内外情勢調査会盛岡支部懇談会における知事講演『「復興」と「ふるさと振興」で希望郷いわての実現を』

ID番号 N42845 更新日 平成28年2月23日

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とき:平成27年11月30日(月曜日)
ところ:ホテルロイヤル盛岡

はじめに

 本日は、『「復興」と「ふるさと振興」で希望郷いわての実現を』と題し、講演をさせていただきます。
 東日本大震災からの復興事業は、今がピークです。これからの4年間で、復興のゴールに向かうという重要な時期に入ってきます。
 その復興に、いわゆる地域振興、岩手県では、「ふるさと振興」という言葉を使っていますが、ふるさと振興が重なってくるのがこれからの時期です。
 それぞれ必要に迫られてやるというところもありますが、一方、これをきちんとやっていくことで、岩手が大きく生まれ変わる。そして、地方自治の在り方としても、言わば構造的な改革を行うことができる。そういうチャンスでもあると考えています。
 
 最初に、今年のトピックを2つ紹介します。
 どちらも海外に向けた発信の関係ですが、まず、ミラノ国際博覧会への出展です。「県産米ひとめぼれ」や前沢牛、また、地酒、南部鉄器や秀衡塗といった伝統工芸品、わんこそばや一関の餅文化など、岩手の魅力をミラノから世界に向けて発信しました。日本館を覆う木組は、岩手県産のカラマツ材を使っています。
 そして、台湾で「復興報告会」を行いました。台湾からの観光客は、岩手を訪れる海外観光客全体の約6割を占めています。去年の数字で62%、この割合の高さは、47都道府県の中で圧倒的に第1位であり、岩手県と台湾の間には特別な関係があります。
 私も度々台湾を訪問して、季節に応じた観光プロモーションなどを行っていますが、今回の復興報告会では、改めて多くの支援に対する御礼、そして、復興の報告を行うことができましたし、またそれが、岩手と台湾の観光や経済交流の拡大にもつながると思います。
 今回の訪問では、馬英九総統にもお目にかかることができました。馬英九総統からも、「交流をさらに進めたい」というお話をいただきまして、復興というキーワードのもとに、人と人との交流や文化交流、観光や経済交流などを通じて、岩手と台湾が友好関係を築いていくということ、これは、日本全体にとっても意義あることだと思っています。
 台湾からいわて花巻空港への定期便就航も見据え、これからも機会を捉えて、台湾を含む東アジア圏の国々や地域との一層の交流促進と連携強化を図っていきます。

1 本格復興の推進

 

(1)復興の状況

 それでは、まず、本格復興の推進についてです。
 震災から5カ月後となる平成23年8月11日に、「岩手県東日本大震災津波復興計画」を策定しました。目指す姿は、「いのちを守り 海と大地と共に生きる ふるさと岩手・三陸の創造」です。
 平成23年度から30年度までの8年間の復興計画のうち、最初の3年間を「基盤復興期間」、そして、昨年度からの3年間を「本格復興期間」と位置付けて、第2期復興実施計画において343事業を強力に推進しているところです。
 これまでに、災害廃棄物の全量撤去や三陸鉄道の全線運行再開が実現しています。また、住宅再建補助制度の創設、医療機関の早期再開、漁港や漁船、養殖施設の復旧整備など、「安全の確保」、「暮らしの再建」、「なりわいの再生」の各分野の基盤復興の成果を土台とし、復興は本格復興のステージに移行しています。
 第2期実施計画では、計画を進めるに当たって重視する視点として、「参画」、「つながり」、「持続性」を掲げています。「本格復興」の実現に向けては、若者や女性をはじめとする地域の住民の皆さんの「参画」、そして、多様な復興主体の連携としての「つながり」、地域資源の発掘・活用を通じた地域社会の「持続性」を重視した取組、これらが重要であると考えています。
 

《復興のまちづくり整備事業》

 復興の状況について主なものを紹介します。
 まずは、まちづくり整備事業。被災者=復興者の皆さんの住宅、集落、市街地の再建など、「暮らしの再建」に直結するまちづくり面整備事業の進捗率は20%で、まだまだこれからというところです。
 陸前高田市では、掘削土砂を運搬するベルトコンベア、「希望のかけ橋」が稼働していましたが、その役目を終えて、撤去が始まっています。新たなまちづくりが着実に進んでいます。
 さらに、高田松原津波復興祈念公園や津波伝承施設の整備を推進するなど、未曾有の大災害からの教訓を確実に伝承し、将来に生かすことで、岩手の防災力の向上も図っていきます。
 

《復興道路の整備》

 復興のその先にある三陸沿岸振興の推進に向けて、産業・流通、交流人口の拡大を支える基盤整備も着実に進んでいます。
 復興道路は、震災後、国の「復興のリーディングプロジェクト」として、かつてないスピードで整備が進められています。これまでに、計画延長393キロメートルのうち、123キロメートル、31%が供用されていて、平成30年代前半には概ね完成する見込みです。昨日、11月29日には、大船渡市三陸町越喜来から吉浜までの三陸沿岸道路「吉浜道路」が開通しました。
 2018年に宮古港と北海道室蘭港を結ぶ新しいフェリー航路の開設計画も公表されています。交通ネットワークの将来の環境変化を踏まえた三陸の復興と振興を進めていきます。
 

《鉄路の復旧》

 三陸鉄道は、昨年4月、震災から3年という早い段階で、全線運行再開させることができました。
 JR東日本による移管協力金や一定の施設整備等の支援を、昨年12月に関係者間で合意し、JR山田線の宮古釜石間については、今年2月、県、沿線市町、三陸鉄道、JR東日本の間で基本合意書を締結、運行を三陸鉄道に移管することとして、3月7日に復旧工事が始まっています。
 これによって、沿岸部の鉄路160キロメートルを三陸鉄道が一貫して運行することになります。復興道路と三陸鉄道で沿岸が北から南まで一つに結ばれることで、沿岸部の新たな発展の礎となると考えています。
 

