岩手県農業研究センター研究報告 第5号

ページ番号2004391  更新日 令和4年1月17日

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【報文】水稲糯新品種「もち美人」の育成

仲條眞介・木内 豊・中野央子・田村和彦・尾形 茂・高橋正樹・荻内謙吾・佐々木 力・小田中浩哉・扇 良明・佐藤 喬・菅原浩視・中村英明・中西商量・高橋真博・照井儀明・神山芳典

 「もち美人」は、旧岩手県立農業試験場県南分場(江刺市、以下育成地、1997年岩手県農業研究センター農産部銘柄米開発研究室に改組、2001年3月廃止)において、「新潟糯31号」(後の「わたぼうし」)を母とし「中部糯80号」 を父として交配を行い、その後代から選抜育成された品種である。奨励品種決定調査、加工適性試験などにおいて糯品種として有望と判断され、2002年2月に岩手県の奨励品種として採用された。「もち美人」は、熟期は「ヒメノモチ」よりやや遅く、「こがねもち」より早く、「ヒメノモチ」および「こがねもち」よりやや短稈で草型は偏穂重型である。まれに極短い芒を生じ、芒とふ先色は褐色である。玄米の外観品質は「ヒメノモチ」並で、餅の食味は「ヒメノモチ」並の”上下”である。切り餅のライン生産における加工適性は、杵頭やカッターの刃への付着が少なく「こがねもち」並に優れる。「もち美人」の栽培適応地帯は岩手県の矢巾町・紫波町以南、北上川流域の標高250メートル以下の地帯で、「ヒメノモチ」との作期分散による安定良質生産を目的に、「ヒメノモチ」作付け地帯の約3分の1に当たる1,000ヘクタールを当面の普及見込み面積とする。

【報文】水稲新品種「いわてっこ」の育成

中野央子・木内 豊・尾形 茂・高橋正樹・荻内謙吾・小田中浩哉・扇 良明・佐藤 喬・照井儀明・菅原浩視・中村英明・中西商量・神山芳典

 「いわてっこ」は、旧岩手県立農業試験場県南分場(江刺市、以下育成地、1997年岩手県農業研究センター農産部銘柄米開発研究室に改組、2001年3月廃止)において、「ひとめぼれ」を母とし、「東北141号」(後の「こころまち」)を父として交配を行い、その後代から選抜育成された品種である。奨励品種決定調査において早生の主食用良質良食味品種として有望と判断され、2001年2月に岩手県の奨励品種として採用された。「いわてっこ」は、熟期が「たかねみのり」並からやや遅く「あきたこまち」より早い。稈長は「たかねみのり」よりやや長く「あきたこまち」並、稈の太さは「あきたこまち」、「たかねみのり」並の”中”、穂数は「たかねみのり」、「あきたこまち」より多い偏穂数型である。耐倒伏性は「たかねみのり」よりやや劣り、「あきたこまち」よりやや強い”中”である。障害型耐冷性は”極強”で「たかねみのり」に優る。玄米の外観品質は「たかねみのり」より優り、「あきたこまち」並~やや優る。食味は「たかねみのり」より明らかに優り、「あきたこまち」並に優れる。「いわてっこ」の普及見込み地帯は、県内の標高240メートル以上から標高350メートル以下で及び県北部の標高240メートル以下の約15,000ヘクタールであり、そのうち「かけはし」適応地帯を除く3,000~4,000ヘクタールで普及が見込まれる。

【報文】岩手県における酪農経営体の展開過程と支援方向

加藤満康

 本県農業を担う主業型農家の育成に資することを目的とし、県内の専業酪農経営体の面接調査を実施し、経営展開過程を明らかにし、経営管理技術面から支援方向を示した。調査酪農家は就農時の10頭規模から、省力化を志向した資本装備の高度化を基調にパイプラインを備えた牛舎や大型機械体系を取り入れ、50頭規模の専業経営へ変革し、さらに、雇用労働力を取り入れながら、100頭規模のフリーストール・ミルキングパーラー方式(以下「FS-MP方式」という)、法人形態に進んでいる経営体も見られる。外部環境の変化する中、新しい生産方式や規模拡大に向けて、自己資本の蓄積を基に順時投資し展開しているが、この過程を経営参画期、経営発展期、追加投資期、経営再編期の4段階に整理し経営管理項目別に要点を述べた。また、酪農家の経営管理技術の変遷及び現状や意向から、FS-MP方式100頭規模と繋ぎ飼い50頭規模の支援項目と内容を明らかにした。

