社団法人内外情勢調査会盛岡支部講演「危機を希望に 新しい地域経営の計画」

ID番号 N5228 更新日 平成26年1月30日

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とき:平成19年11月13日
ところ:ホテルロイヤル盛岡
対象者:社団法人 内外情勢調査会盛岡支部会員等

(注)講演時に策定を進めていました「新しい地域経営の計画」(案)は、平成20年1月に名称を「いわて希望創造プラン」として策定されました。

はじめに

皆さんこんにちは。ご紹介をいただきました岩手県知事の達増拓也です。本日は、現在策定を進めている「新しい地域経営の計画」の案について、お手元に配布した資料によりご説明しながら、どのように県政運営に取り組んでいこうとしているのかをお話したいと思います。

岩手県では、平成11年から22年までを計画期間とする「岩手県総合計画」を策定し、これに基づいて、様々な政策を行っているところであります。その総合計画のもとに平成17年までの前期実施計画があり、さらにそれ以降の後期実施計画というものがあるわけですが、この「新しい地域経営の計画」は、その後期実施計画に位置付けられるものであります。増田知事時代に前期計画の途中から、独自の4年計画の「”誇れるいわて”40の政策」というものを15年度から18年度までやられました。19年度から私の任期が始まりまして、さあ、後期実施計画をどうしようかという中で、この「新しい地域経営の計画」をイコール後期実施計画と位置付けてやっていこうと決めました。

新しい計画の策定の意義

市町村は地方自治法で長期計画を策定することが義務付けられておりまして、これは市町村長さんが替わるたびに巨大事業をポンポン起こして、それで財政が混乱することを防ぐ。まあ余計なお世話といえば余計なお世話だと思いますが、法律で計画を定め、きちんと事業を計画的にやるようにということが決まっております。県については法律では決まっておりませんが、大概の県では市町村と同様の長期計画を策定します。これは財政の安定性を守るということが建前であるからであります。古きよき時代と申しましょうか、右肩上がりの特に高度成長時代には、まさに国から都道府県、そして市町村に至るまで、あるべき理想的な社会像を掲げながら着実に事業を積み重ね、実施していき、道路等社会インフラも整備して積み上げていくというのが一つの行政のパターンだったわけであります。ところが、今は事業を着実に積み増していけば、それだけでいい行政ができるかというと、そういう時代ではなくなってきております。一方で、マニフェストというものが普及をしてきておりまして、例えばマニフェストサイクルという言葉があります。それは、県知事であれば選挙のときにマニフェストを示し、当選したら、マニフェストに従った4年間の行政を行い、そしてそのマニフェストの評価を有権者にしてもらいながら、次の選挙の洗礼を受けるというマニフェストサイクル。増田前知事が既にその3期目にマニフェストサイクルを県政にも取り入れ、「”誇れるいわて”40の政策」という4カ年計画を前期実施計画の途中から並行してやられております。私もそういうマニフェストサイクルの考え方にも立って、任期4年間のこの4カ年計画を準備しているわけであります。

計画の概要は2ページに書いてございますけれども、右側のほうに大きく「取り組みの視点」と上に横長に箱がありまして、「県民一人ひとりが確かな『希望』を抱く県土づくり」というスローガンがあり、重点目標があって、二つの基本戦略があって、そして下の段の「政策編」「地域編」「改革編」というところに下りていくような図になっております。今日の説明は、まずこの下のほうから説明しようと思います。と言いますのは、従来型の県のこうした計画というのはこの下の段の左端、ページ全体の中では真ん中あたりになりますが、「政策編」と書かれたこれだけだったわけです。この「政策編」というところは、そういうオーソドックスな4カ年計画とか5カ年計画とかのスタイルを踏襲したところでございまして、政策の6本の柱として1から6まで挙げてございます。この1から6までの政策の6本の柱というのは、4月の知事選挙のときの私のマニフェストの政策の6本の柱でもございました。そのマニフェストの柱がそのままこの政策の6本の柱になっております。

マニフェストを作る際に大分多くの人の意見を参考にしました。選挙の準備期間から選挙の最中まで合わせまして、私は岩手県を13周しておりまして、12にしようと思ったら、もう1周ということで妙な数字となりましたが、13周いたしました。大体、そうですね、3万人位の人と直接触れ合う機会があり、声をかけてもらったとか、目と目が合ったとかまで入れると、5万人位の人に接触しながら、準備や選挙をやってまいりました。その準備段階のときにも多くの人に会って色々な話を聞きまして、地域からの声、要望などをマニフェストにも取り入れ、それがこの「政策編」、政策の6本の柱にも取り込まれています。県庁職員とも擦り合わせて決めるわけですけれども、さすが県庁職員もそのマニフェストの中身をきちんと勉強していて、極力そういうマニフェストに沿った形にしながら、今までやってきたことで更に続けたいことを盛り込んだり、また、マニフェストに従い、全く新規に盛り込んだりしました。

新しい地域経営の計画 政策編

産業の振興方策

これは1から6までございますけれども、この「政策編」というものを1枚の紙のサイズに広げますと、3ページのとおりになります。政策の6本の柱として、第1は「地域に根ざし世界に挑む産業の育成」。これは産業政策、商工業関係の政策であります。具体的には1番から7番までございます。「ものづくり産業の集積促進」「食産業の展開」「地域回遊交流型観光の推進」「東アジアをはじめとした海外市場への展開」「ものづくり産業人材の育成」「雇用環境の改善」そして「中心市街地の活性化」ということでございます。

第2は「日本の食を守る『食糧供給基地岩手』の確立」。これは農林水産業関係の政策でございまして、8番から10番まで。「農林水産業をリードする経営体の育成」「生産性・市場性の高い農林水産物の産地形成」そして「消費者・実需者ニーズに対応した販路の拡大」でございます。

