(社)内外情勢調査会盛岡支部講演「未来に追いつく復興」

ID番号 N5188 更新日 平成26年1月17日

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とき:平成24年11月13日
ところ:ホテルロイヤル盛岡

1 はじめに

皆さん、こんにちは。
今日は、このような形で講演をさせていただくこと、誠にありがとうございます。
今年の3月にお招きいただいたときの講演では、「東日本大震災津波 災害対応と復興」という題で、主に発災から初期対応、そして復興につながる取組を紹介いたしました。
発災から1年8か月経った今でありますが、なお多くの方々が行方不明となったままであります。そして、約4万人の方々が、応急仮設住宅等で不自由な避難生活を送っています。
避難生活は、時間が経てば経つほど大変になってきます。一日も早い復興に向けて、しっかり取り組んでいかなければならないと、あらためて感じております。
今日は、震災前にただ戻すだけの復興ではなくて、あるべき未来の地域の姿を実現する「未来に追いつく復興」というテーマでお話をし、そのような復興を象徴する「岩手の未来を見据え、今後展開していくプロジェクト」を紹介し、被災地をはじめ、県民の皆さんに希望を持っていただきたいと考えています。

2 復興元年における県の取組

(1) 復興の状況と復興実施計画の見直し

ア 復興の状況

まず、復興の状況でありますが、最初に、本県の人口流出の状況について説明をいたします。
人口流出、より正確には、県外からの転入者数と県外への転出者数の差でありますが、社会増減という言葉を使います。今年の10月1日現在で2,443人の減となっております。これは、私が知事に就任した平成19年の6,881人以降、減少幅が縮小しております。
去年3月11日の東日本大震災津波の前後でも、平成22年が4,175人、平成23年が4,011人というように県外転出が減り、県外転入が増え、県全体では、人口減少に歯止めがかかっている傾向となっています。
さて、昨年、県では、発災直後の緊急対応と共に、「人命が失われるような津波災害は今回で終わりにする」という決意のもと、「岩手県東日本大震災津波復興計画」の策定作業を進めました。
この復興計画の策定に当たっては、被災市町村の復興を長期的に支援することを明確にしつつ、科学的・技術的な知見に立脚した津波対策の方向性やまちづくりのグランドデザインを基にした、安全で安心な防災都市・地域づくりによる復興を実現することなどを目指す姿として掲げ、「岩手県東日本大震災津波復興委員会」を6回開催し、昨年8月11日に開かれた臨時県議会において議会の承認をいただきました。
そして、復興計画に基づき、平成23年度には、被災地の復旧・復興の第一歩となる緊急的な取組を重点的に進めました。
今年は「復興元年」として、本格的な復興に向けた取組に乗り出した年になります。
この「復興元年」予算として、県では、今年度当初予算1兆1,183億円のほか、3回にわたる補正予算を編成しました。現時点での今年度予算の額は、1兆1,851億円となり、発災直後からこれまでの東日本大震災津波関連予算の累計は、1兆3,349億円にのぼっています。
また、復興計画の進行管理に当たって、「事業進捗」や「客観指標」、「県民意識」の調査を行い、各調査結果を総括して、本県の復興の現状と課題について示す報告書として、「岩手県東日本大震災津波復興計画の取組状況等に関する報告書」、いわゆる「いわて復興レポート」を作成しています。
それでは、復興計画に掲げた「安全」の確保、「生活」の再建、「なりわい」の再生の3つの原則ごとに、復興状況を説明します。

「安全」の確保

まず、「安全」の確保の復興状況についてですが、本県において発生した災害廃棄物、いわゆる「ガレキ」は、全体推計量が525万トンでありますが、そのうち、平成24年10月末の処理実績は約104万トン、19.7%となっています。今年度末までには、50%程度の処理を見込んでいます。そして、平成26年3月には、全量について処理を完了することを目指しています。
今年3月に、被災した県内の防潮堤で、最初に本格復旧のための工事に取り掛かったのが、宮古市の金浜(かねはま)海岸防潮堤でありまして、倒壊した防潮堤を被災前の8.5メートルまで盛土し、その後、全体を10.4メートルかさ上げするものです。
9月には、陸前高田市高田町の高田松原で、防潮堤の復旧工事着工式が行われました。全体延長約2,000メートルの一部で、全体の完成は平成27年度を予定しています。このように、現在、県内沿岸部の各地で防波堤や港の復旧工事が進められています。
また、昨年11月に着工した、三陸鉄道の「陸中野田駅」から「田野畑駅」間の復旧工事は無事に終わり、今年4月1日に運転を再開しています。その他の区間でも復旧工事を進めており、今年度末には、「盛駅」から「吉浜駅」までの間で、南リアス線では初の運行再開を予定しています。平成26年4月に三陸鉄道全線の運行再開を目指しています。
復興道路に位置づけられている「東北横断自動車道釜石・秋田線」は、今年度末の開通を予定していた東和~宮守間24キロが、前倒しで工事を進め、今月25日にも供用を開始できる見通しとなりました。これは、復興道路関係の開通第1号となります。
さらに、市町村の復興まちづくりとして進めている区画整理事業や防災集団移転事業などの面的整備事業は、復興交付金事業として、現在、113箇所分について交付可能額が通知されていますが、そのうち、来年度までに約9割が事業に着手する予定です。