《災害公営住宅の整備》

 一方、今年10月末現在で、未だ約2万4千人の方々が応急仮設住宅等での生活を余儀なくされています。一日も早く、恒久的な住宅に移っていただくことが、復興の最重要課題の一つです。
 県では、持家による住宅再建を約1万戸と見込み、県及び市町村の災害公営住宅5,771戸を整備する予定としています。9月末時点で、その38%の2,216戸が完成しています。本格復興期間の最終年度である来年度までには88%、ほぼ全ての災害公営住宅を完成させていきます。
 さらに、県では、被災者等の住宅再建を円滑に進めていくために、「工務店不足」に対応する工務店紹介支援、「職人不足」、「資材不足」に対応する職人融通支援、資材融通支援を行う「岩手県地域型復興住宅マッチングサポート制度」により住宅再建を支援しています。
 今年10月からは、不動産紹介支援も追加して制度を拡充しています。住まいの再建をしっかりとサポートしていきます。
 

《教育環境の整備》

 次に、教育環境の整備。今年3月、県立高田高等学校の新校舎が完成しました。これで被災した県内の県立高等学校は全て復旧することができました。
 先月19日には、大船渡市赤崎町の赤崎小、赤崎中の工事が着工し、全ての市町村立小中学校において、仮設から本設へと移転再建の見込みが立ちました。
 子どもたちの学びの場の整備も着実に進んでいます。
 

《水産業の復旧・復興》

 沿岸地域の復旧・復興の中で重要なのが、水産業の復興です。水揚量は、直近のデータで震災前の81.6%まで回復しています。
 漁船については、津波により、そのほとんど全てが流されてしまいましたが、平成27年9月末現在で6,478隻、補助事業以外の漁船数を合わせると、現在1万隻を超える漁船が稼働可能となっていて、漁業者の皆さんにほぼ行き渡っています。そして、養殖施設についても、99.4%の整備が完了しています。
 

《商工業の復興》

 商工業についても、「二重債務問題」の解決に向けて、国、県、県内金融機関が連携し、「岩手県産業復興相談センター」、「東日本大震災事業者再生支援機構」といった、震災前にはなかったような仕組みを作って取り組んでいます。
 グループ補助金は、発災直後、自動車産業などのサプライチェーンを中心に考えられた仕組みでしたが、これを沿岸被災地の中小企業、また、ホテル・旅館のような観光業にも対象を拡大し、地域の産業を全体として再建できるよう、岩手県から国に対し提案し、実現したものです。
 グループ補助金は、沿岸の事業所再建に当たって非常に重要な施策となり、これまで、126グループ、1,303者、807億円が採択されて、生産現場にもようやく活気が見られるようになってきました。
 

(2)復興に向けた課題

 ここから、復興に向けた課題についてお話しします。
 

《復興のための人材の確保》

 まず、「人材の確保」が非常に大きな課題です。
 膨大な数の工事の設計・発注、埋蔵文化財の調査等に対応するため、任期付職員の採用、再任用職員の任用などの手も打っていますが、マンパワーは恒常的に不足していまして、これまで多くの団体、地方自治体から職員を派遣いただいています。
 被災地のまちづくりや災害公営住宅の建設等はまだピークが続きます。今年度は、派遣職員要請数784人に対し、確保できた数は725人で、59人不足、来年度も730人の派遣要請が必要となる見込みで、引き続き、職員の派遣を関係機関に要請していきます。
 

《復興財源の確保》

 次に、「復興財源の確保」です。
 岩手県における復興事業費総額は今年度がピークではありますが、当然、それ以降も引き続き事業は継続されていきます。今年4月に再試算した県の復興事業費総額は約5.6兆円で、そのうち約4割に相当する約2.2兆円が平成28年度以降も必要となると見込まれます。
 県では、この再試算の結果も踏まえて、岩手、宮城、福島、青森の県知事による4県合同要望などを行いましたが、6月、国は地元の一部負担導入・拡大を決定しました。復興事業の一部で地元負担が拡大することとなったのは誠に残念でありますが、三陸沿岸道路の全額国費による整備の継続や、復興交付金効果促進事業の一括配分の上限引き上げなど、その規模と財源は、全体として概ね県の主張を汲んだものとなりました。
 今後5年間で新たに生じる地方負担額は、県・市町村合わせて約90億円と見込まれます。今後は、負担増分をどのように調達するか、あるいは、応急仮設住宅の維持修繕費など、これまでも単独事業として対応してきた経費をどう捻出していくか、そういった課題があります。市町村と連携しながら、政府に対して、被災地や被災者の実情をしっかりと訴えていかなければなりません。
 

《事業用地の確保と移転跡地の利活用》

 次に、「用地の問題」です。
 発災直後から、新たなまちづくりを進めるために必要な用地を円滑かつ迅速に確保するため、法律の枠組みを超えた特例制度の創設を国に強く要望してきた成果として、改正復興特区法が議員立法で成立しました。県や市町村では、現在、この制度を積極的に活用していまして、事例も増えています。
 一方、今、市町村においては、買い取った宅地を含む浸水した地域をどのように活用していくかが、新たな課題となっています。現在、市町村では、その地域の利活用について、地域住民と協議しながら計画策定を急いでいますが、買い取った土地は虫食い状に点在していまして、まとまった広さの土地利用ができず、計画策定の支障となっています。
 県では、市町村の計画策定を支援するため、土地交換の制度運用や、交付金の活用事例集を市町村に提供するなどし、また、税制の特例制度を国に要望するなどの取組も行っています。
 

《被災者に寄り添った生活の再建》

 次に、「被災者に寄り添った生活の再建」。未だ約2万4千人の方々が、応急仮設住宅等で不自由な生活を余儀なくされています。この皆さんに、一日も早く、恒久的な住宅に移っていただくこと、そして、応急仮設住宅等での生活の長期化に伴う心と体の健康の問題や、移転先の団地などでの新たなコミュニティの形成、将来の生活への不安など、被災者=復興者一人ひとりの方々が抱える課題に寄り添った継続的な支援、これをどう進めていくかがこれからの課題になります。
 県は、相談体制、見守り体制、自治会の形成支援など、一人ひとりの暮らしを支える取組について、また、経済的な面からも、例えば、独自に実施してきた被災者の国民健康保険の医療費窓口負担等免除について、平成28年12月までさらに1年間の延長をするなど、きめ細かい対応を進めていきます。
 