知事就任後、目からうろこが落ちたといいますか、一つ新鮮な驚きを感じたのが岩手の農林水産物のクオリティーの高さであります。東京大田市場での野菜のせりに私も行って宣伝したりしました。そこは花卉、花のせりも同時に行われておりました。また、外食産業のバイヤー、購買・仕入れ担当の皆さんに岩手に来ていただいて、岩手の食を一通り経験してもらうというような企画もやりましたが、非常に評価は高いです。自分でおいしいと思っただけではなく、市場関係の専門家、外食産業仕入れ担当の専門家の評価が非常に高いんですね。そういう皆さんが言うのは、もっとまとまった単位、まとまったロットでどんどん東京のほうに出荷して欲しいとか、あるいは個々の企業に卸して欲しいという注文であります。岩手の場合、ロットがまとまらないために、なかなか買い手にうまく結びついていかないということがございます。ただ、そこもうまく交渉しないと、安くしか売れないということがあり、クオリティーが高い割には所得に繋がっていないというところがあります。ですから、この岩手の農林水産物のクオリティーの高さをいかに生産者や関係者の所得に繋げていくかという工夫をしていかなければならないと思っております。

地域医療・保健福祉問題への対応策

次に、政策の柱の第3は「『共に生きる岩手』の実現」。これは医療・保健・福祉関係の政策であります。11番から14番まで。「医師確保をはじめとした地域医療の確保」「子育て環境の整備」「高齢者や障害者が地域で生活できる環境の構築」そして「健康づくりの推進」ということであります。この医師確保ということについては、重点目標というところにも掲げている、岩手が直面する四つの大きな危機のうちの一つと認識しております。そういう問題があるというのは知事就任前からわかってはいたのですけれども、知事に就任して改めて問題が深刻だなと感じました。これは盛岡やその周辺では余り感じないことかもしれません。盛岡やその周辺というのは大都市型の妊婦たらい回しのようなことも起きていませんし、また、地方型あるいは田舎型といいますか、医師不足というのも生じてない、ちょうどいい具合に盛岡とその周辺はなっているかと思うのですけれども、それ以外の岩手の各地域は、市といえども、医師不足、産婦人科医がいない、または産婦人科を含め医療施設がないという状況にございます。

また、岩手県は県立病院を集約化しまして、幾つかの病院を診療所にして、そこからお医者さんや設備などを拠点病院に引き上げて、拠点を強くすることで地域医療を何とか保てるようにという作戦でやりました。私は知事に就任して、診療所化された田舎の病院から色々な苦情が多く来るかと思っていたら、そこからは余り苦情は来ない。拠点化の中堅市にある病院には、3人いれば何とか各診療科を回していけるというので、3人体制と言うのですけれども、各診療科3人はお医者さんを確保しようとしました。ただ、そこに非常に負担が集中した結果、体力の限界を感じたお医者さんが1人抜けたりします。2人になると更に1.5倍の負担がかかってくるわけでありまして、そうすると、もう1人辞めてしまう。1人じゃとてもできないということで、あっという間に一つの診療科がなくなるという現象が起きておりまして、そういう中堅市の病院での体制不備についての要望をたくさん受けているところであります。そもそも国は「医師は多過ぎる」という前提で、医師を増やさないという閣議決定を未だに変えておりませんので、国の方針自体を変えてもらわないと困るというところがあります。

また、お医者さんの研修ですね、医科大学の課程を終わった後の研修は、今まではその大学に残って研修をしていて、かなり実際の診療・治療をその研修医の人に任せていました。その分、医大からそのちょっと上の若手のお医者さんたちをどんどん田舎の病院に派遣することができたのですけれども、国の仕組みが新しくなって、医大に残らなくてもいい、好きなところに行けということになったので、研修医が医大を離れて都会に出たりとか、便利のいいところの病院に行ったりして、それで、全国的に医科大学の病院・医大附属病院の若い人が足りないという現象が起きております。岩手でもそれが起きていて、そう簡単に応援を地方に出せないということもあります。これも、国の仕組みを変えないと解決しない問題です。

地元でできることとしましては、まず、岩手医科大学の定員を増やす。増えた分には奨学金を県、また市町村で用意して、地元に定着してもらえるようにしていくという、まず中・長期的な対策を講じます。また、医師確保対策室というのを県に設けて、とにかく岩手ゆかりの人、あるいは何か岩手に関心のありそうなお医者さんを、全国的に片っ端から声をかけて、来てもらうということもやっています。

もう一つ、私がこれはきちんとやらなければならないと思うのは、地域の力で、県民の力で医療体制を守っていくという意識を草の根のレベルから、県民一人ひとりに持ってもらうということです。私も現場の声を聞かなければと思って、あるときは、ある県立病院に飛び込んで、そこの忙しさをつぶさに目撃いたしました。予め行くと言って行けば、色々準備して静かな感じで迎えてくれるだろうからと思って、抜き打ちで突然行ったんです。もう夕方5時過ぎでお医者さんたちも医局に戻って休憩してるかと思ったら、全然そうじゃなくて手術中だったりとか、手術の後の説明を家族にしてるとか、てんてこ舞いで、知事を相手にしてくれるお医者さんが出られないくらい。看護師さんに名刺を渡して「みんなによろしく伝えてください」と言って帰ってきましたけれど、それだけ現場は非常に忙しい。