「生活」の再建

次に、「生活」の再建の復興状況についてですが、応急仮設住宅は、あくまで仮の住まいであります。県と市町村は、災害復興公営住宅を整備しています。
今年6月には、釜石市平田地区に県内第一号となる災害復興公営住宅の着工式を行いました。また、釜石市野田地区や大槌町吉里吉里地区にて工事に着手したほか、野田村野田地区や山田町豊間根地区、陸前高田市中田地区などで早期の着手に向け、準備を進めています。その他の団地についても、市町村の復興計画等との調整を図りつつ、市町村と連携して建設用地の選定を進めており、県整備分約3,200戸の平成26年度までの完成に向け、今年度は約1,750戸分の用地を確保し、早期の事業着手を目指しています。
市町村においても、市町村整備分約2,400戸のうち、約930戸分の用地を確保し、一部で建築工事に着手しています。
なお、復興交付金事業による面的整備工事箇所のうち、自力再建を含めた住宅建設工事着手が可能となるのは、平成26年度までに7割程度となる見込みです。
それから、被災者のきめ細かな心のケアを継続的・長期的に行うため、「岩手県こころのケアセンター」を2月に岩手医科大学内に設置し、地域において被災者に寄り添った心のケア対策を行う「地域こころのケアセンター」を3月に沿岸部の4合同庁舎内に設置しました。9月末時点での相談件数は、2,737件となっています。
この他、沿岸7市町村に「震災こころの相談室」を設置し、被災者からの相談対応や精神科医による診察、仮設住宅等への訪問を実施しています。また、子どもの心のケアについては、沿岸3地区、宮古、気仙、釜石に「子どものこころのケアセンター」を設置し、週1回程度、児童精神科医が児童等を診察するほか、地域の関係機関と連携してケアを実施しています。

「なりわい」の再生

最後に、「なりわい」の再生の復興状況についてですが、本県沿岸部の産業の柱である水産業の再生は、被災した沿岸部の復興にとって非常に重要であります。
現在、県下111漁港のうち、津波被害を受けた108漁港のすべてが既に利用可能となっているのに加えまして、今年9月に田老魚市場の復旧で、県内13魚市場のすべてが業務を再開しており、水産業の再生に向けた動きが日々活発化してきています。
漁業協同組合による漁船、共同利用施設の復旧・整備の状況は、新規登録漁船の平成25年度末整備目標6,800隻に対し、9月末現在で6,375隻の整備が完了し、その達成率は約9割となっています。また、養殖施設についても、平成25年度末整備目標の19,885台に対し、9月末現在で13,145台の整備が完了し、その達成率は約6割となっています。
商工業関係でも、今年8月実施した被災事業所、2,519事業所を対象とした県の「第2回被災事業所復興状況調査」では、77.9%が事業を再開していると回答しており、前回2月に実施した調査の結果73.4%より、4.5ポイント上昇しています。特に、水産加工業の事業再開の割合が、前回56.0%から19.2ポイントアップして75.2%と、最も上昇しています。
これは、中小企業基盤整備機構の仮設店舗・工場や、県、市町村による修繕費補助金、そして、国、県による中小企業等グループ補助金などのハード整備への支援施策の実施と併せ、何より被災された事業所の方々の事業再開への思いが、このように再開率を押し上げたものと考えています。
特に、グループ補助金については、これまで4次にわたり募集を行い、51グループ751事業所に577億円の補助を決定しています。また、政府が先の10月26日に閣議決定した緊急経済対策の中に、グループ補助金の追加措置801億円を盛り込んだことを受け、県では、今月の9日から第5次募集を開始しておりまして、「なりわい」の再生を強力に支援していきます。
沿岸部における税収の状況を見ましても、個人事業税、法人事業税ともに総じて被災前より上回っている状態であります。これは、被災を逃れた事業所の収益が大幅に増加したことが要因と考えられますが、この効果を、再開した事業所にも波及させていきたいというところです。
また、既存債務の返済を残したまま、事業再開に伴い新たな債務を負わなければならない、いわゆる二重債務問題に対しては、国、県、県内金融機関等が連携し、「岩手県産業復興相談センター」においてワンストップの相談窓口を設置したほか、「岩手県産業復興機構」を設立して被災事業者等の債権買取等を行っています。また、国がこの2月に設立した「東日本大震災事業者再生支援機構」と連携しながら支援に取り組んでいます。
現在、産業復興機構による買取案件は30件でありますが、相談センターには、10月末現在348件の相談があり、産業復興機構による買取支援を検討している案件のほか、相談センターによる助言によって解決した案件も多くあります。
また、東日本大震災事業者再生支援機構においても、県内事業者にかかるものとして17件の債権買取支援を決定しています。
観光関係では、32年ぶりに本県単独で開催された「いわてデスティネーションキャンペーン」期間中、これは、今年の4月1日から6月30日までですが、その期間中の県全体の観光入込客数は、震災前の平成22年の4月から6月までの3ヶ月と比較して97.1%と、ほぼ震災前の水準まで回復しました。
その中で、平泉は平成22年同期の約1.6倍であり、盛岡地域や県南地域は震災前以上の入込みがありました。一方、県北地域は22年同期比93%、そして、沿岸地域は58%と震災前の6割でありました。
ただし、沿岸地域については、津波等で調査地点が20ヶ所減ってしまって客数をゼロとしている影響もありまして、実際には被災地応援ツアーや語り部ツアーは好調で、20ヶ所分をきちんとカウントできれば実数はより大きくなります。
また、沿岸地域での宿泊施設の不足が課題となっていますが、釜石市の陸中海岸グランドホテルや田野畑村のホテル羅賀荘、大槌町の浪板観光ホテルなど、大型宿泊施設を中心に中小企業グループ補助金等を活用し営業再開の予定が相次いでおりまして、来年6月頃までには、沿岸部の宿泊施設の営業率は、収容人員ベースで震災前の約8割まで復旧することになります。その他の施設についても早期の営業再開に向け、引き続き、支援に努めていきます。
さらに、大手企業による沿岸地域の宿泊施設の建設も行われてきております。
現在、ポストDCとして「いわてDCありがとうキャンペーン」を展開中です。地域・地元の底力を発揮して、ソフト・ハードの両面から「選ばれる観光地」づくりを推進しています。現在開催中の「東北観光博」、来年開催予定の「仙台宮城DC」や「秋田DC」のプレキャンペーンとも連動、連携しながら、相乗効果を図っていきたいと考えています。

