岩手県園芸試験場研究報告 第7号(平成6年3月発行)

ページ番号2004878  更新日 令和4年12月21日

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セイヨウナシの同枯病の発生生態と防除に関する研究

仲谷房治

 岩手県下のセイヨウナシにおいて枝枯れ及び短果枝群の萎ちょう枯死を多数ひきおこし、大きな被害を与えている病害は胴枯病であることを明らかにし、その発生生態および防除法を検討した。

1 病徴および病原菌

  1. 胴枯病に感染したセイヨウナシでは、春期に枝枯れおよび短果枝群の萎ちょう枯死が多数発生する。短果枝群の萎ちょう枯死は一見花腐症状を呈するが、これは、短果枝部分に発生した病斑が進展し、枝枯れになるために発生する。
  2. 枝枯れは2~3年生枝の若い枝で発生する。病斑進展は5月一杯でほぼ停止するが、6月にはその上に糸状の胞子角を噴出する。
  3. 新たな病徴として直径約1mmの黒色を呈する小黒点病斑を発見した。この病斑部の解剖学的観察の結果、周皮細胞の褐変が認められた。
  4. 種々の発病部から分離されたPhomopsis菌は、子のう胞子および柄胞子から分離されたPhomopsis菌と培養的性質および柄胞子の大きさがほぼ同じであった。完全時代および不完全時代の形態的性質を比較検討し、セイヨウナシ胴枯病菌、Diaporthe tanakae Kobayashi et Sakuma(Diaporthe ambigua sensu Tanaka non Nitischke)と同定した。
  5. 胴枯病菌の生育および柄胞子の形成に適する培地は、ジャガイモ・ショ糖寒天培地(PSA)であった。
  6. 菌叢の生育は15~32℃で見られ、適温は25~28℃であった。
  7. 柄子殻の形成は暗黒条件下では認められず、昼光色蛍光灯およびBLBの照射によって促進された。
  8. PSA培地上には低温条件(22.5℃、20℃)で形成された柄子殻にはα胞子が産生され、25℃ではα胞子とβ胞子が混在し、高温条件(30℃)になるとβ胞子が形成された。
  9. 柄胞子の発芽は栄養分が必要であり、10~32℃の温度範囲で発芽し、20~30℃でよく発芽した。

2 発生生態

  1. 前年秋期に認められた小黒点病斑は、越冬後の開花期に拡大進展した。その結果、枝枯れおよび短果枝群の萎ちょう枯死が発生した。このことから、小黒点病斑は本病の初期発生病斑であり、また、越冬することが明らかになった。
  2. 小黒点病斑は7月末から見え始め、大部分は8月に形成された。はじめはきわめて小さな褐色斑点であるが、しだいに明瞭になり、晩秋には直径1mm程度の小黒点になった。
  3. 小黒点病斑は1年生枝および短果枝群の1年生枝に相当する部分に多数形成された。ついで2年生枝および短果枝群の2年生枝上に多い。また、激発樹では1年生枝に比較すると少ないものの、新梢部にも認められ、秋期に微小黒点が形成された。
  4. 小黒点病斑は、離れて存在しているときには、病斑進展が少ないために、枝枯れおよび胞子角の噴出に至らないが、群がっている場合には、融合して大きな病斑となり、枝枯れをおこし、さらに多量の胞子角を噴出する。しかし、短果枝群の枝上では、小黒点病斑数がわずかでも根枯れを生じ、花叢葉が萎ちょう枯死する。
  5. 小黒点病斑が進展できる期間は、ほぼ5月に限定され、進展できなかった小黒点病斑は翌年あるいは2年後の開花期において進展した。しかし、中には進展せず、病徴が不鮮明になり、その存在が不明となるものも認められた。
  6. 柄胞子は5月下旬~7月中旬に胞子角を作り、柄子殻から噴出するが、その盛期は6月上、中旬であった。噴出する胞子の多くは、当年に拡大進展した病斑部において形成されたものであるが、前年の病斑部に新たに形成された柄子殻で作られる場合もあった。噴出した胞子角は降雨により分散する。
  7. 柄胞子の噴出初期に採取した胞子角にはα胞子のみが含まれ、後半になるとβ胞子が混在してきた。なお前年の病斑部で形成された胞子角はいずれの時期もすべてα胞子であった。形成柄胞子の種類は、主として柄子殻の形成期間の温度条件によって支配されるものと推定される。
  8. 子のう殻は、病斑進展が比較的小さく、その病斑部の周囲に癒傷組織が盛り上がるように形成され、凹陥した病斑部に形成され、大部分は3~4年生枝上の病斑に形成された。子のう胞子は越冬後の6月下旬~8月上旬において、降雨により噴出し分散した。

