農作物技術情報 第2号 水稲(平成31年4月25日発行)

ページ番号2001297  更新日 平成31年4月25日

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ヘッダ

寒暖差が大きい時期のため、育苗ハウスの温度・水管理は細心の注意を払いましょう。
極端な高温・低温条件、乾燥・過湿の繰り返しは、さまざまな立枯性病害の発生を助長するので、バランスのとれた育苗管理を心がけましょう。
田植えは苗の生育にあわせて、風のない天気のよい日に行いましょう。
田植適期の目安は、県南部5月10~20日、県中北部・沿岸部5月15~25日です。活着と初期生育を促すため、田植えはできるだけ暖かい日を選んで行いましょう。
直播栽培は、播種が遅れないように注意しましょう。
移植栽培と組み合わせることで作業ピークを分散できますが、出穂が遅くなりすぎないよう、播種早限以降、早めの播種を心がけましょう。

1 健苗育成

(1)温度管理

ア 低温や荒天の日以外は、徐々に外気に慣らしていく管理とします(表1)。
イ 5℃以下の低温が予想される場合はハウスを閉め、必要により保温・被覆します。
ウ 晴天時は朝の気温上昇に注意し、早めにハウスの換気をおこなってください。

表1

(2)かん水

ア かん水は基本的に朝1回(9時ごろまでに)、床土に水が十分に浸透するように行います。夕方のかん水は、床土内の暖まった空気を冷やし、ムレ苗の発生原因となるので避けてください。
イ 育苗の後半は、葉からの蒸散量が増えて乾きやすくなるので、かん水量を増やします。乾き過ぎなどにより夕方のかん水が必要となる場合は、しおれを防ぐ程度としてください。

(3)追肥

ア 生育中に葉色がさめてきた場合や、病気の発生で生育が衰えている場合は追肥が効果的です。
イ 時期は、稚苗で1.5~2葉期以降、中苗は2~2.5葉期以降とし、施用は箱あたり窒素成分1g(硫安であれば現物5g)を水1~1.5Lに溶かし、ジョウロ等で散布します。
ウ 葉が乾いた状態で散布し、その後水を散布して葉の肥料分を洗い流してください(葉焼け防止)。

(4)プール育苗の水管理

ア 1回目の水入れは、緑化終了から必ず2~3日以内に行います(細菌病対策)。
このときの水深は、水没による生育不揃いを防止するため、苗箱の培土表面より下の位置にしてください(図1左)。
イ 2葉目が出始めたら培土表面が隠れる程度の水位を確保してください(図1右)、
ウ 水温が30℃を超えたら、新しい水と入れ替えて温度を下げます。
エ プールの落水は、田植えの2~3日前とし、極端に早い落水は避けましょう(しおれ対策)

図1

(5)育苗期病害の対策

ア 育苗期の細菌病類に関する注意報が発令されています。
(平成31年度病害虫発生予察情報注意報第1号)

育苗期間中の高温(特に催芽・出芽時30℃、緑化~硬化初期25℃を越える条件)や過湿条件は発生を助長するので、適正な温度・水管理に努めましょう。
イ 特別栽培米など、環境に配慮した稲作に取り組んでいる地域では、苗立枯などの病害に効果のある薬剤を使えないことがあるため、温度・水管理が特に重要です。
適度なかん水(乾燥と過湿を繰り返さない)を行うとともに、低温が予想される場合は、ハウス内が5℃以下にならないよう、保温資材等により温度確保に努める等の対策を徹底しましょう。
ウ いもち病菌の感染を防ぐため、稲わら・籾がらは育苗施設付近に置かないようにしましょう。

2 安定稲作に向けた本田の準備

(1)畦畔等の補修

幼穂形成期や減数分裂期など、イネが低温に弱い時期に、冷害対策として深水管理(15cm以上)ができるよう、あらかじめ畦畔をかさ上げしておきましょう。

(2)施肥

ア 基肥量は例年並みとし、中干しや追肥量の調整で生育量をコントロールしてください。(具体的には、農業地帯別に土壌の種類と品種ごとに設けている施肥量を基本とします)
イ 復元田初年目や基盤整備間もない圃場では、地力窒素量の発現が増えますので、栽植密度を2~3割減らすとともに、基肥量を調節(1/2程度に減肥する)してください。

(3)有機物の施用

特に畑転換の履歴が長いほ場では、地力窒素(可給態窒素)が減少している場合が多いので、堆肥等の有機物を積極的に施用し、地力維持に努めましょう。

(4)深耕と丁寧な代かき

ア 深耕は、水稲の根域を拡大し、根の活力を後半まで維持することにより、気象変動への抵抗力を高める効果があります。耕深は15cm以上を確保しましょう。
イ 荒代かきは水を土壌になじませるように、植代かきは浅水にして適切な作業速度で行いましょう。
また、近年増加している高密度播種苗移植栽培などでは、欠株の発生を抑えるため、より丁寧な作業を心がけてください。

