《ルポ・大船渡》小さいけど「きずな」でかがやく産地へ〜大船渡・釜石・大槌地域〜

ページ番号2003313  更新日 平成26年6月27日

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月刊「農業普及」 2011年2月1日発行
ルポルタージュ産地・人を訪ねて2011年2月号

小さいけど「きずな」でかがやく産地へ
〜沿岸南部のピーマン生産者たちの取り組み〜

大船渡・釜石・大槌地域

写真:ほ場
 新規生産者のピーマンほ場(大船渡)

沿岸南部のピーマン栽培

大船渡農業改良普及センターは、大船渡市・陸前高田市・住田町(JAおおふなと)、釜石市・大槌町(JAいわて花巻)の5市町で活動しています。これら沿岸南部は農地が少ないことから、沿岸特有の夏期冷涼な気象を活かした土地生産性が高い品目を推進してきました。その中で大船渡市、大槌町にはピーマン産地が形成され、最盛期にはそれぞれ3.2ha、1.7haとなりました。現在ではどちらも1.0ha程度と少なくなっていますが、今、新たな展開が始まっています。

地域の「きずな」が産地づくりのキーワード

JAおおふなとでは平成21年までピーマン部会が無く、ピーマン生産者は地区ごとの野菜部会で活動していました。
大船渡市の合あったり足野菜生産部会では、農業農村指導士の古内嘉博さんがリーダーとなり、月1回生産者全員が集まって全てのほ場を巡回し、お互いにアドバイスし、励まし合い、生産向上につなげていました。合足地区の生産者のほ場はみんな近くにあり、歩ける範囲というのが良いところです。栽培終了後にも、懇親を深めながら次年度に向けた話し合いをする場を設けていました。地域の仲間同士の「きずな」づくりが、この集落のピーマン生産を守り、そしてリーダーを育んできたのです。

生産者の話し合いから部会結成へ

活動の活発な合足野菜生産部会でも、高齢化による栽培者の減少は避けられません。リーダーの古内さんが悩んでいたところ、JA江刺ピーマン専門部の取り組みを知り、「産地診断」を実施することにしました。
大船渡地域でピーマン栽培の盛んな地区から代表者7名が集まり、平成22年1月に2回、ピーマンについて話し合う場を持ちました。「ピーマン」という品目の産地化について生産者同士で話し合うのは初めてのことです。産地診断をきっかけに様々な課題について検討する中、「ピーマン部会を設立することが必要である」との意見が出され、その結果、平成22年5月にJAおおふなとピーマン生産部会が誕生しました。

写真:ピーマン部会設立総会
JAおおふなとピーマン部会設立総会(部会長)
写真:見学会
ほ場見学会を開催し、新規生産者の勧誘を行っている(大船渡)
写真:指導の様子
新規生産者への栽培管理指導(大船渡市)
写真:巡回の様子
合足地区のほ場相互巡回(大船渡市)

釜石・大槌地域でも生産者で話し合い開始

釜石・大槌地域でも、平成22年12月にJAいわて花巻遠野地域野菜生産部会東部支部(釜石大槌エリア)のピーマン生産者代表7名が集まり、ピーマン栽培について話し合いの場を設けました。まず、生産状況の数値データを確認しながら現状を再認識し、その上で簡易な「産地診断」を行い、その結果について意見交換を行ったところ、初めての話し合いにもかかわらず様々な話題が活発に出されました。今後も継続して話し合いの場を設け、改善のための活動につなげる予定です。

沿岸南部の技術確立に向けて

これまで、ピーマンの生産性向上に向けてトンネル栽培の推進や斑点病対策等の技術開発に取り組んできました。特に斑点病対策では資材消毒の効果や防除開始期の前進化による発病抑制など、明確なデータをもとに成果を上げてきました。
沿岸南部では露地栽培が主流のため、かん水の導入が遅れていました。しかし、安定生産と収益性向上には露地栽培でもかん水は必要です。そこで、平成22年に大槌町の生産者において、適正な水分管理及びかん水作業の省力化の実証を目的に、自動点滴かん水システム「水かけ当番コンパクト」の導入を行いました。その結果、省力効果、収量性ともに良好でした。自動点滴かん水システムは山間地の多い沿岸南部にとって非常に有効なシステムなので、今後の導入拡大による産地の再構築が期待されます。
また、JAおおふなとピーマン部会では、生産者の話し合いの中で施肥量低減について取り組むべきとの意見があ
り、施肥低減のための実証ほを設置しました。りん酸やカリの大幅な減肥でも生育に差がないことを実感でき、次年度以降の施肥改善が進むこととでしょう。

写真:検討の様子
新しい栽培技術について普及センターと生産者で検討(大船渡市)
写真:自動点滴かん水装置
自動点滴かん水装置の設置を行い、品質・収量の向上に取り組む(大槌町金沢)
写真:視察の様子
産地診断結果をもとに、組織づくりについて先進事例を視察(大船渡市)
写真:審査会の様子
大槌町では、ほ場審査会を行って技術向上を図る

新規参入者もがんばっています

今年は、大船渡市で2名、大槌町で1名新たなピーマン生産者が誕生しました。
新規参入した大船渡市の佐藤一郎さんのほ場は、沢の最上流部に位置する急勾配で長年使われていない田んぼでした。植え付けまでは、雑草を3日がかりで刈り払い、刈り払った草を搬出し、何度も耕耘し、大船渡では必須のシカ網の整備をするなど大変な苦労でした。それでも10a、約1,200本のピーマン苗を植え付けできました。
今年の新規参入者を見ると、大事なことは夢と希望と仲間がある産地づくりであり、それができればどんな困難な状況でも栽培者は増えてくるものと実感しました。

小さいけど、かがやく産地へ

沿岸南部では、夏季冷涼・冬季温暖な気象を活かすために様々な品目が導入されてきました。その中でピーマンは目立たなくとも、安心して栽培を継続できる品目として定着しています。特徴的なのは、大船渡市では合足地区や日頃市地区、大槌町では金沢地区と小鎚地区のように、小さな地域に寄り添うように作付けされていること。これは、周りの農家とのつながりが、栽培を継続することや困難な状況を克服する力になっているためと思います。普及センターではこの「周りの農家とのきずな」を大事にし、これからの産地づくりに活かそうと考えています。
大船渡市と大槌町では、生産者自身の手によるピーマン産地の再構築を始めようと動き出しました。それぞれ出荷する農協箱となりますが、両地域とも生産者同士のきずなを大切にして『小さいけどかがやく』産地づくりを目指しています。

(大船渡農業改良普及センター)

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