社団法人内外情勢調査会盛岡支部講演「グローカル・ポリシーの実践 「クリエイティブ・いわて」を目指して」

ID番号 N5227 更新日 平成26年1月17日

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とき:平成20年11月17日
ところ:ホテルロイヤル盛岡
対象者:社団法人 内外情勢調査会盛岡支部会員等

はじめに

皆さん、こんにちは。内外情勢調査会盛岡支部懇談会に、このようにお集まりいただきまして、まことにありがとうございます。今日は「グローカル・ポリシーの実践  クリエイティブ・いわてを目指して」ということで、前半、グローカル・ポリシーの話、後半、クリエイティブ・いわての話をいたします。後半の「クリエイティブ・いわて」というのは、今まで「ソフトパワー戦略」ということをよく言っていたのですけれども、その切り口を変えた話です。前半の「グローカル・ポリシー」というのは、内容的には去年からやっております「いわて希望創造プラン」、これは私の任期4年間の4か年計画の基本的方向性なのですけれども、それをちょっと違う角度から説明するものです。

グローカル・ポリシーというのは、グローバルに対応するローカルな政策ということでありまして、岩手県として、このグローバル化に対応した政策を展開していかなければならないという問題意識に基づいています。これは、できるからやるということと、やらなきゃならないからやるという、そういう二つの背景がございます。必要に迫られてやるということについては、今、国も地方もお金がございません。むしろ借金が山のようにあるわけです。しかしながら、お金はあるところにはたくさんあり、余っているくらいです。そして、何に使っていいのか分からない、行き場を失ったお金があちこちさまよって、原油先物取引に流れ込んで原油高を引き起こしたり、穀物相場にお金が流れて穀物高になったり、最近は円高になって日本経済も迷惑をしているわけです。そういう行き場を求めてさまよっているお金をこの岩手に引っ張ってくることができれば岩手が栄えるわけです。また、それをやらないと、どんどん廃れていってしまう局面だと思っております。

一方、IT技術を中心とした科学技術の発展によって、今まで中央政府しか持っていなかったような情報や知識といったものが地方自治体の一担当者でも得られるようになってきている。そういう最新情報が中央でも得られるし地方でも得られるのであれば、暮らしなどの足元の現場に近いところで情報の処理をして、意思決定をしていくほうがいい。これは地方分権の背景でもあります。地方分権には民主主義の理念として、近接性の原理で身近なところで決めるべきだという筋論で分権しなきゃならないという理由づけもありますが、できるからやるということも大きい。一昔前では能力的に難しかったことが、今ならできます。ITを中心とした科学技術の発展が、足元の現場で情報の処理と意思決定を可能にしているということです。そういう中で、グローバルに対応する政策をローカルに展開していこうという目標が出てくるわけです。

1 グローバル化がもたらしたもの

今次のグローバル化の特徴

今起きているグローバル化の特徴を四つ挙げます。第1の特徴はマネーの支配という現象です。サブプライム問題に端を発する世界的な経済危機というのは、まさにマネーに実体経済が翻弄されている状況であり、マネーを押さえたものが勝つ、マネーをコントロールできるものが強い。逆に、マネーのコントロールを失ってしまうと、皆ぐちゃぐちゃになってしまう。そういうところが今のグローバル化の特徴だと思います。

第2の特徴は、高度情報化ということです。知識経済とか知価社会とかいう言葉でも言われていますが、ITの発達もあって、農林水産業とか商工業とかいった仕事もこの情報化ということを加味していかないと成功しにくくなってきていると思います。

第3の特徴としては、人類普遍の価値というものが注目されているということです。これは世界全体が視野に入ることで、地球温暖化問題のようなエコロジーに関心が高まり、ロハスといわれるような自然を大事にしながら無駄遣いをしないで暮らしていくライフスタイルが世界中で注目されています。また、日本のテレビでスピリチュアルというのがはやっているのですが、精神的というより、文字どおり霊的な何かそういう物質的な価値を超えたものを大事にしていくような、そういうことが世界中で高まってきていると思います。