3 田植えと水管理

(1)田植え

ア 極端な早植えや遅植えを避け、適期(県南部:5月10日~20日、県中北・沿岸部:5月15日~25日)におこなってください。
イ 苗活着の最適水温は、16~30℃の範囲で高いほど促進されます。田植え作業は寒い日や風雨の日を避け、できるだけ暖かい日を選んでおこないましょう。

(2)植え付け深

植え付け深は、浅いほど浮き苗が多くなり、植付精度が低下します。一方、植え付けが深い場合は植付精度は向上しますが、分げつの発生が抑制されます。
このため、植え付け深は稚苗で2cm、中苗は2.5~3cm程度としてください。

(3) 田植え後の管理

ア 田植え直後は、植え傷みによって苗の吸水力が低下しています。
葉からの蒸散を抑えるため、葉先が2~3cm水面から出る位の深水管理により、苗の保護に努めてください。田植え後、活着まで通常3~4日を要します。
イ 活着後は分げつ促進のため、2~3cmの浅水管理とします。
気温が15℃以下の低温時は、葉先が出る程度の深水管理としてください。ただし、低温でも日照があり、風のない日は、日中は浅水にして水温の上昇をはかりましょう。

4 病害虫防除

(1)葉いもち防除

水田内や畦畔に放置された取置苗は、いもち病の伝染源になります。遅くとも6月上旬までには土中にしっかり埋没させる等の処分を行いましょう。畦畔に裏返すだけでは不十分です。

(2)初期害虫防除(イネミズゾウムシ・イネドロオイムシ)

箱施用殺虫剤を用いて、昨年広域に一斉防除している地域では、ことしの防除は不要です。
環境負荷・資材コストを最小限に抑えるためにも、害虫の発生状況をみながら、効果的な防除に努めましょう。

5 除草剤の効果的な使用

現在市販されている一発処理除草剤は、対象雑草が広く残効も長いものが多いので、散布遅れや漏水がなければ、通常1回の処理で十分です。
一方、例年雑草の発生が多い場合や、低温気象下・冷水田などで雑草の発生が長期にわたる場合、あるいは難防除雑草のシズイ・クログワイ等が多発する場合は、初期除草剤を使用したうえで、一発処理剤や中期剤、必要に応じ後期除草剤による残草処理と組み合わせる「体系処理」が基本です。
特別栽培米など、環境に配慮した稲作に取り組んでいる地域では、除草剤の使用回数に制限があるので、使用できる除草剤の効果を発揮させるための対策を十分に講じてください。

(1)漏水防止対策を徹底する

ほ場の減水深が大きくなるほど、除草剤の効果が低下して雑草の取りこぼしが多くなり、残効日数も短くなります。床締めや畦畔の補修、丁寧な代かきなどの漏水防止対策を徹底しましょう。

(2)ほ場の均平を確保する

除草剤は、散布後、土壌表面に分散して処理層を形成します。均一な処理層が形成されるよう、レーザーレベラやていねいな代かきの実施により、ほ場の均平を確保してください。

(3)使用適期を逃さないように散布する

雑草は、代かき後から発生が始まります。その年の気象により、雑草の発育の早さは異なるため、農薬ラベルに記載された使用適期の範囲で、遅れないように散布してください。
なお、一発処理除草剤のラベルに記載されている使用時期の「ノビエ〇.〇葉まで」は、最高葉齢(もっとも生育が進んだ個体の葉齢)ですので注意してください。

図2

(4)ほ場の大きさと除草剤の剤型別による散布方法

作付け規模や区画の大きさを考慮して、効率的な散布方法を選択します(表2)。
なお、フロアブル剤であれば、ラジコンボートの活用も有効です(図3)。

表2

図3

(5)環境への配慮

田植え前の除草剤使用は行わず、除草剤の使用時は容器のラベルをよく読み、所定の散布量、散布時期、散布方法を厳守しましょう。
また、農薬のラベルに記載されている止水に関する注意事項等を確認し、7日間は止水期間とします。

6 農薬の適正使用

農薬の使用にあたっては、時期・量・回数等の使用基準を必ずラベル等で確認し厳守してください。

7 その他

例年、この時期は野焼きに伴う火災が多発します。空気が乾燥し風が強い時期ですので、強風時は絶対に火入れをしない等、火災発生に注意しましょう。

8 直播栽培技術(鉄コーティング湛水直播栽培)について

(1)品種の熟期及び播種期の選択

鉄コーティング湛水直播栽培は、稚苗移植栽培に比べ春作業の省力化が図られるほか、出穂・成熟期が遅くなることから、移植栽培と計画的に組み合わせることで収穫作業の分散が可能です。同じ熟期区分の品種の場合、出穂は稚苗移植栽培に比べ7~10日遅くなるので、作付品種は地域慣行の移植栽培用品種よりも1ランク熟期が早いものを選択するとともに、播種早限以降、早めに播種をおこなってください(表3)。