3 伝染環

  1. 枝に柄胞子を含ませた脱脂綿をパラフイルムで巻きつける方法および胞子角の噴出している枝を樹の上部に取り付ける方法などの無傷接種で自然発病と同じ病徴と病斑進展経過を再現することができた。伝染環の一巡に要する期間は通常は2年であるが、短い場合で1年、長い場合、3~4年に及ぶことが明らかになった。
  2. 接種試験の結果、新梢がもっとも感受性であり、ついで1年生枝が発病しやすく、2年生枝、3年生枝と樹齢が増加するにつれ、発病しにくくなった。
  3. 枝に柄胞子を含ませた脱脂綿をパラフイルムで巻きつける方法で接種する場合、感染には湿潤期間が必要であり、それは接種方法、樹齢によって異なった。感受性の高い新梢の場合、5日の湿潤期間で大部分が発病した。また、接種時期によっても枝の感染、発病程度が異なり、接種時期が遅くなるにつれ感受性が低下した。
  4. 柄胞子の場合と同様の方法で子のう胞子を接種した場合にも、小黒点病斑の形成、病斑進展による枝枯れおよび柄胞子の噴出が認められた。
  5. 接種試験の結果、セイヨウナシだけに病原性が認められ、ナシ、リンゴ、モモ、ネクタリン、アンズ、オウトウおよびウメは発病しなかった。

4 防除方法

  1. 各種殺菌剤の柄胞子発芽抑制効果および菌叢発育抑制効果を約20種の薬剤を用いて検討した結果、ベノミル、チオファネートメチル、ダイホルタン、有機銅、フェナリモルおよびトリホリンが有効であった。
  2. 柄胞子の噴出期における薬剤散布はきわめて有効であり、翌年の小黒点病斑の形成量を著しく減少させ、薬剤散布2年後の枝枯れおよび短果枝群の萎ちょう枯死の発生を抑制することができた。防除効果はダイホルタン水和剤(1,500倍)、ボルドー液(4-12式)がすぐれ、ついで有機銅・チオファネートメチル水和剤(1,000倍)およびキャプタン・ベノミル水和剤(600倍)が有効であった。
  3. 柄胞子の分散がおきる降雨5日前にキャプタン・ベノミル水和剤(600倍)を予防散布することにより、小黒点病斑形成を阻止することができた。また、降雨後2日以内に薬剤散布すると防除できることが明らかになった。
  4. 小黒点病斑形成枝に対する薬剤散布およびは塗布剤処理では、いずれも病斑進展の抑制効果が認められなかった。このため、本病の実用的な防除対策としては、感染防止をねらいとした薬剤散布の実施が重要であると考えた。
  5. 発病枝の剪除処分することによる伝染源の除去と薬剤散布との併用処理による防除効果を検討したところ、多発条件下では伝染源の除去効果は、薬剤散布を行わない場合に明瞭に認められたが、薬剤散布を実施すると散布薬剤の効力の影響を強く受け、除去効果は小さいことが明らかになった。

わい化リンゴ樹に発生した粗皮症状の原因について

武藤和夫

 岩手県内のわい化リンゴ園において発生した粗皮症状の原因について調査した結果は以下のとおりであった。

  1. H、M及びT園の粗皮症状の外観的特徴は、これまでに報告されている粗皮病に極めて類似しており、また粗皮症状発生樹と未発生樹の葉中Mn濃度には有意な差が認められたことから、本症状はMnの過剰吸収に起因する粗皮病と考えられた。一方、K園の粗皮症状は他の3園とは異なり、発生樹と未発生樹の葉中Mn濃度に差がないことから他の原因が考えられた。
  2. H、M及びT園の粗皮症状の発生には品種間差異が認められ、ふじ>千秋>つがる>ジョナゴールド>王林の順に感受性が強かった。これらの品種間差異は体内Mn濃度耐性によるものと思われた。
  3. 粗皮症状発生樹の地上部においては、若年枝ほどMn含有率は高い傾向が見られた。一方、未発生樹の地下部においては、細根部が明らかに高いMn含有率であった。また、粗皮症状発生樹は未発生樹に比べてN濃度は高く、Ca濃度は低い傾向が見られた。
  4. 粗皮症状発生土壌は酸性の強いものが多く、可溶性Mn濃度も明らかに高い傾向が認められた。また、pHとこれら可溶性Mn濃度とは有意な相関関係が認められたことから、粗皮症状発生の危険性は土壌pHによって判断可能と考えられた。