第4の特徴は、文化・文明、宗教ということが重要性を高めているということです。テロとの戦いというのが21世紀に入って注目されているのは、それぞれ宗教へのこだわりが強くなっているということがあります。イスラム教徒はイスラム教徒なりに、キリスト教徒はキリスト教徒なりに、そういう宗教へのこだわりが強まっています。それは、それぞれの文明や、また地域の文化というものへのこだわりも強くなってきている。地球が一つになって、うっかりすると主体性を失って引きずられていく、流されていく。そうあってはならない、主体性を持とうとするときに、自分の文化とか文明とか、あるいは宗教ということが強いよりどころになっていく。そういう特徴が今のグローバル化にあると思います。

グローバル化の歴史

今起きているグローバル化というのは、今の時代にしかない新しい現象なんですが、急激に世界が一つになっていくような現象というのは、過去に2回起きていると私は考えています。

最初のグローバル化は、コロンブスのアメリカ発見など大航海時代と呼ばれている16世紀ごろの時代、あれが最初のグローバル化だったと思います。2度目のグローバル化は、19世紀の後半、帝国主義の時代です。イギリス、フランス、後れてドイツとかロシアとか、争うようにアジアやアフリカに進出して植民地をどんどん増やしていった時代、それが第2のグローバル化の時代だったと思います。今起きているグローバル化は3番目のグローバル化です。最初が大航海時代、2番目が帝国主義時代というふうに言えば、今起きている3番目のグローバル化はネットワーク時代と整理できるのではないかと思います。

16世紀のグローバル化 大航海時代

16世紀のグローバル化は大航海時代ですけれども、それを可能にしたテクノロジー、科学技術は、一言でいうと帆船と火薬だったと思います。コロンブスのほかにもマゼランとかバスコ・ダ・ガマとか、どんどん七つの海に乗り出して世界中を回った。その船は帆船でした。そして、行った先々で、鉄砲や銃の火力を用いて原住民を従わせて勢力を拡大していく。最初はスペインやポルトガルといった国々が主役だったわけです。そして、そうやって世界に乗り出して何を目指していたかというと、金や銀、あるいは、こしょうや砂糖といった一次産品です。そういう産物を求めて世界の海に乗り出していったのが大航海時代です。

日本はそのころ戦国時代、そして安土桃山時代だったわけですが、実は日本もそういう大航海時代に参加をしておりました。ただ単に、鉄砲が伝わってきたとか、キリスト教が伝わってきたという受け身だっただけではありません。まず、倭寇(わこう)と呼ばれた海賊が活躍というか、被害を受けた明や朝鮮などからすれば猖獗(しょうけつ)を極めたということだと思うのですけれども、当時の日本人は、かなり積極的に海賊行為をアジアで働いていました。

大航海時代、スペイン、ポルトガルに続いて、オランダそしてイギリスがどんどん乗り出してくるときに、海賊がはやるわけです。ディズニーランドにあるカリブの海賊「パイレーツ・オブ・カリビアン」、映画にもなっていますが、あれは欧米だけのものではなくて、日本でも盛んにそういうパイレーツ・オブ・アジアが活躍をしていたわけです。明が滅亡する直接の原因がこの倭寇の被害だったという説もあるくらいです。

海賊だけじゃなくて商人もどんどん東南アジアに進出しました。フィリピンに行った呂宋(るそん)助左衛門や、タイに行った山田長政など、欧米だけではなくて日本もかなり、この大航海時代というグローバル化の参加者として活躍をしていたわけです。