《被災地における産業再生・振興》

 最後に、「被災地における産業再生・振興」についてです。
 新しい販路の開拓や、生産性の向上による収益の確保など、震災以前にも増して、地域経済の活性化を図るために、商談会の開催やトヨタ方式にならってのカイゼンの導入など、県としてバックアップをしています。
 一方、漁業就業者をはじめ、地域産業の担い手の確保や育成が大きな課題となっています。また、人手不足の恒常化、業績の厳しい水産加工事業所が出ていること、土地区画整理事業が終了した後の新たな市街地における商業サービス業の機能の回復など、多岐に渡る産業分野で新たな課題が浮上しておりまして、これらへの適切な対応を図っていきます。
 

(3)未来に向けた岩手の可能性

 復興は、これをしっかり成功させることによって、東日本大震災前にはなかったような岩手県を創り出すことができる。そういう希望につながる大事業です。
 ここからは、「未来に向けた岩手の可能性」を象徴するいくつかの事例を紹介します。
 

《ILC(国際リニアコライダー)の実現》 

 まず、「ILC国際リニアコライダーの実現」。今年のノーベル物理学賞に、東京大学宇宙線研究所所長の梶田隆章さんが選ばれました。「ニュートリノ」という素粒子に、質量があることを発見したことによるものですが、この発見には、研究・実験施設が欠かせませんでした。
 梶田さんたちのチームが使っていたのが、岐阜県飛騨市の地下1,000メートルに建設されたニュートリノ観測装置「スーパーカミオカンデ」でした。そういう大型施設があったからこそ、今回のノーベル賞受賞につながったと言われています。ILC国際リニアコライダーができれば、岩手からノーベル物理学賞を受賞する研究者が何人も出ることになるでありましょう。
 そして、今月9日には、岩手県立大学・鈴木厚人学長が、ニュートリノ振動の発見と研究についての功績により、アメリカの財団が卓越した研究に贈るブレークスルー賞の基礎物理学賞を受賞されました。基礎物理学賞の日本人の受賞は今回が初めてであり、心からお祝いを申し上げますとともに、深く敬意を表するものであります。
 これらを契機としまして、岩手県民の皆さんの科学に対する関心が一層高まり、ILCの実現に弾みがつくことを期待しています。
 県では、今年度、国内外への情報発信、スムーズな建設移行に向けた環境整備、加速器関連産業の支援などの取組を行っています。9月には、英語版広報誌「THE KITAKAMI TIMES(ザ・キタカミ・タイムス)」をインターネット上で創刊しました。海外の研究者の皆さんにも岩手県のILC実現に向けた取組を紹介して、一層の誘致の機運醸成につなげていきます。
 国においては、平成28年度予算の概算要求において、大型国際共同プロジェクトに関する調査費や技術開発費として、1億1千万円が計上されています。
 先月10日、高木毅復興大臣が岩手に来県した際、ILC実現について、高木大臣からも「国として県の意向に沿うような形でどういう支援ができるのか、しっかり精査しながら取り組んでいく。」という言葉をいただきました。また、その後、長島忠美復興副大臣も来県し、「ILCは国家プロジェクトとしてやるべきだ。」とのお話もありました。
 引き続き、宮城県や東北ILC推進協議会、東北大学などと連携して、政府がILC実現に向け早期に誘致表明できるよう後押しをしていきます。
 

《三陸ジオパーク・三陸地域の総合的振興》

 三陸地域は、風光明媚な自然景観、地形・地質学的にも貴重な場所であり、平成25年9月、震災遺構を含む「三陸ジオパーク」が日本ジオパークに認定されました。
 また、海洋生態系の研究をはじめ、三陸が有する海洋再生エネルギーを生かして、国際的な研究拠点の形成が目指されています。
 今後、三陸ジオパークの意義や希少性も大いにアピールしながら、さらに、三陸における交通ネットワークの整備や新たなまちづくりの進展による今後の環境変化も見据え、地域資源を生かした観光、産業振興、三陸ブランドの活用に向けた事業を総合的に展開するため、新たな推進体制を整備していきます。
 いずれは復興を成し遂げ、新しく生まれ変わった三陸の姿を、これまで支援してくださった国内外の多くの方々に御覧いただきたいと思います。
 世界中からの支援に対する御礼の思いも込めて、三陸の物流や人の移動にこれまでにない変化をもたらす復興道路の整備や三陸鉄道の完成に合わせて、三陸が一体となって、防災復興に関するイベントを開催したいと考えています。
 

《いわて復興未来塾》

 今後の復興を力強く進めていくためには、復興を担う個人や団体など様々な主体が、復興について幅広く教え合い、学び合い、また、相互に交流や連携をしながら、復興の推進、そして、その先にあるいわての未来に生かしていくことが求められます。
 岩手の最大の財産は「人」です。「人」が一人ひとり育っていくこと、また、育っていく人がつながっていくということを、この岩手では進めていくことができます。
 「未来づくり=人づくり」という考え方のもと、今年5月30日、「いわて復興未来塾」がスタートし、一昨日に第4回を開催しました。復興、そして、地域づくりの更なる推進につなげていきます。

 

2 ふるさと振興の展開 ~岩手における地方創生~

 現在、震災からの復興に向け、これまでにない規模での事業が進められていますが、その大きな原動力になっているのは、まず、岩手県民の「地元の底力」と、そして、日本全国、また、世界に広がる「様々なつながりの力」です。
 「地元の底力」+「様々なつながりの力」=「復興の力」、そして、復興というのは、「ふるさとを消滅させない」ことでもありますので、そういう意味でいわゆる地方創生、ふるさと振興とも相通ずるものです。
 復興の力は、そのまま地域振興の力、ふるさと振興の力になります。先月策定しました「岩手県ふるさと振興総合戦略」を着実に推進して、ふるさと振興の実現をより確かなものにしていきます。
 

(1)人口減少問題の本質

 さて、人口減少問題ですが、2つに分けられると県では考えています。
 一つが「東京一極集中問題」、裏を返すと「地方からの人口流出」の問題。そして、「若者女性問題」、これがイコール「若者・女性の生きにくさ」の問題です。
 

