《ルポ・二戸》高原の風をりんどうに乗せて 〜JA 新いわて奥中山花き生産部会〜
ルポルタージュ産地・人を訪ねて(2010年2月号)
高原の風をりんどうに乗せて
JA 新いわて奥中山花き生産部会
地域の概況
JA新いわて奥中山花き生産部会は、二戸市浄法寺支部と一戸支部の2つからなり、花き生産農家95戸から構成されています。
奥中山地域は、北上山系・奥羽山系の北端部に位置する中山間地で、夏季冷涼な気象を活かしてりんどうを中心に花の栽培が行われています。主力品目のりんどうの他にも、スプレー菊、小菊、ゆり等が生産されています。
この地域は、昼夜の寒暖の差がある気象のため、花色が鮮やかに発色するのが最大の特徴です。
現在、りんどうを生産している農家戸数は86戸、栽培面積は約28haと決して大きくはありませんが、産地の活性化のため様々な取り組みを行っています。
関係機関の支援体制と取り組み
二戸地方では園芸品目の生産振興活動の柱として、「カシオペア園芸産地拡大アクションサポートセンター」を設置し、関係機関が共通の認識の下で活動しています。
サポートセンターの大きな特徴は、野菜・果樹・花きの代表的な品目で地域を代表する生産者を「実践技術トレー
ナー」として任命し、各品目の新規栽培者を始めとする生産者の支援活動を関係機関と一緒に担う「トレーナー制度」を取り入れていることにあります。
主な活動は、市町村単位で各地域に即した課題解決への取り組みです。奥中山地域の特徴は、一戸町と二戸市浄法寺町が合同で行っているところにあります。
支援活動は個別カルテを用い、新規栽培農家と規模拡大志向農家に重点を置き、新規栽培農家へは2年間の濃密技術指導を行います。
規模拡大志向農家へは課題の抽出とその解決支援に重点を置き、冬季間に実施する面談では、販売実績検討と併せて共に解決策を協議しています。
トレーナー制度の活用
奥中山地域には、3名の花のトレーナーがおり、指導会でのアドバイスを始めとして様々な機会に活動をしていま
す。なかでも新規栽培者への支援には、絶大な効果を上げています。
りんどうは採花のタイミング等の収穫調製技術を会得することが難しく、新規栽培者にとっては最大の難関になります。
この採花タイミングの伝授や、出荷の際の梱包方法のコツなど、なかなか理解しにくい内容について、実践家ならではの技術を丁寧に惜しげなく披露しています。
また、トレーナーのほ場はいつでも見学可能となっており、栽培上の疑問点や困った点を解決するために新規栽培者が足を運びやすい環境になっています。
新しい技術を地域に導入する際には、トレーナーほ場への実証展示ほ設置の取り組みも行っています。
21年度は、ブロイラー産業が盛んな二戸地方ならではの地域資源であり、野菜栽培で活用が始まっている「鶏糞焼却灰」を使用した施肥コスト低減栽培の実証を行っています。
また、二戸地方で初めてとなる「りんどう」でのエコファーマー認定もトレーナーを軸に進められています。
このように、花の生産においても環境に配慮した取り組みが、部会から二戸地方全体へ波及していくことが期待されています。
労働力不足解消のために
りんどうは萌芽や盆・彼岸前に出荷が集中してしまうため、芽を間引く株仕立て作業と採花や出荷調製作業の労働力が不足することがあります。これがネックとなり、規模拡大に踏み切れない生産者がいるのも見逃すことができない課題です。
そこで、一戸支部では独自の取り組みとして、一戸町シルバー人材センターとの共同事業で「りんどう作業ヘルパー」の育成に19年度から取り組んでいます。
トレーナーを講師に、春の株仕立て作業と開花時期の採花・出荷作業の講習会を実施し、毎年新しいヘルパー候補の養成を行っています。
これらの講習会は、トレーナーのほ場で実技を交えて行われ、ヘルパー育成に加えて新規栽培者の技術習得の場であると同時に、経験のある農家には基本技術を見直す良い機会となっています。
さらなる飛躍のために
生産者の栽培意欲の向上と所得向上、さらには奥中山高原ブランドのアピールをねらいに、オリジナル品種作出の取り組みを平成19年から始めています。平成20年には、(社)岩手県農業公社の研究グループ活動事業を活用して、「いわて奥中山りんどう育種研究会」を発足しました。
オリジナル品種育成への取り組みは、他の地域に比較すると早いとは言えません。
しかし、県内各地の民間育種家への視察研修を積極的に行い、育種の進め方やその考え方について学び、地域に合った方法やどのような品種が必要とされているのかをイメージしながら進める等、後発ならではの強みを活かして活動を始めています。
現在は、会員のほ場を中心に有望株の選抜とその増殖を進めています。
育成方法は、交配育種のほか、地元の県立一戸高校の協力を得て、生徒の生物工学実習の一環として有望株の組織培養にも取り組んでいます。
一戸高校との取り組みで、平成19年から培養増殖された待望の苗を21年の春に、会員のほ場と高校の農場に定植しました。数は少ないものの、順調な生育をしており、来年以降が期待されます。
研究会としての取り組みは、まだ始まったばかりで、時間はかかると思われますが、この奥中山地域に根ざしたオリジナルりんどうの花が見られることを願っています。
(二戸農業改良普及センター葛巻美知子)
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