岩手県農業研究センター研究報告 第11号

ページ番号2004385  更新日 令和4年1月17日

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【報文】ダイズ小畦立て播種機の開発及び導入効果

高橋昭喜・及川一也・渡邊麻由子・井村裕一・小黒澤清人

 転換畑でのダイズ安定生産をはかる上で欠かせない湿害対策を、簡便かつ低コストに行うため、代かきハローを用いたダイズ小畦立て播種機の開発及び導入効果の検討を行った。
 ダイズ小畦立て播種機は、代かきハローのなた爪型の耕うん爪の配列を変更することで畦高さ10cm程度の畦立て同時播種が可能となり、さらにチゼル爪を装着することにより圃場の排水性をより高めることができる。加えて、ゲージ輪、レーキスクリーンの取り付け、角バーの厚みを増し、ブラケットを増設することによって操作性及び強度が改善され、現地への適用性が向上する。このダイズ小畦立て播種機を用いた栽培により、慣行の平畦栽培に比較し、平均13%の収量の向上を認めた。
 ダイズ小畦立て播種機は、高馬力のトラクタを用いなくても、毎時2kmの作業速度で3~4条の播種ができ高能率であり、1台で13~20ヘクタールの大規模栽培への導入が可能で改良に要する費用も安い。このことから、本技術を導入した15ヘクタールの栽培において試算すると、農業所得が年間440~554千円増加する。

【報文】リンドウ種苗生産のための組織培養システム

星 伸枝・竹澤利和・阿部 潤・佐々木 力

 岩手県が育成したリンドウの多くはF1品種であることから、自殖劣性の特性を有するリンドウの親株の維持・増殖に多大な労力を必要としている。そこで、圃場よりも省力的かつ効率的に維持・増殖が可能な組織培養を利用した種苗生産システムを構築するため、葉片培養、越冬芽ディスク培養、液体振とう培養の手法について検討した。
 葉片培養においてMS培地にナフタレン酢酸0.5mg/l、チジアズロン10.0mg/lおよびショ糖3%を添加した培地(GC2培地)で培養することによりカルス形成とシュート形成が可能であるが、系統間差や個体差、外植片の条件などの詳細についても検討した。
 また、培養中に形成した越冬芽の節を1節含む5mm厚に切り出した組織(越冬芽ディスク)をGC2培地で培養することによりカルス及びシュート形成がみられる越冬芽ディスク培養が可能となった。越冬芽を形成した幼植物をホルモンフリーのMS液体培地に継代培養し、120rpmで液体振とう培養による増殖が可能となった。さらに、葉片培養由来のシュートを15℃の低温培養により越冬芽を誘導し維持することが可能となった。
 以上の手法を組み合わせることにより、一部の系統を除き組織培養による増殖、系統維持、及び発根馴化までの一連の工程が実用可能と考えられた。さらにこれらの技術を総合化して、実際の種苗生産を想定した作業工程、系統別・培養手法別の難易性を整理した。
 以上のことから、組織培養を利用したリンドウの種苗生産は、優良種子の安定供給と効率的な育種の推進に貢献するとともに、リンドウ生産農家の経営安定と、計画的な産地形成につながるものと期待される。

【報文】リンゴ新品種「岩手7号(紅いわて)」

畠山隆幸・高橋 司・大野 浩・小野田和夫・田村博明・小野浩司・小原 繁・奥平麻里子・佐々木 仁・河田道子・佐々木真人・石川勝規・鈴木 哲・久米正明・浅川知則・長﨑優子・藤根勝榮・佐藤秀継