《過去30年間の岩手県の社会増減数と有効求人倍率全国差の推移》 

 まず、東京一極集中の問題に関係して、「過去30年間の岩手県における社会増減数」と、「有効求人倍率全国差の推移」を合わせると、かなりの程度相関関係がありまして、地方の景気や雇用が都会に比べて悪くなければ、人口流出が抑えられ、また、地方の努力と相まって、国が地方重視の適切な経済財政政策をとれば、人口流出は止められるということがデータとして表れています。
 1995年には1年間で329人しか岩手から人口流出しなかった、そういう年もあるわけであります。バブルの頃には9,421人、また、リーマンショックの辺りには6,709人と、そういう地方経済が相対的に悪い時には都会にどんどん人口が流出するわけですが、地方経済が相対的に良い場合には、人口流出は歯止めがかかる。
 これは、岩手だけではなく、全国の道府県、地方に共通するパターンであり、そういうことが見て取れます。最近の平成26年は、社会減の数字が悪化していますが、去年の6月以降、有効求人倍率が全国平均を下回り始めたことが要因にあると考えています。
 地方が主役になるような構造改革、そのために政府にできること、また、政府がなすべきことはかなりあると思っていて、それを強力に進めてほしいと思っています。例えば、地方経済と都会経済のバランスをとるような経済政策、また、若者・女性の生きにくさを解消するような社会政策、そういったことを国に強力に進めていただき、一方、地方は、地域性を生かした「地域ならではの振興策」を道府県、市町村それぞれ工夫していくということが必要と考えています。
 

《岩手ならではの地域振興》

 岩手の地域資源を生かした取組というのはいろいろありますが、ちょっと変わったものを一つ紹介しますと、今年の9月21日、「怪フォーラム」を開催しました。岩手、鳥取、徳島の3県が連携して実施しているものです。
 河童(カッパ)や座敷童子(ザシキワラシ)が出てくる遠野物語など、「妖怪文化」といったものも地域資源になっていくわけでありまして、存在しないものをも地域資源として活用する。そういう貪欲さと、また、工夫というものが必要だと考えています。
 

《東京一極集中問題のかなりの部分は「東北東京問題」》

 東京一極集中問題について、もう一つ指摘しますと、国立社会保障・人口問題研究所の調査で、東北生まれの30%が現住地東京圏、2位の北関東出生・東京圏在住の15%を大きく上回っていて、圧倒的に高い割合であるというデータがあります。また、東北出生・東北現住は58%で、ワースト2位の四国の76%に比べて大きな差があります。
 つまり、地方創生や東京一極集中問題ということのかなりの部分は、東北と東京との間の問題だというところがあり、こうしたデータについては、先月、花巻市で開催した北海道東北地方知事会議でも私の方から課題提起して、共有を図っています。国に対しても、地方創生ということを国が本気でやる、東京一極集中の是正を国が本気でやる場合に、東北地方の方に他地域以上の施策を講じるよう求めていく必要があると考えています。
 

(2)ふるさと振興の推進

《岩手県人口ビジョン》

 昨年6月に「岩手県人口問題対策本部」を立ち上げて、そして、年度末に「人口問題に関する報告」を取りまとめました。
 また、先月策定した「岩手県人口ビジョン」では、まち・ひと・しごと創生法に基づく「都道府県まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定するに当たって、これまでの人口の現状等を分析し、今後の人口の展望を示しました。
 活力ある岩手であり続けるために、人口減少に歯止めをかけて、長期的には、人口増の可能性も出てくるように、2040年に100万人程度の人口を確保ということを考えています。
 2040年以降においても、合計特殊出生率や社会増減が安定を続けますと、2060年に岩手のあらゆる世代の人口が安定し始めて、2110年頃に岩手県の人口が80万人になってそれ以上減らなくなるということを見込んでいます。
 減らなくなりますと、そこから様々頑張れば増えるかもしれないということで、法律上、2040年ぐらいまでのビジョンを示すということになっているので、2040年に100万人といった数字を示しているのですが、より重要なのは、さらにその先です。
 2040年のところまでしか見ていないと、その後どんどん減り続けて、消滅に至ってしまうように見えるのですが、そうではなくて、出来るだけ早く横這いに持っていきたいのですけれども、やはり計算すると、横這い、定常化が達成されるのは2110年頃になってしまうのですが、ただ、そこまで必死に支えれば、そこから先は増えるかもしれないという希望を持つことができる人口ビジョンを岩手では作っています。
 

《岩手県ふるさと振興総合戦略》

 この人口ビジョンを踏まえて、先月10月30日に、まち・ひと・しごと創生法に基づく地方版総合戦略「岩手県ふるさと振興総合戦略」を策定しました。
 全国的な人口減少問題の背景にある「生きにくさ」ということ、これを「生きやすさ」に転換する、そして、国が掲げる東京一極集中の是正に呼応して、岩手への新しい人の流れを生み出していくということを狙っています。
 戦略の中では、「岩手で働く」、「岩手で育てる」、「岩手で暮らす」の3つを柱に掲げて、「社会減ゼロ」、「出生率向上」、「岩手に住みたい、働きたい、帰りたいという人々の願いに応えられる豊かなふるさと岩手」を目指します。
 この3つの柱を具体的に展開するために、産業振興、移住・定住の促進、子育て支援など、10のプロジェクトに事業をパッケージして、部局横断で政策を進めていきます。
 
―岩手で働く―
 「岩手で働く」分野では、やりがいと生活を支える所得が得られる仕事を創出し、岩手への新たな人の流れの創出を目指す施策を展開します。
《岩手の経済を牽引する自動車産業》
 「岩手で働く」の政策の一番目は、「競争力の高いものづくり産業の振興」。岩手県のものづくり産業の中核である自動車・半導体関連産業について、一層の集積拡大と競争力強化を図ります。
 震災前後の輸送用機械出荷額の変化を見ますと、自動車産業が、東北、とりわけ岩手の経済を強力に牽引していることが分かります。主要大手部品メーカーとの協働によるサプライチェーンの構築、地域企業の自動車関連産業への進出・取引を拡大し、地域雇用の拡大につなげます。
 県では、こうした自動車関連産業をはじめ、様々な産業分野で本県経済の基盤となる地域産業の活力を高め、長期的・安定的な雇用を確保するために、今後とも、関係機関と連携しながら産業の振興と拡大を図っていきます。
 
