農作物技術情報 第2号 水稲(令和4年4月21日発行)

ページ番号2005008  更新日 令和4年4月21日

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水稲タイトル

  • 育苗の後半は気温がかなり高くなる見込みです。ハウス温度・水管理に注意しましょう。

極端な高温・低温条件、乾燥・過湿の繰り返しは、出芽不良や病害の発生を助長するの
で、バランスのとれた育苗管理を心がけましょう。

  • 田植えは苗の生育にあわせて、風のない天気のよい日を選びましょう。

田植適期の目安は、県南部5月10~20 日、県中北部・沿岸部5月15~25 日です。
活着と初期生育を促すため、田植えはできるだけ暖かい日を選んで行いましょう。

  • 春・秋作業の集中を避けるため、作期の分散に取り組みましょう。

直播栽培は、播種作業の省力化や作期の分散につながりますが、出穂が遅くなりすぎな
いよう、播種早限以降、早めの播種を心がけましょう。

1 健苗育成

(1)温度管理

ア 5℃以下の低温予報や霜注意報発令時は、ハウスを閉め、必要に応じて被覆資材で保温してください。
イ 晴天時は、朝早めにハウス・トンネルを換気し、日中25℃を超えないよう管理してください。
ウ 種子消毒に生物農薬を用いた場合(消毒済み種子を含む)は、消毒効果を安定させるため、硬化初期までは、10℃以下の低温を避けて管理します。

表1

(2)かん水

ア かん水は基本的に朝1回(9時ごろまでに)、床土に水が十分に浸透するように行います。
夕方のかん水は、床土内の暖まった空気を冷やし、ムレ苗の発生原因となるので避けてください。
イ 育苗の後半は、葉からの蒸散量が増えて乾きやすくなるので、かん水量を増やします。
乾き過ぎなどにより夕方のかん水が必要となる場合は、しおれを防ぐ程度としてください。

(3)追肥

ア 生育中に葉色がさめてきた場合や、病気の発生で生育が衰えている場合は追肥が効果的です。
イ 時期は、稚苗で1.5~2 葉期以降、中苗は2~2.5 葉期以降とし、施用は箱あたり窒素成分1g(硫安であれば現物5g)を水1~1.5L に溶かし、ジョウロ等で散布します。
ウ 葉が乾いた状態で散布し、その後水を散布して葉の肥料分を洗い流してください(葉焼け防止)。

(4)プール育苗の水管理

ア 1回目の水入れは、緑化終了から必ず2~3 日以内に行います(細菌病対策)。このときの水深は、水没による生育不揃いを防止するため、苗箱の培土表面より下の位置にしてください(図1 左)。
イ 2葉目が出始めたら培土表面が隠れる程度の水位を確保してください(図1 右)。
ウ 水温が30℃を超えたら、新しい水と入れ替えて温度を下げます。
エ プールの落水は、田植えの2~3 日前とし、極端に早い落水は避けます。(しおれ対策)

図1

(5)育苗期病害の対策

育苗期の細菌病類の発生に注意
高温(特に催芽・出芽時30℃、緑化~硬化初期25℃を越える条件)や過湿条件は発生を助長するので、適正な温度・水管理に努めます。
イ ばか苗は、見つけ次第抜き取ります。
抜き取ったばか苗は、ハウス周辺に放置せず、焼却するなど適切に処分します。
ウ 特別栽培米など、環境に配慮した稲作に取り組んでいる地域では、苗立枯などの病害に効果のある薬剤を使えないことがあるため、温度・水管理が特に重要です。
適度なかん水(乾燥と過湿を繰り返さない)を行うとともに、低温が予想される場合は、ハウス内が5℃以下にならないよう、保温資材等により温度確保に努める等の対策を徹底してください。
エ いもち病菌の感染を防ぐため、稲わら・籾がらは育苗施設付近に置かないようにします。

2 本田の準備

(1)畦畔等の補修

  • 畦畔の穴や崩落部は修復し、あぜぬりを実施します。
  • 深水管理(15m 以上)ができるよう、畦畔をかさ上げしておきます。

(2)有機物の施用

畑転換の履歴が長いほ場では、地力窒素(可給態窒素)が減少している場合が多いので、堆肥等の有機物を積極的に施用し、地力維持に努めてください。


(3)施肥

  •  基肥量は、地帯別・品種別の基準施肥量を基本に、例年の生育等を勘案して加減します。
  • 復元田初年目や基盤整備間もない圃場では、地力窒素量の発現が増加しますので、栽植密度を2~3割減らすとともに、基肥量を調節(1/2 程度に減肥する)します。