イ 「社会資本の復旧・復興ロードマップ」の作成

次に、「社会資本の復旧・復興ロードマップ」の作成であります。
被災者や被災企業の方々から、「今後のまちづくりや公営住宅整備など、県民生活に身近な社会資本の復旧・復興の情報が欲しい」という切実なご意見、ご要望を伺っています。
また、県の方でも、社会資本整備の今後の見通しを示す必要があると考えていたところでありまして、被災者や被災企業からのご意見なども踏まえ、6月に「社会資本の復旧・復興ロードマップ」を作成しました。
被災地の復興の基盤となり、県民生活に関わりの深い社会資本の分野を選定し、事業の実施個所や規模、平成30年度までの工程見通しを示していくこととしたもので、被災者や被災企業の方々をはじめ、県民や復興を支援してくださる皆様に役立てていただくことを目的としています。
なお、個々の事業の実施に当たっては、事業説明会等の場を通じて、直接住民の皆さんに丁寧に説明していくことが大事と考えております。

ウ 復興実施計画の見直し

次に、復興実施計画の見直しについてです。
「岩手県東日本大震災津波復興計画」を、昨年8月に策定した以後、国において、11月の第3次補正予算の成立、12月の復興特別区域法等の復興関連法の制定、そして、本年2月の復興庁の設置など、復興に向けた体制、制度、財源等が整えられました。
復興計画の策定から1年を迎えて、このような復興に関する制度や予算等を計画に反映させるとともに、計画に基づく事業の進捗状況、そして被災地域における復興の状況と県民意識等を踏まえ、本年8月、復興実施計画第1期の点検・見直しを行いまして、「岩手県東日本大震災津波復興計画 復興実施計画
平成24年8月改訂」版を策定しました。
県では、復興状況を定期的に把握するため、被災地の方々の協力を得て、復興感に関する「いわて復興ウォッチャー調査」を3ヶ月に1回、年4回実施しています。
今年の8月に実施した第3回調査の結果によりますと、被災者の生活の回復度について、「回復した」と「やや回復した」の合計が45.2%となり、「あまり回復していない」と「回復していない」の合計38.5%を初めて上回りました。
これらの理由として、「周囲に修築、新築する家が見られるようになった」という回答もありますが、「高台移転、災害公営住宅の建設の遅れ」や「仮設住宅に住み続けることへの不安」に関する回答も多かったです。
地域経済の回復度については、「回復した」と「やや回復した」の合計が44.4%となり、前回の31.2%から13.2ポイント上昇。
安全なまちづくりの達成度については、がれき撤去や道路復旧が進む一方で、防潮堤の整備が進んでいないことへの不安などから、「あまり達成していない」と「達成していない」の合計が71.8%となっていますが、前回の81.5%よりも9.7ポイント下がっています。
今後も、この「いわて復興ウォッチャー調査」を実施して、実態を把握しながら復興を進めていきます。

(2) 復興にあたっての課題

このように復興の取組を進めているところでありますが、その中で、いくつかの課題が浮き彫りになってきています。ここでは、復興にあたっての課題として、5つ取り上げてご説明します。

ア 専門的な人材の不足

まず、一つ目として、専門的な人材不足の課題があります。
復興事業が本格化することに伴い、膨大な数の工事の設計や発注、工事箇所の埋蔵文化財調査などに携わる専門的な人材の不足が深刻な状況となっています。
全国の自治体からの応援を、今年度は、29都道府県・4政令市から、土木職を中心に139人派遣していただいていますほか、本県としても任期付職員の採用などを行いました。それでも足りませんので、更なる応援職員の追加要請や、来年度採用予定職員の繰り上げ採用、再任用フルタイム職員の土木職の確保などを実施していく予定です。
また、埋蔵文化財調査員についても、他都道府県から既に10名の支援職員を派遣いただいて被災市町村への支援を行っていますが、来年から再来年にかけて発掘調査量がピークを迎えると見込まれますので、文化庁を通じて、更なる職員派遣について依頼しております。

イ 復興に必要な財源の確保

二つ目として、復興に必要な財源確保の課題があります。
県では、被害の状況や、阪神・淡路大震災の例を参考に、粗い試算ではありますが、国、県、市町村を含む本県全体として復興費用を8兆円と試算しています。
このような大きな額の復興財源を確保するためには、国庫補助負担率の引き上げや補助対象の拡大、採択基準の弾力化などの措置が不可欠でありまして、国に対して強く要望しております。

ウ 土地利用手続きの問題

三つ目として、土地利用に関する手続きの問題があります。
防潮堤などの用地を調査したところ、所有者不明や相続未処理などで、用地取得に時間がかかる土地が全体の約3割もあり、その取扱いに多くの手続きと時間を要するということから、国に対して、復興の妨げとならないよう、新たな制度の創設などを求めてきています。
そうした結果、復興特区法において、土地収用関連手続きについて一定の特例措置が設けられました。しかし、土地所有者の所在の確認や、死亡、あるいは死亡とみなされた場合の相続人の所在確認などについては、個人の財産権に直接かかわるなどの理由から、手続きの省略は盛り込まれませんでした。
このことから、引き続き、事業用地の円滑な確保に向けた制度の創設等について、国に対して要望を行って参ります。

エ 災害廃棄物の処理

四つ目として、膨大な災害廃棄物の処理も復興に向けた大きな課題であります。
先ほどお話したとおり、本県における災害廃棄物の全体推計量は525万トン、本県の一般廃棄物の年間発生量の約12年分という膨大な量であります。特にも、土砂・泥などの津波堆積物やコンクリートがらは約275万トンと大量であり、できる限りこれらを復旧・復興工事の資材として活用するように取り組んでいます。
全国各地の多くの自治体において、主に柱材・角材などの木くずや可燃物などを受け入れていただいていますが、今後は漁網など不燃物の広域処理も、受け入れあるいは受け入れの検討をしていただいています。
全国の協力を得て広域処理を進めながら、目標である平成26年3月までに、災害廃棄物の処理を完了させたいというところであります。

オ 放射線影響対策

最後に、放射線影響対策についての課題であります。
本県では、県民の生活環境と食の安全、そして本県へお出でいただく観光客の皆さんや、本県の物産を御愛用いただく方々への安全を、検査や除染、関係情報の提供によりしっかり守っております。
しかし、放射線検査に係るゲルマニウム半導体検出器やサーベイメータ等の機器の配備や定期的に行う放射線濃度測定、除染等にかかる人手やコストは大きな負担であり、それに加えて、大量の牧草やほだ木等の廃棄物の処理等の問題も生じています。
本来、これらの対策は東京電力と国の責任において講じるべきものであります。県の損害賠償についても、東京電力に対して平成23年度分として約5億7百万円を請求しているところでありますが、具体的な回答は、まだありません。