《一人ひとりの生産性を高める》
 求人不足から人手不足の時代へと、雇用に関する課題が大きく転換しています。一人当たりの労働生産性を高めることが重要になります。
 震災で被害を受けた沿岸地域の水産加工業者の約8割が生産活動を再開しましたが、労働力不足が深刻化しています。また、販路喪失による売り上げ回復の伸び悩みによって、経営の悪化も懸念されています。
 こうした課題を解決するため、県では、平成23年度から、水産加工業者を対象に、トヨタ生産方式を手本とする「カイゼン」の導入を始めて、平成25年度から本格的に推進しています。生産性・効率性の向上を図るとともに、そこから生み出された収益をもとに、所得の向上につなげていきます。
 
《強い農林水産業と活力ある農山漁村の確立》
(「アマノミクス」の実践)
 また、農林水産物の高付加価値化が、新しい雇用を生み出して、所得の更なる向上につながります。
 地域の農林水産物など地域資源を活用して、6次産業化などで付加価値を高め、収入・所得を増やしていく、こういうものを「里山資本主義」と呼んだりもしますが、岩手県ではこれを「アマノミクス」と呼んでいます。
 ドラマ「あまちゃん」で描かれていた、ウニを獲り、それをお弁当に加工して、ローカル鉄道の中で海女の格好をして売るという6次産業化の見本のような取組として地方から発信していく。内需拡大型経済構造改革「アマノミクス」と呼んでいて、これが人口減少対策や定住政策の基本ともなります。
 
(岩手県オリジナル水稲新品種「銀河のしずく」)
 農村の地域コミュニティの基盤としましては「米」、岩手の農業の基幹品目である米が重要です。
 県では、11月26日、平成28年度のデビューを予定しているオリジナル水稲新品種「岩手107号」の名称を、「銀河のしずく」と決定しました。そして、そのさらに1年後、平成29年度には、「岩手118号」という、銀河のしずくをさらに上回る美味しさを持つ、岩手県究極の新品種ブランド米がデビューする予定であり、県産米全体の評価向上にもつなげて、全国トップクラスの米産地の形成を目指していきます。
 一方で、TPP・環太平洋連携協定政府対策本部が、大筋合意した関税交渉の全容を10月20日に公表しました。国民や県民に対する十分な説明や、また、国民的議論もないままに、畜産物の関税率の引下げ・撤廃や、コメの無関税輸入枠の設定などについて合意されたことは、極めて残念に思っています。
 いわゆる大筋合意を受けて、県では、TPP協定に係る全庁的な情報共有と総合的な対応を図るために、10月6日に「岩手県TPP協定対策本部」を設置しています。10月15日には、県から農林水産省に、交渉結果の説明や万全な対応を求める緊急要請を行いました。10月16日には、北海道東北地方知事会として同様な緊急要請を政府に行っています。
 TPP協定は、農業のみならず、地域のあらゆる産業、また、県民生活に対して大きな影響を与えることが予想されますので、積極的に情報収集や分析検討を行って、岩手県としてもしっかりと対応していきたいと思います。
 
―岩手で育てる―
 「岩手で育てる」分野では、社会全体で子育てを支援し、出生率の向上を目指す施策を展開します。
《ライフステージに応じた支援を切れ目なく》
 就労、出会い、結婚、妊娠、出産から子育てに至るライフステージに応じた支援を切れ目なく実施していく中で、最近スタートした県の取組を2つ紹介します。
 まず、子どもを持つことを望んでも、不妊に悩む夫婦が少なからずいらっしゃいますので、不妊治療費助成を新たに男性にも拡充し、子どもを持つことを望む方々を経済的に支援することとしました。
 また、10月1日、“いきいき岩手”結婚サポートセンター、「1-サポ(あいさぽ)」を盛岡市と宮古市に2か所設置して、県でも結婚支援の取組をスタートさせました。
 「出会いを結ぼう、シアワセにつなげよう。」をキャッチフレーズに、新しい出会いの形を岩手で生み出して、結婚を望む方々の希望に沿ったパートナー探しを支援します。いよいよ県もこういう事業に乗り出すということで、若い皆さんには、結婚ということに、より積極的に取り組んでほしい、そういうきっかけになればと思っています。
 この他にも、放課後児童クラブの充実や保育士・保育所支援センターの利用促進など、子育てしやすい環境づくりを強力に推進していきます。
 
―岩手で暮らす―
 「岩手で暮らす」分野では、医療・福祉や文化、教育など豊かなふるさとを支える基盤の強化を進め、地域の魅力向上を目指す施策を展開します。
《保健・福祉・医療の充実、教育や人材育成》
 地域包括ケアシステムの構築や脳卒中予防、自殺対策などの保健・福祉・医療の充実、また、教育や人材育成がますます重要になります。
 人材の育成に当たっては、初等中等教育から高等教育、社会人教育まで、県民個々のライフステージに応じた多様な学びの機会が確保されるようにしていきます。
 そして、矢巾町で起きました痛ましい事案の再発防止に向けて、10月に県議会で可決されました「岩手県いじめ問題対策連絡協議会条例」に基づいて、関係機関や団体との連携を強化し、総合教育会議の場も活用して、いじめ根絶に向けて粘り強く取り組んでいきます。
 そして、復興とふるさと振興を進めるに当たっては、特に、若者・女性の活躍支援に力を入れていきます。
 復興とふるさと振興のけん引役として、若者・女性の活躍が成功のカギを握っています。 若者・女性の様々な「生きにくさ」を「生きやすさ」に転換するため、これまでも若者・女性の意見や活動を県政に反映させる仕組みを充実させて展開してきましたが、これらの取り組をさらに発展させて、岩手の魅力を高めていきたいと考えています。
 「生きにくさ」という言葉は、いわて復興未来塾の基調講演をしていただいた東京大学社会科学研究所所長大沢真理先生の近著「生活保障のガバナンス」という本で大きく取り上げられています。「生きにくさ」、具体的には、「働きにくい」、「結婚しにくい」、「子どもを産みにくい」、「子育てしにくい」、そういったことをまとめて「生きにくさ」と呼んでいるわけですが、これが全国的な、我が国の人口減少問題の本質であると考えています。
 人口減少問題というのは、ともすれば、未来の課題、未来の問題と思われることがあるのですが、実は今、目の前の課題であるということが本質であり、今の、特に若者・女性の働きにくさとか、結婚しにくさ、子どもの産みにくさ、育てにくさといったことが問題の本質でありますので、将来の問題、未来の問題と言ったり、構えるのではなくて、今すぐ、少しでも問題を解決していこうという勢いで取り組んでいかなければならないと考えています。
 なお、岩手は、全国的な生きにくさに比べると、むしろ生きやすい地域です。出生率も全国平均よりも高くなっています。したがって、ある意味では、岩手らしさということをきちんと維持、発展させていくことで、「生きにくさ」を「生きやすさ」に転換していくこともできる、岩手はそういう有利な場所だと思っていますので、誰もが、「働きやすい」、「結婚しやすい」、「子どもを産みやすい」、「子どもを育てやすい」、そう感じられる社会経済環境の実現を推進していきたいと思います。