(4)深耕と丁寧な代かき

ア 耕深は15cm 以上を確保
深耕は、水稲の根域を拡大し、根の活力を後半まで維持することにより、気象変動への抵抗力を高める効果があります。
イ 丁寧な代かき

  • 残渣(わら,マイクロプラスチック等)の浮き上がりをおさえるため、土面が7~8割見える状態から作業します。
  • 還元害や表層剥離の発生をおさえるため、練りすぎに注意します。
  • 田面に凸凹がある場合は、高い部分から低い部分に土を引いて均平を確保します。(大区画水田では、レーザレベラによる均平が適しています)

3 田植えと水管理

(1)田植え

  • 田植えの適期・・・県南部5月10 日~20 日、県中部・北沿岸部:5月15 日~25 日
  • 田植え作業は寒い日や風雨の日を避け、できるだけ暖かい日を選びます。               ⇒ 苗活着の最適水温は、16~30℃の範囲で高いほど促進される

(2)植え付け深

  •  植え付け深は稚苗で2cm、中苗は2.5~3cm 程度                         ⇒ 植え付けが浅すぎると・・・・浮き苗が多くなり、植付精度が低下しやすくなる            ⇒ 植え付けが深すぎると・・・・分げつの発生が抑制される

(3)栽植密度の確保

  •  近年、コスト削減のため、栽植密度や植付本数を減らした圃場が増加しています(表2)。
  • 昨年は好天に恵まれ、早期に茎数確保できた圃場も多くなりましたが、低温年には安定した生育量が得られず、減収や品質低下に繋がる可能性があります。                           過去の経過も考慮し、安定生産できる栽植様式を選択してください。                             ⇒「銀河のしずく」等、穂数がとれにくい品種は18~21株/平方メートル(60~70株/坪)

表2

(4) 田植え後の水管理

ア 田植え直後・・・葉先が2~3cm 水面から出る位の深水管理とします(図2)
⇒ 植え傷みで苗の吸水力が低下しており、葉からの蒸散を抑えるために行います。
(田植え後、活着まで通常3~4日を要する)
イ 活着後・・・分げつ促進のため、2~3センチメートルの浅水管理とします(図2)

  • 初期生育をよくするため、昼間は止水、朝夕の短時間かんがいで水温・地温を高めます。
  • 気温が15℃以下の低温時は、葉先が出る程度の深水管理とします。なお、低温でも日照があり、風のない日は、日中は浅水にして水温の上昇を図ってください。

ウ 稲を健全に保つため、下記のような条件では、水の入れ替えを積極的におこないます(表3)

  • 藻類や表層剥離が多発する水田

アミミドロ:窒素・リン酸多、水温22~25℃
アオミドロ:リン酸多、低温・曇雨天、水温18~23℃、pH8.5~9
表層剥離:リン酸多、水温25℃付近、pH6~7

  • 水持ちが良すぎる場合(1回の入水で7日以上持つ水田)
  • 春先に稲わらや堆肥を多投したときなど、早期にガスが発生する水田

図2

表3

4 病害虫防除

(1)葉いもち防除

ア 早期発生の防止対策
育苗中に発病又は感染した苗の本田持ち込み、あるいは取置き苗での発生は、葉いもちの早期発生を招き、防除が後手に回りがちであるため多発につながりやすくなります。
このため、次の対策を徹底してください。

  •  採種圃産種子を使用し、種子消毒は確実に実施する(使用方法、注意事項厳守)。
  •  育苗施設やその周辺において、籾殻・稲わらを使用あるいは放置しない(図3)。
  •  種もみが露出しないよう、覆土は丁寧に行う。
  •  ラブシート・シルバーポリ等のかけ外しはこまめに行う(無加温育苗は注意)。
  •  苗は適期に移植する。また、苗いもちが発生したものは移植しない。
  •  取置苗はいもち病にかかりやすいので、補植後は速やかに処分する(図4)。

