農作物技術情報　第3号　畜産（令和5年5月25日発行）

• 牧草　一番草の収穫タイミングは、飼料の栄養成分、収量に大きく影響します。生育ステージを確認して、適期収穫を行いましょう。
• 飼料用とうもろこし　雑草防除のため土壌処理、生育期処理を確実に行い、収量確保やサイレージの品質向上を目指しましょう。
• 家畜　牛舎環境面の暑熱対策は、本格的に暑くなる前に行いましょう。

牧草

1 生育状況

牧草の生育は、県北で5月上旬までの積雪や低温の影響を受け生育が停滞していますが、県央から県南は平年並みからやや早いとなっています。適期に刈取り、栄養収量を確保してください。

2 収穫

（1）1番草の収穫適期
オーチャードグラスの1番草は、生育が進むにつれ収量は増加しますが、消化率、可消化養分総量（TDN）、粗タンパク質含量（CP）は減少します。
収量と栄養価のバランスを考慮して、『出穂始めから出穂期』に収穫を行います。目安は1m四方で出穂本数が2～3本（出穂始め）から40～50％（出穂期）です。
（2）刈取り高さ
牧草の刈取り高さは、2番草以降の再生力と収量を決定する重要な要因です。
低刈りは再生力が悪くなり、高刈りは減収につながります。このため、地際から10cm 以上（大体握りこぶし1個分の高さを目安）で刈取りを行います。
（3）サイレージ調製
原料草の予乾が不十分だと、養分の流出や不良発酵の原因になります。原料草水分の目安として、ロールベールサイレージで50～60％、タワーサイロやバンカーサイロ等で65～70％となるよう、予乾を行います。
土壌の混入は不良発酵の原因となりますので、トラクタのスピードを落とし、圃場の凹凸に注意しながら作業してください。
ロールベールサイレージに調製する場合、ロール成形後密封までに時間が大幅に経過すると、品質低下につながります。ロール成形後は必ず当日中に密封作業を行ってください。
（4）乾草調製
良質な乾草を調製するためには、水分を20％以下に落とすことが大切です。水分がそれより高いとカビの発生による品質の低下だけでなく、発熱、自然発火にもつながります。出穂盛期以降で晴天が4日以上続く日を見計らって乾草調製を行ってください。また、晴天が続かない場合は無理に乾草をねらわず、サイレージ調製に切り替えるなど臨機応変に対応してください。

3 オーチャードグラスとチモシーの特性

（1）オーチャードグラスは基本的に年3回刈取ります。利用回数が少なく刈取り間隔が長くなると、消失する個体の増加や株化が進むなど裸地が多くなります。刈取り間隔は40～50 日を目安に実施します。
（2）チモシーは1番草時に早刈りすると再生が悪くなります。これは1番草の出穂茎が生育しないと2番草となる新しい分げつが生長しない特性によるためです。刈取り時期は、オーチャードグラスよりも遅い出穂期以降とし、また、再生スピードが遅いので刈取り間隔は50～60 日を目安とします。

4 収穫後の追肥

2番草の生育を促進するため、刈取り後に追肥を行います。施肥量の目安は、10a 当たり成分量で窒素5kg、リン酸2.5kg、カリ5kg です。
オーチャードグラスは刈取り後すぐに再生が始まるので、刈取り後すみやかに追肥をおこない、再生を促進させます。
チモシーは再生速度がオーチャードグラスよりも緩やかなので、1番草刈取り7～10 日後を目安に追肥をします。
チモシーはオーチャードグラスと異なり、1番草刈り取り後に新しい分げつが発生し、それが2番草～翌年の1番草まで維持され収量に影響しますので、1番草刈り取り後に施肥し、新しい分げつ発生を促進する必要があります。

5 ギシギシの防除

ギシギシは1番草収穫後、約1か月を過ぎると抽苔し、開花後約2週間（1番草収穫後45 日）で結実し発芽能力を持ちます。次年度の発生をコントロールするためにも、除草剤による防除がポイントです。散布時期は、1番草の収穫直後はギシギシの葉がまだ十分展葉していないため、ギシギシの葉が手のひらサイズとなり薬液が十分付着する「1番草収穫後20 日～1か月前後」が適期です（2番草収穫前）。

飼料用とうもろこし

1 播種

県内では、飼料用とうもろこしの播種が2～3割終了しました。降霜の危険性も低くなり、播種の盛期をむかえています。播種技術等の詳細については、前号(第2号)を参照ください。