また、歴代知事がやってなかった病院長さんたちとの懇談というものを初めてやったのですが、その中で聞いた話、明らかになった話は、非常に簡単に救急センターを利用する人が多いということですね。ちょっとした風邪で、日中に開業医や近くのお医者さんに行けばいいものを、日中は仕事とかで忙しいので、仕事が終わった後、夜、県立病院の救急センターに行って風邪を診てもらうという人がいる。そういう人が結構多くて、ある救急センターは、救急で飛び込んできた人のうち、実際に入院が必要だった人は10%以下だったそうであります。さすがにもう、ただの風邪とかの人は断るようにしたら、割合が15%位まで上がったということで、本来入院が必要なような急患に対してある救急センターでありますが、県民が安易にそれを使うことで本来の目的が達成できない。そしてお医者さんたちは疲れていくということがありますので、やはり、医療を受ける側の自覚も含めた、県民総参加型の医療体制づくりというのが必要だと思っております。

大きい問題でしたので、ちょっと立ち入りましたけれども、次に第4「総合的な防災対策と危機管理の徹底」。これは防災・治安であります。15番、16番の「防災対策の強化」「治安対策の推進による安全・安心なまちづくり」であります。そして、下に行きますが、第5「『ふるさとづくり』を担う人材の育成」。これは教育政策であります。17番から21番。「家庭・地域と協働する目標達成型の学校経営への改革」「児童生徒の学力向上」「豊かな心を育む教育の推進」「児童の体力向上」「特別支援教育の充実」を挙げてあります。22番から25番も続きます。「競技スポーツの強化」「地域に根ざした高等教育機能の充実」「多様な市民活動を牽引するさまざまな人材の育成と活用」「団塊の世代を中心とした定住と交流の促進」。

教育立県岩手に向けて

この教育政策というのは、地方においてはちょっと難しいんですね。それはなぜかといいますと、知事のラインから独立した教育委員会というものが地方の教育行政を担うという建前があるからであります。知事部局と教育委員会などという言い方をしますけれども、法律の建前上は、教育行政は教育委員会。5人の人が選ばれていますが、その教育委員会が最終的な決定権を持ち、その教育委員会の事務局が全てやるという建前であります。ただし、その教育委員は県議会の同意を得て知事が任命いたしますし、また教育委員会事務局長に当たる教育長というポストは、教育委員のうちから教育委員会が任命をいたします。そうした人事権を通じて教育行政に知事が関与し得るルートがあります。また、教育委員会の予算は知事が議会に提案をいたします。ですから、学校関係の予算面で知事が関与する余地があります。

教育基本法改正が国で行われまして、教育委員会のあり方についても国のほうでは様々な議論があります。「廃止してしまえ」とか、「教育も知事が直接やるようにしたほうがいい」とか、「いやいや、そうじゃない。やっぱり、そういう政治家である知事とは独立した専門家集団が教育をやるのがいい」とか。元々日本の教育委員会制度は戦争直後、アメリカ型の教育委員会制度ということで導入されましたが、アメリカ型の教育委員会制度は教育委員が選挙で選ばれるのですね。選挙で選ばれた教育委員が直接民意を代表して教育を仕切るというのが元々の教育委員会制度の建前だったのですが、途中でそれが知事の任命になったために、非常にややこしい。評論家的に全国を眺めますと、ひとつは、知事さんは全然教育には関与しない例。そしてその中でも教育委員会というのは2種類あって、完全に文科省のコントロール下に置かれている地方の教育委員会というのがかなりあり、あとは、教職員の労働組合が仕切っていて独立勢力みたいになっている教育委員会。また、知事が教育にどんどん関与する例、東京都のような場合そうですけれども、日の丸・君が代、きちっと卒業式でやらない教員を処罰するとか、知事の意向が強く働くケースもあります。どの例も余りいい教育行政の形とは言えないのでないかと思います。

ですから、今私も手探りで、どういう教育行政の進め方をしていいかというのを試行錯誤でやっているところで、「教育委員と知事との懇談」を定例化いたしまして、まず教育委員と知事との意思疎通を図っていくということをやっておりますし、出前授業と称して、とにかく現場に飛び込もうということで、中学校・高校・大学で授業をそれぞれ1回ずつやっております。岩手県立大学でも授業をさせてもらいました。そうやって生徒に直接触れながら、行ったときにはそこの教員の皆さんとも話をして、教育現場が直面している課題を知事がきちっとわかるということから、まず始めていこうかなと考えてやっております。

文化とスポーツの振興

知事が自分のリーダーシップでどんどんできることとして文化とスポーツがあります。これは教育委員会で仕切る場合もあるのですけれども、岩手においてはこの文化とスポーツについても知事の手元でやっていこうということで、まず、文化芸術振興基本条例というものを今準備しております。国には文化芸術振興基本法というのがあります。私は当時自由党の文教部会長として、超党派でこの文化芸術振興基本法を策定するのに関与をしておりました。大変いい法律だと思っていて、ぜひ、その地方版を作りたいと思っていました。

超党派で文化芸術振興基本法を作ったとき、それぞれの党の代表としては、大体音楽議員連盟という超党派の議員連盟のメンバーがそれぞれの党を代表して出てきました。私も自由党を代表する形でこの音楽議員連盟というのに入っていたんですね。元々は著作権とか音楽固有の法律問題などのテーマが多かったのですけど、だんだん音楽から演劇、舞台芸術全般、能とか落語とかの伝統芸能、そして絵画とかあらゆる芸術分野にまで関心の対象が広がって、最後は文化芸術振興基本法をその音楽議連中心にまとめました。音楽議連には、そのメンバーの議員さんたちが中心になって作った国会コーラス愛好会というのがございまして、私もその国会コーラス愛好家のメンバーでございました。これは時々合唱のコンサートを開いているのですけれども、去年の夏には、テレビ東京の番組ですが、オールスター合唱コンクールという、落語家チーム、スポーツマンチーム、吉本チーム、アイドルチーム、俳優チームなど全部で七つのチームが参加して、そのうちの一つが国会チーム。国会コーラス愛好会は、その七つのチームで争って見事優勝しております。これはちょっと脱線してしまいました。ということで、岩手における文化芸術振興基本条例というのを今準備しております。

