《ルポ・奥州》UAV(ドローン)とAI画像処理を活用した飼料用トウモロコシのクマ食害軽減に向けた新たな取り組み ~金ケ崎町和光地区~

ページ番号2003608  更新日 令和3年4月22日

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はじめに

金ケ崎町は県下有数の酪農地帯であり、和光・駒丘地区を中心に飼料用トウモロコシが多く作付けされ、クマなど野生動物による食害が地域の大きな課題となっています。

通常、電気牧柵を設置して侵入を防ぎますが、設置方法や設置後の下草処理管理不足等による漏電によりクマの侵入や食害を許してしまう事例が散見されます。また、漏電防止などの改善策を講じても、圃場面積が数haと大規模で、草丈が3mにもなる飼料用トウモロコシは、圃場内部の食害発生状況や被害の全容を地上から確認することができないため、食害防止策の効果を正確に評価することが困難でした。

そこで、電気牧柵の漏電管理技術の徹底と同時に、UAV(ドローン)空撮による被害状況の確認とAI(TWS注法)画像解析による精密な被害面積を算出して、これら食害防止対策の効果を正確に測定・評価し、農家へ周知することとしました。

注TWS法=Trainable Weka Segmentation法

活動経過

金ヶ崎町内の酪農家2戸の例年クマによる食害が発生する飼料用トウモロコシ圃場(2筆、8.6ha)を選定し、技術実証することとしました。

(1)漏電対策の実証(8月~10月)

【電気牧柵の設置時期、設置方法の適正化指導(5月~7月)】

これまでの電気牧柵の設置時期は飼料用トウモロコシ雌穂が乳熟期以降であったのに対し、雌穂が充実する以前(絹糸抽出期~水熟)の早めの設置を促しました。また、設置にあたっては電気牧柵ワイヤ最下段の地表からの高さを5cmから15~20cmに変更し、下草等の影響を受けにくい高さとしました。

【ライブライト(漏電監視機)の設置(8月)】

電気牧柵の漏電を感知し、ライトが点滅して知らせる「ライブライト」(写真1)を設置して、漏電を感知した都度、牧柵の下草処理を適宜実施するように農家へ指導しました。

【UAV空撮によるクマ等食害の発生状況確認(~10月)】

ライブライトの設置以降、飼料用トウモロコシ収穫時まで定期的にUAV空撮により食害発生状況を適宜確認しました。

(2)空撮画像のAI画像処理による精密・迅速な被害状況の把握と農家との共有

UAVで得られた空撮画像をAI画像処理(Trainable Weka Segmentation法)によって被害面積等を精密に算出し、実証効果の検討と被害実態を農家と共有しました。また、当該技術と得られた結果については和光地域の酪農経営体を対象とした研修会を開催して周知を図りました(写真2)。

写真1 ライブライト
写真1 ライブライト設置状況
写真2 粗飼料生産新技術研修会における講演(R3.2.3) 
写真2 粗飼料生産新技術研修会における講演(R3.2.3)

活動成果

電気牧柵設置方法の適正化や、設置後の漏電状況確認および漏電時の下草処理など総合的な適正管理を実施した結果、収穫時点におけるクマの食害程度は前年度と比べて1/2~1/7と大幅に軽減することができました(表1)。

また、実証効果の測定にあたっては、UAV空撮画像とAI画像処理を活用することで、これまで実現が困難であったクマ食害による被害状況の確認を随時、精密に、かつ短時間(1圃場当たり10分以内)で把握することができました(写真3)。

実証農家に対しては、被害状況の可視化が図られ、また、研修会を通じて実証結果を周知したことで、地域の生産者は獣害防止技術の重要性に対して一層理解が深まりました。また、UAVによる圃場調査の有用性が認識されたことで、新たにUAVを導入する生産者もおり、今後の普及が楽しみです。

表1 食害発生状況

写真3
(上左)R1年度空撮画像  (上右)R2年度空撮画像
(R1.9.6撮影)        (対策後、R2.9.16撮影)
   
(下左)R1年度AI画像処理 (下右)R2年度AI画像処理
(食害部(赤):43.7%)     (食害部(赤):6.0%)
注AI:TWS(Trainable Weka Segmentation)法による

写真3 空撮画像およびAI画像処理の例(W圃場)

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