課題への対応等

今回のこの大震災からの速やかな復興に向け、国が行うべきは対処療法的な個別の措置ではなく、自治体がもっと自由に使える交付金制度をはじめ、今までにないような思い切った予算の執行であり、行政手続きを抜本的に簡素化して復興に要する時間を大幅に短縮する大震災復興特例ともいえる大きな「改革」であります。
大震災からの復興を国家的なプロジェクトとして位置付け、岩手・宮城・福島などの被災地を含む我が国全体の将来を見据えた構想と、それに向けて復興を成し遂げる国の力が必要であります。
そのため、本県では、昨年来、政府与党や関係省庁に積極的に提言・要望活動を行っておりまして、今年は7月に、原子力発電所事故対策や医療・福祉施設の復旧、農林水産業の復旧支援など緊急を要する項目をはじめ、復興特区制度や復興まちづくりの推進、鉄道の早期全面復旧など復興を加速するために不可欠な項目について重点要望を行いました。また、全国知事会や北海道・東北地方知事会の活動など、様々な機会をとらえて国に提言しています。
私は、日頃「答えは現場にある」と話していますが、復興に携わる者すべてが、現場である被災地・被災者の声に耳を傾け、今なお「非常時」であるとの認識を持って迅速な復興に当たることが重要であり、私自身そのことを常に肝に銘じて復興に取り組んでいきたいと思います。

3 岩手の未来を見据えた戦略的なプロジェクト

ここでは、県で提案し、取り組んでいるプロジェクトや、復興から立ち上がっていくために必要な事業等のうちから、岩手の未来を見据えた戦略的なプロジェクトとして、7項目について紹介します。

(1) 「復興道路」の整備

まず、復興道路の整備についてです。
「復興道路」、それは、被災した沿岸部を縦につなぎ、また、内陸部と横につなぐ高規格道路のことであります。
沿岸部を縦に貫く高規格道路は「三陸沿岸道路」と呼ばれ、青森県八戸市から久慈市までの「八戸・久慈自動車道」、久慈市から宮古市田老までの「三陸北縦貫道路」、そして、宮古市田老から宮城県仙台市までの「三陸縦貫自動車道」の3つの道路からなっています。
また、沿岸部と内陸部を結ぶ復興道路は2つあり、一つは宮古市と盛岡市を結ぶ「宮古盛岡横断道路」、もう一つは釜石市から花巻市を結ぶ「東北横断自動車道釜石秋田線」です。
釜石市の鵜住居地区など、発災前に一部開通していた沿岸の高規格幹線道路は、津波襲来時の避難路や避難場所、緊急物資の輸送路としても利用されました。津波で海沿いの道路が通行止めとなる中で、まさに「命の道」として極めて有効に機能しました。
現在、国では、この復興道路の整備を三陸沿岸地域の一日も早い復興を図るためのリーディング・プロジェクトとして、かつてないスピードで整備を進めています。先にお話しした「東北横断自動車道釜石・秋田線」の東和~宮守間24キロが今月25日に供用開始が可能となったというのも、また、さらに、仙人峠道路起点の釜石西から釜石までの国道283号釜石花巻道路の起工式が今月4日に行われたのも、その成果であります。
また、県では、信頼性の高い道路ネットワークを構築するために、復興道路を補完する国道、県道を「復興支援道路」として位置付けて重点的に整備しています。
このように、災害時の確実な緊急輸送や代替機能を確保した信頼性の高い道路ネットワークの構築により、災害時の防災力強化はもとより、積年の課題でありました都市間の移動時間の短縮などが図られ、併せて、物流の効率化や広域的な観光ルート整備による産業振興、そして、救急医療への支援、また、県内外の広域的な交流・連携の拡大など、各分野に大きな効果がもたらされるものと考えます。

(2) 子どもたちへの支援と復興教育の推進

次に、子どもたちへの支援と復興教育の推進であります。
震災で、親を失ってしまった子どもさんが多くおられます。父親と母親の両方を亡くされた被災孤児は、現在94人を確認しております。ご両親のうち、どちらかを亡くされた被災遺児は、現在481人を確認しているところであります。
この子どもたちには、「子どものこころのケアセンター」において精神面でのケアを図るとともに、県の児童相談所の職員や、宮古、釜石、大船渡に配置した遺児家庭支援専門員が、市町村と連携しながら、訪問や電話で随時、相談に乗ったり、各種支援制度の利用の促進を図ったりしています。
特に、被災孤児については、里親や親族等の引取り状況など、定期的に養育環境等の調査を実施して、状況を確認しています。
このような被災孤児や遺児たちが、社会に出るまでに必要な「くらし」と「まなび」に要する資金援助のほか、被災地の厳しい経済状況の中、被災した子どもたちの教材費や修学旅行費、文化活動費や運動部の大会参加費等を助成するために、県では「いわての学び希望基金」を設置しました。
かつて、郷土の偉人、新渡戸稲造博士は、札幌農学校教授時代に家庭の事情で勉強がしたくても学校に行けなかった子どもを集め、無料の夜の学校、「遠友夜学校(えんゆうやがっこう)」を設立しました。
「いわての学び希望基金」は、この新渡戸博士の思いを今に受け継ぐものでもあります。
この基金には、全国の皆様から、9月末現在で、7,600件、約47億2千万円という多くの善意の寄附をいただいておりまして、昨年、平成23年度の給付実績は、決定者人数627人、給付額の合計は約1億5千2百万円となっています。
また、今回の東日本大震災津波のつらく悲しい体験をそのままに終わらせることなく、子どもたちがともに手を取り合って、希望と勇気を持って前に進んでいくようにするためには、県内のすべての学校が、心を一つにしてこの大震災を見つめ、地域の未来を担う「人づくり」を進めていく必要があります。
そこで、郷土を愛しその復興・発展を支える児童生徒の育成を目的として、県内すべての市町村に「復興教育推進校」を指定し、市町村教育委員会と連携を取りながら、特色ある復興教育の推進に対して支援を行い、これら先進事例の成果の普及を図り、今後の「いわての復興教育」を充実させていく取組を行っています。
推進校においては、地域や学校の実情に応じて、成果発表会、公開授業、研修会等の開催、インターネットの先進的利活用などの取組を実施し、本事業の成果を他校と共有し、その普及を図ります。
例えば、9月に私が授業参観に訪れたのですが、野田村の野田中学校では、「郷土を愛し、その復興・発展を支える人の育成」を目的に、震災津波の教訓を将来に生かすべく、地域と学校が連携して復興教育を実施しています。具体的には、生徒が地域でのボランティア活動などを通して、ふるさと野田の復興のあり方を考え、それを発表して意見交換を行うなどの取組を行っていました。
県立高校においても、高校ごとに特色ある復興教育をするよう支援しておりまして、県内各地の小中学校・高校で主体的に実践を始めた復興教育は、岩手のさらなる復興・発展を担う人材を育むことに大きく役立つものと考えています。

