岩手県農業研究センター研究報告 第7号

ページ番号2004389  更新日 令和4年1月17日

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【報文】岩手県における水稲湛水直播栽培の現地調査から見た技術開発の方向と目標

田代勇樹

 水稲湛水直播栽培は、水稲作の省力・低コスト生産技術として期待されている。本県においては、依然として試行的導入に留まり、本格的に経営内に定着していないのが実態である。今後、普及定着を図るためには一層の技術開発が必要であるが、どのような経営を対象にして、どのような技術開発が必要であるかを明らかにする必要がある。
 そこで、県内で直播を導入している経営者に対して、直播導入の目的や本格導入のための条件等について面接調査を実施した。また、コスト面からも課題に接近するため、移植と直播のコスト調査も実施した。その結果、直播を導入する経営体は、機会費用追及型と限界利益追求型の二つに類型化される。前者は、直播が本来的に持つ省力化を期待するのに対して、後者は大規模水稲作経営層が多く、より技術の完成度を必要としている。このことは、直播の技術開発の目標として、移植を上回る限界利益が求められていることを示す。しかし、現地調査の結果から、限界利益が移植を上回る経営事例は見当たらなかった。
 本稿では事例をもとに移植と限界利益が等しくなる収量を示した。加えて、目標が達成された場合の経営モデルを示した。これらのことから、直播の技術開発は、限界利益向上を目標として、変動費を削減しつつ、一定の収量水準まで向上させることが必要となる。

【報文】水稲新品種「どんぴしゃり」の育成

田村和彦・木内 豊・中野央子・阿部 陽・佐々木 力・荻内謙吾・仲條眞介・扇 良明・小田中浩哉・高橋真博・高橋正樹・尾形 茂・神山芳典

 「どんぴしゃり」は1996年に旧岩手県立農業試験場県南分場(江刺市、1997年岩手県農業研究センター農産部銘柄米開発研究室に改組、2001年3月廃止、以下銘柄米研)において、「岩南7号」を母とし、「ふ系179 号」を父として交配を行い、その後代から選抜育成された品種である。奨励品種決定調査において中生の主食用良質良食味品種として有望と判断され、2005年2月に岩手県の奨励品種として採用された。
 「どんぴしゃり」の熟期は「あきたこまち」より遅く、「ひとめぼれ」より早い。稈長は「あきたこまち」、「ひとめぼれ」より短く、穂長は「あきたこまち」より長く、「ひとめぼれ」並である。稈の太さは「あきたこまち」、「ひとめぼれ」より太い“やや太”、穂数は「あきたこまち」、「ひとめぼれ」より少ない。草型は“中間型”である。耐倒伏性は「あきたこまち」、「ひとめぼれ」より強い“強”である。障害型耐冷性は“極強”で「あきたこまち」より優り、「ひとめぼれ」並である。玄米の外観品質は「あきたこまち」、「ひとめぼれ」並に優り、食味も「あきたこまち」並に優れる。
 「どんぴしゃり」の栽培適地は岩手県内の北上川流域の標高100~200メートル及び沿岸部の標高100メートル以下の約23,000ヘクタールであり、このうち特別栽培米生産を中心に3,000ヘクタールの普及が見込まれる。

【報文】寒冷地における水稲ロングマット水耕苗の育苗・移植技術

大里達朗・伊藤勝浩・高橋 修・及川あや・高橋良学・前山 薫・藤井智克・小田中温美・鶴田正明・後藤純子

 水稲生産の安定的省力軽労化技術として、旧農林水産省農業研究センターで開発した水稲ロングマット技術について、寒冷地における育苗・移植技術技術の確立と体系化を行った。本県のような寒冷地においては、育苗初期の加温、保温により日最低水温15℃以上を確保することで、概ね15~17日での育苗が可能である。
 また、巻き取り3日前に追肥を行うことで、稲体窒素濃度が高まり活着が促進されるなど、初期生育が安定化する。巻き取り苗は、7日程度の貯蔵が可能である。移植は、慣行土付き苗田植機に苗押さえ装置を装着することにより、欠株、損傷の少ない移植が可能であり、作業能率はヘクタールあたり2.3~3.0時間である。
 これらの技術を組み合わせることで、4月中旬からの播種と温度、施肥管理によって育苗装置を2回利用することができ、4.8ヘクタール規模の技術体系の組み立てが可能となる。その場合、育苗器、育苗培土などが不要になり、経営費は慣行を下回る。また、育苗と移植作業の省力化によって労働時間が短縮されるため、労働生産性(時間当たり所得)は慣行より高まる。