⇒ 取置苗に発病を確認したら、本田内の稲株を確認し、発生が見られる場合は直ちに茎葉散布を行う。

図3

図4

イ 適正な肥培管理
葉色が濃く生育量の多い稲は、いもち病にかかりやすくなります。基肥窒素は品種や施肥法(全面全層/側条、速効性/肥効調節型肥料、等)、例年の生育状況等を考慮して適正量を施用し、有機物も必要以上の多投は避けてください。
ウ 薬剤防除

  • 常発地では、予防粒剤による防除を確実におこなってください。
  • 高密度播種苗(播種量 乾籾250g/箱以上)移植栽培では、従来の予防粒剤の育苗箱施用(箱当たり50g)では、葉いもちに対して十分な防除効果が得られない場合があるので、専用の施薬機を使った側条処理、あるいは6月下旬の予防粒剤の水面施用などの方法で対応します。

(2)初期害虫防除(イネミズゾウムシ・イネドロオイムシ)

  • 育苗箱施用剤による防除が基本ですが、昨年広域一斉防除した地域では、今年の防除は不要です。

5 除草剤の効果的な使用

現在市販されている一発処理除草剤は、対象雑草が広く残効も長いものが多いので、散布遅れや漏水がなければ、通常1回の処理で十分です。
一方、例年雑草の発生が多い場合や、低温気象・冷水田などで雑草の発生が長期にわたる場合、シズイ・クログワイ等が多発する場合は、初期除草剤を使用したうえで、一発処理剤や中期剤、必要に応じ後期除草剤による残草処理と組み合わせる「体系処理」を実施します。
また、特別栽培米など、環境に配慮した稲作に取り組んでいる地域では、除草剤の使用回数に制限があるので、使用できる除草剤の効果を発揮させるための対策を十分に講じてください。

【除草剤をしっかり効かせるポイント】

  • 漏水防止対策を徹底する

ほ場の減水深が大きくなるほど、除草剤の効果が低下して雑草の取りこぼしが多くなり、残効日数も短くなります。床締めや畦畔の補修、丁寧な代かきなどの漏水防止対策を徹底してください。

  • ほ場の均平を確保する

除草剤は、散布後、土壌表面に分散して処理層を形成します。均一な処理層が形成されるよう、レーザーレベラやていねいな代かきの実施により、ほ場の均平を確保してください。

  • 使用適期を逃さないように散布する

雑草は、代かき後から発生が始まります(図5)。その年の気象により、雑草の発育の早さは異なるため、 農薬ラベルに記載された使用適期の範囲で、遅れないように散布してください。
なお、一発処理除草剤のラベルに記載されている使用時期の「ノビエ○.○葉まで」は、最高葉齢(最も生育が進んだ個体の葉齢)ですので注意してください。

図5

6 直播栽培技術(鉄コーティング湛水直播栽培)について

(1)品種の熟期及び播種期の選択

鉄コーティング湛水直播栽培は、稚苗移植栽培に比べ春作業の省力化が図られるほか、出穂・成熟期が遅くなることから、移植栽培と計画的に組み合わせることで収穫作業の分散が可能です。
同じ熟期区分の品種の場合、出穂は稚苗移植栽培に比べ7~10 日遅くなるので、作付品種は地域慣行の移植栽培用品種よりも1 ランク熟期が早いものを選択するとともに、播種早限以降、早めに播種をおこなってください(表4)。

表4

(2)施肥

速効性肥料による基肥+追肥体系のほか、専用肥料(緩効性肥料の配合)による一発施肥体系があり、本県向けの専用肥料として「鉄コー直播633」「直播用200」が利用できます。
おもな品種の施肥量は表5のとおりですが、ほ場条件(地力の大小や土質土性)によって、収量の過不足を生じる場合があるので、地域の移植栽培「ひとめぼれ」「あきたこまち」等の施肥量も参考に、適宜加減してください。

表5

(3)耕起・代かき

ア 均一な苗立ちを得るためには、ほ場の均平確保が重要です。
大区画ほ場であれば基肥散布前にレーザーレベラで均平を行い、レベラが入りにくい小区画ほ場の場合は代かき時の土引きにより均平を確保します。
イ 植代かきは雑草の発生を抑える必要があることから、概ね播種日の3~4 日前が適当です。
なお、落水後に硬くなりやすい土壌の場合は植代から播種までの期間を短くし、反対に軟らかすぎる場合は長くします(いずれも±1~2 日の範囲で加減してください)。