 

3 若者と女性の活躍に向けて

《岩手の沿岸部で増える20~24歳人口》

 県が取り組んでいる若者女性活躍支援の施策の一端を紹介しますが、その前に、興味深いデータを一つ紹介しますと、平成24年、25年の2年間、20歳~24歳までの5歳分の人口層が、岩手の沿岸12市町村におきまして8.2%増えています。
 沿岸におけるこの20歳~24歳の人口の増加によって、岩手全体としても、1.4%この層が増えたということになっています。岩手全体としては、全年齢層では人口減少のトレンドがあるのですが、復興の現場から若い世代が人口を増やして、そして、岩手全体をも牽引してくれているということ、非常に頼もしく思っています。 
 意欲ある若者・女性が、岩手で一段と力を発揮できる、そういう土台づくりを進め、若者や女性がやりがいを感じ、生活できる所得が得られ、産業界と連携した働き方の改善や、創業支援の充実を官民挙げて推進し、そして、新たに、県をはじめ経済団体や教育関係者等で構成する推進組織を設立したいと考えています。
 

《いわて若者活躍支援宣言・いわて若者会議》

 県では、平成26年2月、若者活躍支援のキックオフイベントとして、「いわて若者会議」をスタートさせました。そこで、「いわて若者活躍支援宣言」を出しています。
 来年(平成28年)は、希望郷いわて国体・希望郷いわて大会の開催がありまして、ここも若者の力を高めていく良い機会です。今年2月、2回目の若者会議を開催しましたが、こうした活動を通じて、岩手の地域振興が活性化し、岩手全体が元気になっていくということを進めていきたいと思います。
 

《いわて若者文化祭》

 若い世代に向けた岩手県の施策の具体的なものを紹介しますが、まず、「いわて若者文化祭」。今年は、10月31日、11月1日の2日間で3,400人の方が来場しました。
 ストリートダンスから書道パフォーマンス、伝統芸能、デジタルコンテンツなど、71団体のステージ発表と展示発表が行われました。出演者や出展者同士が交流して、多様なジャンルの文化芸術がコラボするということも起きています。
 若者というのは、ともすれば、地域、地域で分断され、あるいは、同じ大学生でも、それぞれの通っている大学ごとに分かれています。また、働いている若者たちは、職場が忙しくてなかなか職場を離れた若者同士の交流というのは難しいところがありますので、やはり、地域や職場、学校、そういった枠を超えて若者が交流できるような場を県として作っていくことが大事だと思っています。
 

《国体・大会で将来に引き継がれるレガシーを》

 今回の若者文化祭では、評論家の宇野常寛さんと私が対談をしまして、さらに岩手が「若者推し」を強化していく様々な作戦会議を展開しました。
 この宇野常寛さんは、サブカルチャー評論の第一人者で、若者にも人気がある評論家なのですが、2020年の東京オリンピック・パラリンピックについて、東京だけのオリンピック・パラリンピックにしてはならない、日本全体のオリンピック・パラリンピックにすべきだという問題意識を持っていて、去年、三重県の鈴木知事と私と宇野常寛さんの3人で、宇野常寛さんが主宰する雑誌で鼎談をしたりもしています。
 来年(平成28年)の希望郷いわて国体・希望郷いわて大会も、開会式の会場市や、競技が行われるところだけで盛り上がるのではなく、広く岩手全体が盛り上がるような国体・障害者スポーツ大会にしようと考えていまして、そのために、いろいろと過去の国体・障害者スポーツ大会で行われなかったような独特な工夫をしようと考えています。それがうまくいけば、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開き方の模範にもなると考えているところです。
 スポーツ分野にとどまらず、文化芸術分野でも県民や地域の活動をさらに盛り上げて、岩手ならではの地域資源の売込みや、地域経済の活性化というものも、国体・障害者スポーツ大会と同時にやっていく、地域振興の新しいモデルにもなるような取組、それが将来に引き継がれるレガシーになっていくような取組、そういったものを岩手で展開していきたいと考えています。
 

《いわてソフトパワー戦略》

 次に、「マンガ」を活用した取組。私が知事に就任した平成19年から、「いわてソフトパワー戦略」という、ソフトパワーを活用しようということをいろいろやってきたのですが、マンガを活用した取組もいろいろと具体化してきました。
 それから、「ニコニコ動画の活用」。岩手県公式のニコニコ生放送「いわて希望チャンネル」を月1回放送していまして、先進的なインターネットサイトを活用した取組も進めているところです。
 

《いわて女性の活躍促進連携会議》

 次に、「女性の活躍支援」の取組。県の調査によりますと、男女の不平等感は未だ根強く残っています。男女共同参画の考え方を幅広い世代に普及して、男女が対等な立場で意見を交わすことができる社会、ともに支え合う社会を形成していかなければなりません。
 子育てを終えて、再就職を希望する女性は、職から離れた期間が長くて、職業能力開発を受ける機会が少ない状況にあります。また、企業においては、子育てや介護をしながら働く女性が、育児・介護休業を取得しやすく、職場復帰しやすい職場づくりを進めることが必要です。
 県では、女性の雇用環境の整備促進を図るために、県内の経済団体・産業団体等で構成される「いわて女性の活躍促進連携会議」、また、岩手労働局などの関係機関と連携しながら事業を展開しています。
 就業に必要な知識、技術能力のスキルアップ訓練、技術講習を実施、また、企業に対しては、個々の女性のニーズに応じた多様な働き方など、雇用・労働環境の整備を進めるために、フォーラムやセミナーの開催などを実施しています。
 

