指標」を高めていくことによって、県民一人ひとりの幸福度を高めていくという政策体系で進めています。
 今後、非常に大事になってくることとして、「グリーン化」、「デジタル化」、「国際化」があります。国の骨太の基本方針でも、「グリーン化」、「デジタル化」に力が入っていますが、プラス「国際化」で、3つの「化」です。
 「グリーン化」については、岩手県も、2050年に温室効果ガス排出量実質ゼロを目指すという目標を掲げました。
 今年の2月には、「いわて気候非常事態宣言」を出しました。かなり頑張らないと温室効果ガスを減らしていくことはできません。しかし、そのくらい頑張らないと、サケやサンマの漁獲量の激減や、今までなかった、太平洋から岩手県に直接上陸する台風等による深刻な被害を止めることができませんので、今、岩手県は、気候非常事態であるということを宣言しているわけです。
 岩手県は、再生可能エネルギーの素材が大変多いですし、それらで発電したものを水素にうまく変えられれば、なお一層、脱炭素、温暖化対策の先頭に立てる環境にありますので、これを進めていきます。また、県の中で森林面積が一番広い、そういう岩手県で、2023年、再来年には、全国植樹祭が予定されています。県民理解の推進につなげたいと思います。
 「デジタル化」ですが、デジタル化可能なことはデジタルに置き換えるということを、改めて進めていかなければなりません。
 「いわてDX推進連携会議」として、各界代表に集まっていただいて、戦略を練り、状況を確認し、それぞれがDXを進めていくという体制を作っています。
 岩手県にも、IT関連産業が徐々に増えてきていますし、IPUいわてイノベーションセンター、岩手県立大学との関係で、集積が進んでいます。また、盛岡市のマリオスには、IT企業が既に多く入居しています。県内で、様々な、高度な技術を開発している会社もあり、この岩手が直面する様々な地域課題を解決するような技術開発を進めてもらっています。
 「国際化」については、コロナ禍で、直接の海外の行き来は難しくなっていますが、それでも今、「いわて清酒PR貿易交流会」を中国で行ったり、中国の学校と岩手の学校で、オンライン交流を行っています。
 ハロウ・インターナショナルスクール安比ジャパンが、来年8月開校に向け、準備が進んでいます。イギリスでイートン校と並ぶ名門私立学校のハロウ・スクールのインターナショナルスクールということで、チャーチル元首相や、インドの初代首相のネルー氏も出身者でありまして、この国際的に定評がある学校から、岩手の環境が教育の場として最適であると選んでもらっていますので、これを内外に発信していきたいと思います。

おわりに

 最後に、まとめに入っていきますが、改めて、岩手県は、「新型コロナウイルス感染症低リスク県」であるということです。これを生かして、先に進んでいきたいと思います。
 先ほど、復興とSDGsが似ていると言ったのですが、「岩手緊急事態宣言」とSDGsも似ています。明確で、測定可能な数値目標を設定し、そして、その目標を関係者で共有し、多様な主体が連携して目標達成に向かっていく。「岩手緊急事態宣言」で行ったような、県民運動的なやり方、それをあらゆる分野に応用していく。いわば「いわてSDGs」です。
 各県版、各市町村版のSDGsというと、今あるSDGsの17のGOALSをどう当てはめていくかという話になりますが、「いわてSDGs」は、岩手県として、岩手県民として、目標にすべきことを改めて県民が話し合って、決めて、それに向かっていくというものです。
 新型コロナウイルス感染症対策であれば、人口10万人当たり直近1週間の新規感染者数が「15人」以上になったら行動制限をする、「10人」まで下がったら行動制限を解除するという目標を共有して、行政も、民間も、色々な団体や個人など、あらゆる主体が、力を合わせれば、様々な難しい困難も乗り越えられるし、新しいことを作っていけるだろうと考えています。
 SDGsは国連総会で採択しています。国連総会は厳密には国の代表が集まって行っていますが、開発や気候変動に関する国連の会議には、NGOや、グレタ・トゥーンベリさんのような個人も集まって、色々な団体や個人が一緒になって、議論して、決めていくというやり方をしています。そういう形で、要所要所で、物事を決めていくと良いのではないかと考えています。そういうビジョンを、今の岩手であれば、見ることができるのではないかと思います。
 これまで述べたような岩手県の強み、新型コロナウイルス感染症対策で行ってきたこと、東日本大震災津波の経験と復興の成果をもとにしながら、「ポストコロナに対応できるいわて」というものを作って、県民の幸福度を高めていく、「お互いに幸福を守り育てる希望郷いわて」であることができるのではないかというのが結論です。
 御清聴ありがとうございました。

 

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