リンゴM.26台ジョナゴールドの生育と果実品質に及ぼす中間台ふじの影響

小野田和夫・藤根勝栄・佐々木 仁・伊藤明治

 M.26台およびM.26台‘ふじ’に高接更新した‘ジョナゴールド’について、生育、収量性および果実品質を検討した。

  1. ‘ふじ’中間台方式は、慣行方式より明らかに樹勢が良く、樹容積、新梢長、幹周が優った。着果数も‘ふじ’中間台方式で多かった。
  2. 果実の熟度は慣行方式で進みが早く、‘ふじ’中間台方式は収穫のピークが遅れた。
  3. 慣行方式のM.26台と‘ジョナゴールド’間の接ぎ目コブに比較して、‘ふじ’中間台方式のM.26と‘ふじ’間および‘ふじ’と‘ジョナゴールド’間の接ぎ目コブは明らかに小さかった。
  4. ‘ふじ’中間台方式におけるM.26台の長さは、長くなると樹容積が減少する傾向が僅かにみられた。中間台‘ふじ’の長さが樹勢や接ぎ目コブの肥大に及ぼす影響は小さかった。

セイヨウナシの交雑和合性

小野田和夫・伊藤明治

  1. ‘バートレット’と‘マックス・レッド・バートレット’は、相互に交雑不和合性である。また、‘ル・レクチェ’に対して‘フレミッシュ・ビューティー’および‘新水’が、‘フレミッシュ・ビューティー’に対して‘ル・レクチェ’が和合性が劣った。表1(省略)に示す他の組合せは何れも受粉樹として使用できる。
  2. 単為結果が、‘ラ・フランス’で高率に認められた。また、‘シルバーベル’、‘フレミッシュ・ビューティー’、‘グランド・チャンピオン’、‘バートレット’および‘マックス・レッド・バートレット’でも認められた。
  3. 自家受精が、‘シルバーベル’、‘グランド・チャンピオン’、‘バートレット’およびて‘マックス・レッド・バートレット’で認められた。
  4. 単為結果果実および自家受精果実は、正常な受精によって種子を保有する果実に比較して果実重が低下した。

キュウリ接ぎ木苗セル成型化技術としての断根苗の生育特性と養生法

阿部 隆・佐々木裕二

  1. キュウリ苗大量生産方式の一つとして、接ぎ木ロボット苗を断根し、セル苗として育成する方式を検討した。
  2. 接ぎ木ロボットの性能は接ぎ木成功率95~96%、活着率96~98%、成苗率96~98%程度であった。作業能率は、設定速度5秒、組作業人員3人で機械1日当り(8時間)約5500本であり、1人当り換算の接ぎ木能率は慣行呼び接ぎの2.7倍程度であった。
  3. 接ぎ木ロボット苗(片葉切断接ぎ)の断根セル苗と根つきセル苗の生育では養生当初は断根苗が劣るが接ぎ木後7日目頃でほぼ同等の生育になり、11日目で逆転した。接ぎ木後の光合成速度も接ぎ木後4日目で断根苗区がまさった。
  4. 片葉切断接ぎ断根苗の養生法は温度25~30℃、湿度85~97%、照度3000Lux程度で養生期間が4日間で良苗が得られた。
  5. 断根挿しするセルの大きさは50~70穴程度のものを用いた場合接ぎ木苗の置床限界は8日程度であった。

クインス台を用いたセイヨウナシの生育と栽植様式

伊藤明治・藤根勝栄・小野田和夫・佐々木 仁・田村博明・鈴木 哲・三浦晃弘・久米正明・小原 繁・佐々木真人

1 わい性台木と穂品種の親和性

  1. セイヨウナシの穂品種とクインスA台との接木親和性は、穂品種により異なる傾向が見られた。特に‘ラ・フランス’はクインスA台との親和性が悪い。これに‘オールド・ホーム’等を中間台として挿入する事で生育が安定する。
  2. ‘フレミッシュ・ビューティー’等の品種については中間台の有無が生育に影響する程度があまり大きくなかった。
  3. ‘ラ・フランス、とクインスA台との不親和を防ぐためには、中間台品種として‘オールド・ホーム’の他に‘フレミッシュ・ビューティー’、‘ウィンター・ネリス’が利用可能で、挿入する中間台木長は10cm以上が望ましい。