当時活躍していた国の中で、最初にポルトガルのような小国がまず躍り出るわけです。そのころの経済体制としては、いわゆる重商主義という、求めるものは金、銀、こしょう、砂糖ですから、そういう物産の取引というのがメインでありました。そして、そういう貿易通商の船団を海軍力で守っていくというようなことが国家の在り方だったわけです。そういう重商主義国家というのは、ポルトガルくらいのサイズがあればできてしまうことでありまして、日本においても、中国地方から北九州にかけて勢力を広げた大内氏は、その後、毛利氏に取って代わられるのですが、そういうことがなければ、ポルトガルみたいな国になっていたと思います。

これは、道州制との関係で興味深いのですが、その時代の経済や軍事のいろんな条件にちょうど合うサイズが州のサイズなんです。ポルトガル一国ぐらいのサイズ、オランダ一国ぐらいのサイズ、イギリスもそのころはイングランドとスコットランドに分かれていましたので、イングランドぐらいのサイズがちょうどよかったわけです。

日本においても織田信長が出なければ、道州制が想定するブロックに分かれて、東北は伊達、北陸に上杉、関東に北条、甲信東海に武田、中国に毛利、四国に長宗我部、九州は島津か大友かといったように、道州制というものができていてもおかしくなかったわけです。ただ、織田信長が圧倒的に強かったというか、非常に天才的だったというか、天下統一ができてしまったわけです。豊臣秀吉、徳川家康と続いて、その3人で天下統一を完成させるわけですけれども、それがなかったら、日本は道州制の国にそのときになっていたと思います。

そのころ、ドイツやイタリアなどは、そのようなばらばらの領邦国家群として確立していきましたし、アメリカや中南米のヨーロッパ勢力が進出して作った新しい国も州で分かれていました。その州のサイズが、経済活動も国家としての軍事活動もやりやすいサイズだったからです。ですから、アメリカの州やドイツの州を参考にして、例えば東北が一つの州になればオランダやポルトガルのように一つの国家並みの単位としてやっていけるぞ、というような今の議論は、そういう歴史的経緯というものを全く無視した議論だと思います。諸外国の州というのは、当時の必然の中で生まれてきているのであって、そこをよく考えないと、突然日本に道州制を導入しても、そう簡単にうまくいくかどうかは大きな疑問です。

19世紀後半のグローバル化 帝国主義時代

ちょっと横道にそれました。19世紀後半のグローバル化、これは帝国主義の時代で、蒸気船と鉄道の時代です。大航海時代が金、銀、こしょう、砂糖のような産物の獲得が目的だったのに比べますと、19世紀後半の帝国主義の時代は、工業製品の原材料を押さえ、そして製品を売り込んでいく。そういう工業・産業(インダストリー)の経済的な目的を追求した時代です。

当時の日本は幕末維新の時代です。昨夜もNHKで「篤姫」をやっていて、戊辰戦争で薩長が勝つあたりをやっていたんですが、最初は、日本を一つにまとめようなんてことはだれも考えていなくて、各藩、それぞればらばらに新しい時代に対応しようとしていた。薩摩藩は薩摩藩で新式大砲や軍艦といった新しい技術を自分たちで作ろうとした。東北諸藩も、南部藩でも鉄鋼を独自に作ろうとか、それぞれ藩の単位で工業化を進めようとやり始めるわけです。

ただし、工業化に向いてる国のサイズは、かつての州のサイズでもまだ足りないくらいで、そこで日本とか、ヨーロッパでいうとドイツとかイタリアぐらいの規模の大きい単位です。アメリカもそれまで州が主役でばらばらだったのが合衆国全体で一つの国としてふるまうようになってくるのがこの時代です。そういう国民国家の規模がないと生き残ることができなかったのが、この帝国主義のグローバル化の時代です。そして、軍事力で物を売り込める場所を占領しコントロールしたり、原材料を調達できるところをやはり軍事力で制圧して、そこから原材料を持ってきたりというようなことを競争しながらやっていたわけです。