《いわて復興未来塾~女性が拓く三陸の復興》

 昨年度、岩手県東日本大震災津波復興委員会の中に「女性参画推進専門委員会」を設置しました。復興を進める上でも、女性の視点、女性の参画が必要です。
 一昨日、11月28日の第4回いわて復興未来塾でも、女性活躍支援も復興とともにテーマとしまして、先ほど紹介した大沢真理東京大学社会科学研究所長に、「復興・これまでとこれからを考える」と題する講演をしていただきました。そして、大沢真理先生をコーディネーターとして、岩手沿岸で活躍する女性が壇上に上がり、「女性が拓く三陸の復興」をテーマに意見交換が行われました。
 3人の地元で活躍する女性にパネラーになっていただきましたが、一人は、岩手大学教育学部の美術コースで、コンピュータグラフィックスなどの先端的なものを学び、大槌で10人ほどの職員を擁するソフト開発の一般社団法人の理事長をしている若い女性。高校生たちにもどんどん学ぶ機会を提供し、大槌がICT教育の一大本拠地になっていくようにという大変高い志を持って活動している女性です。
 それから、愛知県に生まれ育って、その後アメリカに留学して看護師の資格を取り、国際的な医療支援団体のもとで、発展途上国支援をするべき世界中を回って歩いていた看護師さん。東日本大震災発生直後、大槌に派遣され、そして、そのまま大槌に残った方で、結婚して出産もされている。そういうIターンされた女性。
 そして、大手新聞社に就職して、岩手県で記者として活躍している中、東日本大震災があって、会社を辞めて、釜援隊という釜石支援のNPOに所属して、今は釜石の森林組合で働いている女性。県外出身の方です。
 そういう人たちがパネルディスカッションをしたのですが、皆さん大変元気なのですけれども、印象に残ったのは、名古屋出身の国際看護師さんが、『大槌では「生きる」という感じを得られる、自分は東京とかロンドンとか大都市で暮らしていたこともあったけれども、生きるという実感を持つことができず、不安を解消するため夜は同僚と飲みに行くとか、そういう生活をしていて、全然、結婚をするとか、子どもを産むとか、そういう気持ちにはなれなかったのだけど、大槌に来て、ここなら生きていける、ここでなら結婚できる、子どもも産めるというように感じて、それで結婚して子どもを産んだ。』ということを言っていました。
 それから、元新聞記者だった女性は、『岩手では、「働く」ということと「生きる」ということが一致する、そういうところが岩手にはある。』ということを言っていました。
 これは、女性活躍支援をさらに超えて、地方創生的にも大変ありがたいことを指摘してもらったと思います。岩手の風土と、そして、女性の活躍ということ。それらが復興やふるさと振興の中でうまく噛み合っていくと、かなり良い成果が出せるということを改めて実感したところです。
 

4 希望郷いわて国体・希望郷いわて大会の成功に向けて

 次は、希望郷いわて国体・希望郷いわて大会についてです。
 「東日本大震災復興の架け橋」という冠称がついています。また、「広げよう感動。伝えよう 感謝。」がスローガンです。
 全国から訪れる選手・役員の皆さんとの交流を通じ、大震災からの復旧・復興に対して、多くの御支援をいただいている全国の皆様に感謝の気持ちを伝える、そういう機会にしていかなければならないと思っています。
 冬季国体は来年(平成28年)1月から始まりますので、もうすぐです。そして、1年間、国体・障害者スポーツ大会で明け暮れるような、来年は岩手にとって特別な年になると思います。
 ちなみに、岩手県は、来年の国体において、8位以内という目標を掲げています。今年、和歌山県で国体があって、和歌山県が総合優勝、天皇杯を獲得しましたが、和歌山県は、去年、つまり次県開催の前年の成績は15位でした。岩手県は、今年、和歌山で16位ですので、志を高くして来年、進んでいきたいと思います。
 和歌山国体の閉会式に出席して、仁坂和歌山県知事から国体旗を引き継いできたのですが、総合優勝した和歌山の選手団、そして、スタジアムの和歌山県民の皆さんも大喜びで、来年、岩手でも同じようなことがあれば、岩手県民の皆さんもものすごく喜んで、そして、復興への励みにもなり、大きな力になるだろうと強く実感したところであり、本大会は来年の10月ですので、そこまで、競技力強化にも最後の最後まで力を入れていきたいと思います。
 
 来年の岩手国体の特徴で一つ紹介しますと、東京オリンピックを念頭に、今、オリンピック種目にはなっているけれども、国体の種目になっていないものがいくつかあり、それを来年の岩手国体で一気に国体の正式種目にするということがあります。
 レスリング女子、自転車女子、ウエイトリフティング女子、ボクシング女子、ラグビーフットボール7人制女子、水泳オープンウォータースイミング男子・女子と、ほどんど女子種目、女子競技が一気に国体の正式種目になるということが来年の岩手国体で起きます。男女共同参画国体、女性活躍推進国体というような意味合いも持つ、そういう特別な国体にもなりますので、そこも注目していただきたいと思います。
 国体が終わりますと、スポーツに関しては、「ラグビーワールドカップ2019岩手県・釜石市開催」。今年のイングランド大会で、日本代表が大変活躍をしてくれたおかげで、日本全体でラグビーに対する認識が新たになったと思いますし、釜石市民の皆さんをはじめ、岩手県民の皆さんも、改めてラグビーワールドカップ岩手県・釜石市開催というのが、本当に良い事なんだという意識をさらに強めていただいたと思っています。
 世界からも、東日本大震災への救援、そして、復興への支援をたくさんいただいていますので、世界に対して感謝の気持ちを伝える。そういうラグビーワールドカップ2019岩手県・釜石市開催という、大事な意義を持つものとなると思います。成功に向けしっかり取り組んでいきたいと思います。

