《ルポ・宮古》やませがもたらす色鮮やかなりんどう産地 〜JA新いわて宮古花き生産部会〜
ルポルタージュ産地・人を訪ねて 2010年7月号
やませがもたらす色鮮やかなりんどう産地
JA新いわて宮古花き生産部会
産地の概要
JA新いわて宮古花き生産部会は、平成20年のJA合併を契機に、それまで旧市町村単位にあった部会を統合して設立されました。
今年度からは、岩泉地域(岩泉町・田野畑村)の花き生産者6名を加え、より広域の部会になり部会員は51名を数えます。
主な出荷品目は、りんどうで、その他にワレモコウ、スプレーギク等の生産が行われています。
当地域のりんどう栽培は標高100m未満から400m程度までのほ場で行われていることから、需要期出荷に向けて標高に応じ、県育成品種や民間育成品種を組み合わせて作付けしています。
産地としての規模は小さいながらも、夏季のやませ等による冷涼な気候により、色鮮やかなりんどうが生産されています。
ワレモコウについても標高差を利用した長期出荷が可能な産地として市場からも期待されています。
共同選花による品質の向上
宮古地域のりんどう生産は、広い地域に生産者が点在するため出荷規格の目揃い等の連携が取りにくく、品質を揃えることが大きな課題です。そのような中、集落単位で共同選花を行うことにより品質向上や経費の低減を図っているグループがあります。
その一つである山田町の荒川リンドウ協議会は、平成3年に設立され、育苗・防除・調製作業を共同で行っていましたが、現在では調整作業のみを共同で実施しています。
共同選花により、出荷品質が安定し、固定客の獲得につながったことに加え、調製機械の導入費用や労働時間を低減することができました。
さらに、平成17年には、宮古市田代地区にも共同選花を行うグループが組織され、品質の向上・安定化が図られています。
バケット出荷の取り組み
当地方は、県内の他のりんどう産地と比較すると、出荷ロットが小さく、またオリジナル品種を持たないなど競争力が弱いため、出荷品質を向上させることで産地評価を高めていくことが不可欠です。
りんどうは、段ボールによる乾式輸送が主流ですが、宮古地方から首都圏への輸送は他産地と比べ時間がかかるため、箱内で濡れや蒸れによる品質低下が問題となっていました。
そこで、より日持ち性を高めるため、りんどうでは事例の少ないバケット(バケツ)による湿式低温輸送に取り組み、他産地との差別化を図っています。
これまで部会や普及センターでは、バケット輸送における到着後の品質調査、ニーズ調査などを実施し、昨年度からは、顧客を絞った予約相対販売を行うことで販売単価の向上が図られるようになりました。
これまでの取り組みの中で、購入者からは出荷量の拡大を要望されているため、今年度はバケット出荷量を拡大し、部会全体の販売単価向上につなげる計画です。
補完品目との組み合わせによる所得向上と特色ある産地づくり
花き部会では、農作業が一段落する初冬に、市町村、JA、普及センターが一緒になり、全ての部会員を巡回し個別に実績検討を実施し、各部会員の1年間の販売実績や栽培管理の反省点をもとに、今後の目標や改善事項を確認しています。
今後の所得向上に向けては、りんどうに加えて補完品目の導入が重要です。補完品目として、現在、ワレモコウと小球性アリウムを選定し、個別巡回を通じてその推進を図っています。
宮古地方では、およそ10年前からワレモコウの栽培が開始され、昨年度は生産者8名、約30aの栽培となっています。
出荷先は主に首都圏で、現在では市場からの需要が定着し、安定した販売となっています。
今年度は新規栽培者4名が加わり、栽培面積は40aとなる見込みです。
小球性アリウムについては、濃青色で芳香性がある新品種で、昨年度から試作しています。自然開花期が露地で6月中旬頃の品目で、りんどうとの組み合わせが可能な省力的な品目です。
今年度の作付けは20名を確保し、来年度から本格的な出荷となります。全国的にも栽培事例が少なく、有利販売により産地拡大にも弾みがつくことが期待されています。
共同選花作業により均一な品質で出荷できます
関係機関のサポート体制
当産地においても、生産者の高齢化による部会員数と作付面積の減少が大きな課題です。
このような中、宮古地方農業振興協議会では、昨年度から、「園芸入門講座」を定期的に開催し、新規栽培者の確保に取り組んでいます。
普及センターでも、新規就農志向者を対象とした「農業入門塾」を今年2月に開催するとともに、5月からは農業実習や現地研修を中心とした「農業実践塾」を開催するなど、園芸品目の新規栽培者の確保・育成を重点的に進めています。
また、宮古市では今年度から、生産者の農業経営・栽培技術などについて指導を行う農業相談員を設置し、細やかな指導体制を整備しました。こうした活動が新たな花き栽培者の増加につながることが期待されています。
今後の課題
この地域は花き生産にとって恵まれた気象状況である一方、りんどうにとっては、積雪が少ないため凍霜害を受けやすく、また県内各地と比べてもこぶ症の発生ほ場が多いことなど課題も山積していますが、創意工夫をこらした取り組みを進めながら、特色ある産地づくりを目指していきます。
(宮古農業改良普及センター薄衣利幸)
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