現代のグローバル化に最適な規模

何でしつこく過去のグローバル化について時間を割いてお話ししたかといいますと、これが今のグローバル化のありようを考えるのに非常に参考になると思うからです。今はジェット機とインターネットの時代で、経済的にはマネーというのが経済の中心になってきている。インターネットを通じてマネーの取引をしたり、あるいは何かマネーの秩序に異常があれば、ワシントンなりロンドンなりに関係者がジェット機で集まって話し合いをする。それが今のグローバル化の特徴です。

そして、ここでグローカルという話につながるんですが、大航海時代は州のサイズが最適、帝国主義時代は国民国家の大きさが最適、それでは今のグローバル化にはどのサイズが最適かというと、これはかなり小さいサイズでも対応可能だと思います。的確に情報を集め、それを処理して意思決定をしていくことができる。そしてマネーの動きに対応しながら、あるときはそれを積極的に活用し、あるときは世界的なマネーの動きから自分のところの経済を遮断して、その中で自給自足的なこともできる。そういう機動力のあるサイズとして、今の日本の地方自治体のサイズというのが非常にいいのではないかと思っています。県という単位でも対応できる。むしろ、日本みたいな大きな単位では動きが鈍い。

また、道州制の導入ということについては、道州制のメリットもいろいろあるでしょうが、ほんとうに生き残って発展していくためには、道州のサイズというよりも、同じ文化を共有し、全員が納得できる意思決定を速やかに行えるようなサイズがいい。

これは公の組織だけではなくて、例えばトヨタグループという30万人の働く人たちから成る一つのネットワーク、家族を含めると100万、150万、岩手の人口ぐらいの規模になると思いますが、そのくらいのサイズが、まさにグローバル化の中で的確な判断をして生き残っていくために、ちょうどいいサイズじゃないかと思っています。

ですから、この岩手という単位で今、世界がどうなっているのかということを的確に把握して、そして岩手に住んでる135万人それぞれが、今何をすればいいのかという決断がそれぞれできて、あるときは自由に、あるときは助け合いながらいろんなことをやっていくというのが、今のグローバル化に対応した生きる道ではないかと考えています。

2 グローカル・ポリシーと地方の自立

グローカル・ポリシーの意味

グローカルという言葉はもう皆さんお察しのとおり、グローバルという言葉とローカルという言葉を組み合わせた言葉です。「Think Globally, Act Locally」という言葉があって、「グローバルに考えてローカルに行動せよ」という意味ですが、それをつめた言葉でもあります。グローバルに考えてローカルに行動せよという考え方をグローカルというふうに取っていただいても構いません。グローカル・ポリシーをあえて訳すと、「地球政策」と「地方政策」を合成して「地球方政策」という、日本語にならないことはないんですが、何が何だか分からないので片仮名で恐縮ですが、グローカル・ポリシーという言葉を使いたいと思います。

いわて希望創造プランと基本戦略

そこで、岩手がどのようにこのグローカル・ポリシーを展開していくかということなんですが、改めてここで、「いわて希望創造プラン」の概要をおさらいしておきたいと思います。

正式には今年の1月に決定されました。岩手県総合計画の後期実施計画という位置づけでもあります。私の任期4年間の4か年計画ということでもあります。これは地域資源を最大限に活用して、また、地域社会のすべての構成主体が一体となって取り組む地域経営という考え方をベースにしています。そして、「新地域主義戦略」、「いわてソフトパワー戦略」という二つの基本戦略を基にしています。

まず、新地域主義戦略は、地方自治法上は地方公共団体と位置づけられていない、一つは広域振興圏に、もう一つは町内会・自治会などの地域コミュニティーに光を当てて、地域を元気にしていこうというものです。広域振興圏は、県北、県央、県南、沿岸と、岩手を四つに分けて、「岩手四分の計」というスローガンがありますけれども、それぞれをフロンティアとして、それぞれの圏域において産業の振興を図りつつ、自立性を高めていこうとするものです。一方で地域コミュニティー、町内会・自治会などの草の根の地域についても、県がしっかり目を向けて、地域を元気にすることで岩手全体を元気にしていく、それが新地域主義戦略です。