(4)播種前のほ場の状態

鉄コーティング種子は、土中に埋没すると苗立ち不良となるので(図6)、種子の埋没を防ぐため、播種直前のほ場は下記の状態にしておきます。
ア 散播(無人ヘリ・背負式動力散粒機)の場合
水深5~8cm 程度に湛水してから播種します。
イ 点播・条播(水田用多目的ビークル(多目的田植機))の場合

  • いったん落水します(落水のタイミングは、田植の場合より半日程度早くする)。
  • 播種直前に少量を手で試し播きし、種子が埋没しないことを確認します。

落水時の田面の硬さの目安は、1m高からのゴルフボール落下時の埋没深で概ね-2~0cmです(図7移植と同程度~やや固めの範囲)。

図67

(5)播種量の決定

ア 県内のおもな品種別の基準播種量及び、目標苗立ち数は表6のとおりです。
播種量の基準がない品種については、初めて取り組むときは乾籾換算で5kg/10a を基本とします。
苗立ち数が目標を下回る場合は、穂数不足で減収する場合があるので、必要量が確実に播種されるよう、播種機の調量設定を確実におこなってください。
イ 多目的田植機用播種機では、車速連動装置がついた機種であっても、田面の硬さや作業速度によって播種量の実績値が変動する場合があるので、実際に作業しながら再調量し、精度向上につとめてください。

  • 作業速度 ⇒ 高速作業になるほど播種量が少なくなる
  • 田面の固さ ⇒ 作土層が固めだとスリップしやすく、播種量が多くなる。

表6

(6) 本田初期の水管理(図8)

ア 播種と同時又は直後に、鉄コーティング湛水直播栽培に使用可能な初期除草剤を散布します。
以後3~4日間は除草剤の効果を安定させるため湛水状態を維持し、その後は止水状態のまま、自然減水とします。
イ 播種後8日目から本葉1葉期までの期間は、落水管理を基本とします。
落水管理をおこなうことにより苗立ち率を高めることができます。播種と同時、あるいは落水開始時に溝切りを実施し、落水ムラができるだけ少なくなるようつとめてください。
ウ 落水後に水溜まりがなくなり、亀裂が増えてきたら、一時通水(1日湛水→落水)を行います。
一時通水はできるだけ暖かい日を選んでおこなってください。なお、落水期間中に、鞘葉(発芽後、初めに出る白い葉)が萎れる場合がありますが、種子根が土中に伸びていて、不完全葉(緑色の葉)が枯れてなければ、苗立ちには問題ありません。
エ 出芽個体の半分以上で、本葉1葉が展開したら、再湛水し、鉄コーティング湛水直播栽培に使用可能な一発処理除草剤を散布します。

図8

(7) 雑草防除

ア 「初期除草剤」+「初中期一発処理除草剤」の体系処理を基本とします。
残草がある場合は中期除草剤による仕上げ防除を行います。
「直播水稲」に登録がない除草剤は使えませんので注意してください。
イ 直播栽培用除草剤のラベルに記載されている使用時期の早限「イネ〇.〇葉」は出芽個体の平均葉齢、晩限の「ノビエ〇.〇葉まで」は最高葉齢(もっとも生育が進んだ個体の葉齢)です。
ウ 鉄コーティング湛水直播は、種子が土壌表面に播種される「表面播種」のため、根が土壌表面に露出したり、ころび苗が発生する場合は、生育抑制などの薬害が強く出ることがあります。
落水出芽管理の実施により、根を確実に土中に張らせるようにしてください。
飼料用米や稲発酵粗飼料(稲WCS)では、農薬の使用に制限があります。
除草剤の選択については、最寄りの普及センター等に相談してください。

7 農薬の適正使用

  • 農薬の使用時は容器のラベルをよく読み、所定の散布量、散布時期、散布方法を厳守してください。
  • 除草剤は、ラベルに記載された止水に関する注意事項等を確認し、7日間は止水期間とします。

最後

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農林水産部 農業普及技術課 農業革新支援担当(農業研究センター駐在)
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