もう一つ、9年後の国体の準備。これも教育委員会限りではなく、どのスポーツの会場をどこにするかから始まって、スポーツ以外の県民生活・県民経済に至る、広く巻き込んだものとなりますので、知事部局のほうで9年後の国体の準備も始めたところであります。文化とスポーツを2本柱にしながら「教育立県岩手」という基本理念でやっていきたいと思っております。

第6は「世界に誇れる『岩手の環境』の実現」。これは環境政策です。26番から31番まで。「新たな環境産業の創出」「バイオマスなど新エネルギーの利活用促進」「地球温暖化対策の推進」「廃棄物対策を通じた循環型地域社会の形成」「多様で豊かな環境の保全」「歴史遺産の継承と伝統文化の振興」ということが入っております。

社会資本の整備

この1から6までの6本の柱を支える土台が一番下にございます。「社会資本の整備」「情報基盤の整備」「公共交通の維持」という、公共事業関係を中心とした社会資本整備関係の政策が、この土台として柱の下に入ってきております。これはマニフェストには独立した項目としては入れてなかったものです。当初この4カ年計画を作るときにも、入れようか入れまいか県庁内で議論もしたものですけれども、やはりあったほうがいいだろうと、柱を支える土台がやっぱり必要だろうということで入れました。この公共事業関連ということについては、私は減らせばいいとは思っておりませんので、むしろ財源があるのであれば、できるだけやりたいという考え方で6月の補正予算をやりました。財源がないので減らしているわけで、無理に増やすのはこれも良くないとは思っておりますけれども、必要な分はやっぱり着実に整備しなければならないと思いますし、岩手においてはまだまだ必要な道路、必要な社会資本というのはあると思います。そして情報関係でも、岩手は地デジが入らない地域がかなり出てきそうだという調査の結果が最近出てきておりまして、デジタルデバイド、情報に関する格差という点でも岩手はやっぱり条件が良くない。これをどう克服していくか。公共交通の維持ということに関しましても、まずIGR―いわて銀河鉄道、そして三陸鉄道という二つの三セクがやはり経営が厳しいところでありますし、また、赤字バス路線廃止で、県北のほうなどなかなか採算の取れないバス路線を民間会社が止めてしまうところが出てきている。それをどう地域で補っていくか。課題はまだまだ多いので、やはり柱を支える土台として、こうした基盤整備関係の政策をきちっと出していこうということでございます。

地域編 岩手四分の計によるローカルガバナンス

普通の5カ年計画とか4カ年計画というのはこれで終わりだと思います。まずこれはしっかりやっていかなければならないし、これをきちっとやっていけば、それなりの県政にはなると思っております。しかし、これだけでは足りないということで新機軸が出てくるわけですが、2ページに戻っていただきますと、「政策編」の右に「地域編」という箱がございます。これは「岩手四分の計」。「天下三分の計」という、三国志の「天下三分の計」をもじって「岩手四分の計」と言っているのですけども、岩手を四つの広域に分け、それぞれの広域の地域振興を徹底的に行っていこうと。

今までの旧来型の事業は、典型的にモデル化しますと、国を頂点として、その下に都道府県があって、更にその下に市町村があるというピラミッド状の構造の中で縦割りで予算や事業を下ろしていく仕組みです。国の法律、国の予算に従って、都道府県はそれを機械的に市町村に下ろしていって、市町村も上から下りてきた予算や事業を、頭を使わずにただただこなしていく。これは極端なモデル化ですけれども、従来型の地方自治を批判的に見るとそういう側面があったのだと思います。右肩上がりで、毎年毎年予算も事業も増えていくのであれば、ほとんど頭を使わないやり方でも世の中は良くなっていったんでしょうが、今はむしろ予算も減るし、それに合わせて事業も縮小していく時代でありまして、頭を使わないで、国から地方への予算が細っていくのに合わせて機械的に事業を縮小しているだけでは、地方はただただジリ貧になっていくだけであります。

これを補い、地方経済を活性化、また所得の向上や人口流出を止めるといったことに繋げていくことが必要です。県というのは地方自治法上規定があり、市町村も地方自治法上、規定があります。ところが、この県北広域振興圏とか県南広域振興圏などは地方自治法にない地域、法律上どこにも定めがない一種自由な未開のフロンティアであります。そこではだれが何をやってもいいという世界でありまして、そういうフロンティアを設定し、そこで県と市町村が対等なパートナーとして色々な新しい事業をやっていきましょうというのがこの「地域編」の考え方です。県と市町村が対等なパートナーでありまして、そこには民間団体、これは農協、商工会議所、青年会議所、あるいはNPOのような団体でもいいですし、また、そういうところが自由に参加できるほか、企業や個人も自由に参加できる。そういうネットワーク的な広がりで21世紀型のローカルガバナンスを進めていこうというのがこの「地域編」の考え方であります。

そもそも岩手一県で四国四県に匹敵する面積がありますから、岩手を対外的に売り出していくときにも、四つに分け、岩手にいわば県が四つあるというような形で、それぞれより特徴が出るように売り出していく。自然環境だけではなく歴史的にも、県南は県南ですし、県北は県北というところがありますので、歴史的背景も含めてオリジナルなものをどんどん出していこうというのがこの「地域編」の考え方であります。「地域編」の概要は4ページに敷延してございます。この県北、県央、沿岸、県南、四つの広域それぞれに目指す将来像というのを設定し、基本方向を定めて、それぞれ独自の事業を展開していくという内容であります。