(3) 質の高い保健・医療・福祉提供体制の整備

次に、質の高い保健・医療・福祉提供体制の整備であります。
復興計画では、保健・医療・福祉が連携した質の高いサービスを継続的に提供できる体制を整備するため、被災地においては、施設の移転や新築の支援、福祉サービス事業所の施設運営体制の支援等により、被災した医療機関や社会福祉施設等の早期の機能回復を推進することとしています。
このうち、医療については、津波で大きな被害を受けた沿岸部での体制構築が急務であるとともに、広大な県土を有する本県は、地理的・時間的制約や、医療資源の地域的格差、医師不足も、震災前から抱えている課題であります。
そこで、県では、被災した医療機関等の移転整備など被災地における本格的な医療提供施設の再建に加えて、医療機関の情報通信ネットワークの整備などを盛り込んだ「岩手県医療の復興計画」を、今年3月に策定しました。
これに基づき、岩手医科大学と地域中核病院間を結ぶネットワークシステムの構築による診療情報の共有や災害時のバックアップ、「遠隔医療」の推進など、これまで以上に高度なサービスを供給できる体制の、平成27年度までの導入を目指しています。
また、震災の際に、他県からのドクターヘリ支援が人命救助に重要な役割を果たしましたが、本県でも今年5月8日からドクターヘリの本運航を開始しました。これにより、県内の大部分で30分以内の治療開始が可能となり、10月29日現在の運航回数は、既に139回を数えています。
このような、本県の医療課題の解決及び被災地の医療提供体制の復旧・復興等を図るため、国の交付金により平成21年度から造成した「地域医療再生等臨時特例基金」を活用していますが、震災後の23年度に大幅に積み増しし、総額300億円以上としておりまして、平成25年度から被災県立病院の再建、県立療育センターの整備等を予定しています。
被災した高田病院については、仮設施設で今年2月から入院受入れを行っています。また、大東病院については今年9月に整備方針を決定し、年度内に工事設計を行い、工事が順調に進めば26年2月頃には完成の見込みです。
このほかの被災県立病院の再建についても、現在、県の次期保健医療計画策定に向けて、医療機関相互の役割分担と連携を進めるための具体的な方策や目標などについて議論がなされているところであり、また、地元市町においては、具体的な土地利用計画などの策定を進めており、こうした状況を踏まえながら、立地場所や規模・機能等について検討が進められています。
なお、医師確保については、平成18年9月に医師確保対策室を設置して 21年4月からは医師支援推進室と改組、様々な対策を打っています。特に、即戦力となる医師の招聘活動により、これまで延べ80名以上の医師を県立病院や市町村立病院等に招聘しています。
また、従来より医学生等に対して奨学金の貸与を行っていました。医療局では医師奨学資金貸付事業を実施していますが、入学する大学を特に指定しない15名の「一般枠」の他に、平成22年度に、岩手医科大学の新入生を対象とする10名の「岩手医大新入生枠」を新設しています。この事業を利用した奨学生も、平成28年度から晴れて県立病院で勤務していただくことになりますので、従前の「一般枠」と併せて事業の効果が出てくるものと期待しています。平成25年度からは、先ほど申し上げた平成22年度から始めた岩手医科大学の新入生10名の奨学金は、13名に増員予定でありまして、そういった奨学金の枠の拡大の効果がだんだん復興の中で出てくるという状況にございます。

(4) 再生可能エネルギーの導入、海洋科学研究施設の誘致

次に、再生可能エネルギーの導入と、海洋科学研究施設の誘致であります。
まず、再生可能エネルギーの導入についてですが、県では、復興計画において、「さんりくエコタウン形成」プロジェクトとして、三陸の地域資源を活用した再生可能エネルギーや省エネルギー技術の導入を促進し、災害にも対応できる自立・分散型のエネルギー供給体制を構築することにより、環境と共生したエコタウンの実現に向けた取組を推進することとしています。
本県は、再生可能エネルギーの潜在力が北海道に次ぎ全国で2番目に高い県です。その導入促進は、本県のエネルギー自給率の向上、地球温暖化、さらには、災害にも対応できる自立・分散型のエネルギー供給体制の構築に極めて重要であります。
このため、今年3月に策定した「岩手県地球温暖化対策実行計画」において、再生可能エネルギーによる電力自給率を、平成22年度の18.1%から、平成32年度には約2倍の35%とする目標を掲げ、防災拠点施設や住宅、事業所等への導入の支援のほか、県単融資制度の創設など、大規模発電施設の立地に向けた取組を進めています。
この平成22年度から平成32年度に、10年で倍増させ、再生可能エネルギーによる電力自給率を35%にするという目標ですけれども、この35%というのは、ワット数にすると約116万キロワット、これは大規模な原子力発電所1基分に相当します。
「岩手県地球温暖化対策実行計画」においては、この自給率の達成目標を平成23年度には18.4%としていたのですが、実績は20.1%であり1.7ポイント上回っております。このペースで行きますと、目標の平成32年度よりも早くこの35%という原発1基分くらいの再生可能エネルギー発電を達成できると期待しています。
現在、被災家屋での太陽光発電の導入や、洋野町、久慈市、一関市、盛岡市などではメガソーラー、一関市、一戸町では大規模風力発電、八幡平市では地熱発電の立地計画が進んでおり、また、地域の特性を活かした小水力発電や木質バイオマスの熱利用などの取組も進展しています。
それから、海洋再生可能エネルギーの活用についてですが、先進地のヨーロッパ諸国においては、豊富な風力や波力、潮流を背景に、研究開発や事業化を国や地方自治体、企業が積極的に進めており、漁業との共存を図りながら、新たな産業と雇用創出に取り組んでいます。
本県の三陸の海は、沈降型のリアス式、あるいは隆起型で遠浅な海域など、多様な海底地形を有しておりまして、高い海洋エネルギーポテンシャルがあるとされています。漁業との協調を図ることで、導入や開発の拠点化の可能性が十分にあると考えられており、県の復興計画で「国際研究交流拠点形成」プロジェクトを掲げています。
このプロジェクトで、海洋再生可能エネルギー開発の拠点化を進め、今年度は、「いわて沿岸北部海洋再生可能エネルギー研究会」の設立、「海洋エネルギーシンポジウム」の開催などのほか、三陸復興・海洋エネルギー導入調査事業を東京大学生産技術研究所に委託し開始しています。
さらに、このプロジェクトによって、海洋環境・生態系、海洋バイオなども含めた研究拠点としての国際的な「海洋科学研究施設」の誘致も進めることとしています。
これらを、本県における新たな産業創出やビジネスチャンスにつなげていきたいというところです。