2 雑草防除

雑草の繁茂を防ぐには、雑草の種類と発生時期、発生面積などを知ることが重要ですので、播種後は定期的にほ場を観察します。
除草剤の土壌処理で残った雑草は、生育期処理による防除が必要です。雑草の種類によって、効果がある除草剤が異なるので、適切な除草剤を選択してください。除草剤によって使用方法（時期、回数、留意事項等）が異なるので必ず確認してください。

3 虫害の特徴と対策

飼料用とうもろこしは、ほ場の観察不足からトラブルの発見が遅れがちな作物です。虫害は欠株を招き被害に比例して減収が大きくなりますので、早期発見に努め被害の拡大を防ぎます。

（1）ハリガネムシ
針金状の細い幼虫が種子や幼苗に侵入して食害し、不発芽や幼苗の枯死を招きます。発生圃場では、被害株周辺の土中で幼虫を確認することができます。
牧草地からの転換初年目は大きな被害が出やすくなるので、特に注意します。
播種後に被害が確認された場合は、その程度に応じて早生品種等の追播を検討し、播種がこれからの場合は、種子に殺虫剤を塗布するなど対策を実施します。

（2）ネキリムシ
6～7月頃、幼虫が幼苗の地際部を切断して食害し、株を移動し被害を拡大します。被害株の周辺土中に幼虫を確認できます。成虫は雑草（アカザ類、タデ類）を好んで産卵するため、ほ場内外の除草を徹底するとともに、被害が確認されたら殺虫剤を散布します。

家畜

1 暑熱対策

近年、猛暑が長く続く傾向にあり、受胎率の低下など乳牛の生産性への影響がみられます。猛暑の影響を緩和するため、暑熱対策を確実に行えるよう今から準備をしておきます。
乳牛が受ける暑熱ストレスの大きさは、気温と湿度により指標化され、一般的には温湿度指数（THI）が用いられます。下右図(出典：R4 乳牛の暑熱対策マニュアル、栃木県)のとおり、THI 65 から軽度のストレスがかかり乾物摂取量や乳量が減少し始めます。
盛岡市の令和2年から令和4年のTHI 平均値では、THI 65 以上が6月上旬から確認され、また、強いストレスとされるTHI 72(～75)以上が7月上旬から確認できます。このため、暑熱対策の準備は、5月中には済ませておくことが大切です。牛舎環境面の対策例は、次のとおりです。

（1）温度変化を緩慢にする断熱、温度上昇を低減する遮熱、温度を下げる気化熱
断熱材には空気が含まれており、太陽から降り注ぐ輻射熱で上昇した屋根や壁の温度が、牛舎内に伝わりにくくする役目があります。一方、ドロマイト石灰や遮熱塗料は輻射熱を反射するので、屋根に塗布すると屋根の温度上昇を軽減します。また、西日があたる面には、庇や寒冷紗を設置して輻射熱を防ぎます。更には、この断熱と遮熱の両方の組み合わせによる対策がより効果的です。
また、屋根への散水は、気化熱で温度を下げる効果があります。朝や夕方を避け、水が蒸発しやすい昼の時間帯に行うと効果的です。

（2）送風と換気
牛舎内に気流を作ることで、牛の体感温度が下がります。風速1m/秒で6℃、2m/秒で約8℃体感温度が下がるので、牛体への送風はとても有効です。また、湿度が高いほど体感温度が高くなりますので、換気も重要です。換気扇の台数が不足している場合は、新たな設置を検討します。また、設置済みの換気扇にホコリが多く付着していると換気効率が落ちるだけでなく、電気代の増加にもつながりますので、掃除をしておきます。
順送換気の場合、牛舎の梁上の暑い空気が牛舎外に抜けることが重要ですので、妻面も出来るだけ開放します。また、牛床に対する換気扇の調整角度は45～60°が目安になりますが、牛体への送風を重視する場合は角度を小さくします。
つなぎ牛舎のトンネル換気で、中央通路のみ風速が強い場合は、整風板を用いて牛側へ風が流れるようにします。

（3）給水施設の整備
飲水量の確保も大切です。十分な飲水量を確保するため、配管を太くすることや、ウォーターカップを改修することも検討してください。また、水槽のこまめな清掃も飲水量確保には必須です。