改革編 分散と集中の戦略的展開

また2ページに戻っていただきますと、この「地域編」だけでも新機軸なのですけれども、もう一つ新機軸。右の端に書いている縦長の箱、「改革編」。県の行財政改革といったことは、4カ年計画や5カ年計画とは別個にプログラムされるのが過去の例でございました。一方で景気のいいことを言って、もう片方で人減らしだ、節約だとかやるのはちぐはぐでありまして、やっぱり一体として整合性がとれるようにやっていかなければなりませんので、この「改革編」という行財政改革関係のプログラムもこの4カ年計画の中に盛り込んでございます。いわゆる改革派知事と呼ばれる知事さん方や、もうほとんどの県でこういう改革というのはやっているかと思います。4カ年計画の中で、この「政策編」や「地域編」の事業を作っていくときにもこの「改革編」の行財政改革と齟齬がないようにするし、また、行財政改革で財源を絞り出すことで「政策編」や「地域編」の事業を回していくとか、一体的に取り組んでいこうというものであります。

「改革編」の概要は5ページにございます。真ん中に「III 改革の基本方針」というのがあって、更なる改革の三つの視点とあります。「視点1 分権型行政システムの確立」、「視点2 持続可能な行財政構造の構築」、「視点3 より質の高い県民本位のサービス提供」、こうした三つの視点に基づいて、その右にございます「5つの改革」。「改革1 県と市町村の役割分担の再構築」、「改革2 民間力・地域力が最大限に発揮される仕組みづくり」。ここは地域編の四つの広域を地域振興のフロンティアにしていくということに対応し、県と市町村の役割も見直していこう、そして民間力・地域力を巻き込んでいくような進め方をしようということが書いてあります。こうしたことを進めていくためにも市町村合併は、これは推進していこう、同時に市町村に権限を移譲していこうということが盛り込まれています。

分権、分権とよく言われますけれども、この分権ということが必要な背景、また分権ということが可能になっている背景は、一言で言うと、情報化の進展により問題解決能力が飛躍的に高まっていることがあると思います。つまり、昔であれば、大事な情報というのは中央にしかなかった、中央官庁にお伺いを立てなければ大事なことを決められなかったというのが昔の行政なんだと思います。ところが、最近はパソコンやインターネットを使いまして、昔だったら中央官庁にしかなかったような情報が、小さな町村の一担当者でも簡単に取ることができてしまう。問題解決の参考となる情報がどこでも取れるのであれば、現場により近いところで問題解決をしたほうがいい、決断・判断は現場に近いところでやったほうがいいとなるわけであります。それが、分権ということが1980年代頃から現実的なものとなり、また目標となってきた背景だと思います。したがって、分権したほうがより良くなるから分権するわけでありまして、分権した結果、行政が混乱するとか住民が不便になるのであれば、それは分権しないほうがいいわけです。

私がよく県議会答弁や記者会見などで、いい合併、悪い合併という言い方をするのは、ただ合併をすればいいというものではないということであります。この合併にも、県がやってきたことを市で行うため、ある程度大きい固まりを作るという分権的な方向性と、また「町村では問題解決能力はあるけど、お金はない、人もいない。ここはやっぱりある程度大きい基礎自治体を作って、そこに権限を集中していこう」という集中の方向性と、両方あるのですね。さっき問題解決能力=情報というリソースはどんどん増えていて末端でも引き出せるという話をしたのですが、一方、お金というリソースや、またそれに伴う人というリソースは近年右肩下がりになってきているわけであります。これは民間企業でもリソースが増えているとき、例えば儲かって調子がいいときには、新しいアイデアをすぐ実行できるような体制ということで分社化を進めるのが基本なのかと思います。逆に売り上げが落ちているときとか、リソースが減っているときには分社化の逆で、合併や集中化する、これは都市銀行が合併してメガバンクになっていったのがその典型だと思いますが、大きくなって体力をつけるということがあります。自治体もやっぱりそうでありまして、リソースが多いときには分散化していけばいいけれど、リソースが少なくなっているときにはむしろ集中したほうがいい。ですから、分権改革の中でも、そういう分散と集中の、攻めと守りと両方戦略的に組み合わせてやっていくことが肝心だと思っております。

四つの広域振興圏を新しいフロンティアにするというのは集中の契機、方向性があるわけですね。市町村の中で“ちまちま”やっているより、大きい広域の中でドーンとやっていこうという。ただ、同時にそれは県という広がりの中でやるよりは、四つに分けた、それぞれの中できめ細かくやったほうがいいということでもありまして、その集中と分散を戦略的に組み合わせていくということが必要だと思っております。

下の三つの改革は行財政基盤強化関係の改革で、「改革3 組織パフォーマンスの向上」、「改革4 行財政構造の徹底した簡素・効率化」、「改革5 外郭団体等の改革」ということで、無駄遣いをなくし、ほかの事業に回せる財源をできる限り絞り出して、そして、少ないお金で、行政サービスは低下させないようにしていこうというのがこの三つであります。

危機を希望に変える二つの基本戦略

もう1回2ページに戻っていただきますけれども、この下の段だけでもかなり新機軸も取り入れ、まさに改革的な要素も取り入れた4カ年計画になっていると思うのですが、さらに新機軸を加えたものがその「政策編」「地域編」「改革編」の三つの小箱の上に書いてある「危機を希望に変える二つの基本戦略」。「新地域主義戦略」と「岩手ソフトパワー戦略」という2大戦略であります。「危機を希望に変える」と書いてありますこの危機、4大危機と私は呼んでいるのですが、その一つ上の箱に書いてあります重点目標、「県民の所得と雇用、安心な暮らしを守る」という重点目標の括弧書きで4大危機、「県民所得」「雇用環境」「人口転出」「地域医療」という4大危機を書いております。