(5) 復興特区制度の活用と、ものづくり産業の集積

次に、復興特区制度の活用と、ものづくり産業の集積であります。
県の復興計画においては、復興特区制度を活用した総合的施策の推進により、内陸地域と沿岸地域が一体となったオール岩手でものづくり産業の振興などを図ることとしています。本年3月30日、被災地の雇用創出を促進するための税制上の特例措置や、医療機器製造販売業等に係る特例措置を盛り込んだ「産業再生復興推進計画」が認定されました。産業の集積等による雇用機会の確保・創出や、地域の特性を生かした産業振興による被災地域の経済活性化に向けた動きを加速できるようになりました。
この特区による特例の適用を受けるためには、個別に県に対して事業者指定の申請を行う必要がありますが、9月18日現在で、34事業者36件の指定を行っています。
また、本県では、北上川流域の内陸部を中心に、自動車関連産業、半導体関連産業、医療機器関連産業を柱とする「連峰型の産業集積」の形成を目指して、地場企業の技術力向上や取引拡大、企業誘致、ものづくり人材の育成などに力を入れてきました。
特に、自動車については、多くの部品等の関連産業を擁する裾野の広い産業であり、沿岸部も含めた地域経済や雇用創出の面で大きな効果が期待できますので、自動車を産業振興の大きな柱に据え、「岩手県自動車関連産業成長戦略」によって総合的な取組を推進しています。
昨年、トヨタ自動車が、東北を中部・九州に次ぐ「第3の国内生産拠点」とすることを表明しました。そして、今年7月、新たに「トヨタ自動車東日本株式会社」を設立したのに伴いまして、大手部品メーカーの東北進出検討や協業先を探す動きが活発化し、県内への自動車産業集積や地場企業の参入に好機となっています。
トヨタ自動車の新会社が設立されたのと同じ7月には、さらなる自動車関連産業集積促進に向けて、庁内横断的な「自動車関連産業振興チーム」を県庁内に設置し、体制を強化しました。
トヨタ自動車東日本の岩手工場で生産されているコンパクト・ハイブリッド車「アクア」は、この10月の車名別国内新車販売台数で首位となり、地元雇用の増加に貢献しています。

(6) 「国際リニアコライダー(ILC)」の誘致

次に、国際リニアコライダー(ILC)の本県の北上山地への誘致であります。
県では、復興計画の「国際研究交流拠点形成プロジェクト」において、この研究施設を核とした国際学術支援エリアの形成や、医療、環境、材料など様々な関連産業の集積を促進することとしています。
国際リニアコライダーは、30キロメートル以上の直線の地下トンネルに建設される素粒子物理学分野の大規模研究施設であります。世界の中で日米欧の何れか一カ所に建設が求められています。事業費は約8千億円、建設期間は5年から7年で、稼働後は世界中の研究者千人以上が常駐すると言われています。
この研究施設は、電子と陽電子を光速に近いスピードで衝突させ、その瞬間を観測することによって、ヒッグス粒子の性質の究明でありますとか、人類の夢である宇宙の起源解明を目指す世界的メガプロジェクトです。
そして、関連企業等の立地により、IT、バイオ、医療、環境など新産業の創出も期待されます。多くの研究者やその家族などが居住し、東北は世界に開かれた国際的な頭脳拠点になると見込まれます。
今年7月、東北6県の産学官の連携組織である「東北ILC推進協議会」が、「ILCを核とした東北の将来ビジョン」を策定しました。このビジョンを、国はじめ関係方面にアピールし、東北全体として官民挙げた誘致の活動が活発化してきています。
この国際リニアコライダーは、北上山地の花崗岩に覆われた固い地盤という「地域資源」を活用するという地に足の着いたものであると同時に、復興の一環としての国家プロジェクトに相応しく、また、復興を支援しようとする世界中ともつながることができるものであります。
今後とも、東北各県間の結束のもと、国民や経済界へ広く周知を図り、日本の第一候補地に位置付けられるとともに、東北全体の復興のシンボルとして位置付け、国家プロジェクトとして推進されるよう働きかけを更に強化していきたいと考えております。