 「岩手7号」は、1991年に「つがる」を母として、「恵」を父親として交配を行った。2000年に初結実し、9月下旬に収穫できる中生品種で食味良く、着色しやすいなど特性が優れることから2001年には系統番号「岩手7号」を付し、本品種は果実品質および栽培特性が優れることから2008年3月14日に種苗法による品種登録出願し、2009年9月10日に品種登録された。
 樹姿は開帳、樹勢、樹の大きさは中程度である。花芽の着生は良く、早期結実性を有する。発芽期、開花期は「ふじ」とほぼ同時期である。果重は300g前後で、「つがる」より小さめで、果形は円形、果皮色は濃紅色から暗紅色で、さび等の果面障害が少なく、外観は美しい。糖度(Brix)は13~14%、リンゴ酸は0.3~0.4g/100ml と酸味が穏和である。果肉は「つがる」と比べ硬く、歯ざわりも良く食味が良い。また、剥皮後に果肉が褐変し難いという加工特性がある。
 岩手県農業研究センター(北上市成田)での熟期は9月下旬で「つがる」より遅く、「ジョナゴールド」より早い。生理落果の発生は、早期は無~僅か、後期は無~僅かである。受粉親和性は、「ふじ」「つがる」「きおう」「さんさ」を花粉親とした場合、結実率は80%以上と高く、主要品種の花粉は親和性が高い。「岩手7号」を花粉親とした場合、同様に前述の4品種の結実率は90%以上と高く、主要品種に対して親和性が高い。
 2009年に「岩手7号」の種子親を「つがる」、花粉親を「プリシラ」と仮定した場合、SSR対立遺伝子は両親から矛盾無く遺伝しており、花粉親は「プリシラ」と判断した。黒星病抵抗性についての遺伝子解析からVf遺伝子は保有していなかった。また、接種試験から「王林」並みに黒星病に弱い。

【報文】ブドウ新品種「岩手3号(エーデルロッソ)」

大野 浩・田村博明・小野浩司・小原 繁・小野田和夫・佐々木 仁・三浦晃弘・鈴木 哲・藤根勝榮

 「岩手3号」は「ハニーレッド」の自然交雑実生で、1989年に交雑した。露地栽培において、開花期は「キャンベル・アーリー」より数日遅く、「紅伊豆」とほぼ同時期である。熟期は年次により差はあるものの「紅伊豆」よりやや早く、9月第4半旬頃である。果皮色は赤色で果房の大きさは350g程度、果粒は短楕円形で10g程度である。糖度は18~20%、酸は0.4~0.5g/100ml である。耐寒性は「キャンベル・アーリー」並に強く、裂果の発生は極めて少ない。
 このように、本品種は本県の気象条件に適し、栽培特性および果実品質が優れることから、品種登録出願申請を行った。

【要報】リンドウ切り花の収穫後生理特性と各種品質保持技術の効果

宍戸貴洋・関村照吉・平渕英利・市村一雄・湯本弘子

 長距離輸送に対応したリンドウ切り花の品質保持技術の開発を目的に、収穫後の生理特性と各種品質保持技術の効果について検討した結果、以下のことが分かった。

  1. リンドウ切り花の呼吸量はホウレンソウと同程度であり、比較的多いと判断される。
  2. リンドウ切り花はエチレン処理により、花の萎凋の促進、開花障害(花弁がしぼみ、開花しなくなる)がみられ、エチレン感受性が認められる。また、感受性には系統間差が示唆され、エゾ系品種で低く、種間交雑種やササ系品種で高いと考えられる。
  3. エチレン阻害剤の品質保持効果には系統間差があり、エゾ系品種では効果が認められず、種間交雑種では効果があり、ササ系品種では高い効果が得られる。エチレン阻害剤としては0.2mMSTSの効果が最も高い。
  4. 水分補給資材の品質保持効果は3日間の輸送では認められず、5日間の輸送では品種により、効果が得られる。
  5. STSの前処理時間は20~25℃、蛍光灯下において最低8時間の処理を行えば、効果が得られる。
  6. 最適な輸送温度は20℃では花の萎凋、褐変が促進され、0℃では葉の外観評価が下がるため、5~15℃が適すると考えられる。
  7. 試験を通じ、エチレン感受性、エチレン阻害剤の効果だけでなく、開花期間(収穫時に咲いていた花が萎凋するまでの期間)や開花速度などに著しい品種間差が存在することが分かった。

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