【報文】岩手県北部における葉たばこ経営体の展開過程及び課題

井村裕一

 岩手県北部の先進的な葉たばこ経営体では、概ね昭和30~40年代に前経営主が葉たばこ作を開始して以来、耕作組合を通じて日本専売公社・日本たばこ産業株式会社(以下、JTと略記)から技術指導や資金助成を受け、概ね10年間隔で新技術とそれに必要な機械・施設をいち早く導入し、現経営主に至るまで経営展開を遂げてきたが、小規模・分散圃場や立枯病被害、経営管理・継承等の課題と不安を抱えている。従って、地域における農地の利活用に関する合意形成や大規模・団地化、経営相談や担い手育成等の対策が必要であり、耕作組合やJT組織の合理化といった環境変化の中で、行政機関の支援・連携が以前より重要となっている。

【報文】岩手県におけるアミロース含量が低い在来ヒエ系統の特性

長谷川 聡・勝田真澄

 岩手県岩泉町安家地区で栽培されているヒエ「もじゃっぺ」は、アミロース含量が12~13%程度であり、優良系統である軽米在来(白)及び達磨が27~28%程度であるのに比較して明らかに低い。また、デンプンは冷めても硬くなりにくい糊化特性を有しており、食味官能評価では粘りがあり、軟らかく、食味評価が高かった。
 本系統は、未だ糯性系統が見いだされておらず、アワやキビに比べて食味が劣るヒエの食味向上及び新たな加工品の開発素材として有望と考えられる。

【報文】細断型ロールベーラを使用した飼料用トウモロコシの省力的収穫調製技術

増田隆晴・平久保友美・川畑茂樹

 飼料用トウモロコシの新しい収穫調製技術である細断型ロールベーラ体系について、(1)生産されたロールベールラップサイレージの形状的特性の把握、(2)収穫調製時の作業能率並びに省力性について、従来体系(タワーサイロ)との比較・検証を行った。ロールベールの形状は直径80cm、幅88cm、容積0.45m3で重量が316.5kgと密度の高いベールが成形された。また、これら収穫調製時に発生する損失は、梱包、密封作業時合計で2.1%程度であった。作業能率は細断型ロールベーラによる梱包作業(85psトラクタ駆動、2条刈りハーベスタ使用)では21.4a/hであった。一方、自載式専用ラッパによる密封作業の能率は15.1a/hであり、細断型ロールベーラの作業能率には追いつかなかった。また、従来体系との延べ労働時間の比較では細断型ロールベーラ体系は従来体系の43%の時間で済み大幅な労力低減が図られた。
 ロールベールラップサイレージの品質は良好で、冬期間(貯蔵日数108~134日)及び夏期間(保存日数262日~312日間)いずれもベール毎の発酵品質にばらつきが少なく均質でV-scoreは平均で94.7±1.3点(良)と高い発酵品質を維持した。カビ及び変敗による廃棄量も0.03%とごく僅かであった。

【要報】液状コンポスト調整システムにおいて曝気が臭気成分に及ぼす効果

濱戸もえぎ・川畑茂樹・佐藤直人

 岩手県の北部の奥中山地域では環境と調和した「地域資源循環型農業」の確立を目指し、家畜排せつ物を液状で処理する液状コンポスト化を行い農地に還元するため、モデル施設を設置して地域全体への普及を計画している。そこでモデル施設を対象として、液状コンポスト化において曝気が臭気及び成分に及ぼす影響について調査を行なった。曝気に伴いBOD、全窒素の減少から有機物の分解が進んだと思われた。曝気処理を行なった液状コンポストは全窒素に占めるアンモニア態窒素含有率が高いので速効性の肥料としての効果が期待できる。3点比較式臭い袋法による調査結果から、曝気によるスラリーの臭気指数の減少は小さいものの、曝気の経過とともに臭気強度は軽減することが明らかとなった。また、スラリー散布時のアンケート調査結果から、曝気はスラリー臭気の不快度の軽減に効果があることが示された。