もう一つの戦略は、いわてソフトパワー戦略。ソフトパワーをわが県では、「文化的魅力と道義的信頼によって相手を動かす力」と定義しています。これは、いわゆるブランド力というものと同じです。「買うなら岩手のもの」、「雇うなら岩手の人」、「行くんだったら岩手県」というような、岩手のブランド力を高めソフトパワーを強化していこうというのがいわてソフトパワー戦略です。

文化的魅力と道義的信頼と申し上げましたけれども、岩手の文化的魅力としては、まず、世界に誇れる平泉などの歴史的遺産があります。そして、石川啄木、宮沢賢治に代表される文学世界。3つめに、鹿(しし)踊りや鬼剣舞、神楽などの全国でも有数の伝統芸能。こうした文化的魅力を守り育て発信していく体制を整えるために、今年3月、岩手県文化芸術振興基本条例というものを制定しました。この基本条例は、文化芸術自体を振興しようという目的と並んで、それが産業振興や地域振興にもつながっていくようにという考えで進めていくものです。

次に、岩手の道義的信頼ということについては、県民のまじめさ、勤勉さ、そうしたことが対外的に誇れるものだと思います。そして先人、新渡戸稲造、後藤新平、原敬、金田一京助、米内光政、高野長英などなど。司馬遼太郎さんは『歴史を紀行する』という本の中で、明治維新以降の歴史の中で最大の人材輩出県は岩手県だと断言しています。そういう人を育てる土壌、これが大きな道義的信頼につながると思います。

こうした文化的魅力や道義的信頼を力に変えて、産業振興や、その結果としての所得の向上にもつなげていくというものです。

グローカル・ポリシーの実践

以上に申し上げた文化的魅力、道義的信頼というのは、充分に世界に通用するものだと思います。平泉の世界遺産登録が今年実現していれば、これは分かりやすい証明として説明に使えていいと思っていたのですが。ただ、今でも日本の世界遺産申請リストの一番上に載っているのは平泉ですから、大変大きいことだと思います。また、世界遺産登録は延期になったのですが、そもそも世界遺産候補だったことがだいぶ全国、あるいは外国にも広まったようで、そのことはかなり岩手のアピールとして効果があったと思います。

ソフトパワーの関係で、平泉をはじめ世界に通用する文化芸術的な話を紹介しましたが、農林水産物も十分世界に通用するものを持っています。安全・安心、そして高品質で味もよい。中国をはじめアジアでも高所得者層が増えていて、安全・安心を求めて、日本のものがたとえ10倍ぐらい値段が高くても、買って食べたいという人がどんどん増えています。中国の富裕層は1億人ぐらいいると言われており、日本の人口に匹敵する単位で買ってくれる人の固まりがどんどん大きくなっている。日本がもう一つできるくらいの購買力がアジアに増えていこうとしているわけです。そこのところに岩手の農林水産物を買ってもらおうということを展開していきたいと思います。

工業、ものづくり産業に関しても、トヨタ系の関東自動車工業の自動車でありますとか、東芝の最新式のフラッシュメモリーのような半導体でありますとか、そうした世界に通用するものを生産する工場を岩手に立地させていく。そして、そういうところできちんと働ける人材を、県の工業高校、大学、研究機関などの力を借りて育成していく。

そして観光についても、外国人旅行者を迎え入れるインバウンドをどんどん増やしていきたい。岩手は、韓国、台湾、香港といったところからの観光客がどんどん増えているところです。花巻空港も今度、新ターミナルができます。国内の利用については伸び悩んでいるんですが、チャーター便による外国からの観光客は増えていて、花巻空港の設備が足りなくて、せっかくのチャーター便を断ったケースも過去にありました。断らなくても済むようにということで、建設凍結していたものを解除して、いま造っているところです。