直面する4つの危機とその克服に向けて

この県民所得でありますけれども、平成12年から平成13年にかけまして岩手の県民所得は7.6%落ち込みました。1人当たり260万円ぐらいだったものが240万円に落ち込んだわけであります。以来この数字はほぼ横ばいでありまして、一番新しい平成17年で未だ236万円ですね。というわけで、平成13年から17年の5年間にわたって県民所得の低迷が続いているわけです。毎年2,800億円ずつ、平成12年であればあったはずの所得が毎年2,800億円ずつ吹っ飛んだ格好になっておりまして、まだ統計の数字が出てない去年と今年も合わせて7年間続いていたとしたら、もう2兆円近くの県民の富が吹っ飛んでいる計算になる。そうしますと、さすがに物が売れないとか、お客さんが来ないとか、また給料も払ってやれないとか、そういうことになるわけであります。少なくとも統計上5年間所得の低迷が続いていて、7年続いているかもしれない。こんな長期不況低迷というのは、岩手は戦後経験したことがございません。異常事態であります。

全国で国民所得が落ち込んだというのは、戦後はまずオイルショックのとき、そしてバブル崩壊のとき。ちなみに、バブル崩壊のとき、岩手は県民所得マイナスに落ち込んでおりません。全国では落ち込みました。そして、消費税3%から5%に引き上げたときに全国も岩手も所得の平均が落ち込みました。ただ、これらは全部、落ち込んで2、3年で回復してるんですね。いわゆるV字回復であります。ところが、この平成13年の落ち込みというのは全国も落ち込みまして、全国は最近ようやく回復してきたのかなというところです。平成17年の数字では平成12年の国民所得水準にはまだ戻ってません。ですから、全国平均でも回復が遅れていて、岩手はまだ全然回復していない。

いざなぎ景気を超える景気の上昇局面という言葉がありますけれども、ひどい表現だと思っておりまして、要は5、6年かかってもまだ回復しないという状況を言ってるわけです。本当であれば2、3年で回復してまた一旦安定するようなのがいいわけですけれども、5、6年景気が上昇し続けていると言うのは、元に戻るのに5、6年以上かかってるということでありまして、全国的にも決して景気は良くなっているとは言えないと思います。まして、岩手を含む地方の県は未だに経済的な苦境に喘いでいると言っていいと思います。

こうした所得の低迷ということが有効求人倍率の低さにも繋がりますし、また、人口転出にも繋がります。平成12年に岩手の人口転出は2,000人のマイナス、外に2,000人出ていく規模だったのですが、去年の数字はマイナス6,000人に増えております。平成9年には900人しか出ていってない。それが去年、平成18年にはマイナス6,000人、これはやはり岩手の経済の低迷ということが人口流出圧力となって出ていると思います。岩手の有効求人倍率は9月分で0.7をちょっと切って0.69くらいになってきているのですけれども、6,000人がもし岩手にいればもっと低い数字になっているはずで、やはりかなり事態は深刻だと思っております。

戦略としての展開

したがって、先程来説明した「政策編」「地域編」「改革編」という計画のセットだけでこうした危機を克服できるかというと、やっぱりできると言い切れないものがあります。そこで、この「新地域主義戦略」「岩手ソフトパワー戦略」という、危機を直視しながら、その危機を希望に変えていく戦略的なアクションを県として色々試みていこうという戦略を入れたわけであります。普通の、まず従来型の4年計画・5カ年計画には、こういう戦略というのは入ってきませんし、また、よくあるマニフェストというのにも戦略というのは入ってこない。よくあるマニフェストというのは、やはり「4年後までにはこれをこのくらいまで引き上げる」という、そういう平時における計画という感じでありますね。ただ、行財政改革を徹底しようとすると、「4年後までに人をこのくらいに減らす」とか「4年後までに歳出をこのくらいまで減らす」みたいな、そういう節約計画のようなものをマニフェストにする向きもあるようでありますけれども、これから未来永劫ずっと景気は低迷、税収、そして国からの地方交付税なども減り続け、あとは、いかにして行政を店じまいしていくような話であれば、事務的に縮小計画を淡々とこなしていけばいいんでしょう。けれども、私はそうではないと思っておりまして、やはりどうにかして景気を回復させ、岩手の県民経済も良くしていって、また、国からもちゃんと地方に寄こすべきものは寄こさせて、そして財政の規模、行政の規模というものも、可能であれば緩やかに拡大していくぐらいがちょうどいいのでないかと思っております。どんどん肥大化させて大きな政府にすればいいというわけではないですが、横ばいよりやや上ぐらいですかね、経済成長率よりちょっと低いぐらいの傾きで行政が大きくなっていくのがちょうどいいのではないでしょうか。ですから、今のような異常な経済情勢、異常な国の財政政策のもとでの県の舵取りというのは、ただ、ただ計画をやっていくというだけじゃなく戦略的なマニューバー(作戦行動)が大事だというのが私の思いであります。

新地域主義戦略

この二大戦略というのは選挙戦でも訴えたことでありまして、県民の支持も得ましたので、この4カ年計画にも盛り込みました。「新地域主義戦略」は二つの内容から成っておりまして、一つは四つの広域振興圏で地域振興をやっていくという、これはさっき「地域編」で説明したものが新地域戦略の一つめの内容です。二つめは地域コミュニティーの機能強化です。町内会とか自治会あるいは行政区といった、そういう地域コミュニティーを県もきちんと見て守っていく、そして育てていくということであります。この町内会や自治会というものも地方自治法上の地域ではないので、それで「新地域主義戦略」というところで広域と一緒にしているのであります。先ほど情報を基にした問題解決能力というのは飛躍的に高まっていると申し上げました。ですから、町内会単位でその町内の様々な課題を解決していく力というのも実は飛躍的に高まっております。