(7) 「いわてソフトパワー戦略」の推進

最後に、「いわてソフトパワー戦略」の推進です。
岩手には、平泉の世界遺産に代表される文化遺産が数多くあります。三陸海岸や八幡平などの雄大な自然景観があります。また、豊かな自然が育む海・山のグルメの宝庫でもあり、また、人を癒し人を元気にするパワースポットもたくさんあります。
さらに、岩手の自然風土や温かい人々の中で、マンガ、文芸、美術、音楽などの創作活動をしている方もたくさんいらっしゃいます。特に、マンガについては、岩手ゆかりの漫画家が70人以上もいらっしゃいまして、県では「いわてマンガプロジェクト」を立ち上げて、マンガ本「コミックいわて」を2回発行し、また、岩手を題材とした優秀なマンガを表彰する「いわてマンガ大賞」も設け、次世代を担う若手漫画家の育成と本県の魅力の発信を行っています。
三陸鉄道では「鉄道むすめ」キャラクター「久慈ありす」、「釜石まな」を活用してイベントを開催したり、オリジナルグッズやポスターを制作販売したりしております。全国からファンが巡礼に訪れています。さらに、「鉄道ダンシ」として、男性キャラクター「田野畑ユウ」、「恋し浜レン」を追加しており、現在、人気上昇中であります。
こうした岩手ブランドを、岩手の魅力として、観光や地場産品の振興、定住・交流人口の増加につなげ、そして、「いわてソフトパワー」として世界にも発信していきたいと考えています。

4 「地元の底力」と「様々なつながりの力」で希望郷いわてを

これまで、復興元年における県の取組、そして、未来を見据えた戦略的なプロジェクトについて述べてきましたが、復興の過程で、震災以前になかったような取組が新たに芽生え、ぐんぐん育っている、それを紹介したいと思います。
復興という必要にせまられ、掘り起こされる「地元の底力」と、どんどん広がる「様々なつながりの力」が、新しい大きな力となっています。この力で、震災前よりももっと元気で強い岩手、人々が心豊かに生き生きと暮らす『希望郷いわて』が実現すると信じております。

(1) 力強く湧き起こる「地元の底力」

ア 被災地の「地元の底力」による復興への狼煙

まず、被災地の「地元の底力」による復興への狼煙であります。震災で物理的にも精神的にも大打撃を受けた沿岸部において、まちや産業の復旧・復興に向け、逆境を跳ね返す力強い活動が展開されています。
宮古市の重茂地区は人口約1,600人ですが、大津波によって50人の方々が犠牲になりました。高台にある漁協の建物は大丈夫でしたが、814隻あった船のうち798隻が流出し、貯蔵施設、作業施設、養殖施設もほとんど流されました。県内24漁協の中でも特別損失の計上額が最も大きかった重茂漁協です。
そうした大変困難な状況の中で、伊藤組合長のリーダーシップのもと、各漁師が団結。残された船や各地から提供された船を漁協で一元管理して共同利用し、水揚げも全て公平に配分するという方式で、いち早く漁を再開しました。
漁協を核とした漁船・漁具の復旧という、県の復興計画やさらに国の復興基本方針を導いた取組であります。
また、様々な郷土芸能があり、沿岸地域でも、昔から大漁や五穀豊穣を祈願する多くの民俗芸能が伝承されてきましたが、震災によって、多くの民俗芸能団体が被災し、メンバーが亡くなる、道具や衣装さらには練習や披露のための会館等も流される、という深刻な被害を受けました。
郷土芸能は、地域の祭りの中心であり、人々の結び付きを強め、支え合いの文化である「結い」を基礎とするコミュニティを形成してきました。
そして、全国からの資金あるいは道具の提供などの支援を受けながら、次々に復活を遂げ、今年の夏祭りや秋祭り、神社の例大祭等で奉納されています。

イ 「地元の底力」で新しいつながりを創る

平成25年4月から放送されるNHK連続テレビ小説「あまちゃん」のロケが、10月18日から始まりました。主なロケ地は久慈市で、小袖海岸と久慈市内がメインでありますが、今後は田野畑村や三陸鉄道でも行うということであります。
ロケ活動を積極的に支援し、テレビ画面を通じて北三陸の魅力を全国に発信し、また、ドラマと連動した誘客イベントを開催することを検討中でありまして、「地元の底力」を全国にアピールできるチャンスです。全国から北三陸を訪れたり、産品を購入いただいたりすることによって、新しい「つながり」が、さらに出来ていくと期待しています。

(2) 急速に増大する「様々なつながりの力」

ア 全国・海外との「様々なつながりの力」

全国・海外との「様々なつながりの力」でありますが、発災直後の自衛隊や全国の警察・消防からの支援、海外からの緊急救助隊、国内外からの人的支援や支援金・支援物資などの経済的支援、全国からのボランティアのお手伝い、企業・団体等の支援、そして全国の自治体から応援職員の派遣など、「様々なつながりの力」に大いに助けていただきました。
例えば、自衛隊については、発災直後から23年7月26日に撤収するまでの3か月半あまりで延べ61万人以上にものぼる隊員が本県に入っていただきました。また、全国からのボランティアは、先月までに43万人以上の方々が被災地で活動いただいています。
全国の自治体からの人的支援は、概ね3か月以上の中長期派遣は、岩手県への派遣実数が23年度は106名、24年度は9月までで150名、被災市町村への中長期派遣実数は、23年度171名、24年9月までで245名です。
概ね3か月未満の短期派遣は昨年度からの延べ人数で、今年8月末時点、県と被災市町村合わせて92,418人日にのぼっています。
また、文化・芸能・スポーツ界からも多数の著名な方々に激励や炊き出し、応援イベント等のため岩手に来ていただいています。県のホームページの「いわて復興ネット」に掲載していますが、新聞等で確認できている分だけで、先月末までに、AKB48をはじめ延べ1,300以上の著名人・グループが岩手入りしています。
県外と被災地だけではなく、県内同士でも、内陸部の市町村・企業・各種団体・NPO・ボランティア等と、沿岸部被災地との新たな横の「つながり」ができ、あるいは、それまでにもあった「つながり」が更に深いものに発展しています。
これらの「様々なつながりの力」は、復興の大きな力であるとともに、岩手の目に見えない貴重な財産として、さらに大きなネットワークとして育てていきたいと思います。