【要報】集約放牧と併給飼料の組み合わせによる前期乳用雌育成牛(2~6ヶ月)の発育効果

越川志津・茂呂勇悦・松木田裕子・山口直己・加藤英悦・菊地正人

 前期乳用雌育成牛を対象にペレニアルライグラス草地を用い、乾物摂取量、放牧草の栄養成分および草勢維持を考慮し、草高20cm以下で多回利用する集約放牧を組み入れた飼養管理を実施した。
 放牧草の生産量および栄養成分の季節推移ならびに牛の乾物摂取量を考慮し、併給飼料を必要に応じて給与することにより、牛の養分充足が維持され、体重、体高とも標準発育値と同等に推移した。
 以前本研究所では、中期・後期乳用雌育成牛の飼養管理についても体重・体高ともに十分な発育が得られたことを報告している。
 以上のことから、ペレニアルライグラス草地への集約放牧と併給飼料給与の組み合わせにより、十分な発育を得ることが可能であり、乳用雌育成牛の全期間において飼養管理技術の一手法として組み入れることが可能であることが示唆された。

【要報】マメ科被覆植物の草種と播種時期が飼料用トウモロコシの収量および雑草抑制効果に及ぼす影響

平久保友美・川畑茂樹・三浦賢一郎

 マメ科被覆植物をトウモロコシ播種の1ヶ月前~当日に時期をずらして播種した場合は、被覆植物の播種期にかかわらず十分な雑草抑制効果が得られず、トウモロコシの収量は除草剤処理と比較して著しく低収であった。
 また、トウモロコシ播種前年の秋に播種した場合は、9月26日以降の播種では越冬できず被覆植物は消滅し、9月20日播種では越冬したものの被覆の形成が不十分でトウモロコシは低収であった。
 トウモロコシ播種前年の6月に播種した場合は、トウモロコシの播種時に密なマルチが形成され雑草が効果的に抑制された。その結果、トウモロコシの収量は、除草剤を用いない場合より著しく多収となり、除草剤で雑草防除した場合と同等以上を示した。
 シロクローバを被覆植物とした場合の雑草抑制効果はフィア(中葉種)がカリフォルニアラジノ(大葉種)より高かった。

【要報】そばくず給与が豚の肉質に及ぼす影響

佐々木 直・阿閉博明・小松繁樹・吉田 力

 食品リサイクルの推進と豚肉の生産コストの多くを占める飼料費の低減、また、特色ある豚肉の開発をめざして、従来は産業廃棄物として処理されていた「そばくず」を市販飼料に混合、給与し、肉質等に及ぼす影響を調査した。
 その結果、DG、飼料要求率は各試験区間では有意差(P<0.05)は認められず、枝肉形質では肉色において、色彩色差計による明度Lおよび黄色度bで試験区間で有意差(P<0.01)が認められ、脂肪厚など他の形質では有意差(P<0.05)が認められなかった。
 NPPC(米国豚肉生産者協議会)による豚肉の脂肪交雑の度合を表す数値であるMSについては、有意差(P<0.05)は認められなかったが、そばくず50%混合区>そばくず50%混合区>対照区の傾向が見られ、ロース中脂肪含量では、そばくず50%混合区が対照区に比べて有意に高かった(P<0.05)。
 皮下脂肪の脂肪酸組成では、対照区に比べ、主要飽和脂肪酸が有意に増加し(P<0.01)、融点においてもそばくず混合区が有意に高くなった(25%区P<0.01、50%区P<0.05)。社団法人日本食肉格付協会による枝肉格付は、対照区と比べそばくず25%混合区、そばくず50%混合区とも大きな違いは見られなかった。
 以上により、そばくずを利用した、特徴ある豚肉の低コスト生産の可能性が見出された。

【要報】細断型ロールベーラの導入条件と評価

小田朋佳・増田隆晴

 細断型ロールベーラ体系の特徴として、タワーサイロへの詰込作業といった重労働がなく、さらに天候等の変化に対応した作業の中断が可能である。このことから、作業の軽労化が図られ、少人数でのトウモロコシサイレージの作製が可能となっている。さらに、ロール状での流通が可能であり、給与の運搬作業まで含めて軽労化される。
 以上によりトウモロコシサイレージの栽培から刈取り、作製、給与までの一連の作業が軽労化され、飼料用トウモロコシの作付面積の拡大が可能なことから、飼養頭数の増頭による経営規模の拡大が期待できる。このことは、飼料自給率の向上と堆肥投入量の増加にも繋がるものである。
 また、高密度で作製され、2次発酵による廃棄量が減少し、通年での高品質サイレージの給与が可能となり、嗜好性の向上と併せて、産乳量の向上と乳質の改善が図られることが期待される。
 なお、課題としては、ロール1個で0.5m2の接地面積を必要とするため、作業時にロールを一時保管する場所と、長期保存する場所を確保する必要があることである。

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