また、諸外国の地方自治制度を参考にしますと、結構人口1,000人とか2,000人とかいう小さいところが町村として、これは法律上、議会もあって機能しているところがあります。日本は3,300の市町村を今、千何百かに減らそうということをしているのですが、フランスの市町村は4万位あるそうですし…。いずれにせよ、日本の自治体の数とけた違いの自治体の数がある。つまり、人口1,000人、2,000人で法律上の地方自治体で、議会もあって、予算も執行しているという。私の実家のある北松園というところは世帯数で1,300位、人口にすると3,000人位いるでありましょう。町村として独立できるくらいの規模なのですよね。ですから、そういったところが、地域の課題を自分たちで解決するということをやり始めますと、かなり住みやすい地域に、力のある県になっていくと思っております。

岩手ソフトパワー戦略

もう一つの戦略、「岩手ソフトパワー戦略」。このソフトパワーという言葉は、国際政治上、流行っている言葉でありまして、文化的魅力と道義的信頼で相手を動かす力です。この言葉を流行らせたジョセフ・ナイというハーバード大学の国際政治の教授はもちろん長い説明をしているのですが、それを私の言葉で整理して、わかりやすくして、また東洋的な対句表現にしたのが「文化的魅力と道義的信頼で相手を動かす力」という定義でございます。軍事力や経済力ではなく、このソフトパワーで相手を動かそう、イラク戦争のような問題も解決していこうという使い方をする言葉であります。ブランド力という言葉とイコールでもあります。経営論とか広告論とかではブランド力という言葉が使われますが、そういう魅力と信頼ですね、これを高めていこうという戦略ですが、平泉の世界遺産登録が来年見込まれるということをきっかけにしております。これは世界が岩手に注目する一大チャンスですので、そのときに、まず平泉の価値というものを世界にわかってもらうと同時に、岩手には平泉以外にもこんなにすごいものがあるよと、世界の耳目が平泉に集中したときを狙って一気に岩手のアピールを国内外にする、それがこの「岩手ソフトパワー戦略」の基本であります。その結果、買うなら岩手のもの、雇うなら岩手の人、行くのであれば岩手県という、そういう岩手の定評を高めていって、一次産業や二次産業、三次産業、狭く観光とかだけではなく広く産業全体に効果があるようにしていこうというのが「岩手ソフトパワー戦略」です。

平泉の価値と理念

平泉の価値というのは、金色堂が国宝の第1号認定、国宝第1号なんですね。中尊寺金色堂は、そういう固有の芸術的価値があるのはもちろんなのですが、理念として非常に世界に通用する価値を持っています。二つございまして、一つは「人と人との共生」と申しましょうか、平和主義ですね。中尊寺を建立するときの藤原清衡公の願文というのがあるのですが、それは、敵も味方も関係なく、すべての人の死を悼み、そして、人だけじゃなくて鳥獣魚介、動物・鳥・魚や貝類に至るまで、その命を尊び死を悼むという、究極の平和主義のメッセージが打ち出されているわけです。藤原清衡公というのは前九年の役・後三年の役で本当にひどい目に遭った。まず、東北の蝦夷(エミシ)と中央から来た源氏の戦いでありますし、また蝦夷の中でも安倍氏と清原氏がまた戦ったりもした。そのすべてに血縁や色々な関係を持っている藤原清衡公でもあり、もう本当に源氏も蝦夷も、また蝦夷のどの豪族も本当区別なく平和を祈るという究極の平和主義。そういう歴史的モニュメントというものは世界にはなかなかありません。これは世界に対して非常に自慢ができます。

もう一つ平泉がすごいのは、「浄土思想を基調とする文化的景観」というサブタイトルが世界遺産登録申請のときの肩書であります。その浄土思想に基づく景観ということなのですけれども、インド・中国と渡ってきた浄土思想。その浄土のイメージは人工庭園のイメージなんですね。四角いお庭の中で、四角いプールみたいな池があって、そこにハスの花が咲いてるようなイメージ。ところが、その浄土のイメージは、日本に入ってきて、自然の山や自然の川、そして自然の池をベースにした既にある自然の中に浄土のイメージを見出すというふうに転換するのです。それが毛越寺の浄土庭園のようなものでありまして、その浄土庭園の完成形といいましょうか、そういうものが平泉にあるわけです。自然と一体となった浄土のイメージというのは日本以外の国にはないものですから、これも世界遺産登録の価値としてユネスコに申請している中で、平和の理念とともにこの自然との共生ということを訴えております。自然との共生というのは、言い換えると環境。平和と環境という、21世紀の人類にとって最も大事な二つの価値、理念が平泉には込められているということであります。

ちなみに、岩手という言葉にもこの平和と環境の理念が込められていると私は思っているのです。岩手という言葉の由来は、鬼の手形が岩に付いているということですよね。さんさ踊りの三ツ石神社の「鬼の手形」。これは、鬼が色々悪さをしていたのを、村人が力を合わせて、そして鬼が「申し訳ありませんでした。もう悪いことはしません」という約束の誓いとして手形を押させた。鬼というのは大自然の脅威を象徴してるのだと思います。自然の脅威というものを人と人とが力を合わせて克服したという、そういう人と人との共生の理念がそこには込められています。また、その鬼を殺したり追い出したりするのでなくて、契約を交わして共存するというところがまた岩手らしいいい話だと思っておりまして、そういう人と自然の共存という理念もこの岩手という言葉の中に含まれている。