そうした農林水産業、商工業、観光業、あらゆる分野で世界を意識した政策を進めていく、それが国内的にも競争力を高めることにつながっていくと思います。世界経済の1割ぐらいは日本経済ですから、世界に通用するものを目指していくということは、日本の国内に対しても、物産の販売、観光の入込み、どちらも競争力を増していくことになります。そういった意味で国内対策も外国対策も同じ、統一的な目線で見て進めていくことが重要と考えています。

今ご紹介したのは産業面の岩手の政策ですけれども、産業以外でもさまざまな分野でグローバルを意識して展開していこうと思っております。つい先日、「いわて環境王国展」を県の交流施設である「アイーナ」でやりまして、いわて環境王国宣言というものを出しました。先人が守ってきた岩手の自然・環境をこれからも守っていこうという趣旨の宣言です。縄文以来、岩手の人たちが自然と一体になって、また、人と人とが力を合わせてやってきた。そういう風土が平泉文化としても花開いて、自然と一体になった浄土空間ができあがった。そこで、人と人との共生、平和を祈る、そういう風土でこの岩手の環境を守っていこうということを宣言に謳い、英語版も同時に作りました。岩手からCO2の削減などの地球環境問題にも対応していこう、地球温暖化を防いでいく活動を岩手の各家庭からもやっていこう、同時に、世界に通用する理念が岩手には昔からはぐくまれてきたんだというアピールもやってこうということです。

それから、岩手医科大学に遼寧省から日本語ペラペラの産婦人科のお医者さんに来てもらっています。形式的には研修ということですが、実質的にはかなり手伝ってもらっているわけです。これは、岩手の医師不足、特に産婦人科の医師不足対策としてグローバルな観点から取り組んでいる一環です。たった1人にしか来ていただいてないんですが、ほんとうは潜在的に、中国の東北部には、日本語を話せる人がかなりいますし、高等教育、大学教育が日本語で行われているようなところもあって、医者でも日本語ができる人がたくさんいます。この人たちに来てもらうと、かなり日本の医師不足を解消できると思うんですが、医師法の関係で正式に医者として活動するためには、日本の医師国家試験に受かってないとだめなわけです。ですから、かなりハードルが高いんです。何とか国の制度として、そこをうまくやれないかと思っているのですが、そういう保健福祉の分野でも、グローバルな観点から取り組んでいくべきところが多々あると考えています。

3 「クリエイティブ・いわて」を目指して

世界で注目を集めるクリエイティブ・シティ

平泉の関係でいろいろユネスコの活動を調べたり、また、ユネスコ関係者といろいろ話をする中で、ユネスコがクリエイティブ・シティというものに取り組んでいるということを発見したんです。このクリエイティブ・シティといいますのは、文化芸術のような創造的な産業を育成強化することにより、都市の発展を目指す動きのことを言うんです。文化芸術に力を入れているということなんですが、それが文化芸術だけで終わるのではなくて、産業の育成強化という文脈でそれが捉えられているわけです。まちづくり、地域づくりを文化芸術を中心にしてやっていこうという試みです。

幾つかの例があるんですが、ユネスコのクリエイティブ・シティに登録されている都市としては、イタリアのボローニャ、イギリスのグラスゴー、ドイツのベルリン、イギリスのエジンバラ、アメリカのサンタフェといったところが入っていまして、アジアからは名古屋市と神戸市が入っています。

この文化芸術を中心にして地域づくりを進めていこうという発想は、実はこの岩手で文化芸術振興基本条例を作って、ソフトパワー戦略を掲げてやっていこうとしていることと軌を一にしています。岩手の場合はクリエイティブ・シティという都市政策として取り組むのではなくて、一つには全市町村、35市町村がすべてクリエイティブ・シティになるという言い方をしてもいいと思います。あるいは岩手全体がクリエイティブ県、クリエイティブ岩手になるというふうに言ってもいいと思います。それで、「クリエイティブ・いわて」という言葉を使いました。