おわりに ~岩手の可能性を拓く~ 

 おわりに、「岩手の可能性を拓く」ということで、世界遺産の話で締めくくりたいと思います。
 まず、「平泉の文化遺産」。東日本大震災直後の平成23年6月に世界遺産登録。来年(平成28年)が5周年になりますので、改めて世界遺産関係の行事を様々展開していきたいと思っています。
 そして、今年7月、釜石にある「橋野鉄鉱山」が「明治日本の産業革命遺産」の一部として世界遺産に登録をされました。
 これで岩手の世界遺産は2つになったわけですが、47都道府県中、世界遺産が複数ある都道府県は5つしかありません。奈良県は3つあり、2つあるのが4県、そのうちの一つが岩手県ですので、「世界遺産が2つある県」というのは、かなり強みになると思っています。来年の平泉世界遺産5周年記念行事等では、橋野鉄鉱山のことも併せて「世界遺産が2つある岩手」ということを全国にアピールしていきたいと思っています。
 世界遺産の価値や意義を理解する上では、それに関わる人間を理解するのが大事です。平泉の場合は、平泉のまちをつくり始めた初代・清衡公。中尊寺建立の供養願文で清衡公が述べられた「敵味方も関係なく死者を悼み、また、鳥獣魚介に至るまでもその死を悼む」という「人と人との共生」、「人と自然との共生」、今日の平和や環境の理念につながるようなことを既に平安時代終わり頃に岩手から発信していた凄さというのが平泉にはあります。
 橋野鉄鉱山についても、大島高任という南部・盛岡藩士の蘭学者で、特に近代鉄鋼業について、明治に入ってからも「近代製鉄の父」と呼ばれるようになった人ですが、この人なしでは、橋野鉄鉱山、高炉跡の開発というのはなかったわけです。当時の日本最先端で最高の近代製鉄学者にして技師であり、最先端の近代鉄鋼、それから大砲作りに関わるオランダ語の本を日本語に訳し、それが日本のスタンダードになり、他所の藩の近代製鉄を教えに行ったりもしていました。
 この大島高任が、1863年に「藩政改革書」を記し、これは黒船来航から10年、明治維新まではまだ5年という時期で、長州藩が外国船を攻撃するなど、明治近代化の方向性について、攘夷だ開国だとまだ議論がまとまらない時代に、大島高任は、開国で行くしかない、開国して貿易を盛んにし、外国の技術をどんどん取り入れるなど、明治日本の近代化政策、富国強兵、殖産興業、そして義務教育の導入ということも既に唱えています。明治政府が採用する近代化路線を、明治維新5年前に藩政改革書の形で既に書いていたということで、その先進性は驚くべきものがあります。
 「岩手の意外な先進性」と言っていいのではないかと思うのですが、これを県民同士で確認し、また、対外的にもアピールしていきたいと思います。大島高任は、「この藩政改革書に書かれたような近代化路線を進めていけば、南部・盛岡藩は天下無双のお国になる。」と言っています。日本一になるという、非常に志の高い藩政改革書を記していまして、今を生きる私たちも、大いに参考にしなければならないと思っています。
 
 来年3月26日に、新函館北斗駅が開業します。函館まで新幹線が延伸することも大事で、いろいろなチャンスが来るのですが、一つ大きいのは、外国人観光客、インバウンドを増やすということです。
 函館は、去年の外国人観光客数が35万人、今年は50万人ともいわれています。岩手県は7~8万人ですし、宮城県でも10万人くらいで、東北全部を合わせた数に匹敵するくらいの外国人観光客が函館に来ているという、インバウンド、外国人観光の先進地函館市ですので、岩手としても、その函館に近いということをメリットにして、新幹線を利用して函館から少しでも岩手の方に来てくれればこれはかなりの人数になりますし、そういうチャンスを切り開いていきたいと思っています。
 
 以上、復興とふるさと振興ということを中心に、岩手の県政のこれからについて、全般的に紹介をしました。
 この4年間は、復興計画の後半4年間になりますし、また、ふるさと振興総合戦略、地方創生の計画期間5年間のほとんどがこれからの4年間ということにもなります。また、県の総合計画、希望郷いわて、「いわて県民計画」10年計画の最後の4年間でもあります。
 そういった計画を着実に実行に移していく、その中で、次の10年間の県の総合計画をこれから4年の中で決めていかなければならないところもあります。
 「復興とふるさと振興で希望郷いわての実現」というのをこの4年間の中で確かなものにしていきながら、さらにその先の10年間、「幸福に関する指標」を行政評価に導入しようということで、最近、改めて幸福論を考えましょうということを言ったりしています。
 幸福論というのは雲をつかむような話で、人によって幸福は違うと思う向きもあるかもしれませんが、一方で、憲法13条にきちんと生命、自由、幸福の追求の権利が国民の権利であると、基本的人権の基礎の基礎に幸福追求権が入っていて、それは、アメリカ独立宣言にも入っている言葉です。幸福追求ができているか、そもそも幸福とは何かという議論がデモクラシー、民主主義を健全に発展させる上では、必要不可欠なテーマでもあります。
 また、それに関連して、「岩手コモンウェルス構想」というものをこの間の部課長研修で提案したりもしました。まさにアメリカ独立の時に、ヴァージニア州とマサチューセッツ州とペンシルバニア州が、「コモンウェルス」というのを名乗ったんですね。他の州はステートです。コモンウェルス・オブ・ヴァージニア、これは、生命、自由、幸福追求の権利を守る、個人の自由や権利を守るために、共同体を作って、その共同体を「コモンウェルス=共通の財産」と位置付けて、みんなで守るべきものと定めながら、その中で個人の自己実現も図っていくという考え方です。
 自治体、岩手県もまた「コモンウェルス」のようなものでなければならないのではないかということを提案したところであり、そういう民主主義の基本とか、自治体のあるべき姿の基本のようなこともこの4年間でしっかり県民みんなで議論しながら、さらにその先の岩手の10年間というのを決めていければと思っています。
 以上です。ありがとうございました。

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