平泉の人と人との共生、人と自然の共生という共生の理念は平泉で突然変異的に出た訳ではなく、縄文時代から岩手全体で培われてきたものなのですね。縄文時代からずっとそうやってきた。岩手という言葉にもそれは残っているし、また、鹿踊り(ししおどり)とか鬼剣舞とか郷土芸能もやっぱり人と自然が出合うところに生じるものであります。そういう郷土芸能をみんなで力を合わせて守ってきているというのも、全国で岩手はトップクラスであります。岩手には1,000の郷土芸能があり、これは全国一だという主張もあります。これは諸説あるので、断言できないところもあるのですが。そういう岩手ですから、座敷わらしも出れば、カッパも出ると。座敷わらしが出る、カッパが出るとかいう話がリアリティーを持って感じられるのも、いかに人と人との共生、人と自然との共生ということが徹底しているかということだと思います。こういう話を、平泉の世界遺産登録ということに合わせてどんどん宣伝していこうと思います。そういうところで作られた岩手の農林水産物、そういう人たちが工場で働いて作る製品、あるいは部品、また、そういう人たちが町や村から発信する第三次産業的な情報やサービス、これを日本全体、さらには世界にもアピールしていこうというのが「岩手ソフトパワー戦略」であります。

県民一人ひとりが確かな希望を抱く県土づくり

この二大戦略という新機軸を加えて、何とかこれ以上所得を下げさせない、これ以上雇用を悪化させない、これ以上人口転出を増やさない。地域医療というのはこのような「お金がなくて困る」というのとはちょっとまた別なんですが、この地域医療がボロボロですと、それがまた人口流出、そして経済の停滞にも繋がっていきますので、医療は医療できちっと整備をしていく。

こうやって4つの危機を克服して県民一人ひとりが確かな希望を抱く岩手にしていこうということがこの新しい地域経営の計画の概要でございます。ということで、ようやく一番上までたどり着きました。これを上から順に説明していきますと、この二大戦略のあたりで話が拡散して、みんな聞いていて目がくらんでしまうような感じで、その後の地に足のついたような話をきちっと説明できなかったりします。今日は地に足のついた、社会基盤整備という土台のある政策編の説明から始めて、地域編・改革編、そしてこの二大戦略というふうに説明をいたしました。

グローバル化と岩手

最後に「グローバル化と岩手」ということでちょっと一つお話ししたいと思います。最近読んだ非常に感銘受けた本で、アントニオ・ネグリという人が書いた『帝国』という本がございます。これは、世界全体が一つの帝国になっていて、みんなそこで植民地住民のように搾取されているぞという話です。私は近年、日本がどんどん植民地化しているなと思っていましたので、わが意を得たりと思いました。豊かな先進民主主義国というものは、一極集中じゃなくて、地方に力があって、地方経済が国民経済を引っ張るし、農村が豊かで田舎にゆとりがあるのが成熟した先進民主主義国のあり方です。首都一極集中で、田舎が貧しく農村が疲弊しているというのは、これは植民地型経済の特徴でありまして、日本はどんどんそういう方向に向かってるのでないかと。そもそも構造改革というのは、私が80年代に外務省に入ったころからやっているのですけれども、内需拡大だったはずなのですよ、構造改革の目的は。それは、消費をアップさせる、そして、特に地方経済を活性化し、地方の消費をアップして、それで輸出だけで稼ぐのでなく国内経済の豊かさで成長していくような経済にしなければだめだというのが構造改革だったはずなんです。最近の日本はその逆ですよね。ますます輸出依存型の経済になってしまっている。

で、まあ植民地だと思っていたのですけれども、ネグリという人が書いた『帝国』という本では、実は世界中みんな植民地化されてるんだと、その宗主国というような、中心になる国があるわけじゃない。アメリカはアメリカで、やっぱり庶民はどんどん貧しくなっているし、格差はアメリカの中でも広がっていて、貧乏なところの子供がイラクに行って死んだりしているというような、どこにも主人がいない、そういう世界、システムになってしまっているのでないかと。そういう状況を打破していくためには、それぞれの働く現場、暮らしの現場でちゃんと人間性を取り戻していく必要があります。

グローバル化の司令塔とか、グローバル化の帝国の帝王とか、そういうのはいないのですよね。どこにもいない。にもかかわらず、何かグローバルスタンダードのようなものに自分を合わせていかなければならないのではないか、グローバル化に日本を合わせていかなければならなのでないかと、世界中みんなが自分を合わせよう合わせようと思うことで、だれもそうしたいとは思ってないような方向にみんなで突き進んでいるのが今の世界帝国の現状。そういう中でこの岩手の、縄文時代からある伝統・価値・理念というのをきちんと失わないようにして、コミュニティーを守り、地域の力を高めていく、そういうやり方を逆に世界に向けて発信して、あるべきグローバル化の姿というものを岩手から発信していきたいと思います。

終わりに

衆議院議員をやっているとき以上に世界全体が今、見えてきている感じがするのです。衆議院議員をやってますと、一方で地方を見て、ふっと一方で世界を見たりして、どっちつかずだったのですけれども。今、地方のほうに立ちますと、国が見えて、その向こうに世界が見えるという一方向でしか見ないので、より国の問題や世界のねじれがはっきり見えてきているなという感じがするんです。そして、それを正していく場というのは地方なんだなということも痛感しておりまして、地方がよくならなければ国もよくならないし、世界もよくならないという、これは全く当たり前のことに最近自覚を深めているところであります。「世界全体が幸福にならない限り、一人の幸せはあり得ない」というのは宮沢賢治の言葉ですけれども、そういうことを思いながら、やはりこの岩手というのを希望王国にしていきたいと思っておりますということを申し上げ、私からの講演を終わります。ありがとうございました。

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