今日は盛岡市職員もいらしてますが、盛岡市は、このユネスコのクリエイティブ・シティには登録申請こそしていないのですけれども、かなりクリエイティブ・シティっぽいことをしていると思います。というのは、盛岡ブランド推進計画というのがあって、これがかなり文化に比重を置いています。盛岡の自然風土、人情、まちなみ、芸術文化、特産品における盛岡らしさといった盛岡の価値に着目し、地域が持っている有形・無形の財産(価値)を生かす10年の行動計画となっていて、これは地方自治関係者の間でもかなり知られています。

盛岡ブランドというのは、じゃじゃ麺(めん)をブランド指定して売り込むとか、そういう個々の商品を売り込むものとしても行われていますが、それだけにとどまらないで、自然風土、人情、まちなみ、芸術文化も併せて振興していこうという、そこが盛岡ブランド推進計画のすごいところです。

名古屋と神戸は、デザインに力を入れている都市ということでユネスコに登録されました。名古屋の場合は、89年世界デザイン博を主催、そして世界3大デザイン会議というのを逐次開催している。そういうデザインという分野に特化してまちづくりをしていくという方法もあるわけです。

日本最大の市町村である横浜市は、文化芸術創造都市、「クリエイティブシティ・ヨコハマ」構想というのを掲げていて、市内に住むアーティスト、クリエイターを2004年から2008年の間に、3,000人から5,000人に増やす。創造的産業の従業者数を2倍の3万人に増やす。文化鑑賞者を100万人増やして350万人にするというような目標を掲げています。

この創造的産業というのが、やはり21世紀の産業政策の非常に重要な分野だと思います。創造的産業というのは、分かりやすい例でいうと、アニメとかゲームとかがはやってますが、コンテンツビジネスといわれる漫画、映画、音楽、出版など、昔からある分野も含めて、文化芸術にかかわるようなことでちゃんとお金を稼ぐことができる仕事のことです。

キャラクタービジネスのようなものも大事ではないかと思います。三陸鉄道が最近、「久慈ありす」という架空の三陸鉄道従業員をテーマにした企画をやったところ、全国からファンが集まってきて成功しました。この「久慈ありす」というアニメの主人公のようなキャラクターは、あるおもちゃメーカーが「鉄道むすめ」というシリーズで、全国の鉄道、これはJRとか東武鉄道、小田急線みたいなメジャーなところから三陸鉄道のようなローカル線もあるんですが、そういうところの架空のキャラクターをおもちゃやゲームにして売り始めたところ、鉄道ファンとか、アニメや漫画が好きな若い人たちの間ではやって、その中で最も人気のあるキャラクターの1人が、なぜか三陸鉄道の「久慈ありす」なんです。いろいろ赤字で大変な三鉄の一つの希望の星になっているところです。

「クリエイティブ・いわて」の可能性

岩手において、この「クリエイティブ・いわて」というものを展開していく場合、クリエイティブという言葉は使っていないのですが、すでに各地域、市町村などで、そういう方向性を意識した取り組みが行われています。

芸術文化の分野では、花巻市東和町の土沢商店街による「街かど美術館」の取り組み。遠野市の遠野物語をコンセプトにしたまちづくり。陸前高田市の全国太鼓フェスティバル、これは国内外からチームが参加する全国一の催しで、太鼓甲子園とも呼ばれています。

伝統芸能の分野では、1,000を超える郷土芸能が岩手にはあります。花巻市の早池峰神楽が今度、ユネスコの無形世界遺産に登録される見込みです。無形世界遺産は普通の世界遺産と違って、最後の厳しい審査がありませんので、これはまず間違いなく来年、登録されるでしょう。それから、昔からやっている北上のみちのく芸能まつり。これは100を超える郷土芸能が集結しているお祭りで軌道に乗っています。