表3

(2)施肥

速効性肥料による基肥+追肥体系のほか、専用肥料(緩効性肥料の配合)による一発施用体系があり、本県向けの専用肥料として「鉄コー直播633」「直播用200」が利用できます。
主な品種の施肥量は表4のとおりですが、ほ場条件(地力の大小や土質土性)によって、収量の過不足を生じる場合があるので、地域の移植栽培「ひとめぼれ」「あきたこまち」等の施肥量も参考に、適宜加減してください。
なお、「ヒメノモチ」「たわわっこ」など、現在、施肥量の基準がないものもあるので、取り組み初年目で倒伏に強い品種であれば「移植栽培の基準施肥量並」、倒伏に弱い品種であれば「窒素成分を1kg/10a減」で試作してみることをおすすめします。

表4

(3)耕起・代かき

ア 均一な苗立ちを得るためには、ほ場の均平確保が重要です。
大区画ほ場であれば基肥散布前にレーザーレベラで均平を行い、レベラが入りにくい小区画ほ場の場合は代かき時の土引きにより均平を確保しましょう。
イ 植代かきは雑草の発生を抑える必要があることから、概ね播種日の3~4日前が適当です。
なお、落水後に硬くなりやすい土壌の場合は植代から播種までの期間を短くし、反対に軟らかすぎる場合は長くします(いずれも±1~2日の範囲で加減してください)

(4)播種前のほ場の状態

鉄コーティング種子は、土中に埋没すると苗立ち不良となるので(図4)、種子の埋没を防ぐため、播種直前のほ場は下記の状態にしておきます。
ア 散播(無人ヘリ・背負式動力散粒機)の場合
水深5~8cm程度に湛水してから播種します。
イ 点播・条播(水田用多目的ビークル(多目的田植機))の場合

  • いったん落水します(落水のタイミングは、田植の場合より半日程度早くする)。
  • 播種直前に少量を手で試し播きし、種子が埋没しないことを確認します。

落水時の田面の硬さの目安は、1m高からのゴルフボール落下時の埋没深で概ね-2~0cmです(図5 移植と同程度~やや固めの範囲)。

図4,5

(5)播種量の決定

ア 県内のおもな品種別の基準播種量及び、目標苗立ち数は表5のとおりです。
播種量の基準がない品種については、初めて取り組むときは乾籾換算で5kg/10aを基本とします。
苗立ち数が目標を下回る場合は、穂数不足で減収する場合があるので、必要量が確実に播種されるよう、播種機の調量設定を確実におこなってください。
イ 多目的田植機用播種機では、車速連動装置がついた機種であっても、田面の硬さや作業速度によって播種量の実績値が変動する場合があるので、実際に作業しながら再調量し、精度向上につとめてください。

  • 作業速度 ⇒ 高速作業になるほど播種量が少なくなる。
  • 田面の固さ ⇒ 作土層が固めだとスリップしやすく、播種量が多くなる。

表5

(6) 本田初期の水管理(図6)

ア 播種と同時又は直後に、鉄コーティング湛水直播栽培に使用可能な初期除草剤を散布します。
以後3~4日間は除草剤の効果を安定させるため湛水状態を維持し、その後は止水状態のまま、自然減水とします。
イ 播種後8日目から本葉1葉期までの期間は、落水管理を基本とします。
落水管理をおこなうことにより苗立ち率を高めることができます。播種と同時、あるいは落水開始時に溝切りを実施し、落水ムラができるだけ少なくなるようつとめてください。
ウ 落水後に水溜まりがなくなり、亀裂が増えてきたら、一時通水(1日湛水⇒落水)を行います。
時通水はできるだけ暖かい日を選んでおこなってください。なお、落水期間中に、鞘葉(発芽後、初めに出る白い葉)が萎れる場合がありますが、種子根が土中に伸びていて、不完全葉(緑色の葉)が生葉の状態であれば、苗立ちには問題ありません。
エ 出芽個体の半分以上で、本葉1葉が展開したら、再湛水し、鉄コーティング湛水直播栽培に使用可能な一発処理除草剤を散布します。

(7) 雑草防除

ア 「初期除草剤」+「初中期一発処理除草剤」の体系処理を基本とします。
残草がある場合は中期除草剤による仕上げ防除を行いましょう。
「直播水稲」に登録がない除草剤は使えませんので注意しましょう。
イ 直播栽培用除草剤のラベルに記載されている使用時期の早限「イネ〇.〇葉」は出芽個体の平均葉齢、晩限の「ノビエ〇.〇葉まで」は最高葉齢(もっとも生育が進んだ個体の葉齢)です。
ウ 鉄コーティング湛水直播は種子が土壌表面に播種される「表面播種」のため、根が土壌表面に露出したり、ころび苗が発生する場合は、生育抑制などの薬害が強く出ることがあります。
落水出芽管理の実施により、根を確実に土中に張らせるようにしてください。
エ 飼料用米や稲発酵粗飼料(稲WCS)では、農薬の使用に制限があります。
除草剤の選択については、最寄りの普及センター等に相談してください。

フッタ

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農林水産部 農業普及技術課 農業革新支援担当(農業研究センター駐在)
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