【要報】優良種雄牛造成に向けた体細胞クローン牛生産技術の検討

児玉英樹・野口龍生・鈴木暁之・福成和博・吉川恵郷

 我々は体細胞クローン牛生産のため、再構築胚の発生培養液の検討と受胎性および生産性を確認すると共に再構築胚の染色体数的異常発生について検討を行った。その結果、核移植後5~10日目までの胚盤胞発生率は、CR1aaを用いた血清添加共培養区は99/222個(44.6%)であり、IVD101を用いた無血清非共培養区の69/249個(27.7%)より有意に高率であった。再構築胚の受胎率は13/35頭(37.1%)であり、流産発生は胎齢46~118日に6/13頭(46.2%)認められた。受胎率と流産発生率は両区の差は認められなかった。
 誕生した体細胞クローン牛6頭の平均在胎日数は対照群より3日延長し、生時体重はクローン牛群が重く、50kg以上の過大産子が2頭認められた。胚盤胞期再構築胚の染色体数的異常胚率は94.7%(36/38)と高く、異常胚の83.3%(30/36)が二倍体細胞と異常細胞が混在する染色体モザイクであった。
 以上のことから、再構築胚の発生培養は、CR1aaを用いた卵丘細胞との共培養が有効であり、同法による体細胞クローン牛の生産が可能であった。
 しかし、体細胞クローン牛を安定的に生産するためには、流産発生率の低減と過大産子発生原因の究明が課題として残された。

【要報】集約放牧体系で親子放牧した黒毛和種子牛の発育と市場評価

小梨 茂・千葉恒樹・伊藤孝浩・加藤満康・大池裕治・佐藤 隆・谷藤隆志

 放牧育成した黒毛和種肥育素牛の市場評価を向上させるために、岩手県遠野市のS牧場において、2002~2003年の2年間、集約的な放牧条件下で子牛に体重の1%量の補助飼料を給与する現地実証試験を行い、現地への技術導入が市場成績にどのような効果をもたらしたのかを市場データの分析により統計学的に検証した。S牧場に親子放牧された子牛及びこれらと同時期に遠野地域から和牛子牛市場に上場された子牛を分析対象とし、S牧場に放牧された子牛を「集約放牧」、同じ遠野市にある他の牧場に放牧された子牛を「従来放牧」、それ以外の子牛を「舎飼」と区分し、共分散分析を行った。共分散分析では、上場時体重及び市場取引価格を目的変数とし、市場開催日、父、母の父、母産次及び放牧区分を固定因子、母牛登録得点及び上場時日齢を共変量とした。共分散分析の結果、去勢では、2002年産子、2003年産子とも、「集約放牧」による上場時体重及び市場取引価格の向上が認められ、「舎飼」と同等となった。一方、雌では、2002年産子で「従来放牧」に比べ「集約放牧」で上場時体重が優れる傾向にあったものの、市場取引価格に差はなく、2003年産子においては、「舎飼」も含めて上場時体重及び市場取引価格に放牧区分間の差は認められなかった。

【要報】乳用雌育成牛の集約放牧による発育効果

山口直己・松木田裕子・茂呂勇悦・大和 貢・菊地正人・菊池文也

 乳用雌育成牛を対象にペレニアルライグラス草地を用い、乾物摂取量、放牧草の栄養成分および草勢維持を考慮し、草高20cm以下で多回利用する集約放牧を組み入れた飼養管理を実施した。
 放牧草の生産量および栄養成分の季節推移ならびに牛の乾物摂取量を考慮し、放牧草が不足する場合のみ併給飼料を給与することにより、牛の養分充足が維持され、初回発情の目安となる体重350kg、体高125cmへの到達月齢はそれぞれ約12ヶ月齢および約11.5ヶ月齢と早まり、良好な発育を得ることが可能であり、また放牧終了後正常な発情周期を確認のうえ授精回数約1.3回、約14ヶ月齢で受胎したことから、分娩月齢の短縮も可能であると考えられた。
 以上のことから、集約放牧は乳用雌育成牛の飼養管理技術の一手法として組み入れることが可能であることが示唆された。

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