狭義の文化芸術以外でも、例えば環境があります。葛巻町がバイオエネルギーや風力発電などによる環境先進地の地域づくりで視察が引きも切らず、視察旅行あるいはエコツアーというような、従来の意味での観光地ではないんですが、そういうクリエイティブな新しい観光地的な注目のされ方をしています。紫波町でも「循環型まちづくり条例」というのを作りまして、町全体をそういう環境先進地にするという取り組みをしています。

ものづくり分野でも、北上市は工業都市づくりに徹した戦略的取組みを展開しており、進出企業でも工場見学を積極的にやってくれて、地元の子供たちの遠足のような企画から、修学旅行と組み合わせた教育旅行的な展開も期待されるところです。

文化芸術だけではなくて、さっき道義的信頼ということを言いましたが、ライフスタイルあるいは社会の行動様式、人のためになるといいますか、参考になる、勉強になる、何かそういうものがあれば、そこに人が集まりお金も集まる。そういったことが期待できるのが、この21世紀だと思います。

「クリエイティブ・いわて」の実現に向けて

この「クリエイティブ・いわて」というものに関連して、私は岩手全体を「学びの場」としてアピールすることが可能じゃないかと考えています。これを思いついたきっかけは、中学校の地理の教科書です。学習指導要領が緩くなって6年くらいになるのですが、中学生用の社会科、地理の教科書というのは、三つか四つの都道府県を選んで、それをかなり詳しく教えるんです。そして、自分の県や、あるいは興味を持った県については同じように調べてみましょうと。そこで使われている6種類の教科書のうち、2種類の教科書が岩手県を採用してるんです。それぞれ三つか四つの県しか載せない中で、岩手が2冊の教科書で採用されている。東京書籍と教育出版というメジャーな教科書です。私も近所の本屋で確認しましたが、全教科書対応の問題集というものには、岩手について1ページぐらい割いて問題が載っている。十幾つかの都道府県しか取り上げられてない中に岩手が入ってるわけです。

岩手は最近、修学旅行や教育旅行で県外から来る学校生徒がどんどん増えているんですが、そういう教科書で取り上げられているということが背景にあるからかもしれません。海も山もあって伝統文化の町もある。修学旅行で盛岡の街を地図を見ながら子ども達だけで歩くようなことも安全にできますし、農家で農業体験をするとか、山村で木登りをするとか、沿岸でさっぱ船に乗って漁師の体験をするとか、そういうことが何でもできるわけです。

平泉を宣伝するときにも、「黄金の國、いわて。」というキャッチコピーに、「マルコ・ポーロや西行法師、松尾芭蕉が憧れた理想郷」というサブコピーを作ったんです。和歌の達人である西行法師や俳句の達人である松尾芭蕉が、それぞれ自分の道を究めるために、この岩手の平泉に来ることが必要だった。そして、そこで何かを得て自分の道を完成させた。そういう学びの場としての岩手ということをアピールできると思っています。

岩手に住んでいる子供たちや大人だけでなく、岩手県外からの子供たち、あるいは何か学ぼうとする大人、何か人生に役立つものを得たいという好奇心や向上心を持っている大人、そういった人たちを惹きつける。そして、来てもらった人たちには何かを得てもらうことができる岩手であると思います。

総務省のホームページに「交流居住のススメ」というコーナーがあって、田舎暮らしを勧めるコーナーですけれども、ここで岩手県と県内の幾つかの市町村が週間アクセスランキングで常に上位に入っています。県のほか、遠野市、一関市、奥州市、花巻市、田野畑村、久慈市がベスト20の中に入っています。そういう、「終の棲家」としても岩手に注目してもらっているわけです。

こういう岩手の価値、先ほど司馬遼太郎さんが「明治以降の最大の人材輩出県は岩手」と断言していると紹介しましたけれども、「人が育つ岩手、人を育てる岩手」、そういうところを売り込んでいきたいと思っています。

私からの一方的な話は以上といたしまして、あとは質問にお答えするような形で進めたいと思います。ありがとうございました。

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