イ 「いわてとあなたがつながるノート」

今日、皆さんにお配りしているこの「いわてとあなたがつながるノート」。これは、主として県外の方々向けに作成したものでありますが、「つながり」をメインコンセプトに、県内外の復興支援者が岩手で感じた「岩手の魅力」を多くの方々にお知らせするということで、岩手ファンになっていただき、また、本県の観光・物産の振興、ボランティア支援等にもつながればということで、今年9月に制作したものです。
「美味しさでつながる。」「感動でつながる。」「人の温かさでつながる。」「神秘のチカラでつながる。」など、様々な形での岩手との「つながり」を紹介しています。
裏表紙のTシャツに書かれた『あたらしいニッポンを、いわてから。』というのは、今年度の本県のコンセプトコピーです。岩手の復興の現場で起きていることが、これからの日本が進むべき方向性を指し示すという気概で取り組んでいるものでありまして、そうした「志高い岩手」の復興の歩みに、これからも注目し続けていただきたいという思いを込めたものであります。

(3) 岩手の未来を支える歴史の力、文化の力

以上、岩手の未来につながる話を、震災前より更に良くなる未来に追いつくという観点で述べて参りましたが、最後に、未来にも残しておきたい過去からの力、「歴史の力」と「文化の力」について、お話しします。

ア 平泉の「共生の理念」を未来へ

平泉のことであります。昨年6月、平泉は世界文化遺産に登録されました。
平安時代の戦乱によって荒廃した東北地方に、平和な理想郷を実現するため、奥州藤原氏初代清衡公が「人と人との共生」、「人と自然との共生」を理念に築いた平泉でありまして、まさに東北復興のシンボルに相応しい存在であります。
この平泉が千年近く前から形にしていた平和、そして環境の理念というものは、21世紀、更には未来の人類全体にとって、極めて大事であります。
本県におきましては、私はじめ県の教育委員会で手分けして学校で児童・生徒に講義をする「平泉授業」を行っております。また、テレビや雑誌でのPR、パンフレット、紙芝居など様々なツールを使って、平泉の歴史・文化を、岩手において、世代を越えて根付かせるような取組を行っております。

イ 復興を導く先達の功績

そして、復興を導く先達の功績ということで、まず、宮澤賢治でありますが、「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」というこの宮澤賢治の言葉、大震災1ヶ月後の去年4月11日の「がんばろう!岩手」宣言で引用いたしました。
それから、後藤新平。1923年の関東大震災発災1ヶ月後に帝都復興院を立ち上げて、科学・技術的な必然性と社会・経済的な必要性に基づいて、東京の復興計画を立案し、実行したということで、本県もこれにならって、各界の代表者からなる「岩手県東日本大震災津波復興委員会」を設置して、県の復興計画を作成し、今、実行をしております。
今年は、新渡戸稲造博士の生誕150年、石川啄木の没後100年、世界的物理学者田中舘愛橘博士の没後60年に当たり、ゆかりのある地域で関連イベント、企画展等が開催されています。松本俊介、船越保武の生誕100年でもあり、あとは、柳田國男の没後50年でもあります。
このうち、新渡戸稲造博士については、今年の7月21日、盛岡市出身の映画監督、大友啓史さんの呼びかけで、「映画の力プロジェクト」という団体が発足し、そこが主催したイベント「武士道なう。」というものが、県公会堂で開催されました。
私もパネルディスカッションに参加しまして、大友監督、そして、新渡戸基金の藤井事務局長と会談をしました。
私からは「武士道はもともと武士の守るべき道だが、その倫理・道徳は震災復興にも必要である。新渡戸博士が、武士階級が無くなった今、それを平民道として受け継いでいけばいいのではないかと述べていたことを紹介したい」などと発言をしました。
こうした岩手の偉人・先人の功績も、岩手の宝として次代に伝えていき、未来につなげていかなければならないと思います。

ウ 復興を支える民俗芸能の心

3つ目、復興を支える民族芸能の心。国指定無形民俗文化財第1号にしてユネスコの無形世界遺産にも登録されている早池峰神楽をはじめ、本県には、古くから守り引き継がれてきた神楽・鹿踊・剣舞・田植踊など多種多様な民俗芸能が残されています。
県内に千以上はあるとされ、全国随一と言われています。これら民俗芸能は、縄文時代以来の人と自然が一体となった生活や習慣から発生しました。人々の祈りや願いが込められており、長い歴史を通じて、それぞれの風土の中で育まれてきた貴重な文化財であります。
本県では、平成20年3月に「岩手県文化芸術振興基本条例」を制定して、本県の豊かな文化芸術の価値を認識し、育み、新たに創造し、次世代に継承していくことによって、一人ひとりが豊かな文化芸術と共に生きる地域社会の形成を目指すこととしています。
この条例に基づいて、地域における文化芸術活動の支援など様々な事業を行っており、民俗芸能についても支援をしております。民族芸能は、今でも、地域コミュニティを支える重要な要素でありまして、「地元の底力」の源でもあります。岩手の宝として末長く大切にしていかなければならないと思います。

5 おわりに 8年後の未来に追いつく復興を

おわりに、8年後の未来に追いつく復興をということで、平成28年には、本県で第71回国民体育大会「希望郷いわて国体」が開催されます。スローガンは「広げよう 感動。伝えよう 感謝。」と決まっています。
この「いわて国体」は、復興のシンボルとして、県民、企業、団体等との「協働」を基本とする―協力の「協」に「働」ですね―「協働」を基本とする開かれた大会とするとともに、県内外の「様々なつながりの力」を結集し、岩手の「地元の底力」を発揮する大きなチャンスであり、すべての県民にとって「復興の力」となる大会を目指しています。
復興によって「危機」を「希望」に変え、『希望郷いわて』、すなわち、すべての県民が、それぞれの希望を持つことができる岩手を実現する。それは、去年3月11日時点に8年かけて戻すということではなくて、8年後の岩手のあるべき姿をビジョンとして描き、その未来に8年かけて追いついていく復興を推進していくということであります。
3.11以降、日本国民は変わったと思っております。今まで出来なかったことが出来るようになり、今までやろうとしなかったことをやろうとしていると思います。この力を統合すれば、東日本大震災からの復興の力、そして日本再生の力となるに違いありません。
岩手の復興が、日本全体の復興・再生につながるように、あるべき未来に向かって、復興を進めていきたいと思います。
ありがとうございました。

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