2 植栽様式及び密度

 クインス台使用‘ラ・フランス’のわい化栽培で早期多収性を明らかにするため植栽様式により検討した。初期の収量は植栽本数が多いほど増収となるが、樹齢が進み10年目頃から多列植えで枝の交差が大きくなり管理作業に支障を来たした。これ以後はせん定により樹形維持するか、間伐などの対策が必要となる。一方、1列植え区は10年目以降も4m×2mの植栽間隔で管理可能と判断される。

3 わい性台木利用樹の管理技術 -大玉生産法-

  1. ‘ラ・フランス’大玉生産のための適正な葉枚数について検討した。10アール当りの収量目標を3トン、果実の大きさを280グラム以上、果実糖度は14%以上を目標とした場合、1果当りの葉枚数は60枚以上が望ましい。
  2. この場合の葉面積は1果当り11.0cm2で、1枚毎の葉面積は葉身長×葉身幅と高い相関を持ち、推定可能である。

リンゴ新品種 ‘きおう’

伊藤明治・藤根勝栄・小野田和夫・佐々木 仁・田村博明・鈴木 哲・三浦晃弘・久米正明・小原 繁・佐々木真人

 岩手園試における交配育種の結果、1991年にリンゴ新品種‘きおう’を品種登録出願したので、その育成経過及び特性について報告する。

  1. 1983年に‘王林’に‘はつあき’を交配して得られた種子を播種した。翌年、実生897個体を育成し、1985年にM.26台木の地上60cmの位置に高接ぎした。
  2. 1988年に初結実を見、果実調査を実施したところ、9月中に収穫できる早生品種で、食味が優れること等特性が優良であったので選抜し、1990年に系統番号「岩手1号」を付した。種苗法による品種登録は、1991年2月に‘きおう’の名称で出願を行い、1994年3月14日付品種登録された。
  3. 果重は280~300グラムで、‘つがる’より小さめである。果形は円形、果皮色は黄色、さび等の果面障害が少なく外観は美しい。糖度(屈折計示度)は14%前後、リンゴ酸は100ml当り0.3グラム程度と甘酸適和である。果肉は、硬さが中、歯ざわりが良く食味が良い。
  4. 岩手園試(北上市成田)での熟期は、9月上~中旬で‘つがる’とほぼ同時期である。生理落果の発生は、早期は無~少、後期は少である。早生品種としては、日持ちがよい。
  5. 授粉親和性は、‘ふじ’、‘さんさ’等主要品種の花粉は親和性が高い。しかし、‘つがる’では結実率が低く、授粉樹としては不適当と思われる。交配親である‘王林’、‘はつあき’については、‘王林’で結実率が高いのに対し、‘はつあき’では低く、父性不親和が見られた。
  6. 樹姿はやや開張、樹勢、樹の大きさは中程度である。花芽の着生は良く、早期結実性を有する。発芽期、開花期は‘ふじ’、‘さんさ’とほぼ同時期である。
  7. 斑点落葉病に対する抵抗性については、抵抗性中位の‘ふじ’よりやや弱く、抵抗性弱位の‘スターキング・デリシャス’より強いと思われるが、現在継続調査中である。

リンゴわい性台木使用による‘ふじ’のわい化栽培 第1報 M.9台及びM.26台使用‘ふじ’の生育と果実品質

伊藤明治・藤根勝栄・小野田和夫・久米正明・小原 繁・佐々木真人

 本研究は、導入当初、経済栽培期間が20年程度と考えられていたわい性台木のM.9台及びM.26台を使用した‘ふじ’の生育・収量・果実品質の調査を20年以上行い、栽培特性について検討した。

  1. 植栽距離4×2メートルのM.26台使用‘ふじ’は、間伐と組み合わせて、十分な収量と果実品質を維持し、22年生以上の栽培が可能と考えられた。
  2. M.9台使用‘ふじ’は、樹勢の強いM.26台使用‘ふじ’と異なり、植栽距離4×2メートルで、間伐することがなく、21年生以上の栽培が可能と考えられた。
  3. M.9台使用‘ふじ’の8年生以降の平均収量は、M.26台使用‘ふじ’と比べ差がなかった。しかし、M.9台使用‘ふじ’の樹冠の拡大速度が遅いため、初期収量は、M.26台使用‘ふじ’が上回った。
  4. M.9台使用‘ふじ’とM.26台使用‘ふじ’の果重、硬度、糖度、酸度に大きな差はなかった。

[資料]リンドウ育成品種の品種特性

藤原一道

(摘要なし)

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