《ルポ・久慈》水田を活用した新たな営農システムを〜耕畜連携と省力・低コスト化技術導入の取り組み~
ルポルタージュ産地・人を訪ねて 2010年9月号
水田を活用した新たな営農システムを
〜耕畜連携と省力・低コスト化技術導入の取り組み〜
久慈地域
久慈地域の稲作の現状と課題
久慈地域の農業における稲作の比重は耕地面積、栽培農家数等において重要な位置を占めていますが、やませの影響による作柄の不安定性や米価の低迷、資材費の高騰等により稲作の収益性は低く、農家経営は厳しい状況にあります。
当地域では農業所得確保のため、園芸品目との複合経営を行っている農家が多く見受けられますが、経営規模の拡大を図ろうとすると、機械・施設等への投資の増大や品目間の作業の競合が生じ、大きな負担となっています。
こうした現状から、地域農業の核となる担い手農家からは、地域事情に即した省力的で低コストな水田営農システムを新たに確立することが求められていました。
地域の特性と耕畜連携
久慈地域は牛、豚、鶏等の畜産が盛んな地域でもあり、飼料に対しては非常に大きな需要があります。
近年は、飼料の自給率向上と農地の有効活用の観点から稲発酵粗飼料(稲ホールクロップサイレージ 以下、稲WCS)や飼料用米の利用が注目されており、地域内の肉牛肥育農家や養豚・養鶏業者からも、利用に前向きな意見が出されていました。管内の市町村も耕畜連携に対しては積極的で、久慈市では稲WCS、洋野町・野田村では飼料用米の生産に対する独自の支援を行う動きがありました。
また、畜産農家からはたい肥が大量に排出されるため、これらの有効活用も課題となっていました。
そこで、久慈農業改良普及センターでは、平成21年度に「耕畜連携プロジェクトチーム」を設置し、省力・低コスト化技術を導入したWCS用稲の生産体系確立を図るとともに、耕種(稲作)農家と畜産農家との連携や、水田を活用して生産した飼料とたい肥等の有機物の需給モデルについて検討しました。
革新技術を導入した飼料生産
久慈農業改良普及センターでは、20年度から「ロングマット水耕苗移植栽培」(以下、ロングマット苗栽培)の実証に取り組んでいましたが、これに加えて、21年度には「水稲湛水直播栽培」の実証も行いました。
湛水直播栽培は、育苗のための資材や労力を必要としないため、大規模な稲作農家には有効な技術です。しかし、やませによって春先から冷涼な気候となる地域では発芽やその後の生育に必要な温度が確保できるか不明だったため、久慈地域での取り組みは本県沿岸部では初の試みとなりました。
ロングマット苗栽培も苗の軽量化や育苗にかかるコストの低減化、並びに通常の箱育苗の半分程度の日数で移植可能なことから、直播栽培、箱育苗移植栽培と組み合わせて導入することが有効と考えられました。
そこで、21年度は久慈市と連携し、湛水直播栽培およびロングマット苗移植栽培について、播種や移植の時期および品種を変えながら、WCS用稲と主食用稲の栽培実証を行い、久慈地域に適した「栽培法・作期・品種・稲の用途」を組み合わせた生産技術モデルとして組み立てることに取り組みました。
また、地域内の担い手農家や関係機関の担当者を対象に、栽培管理作業の実演や生育の状況を確認する研修会を開催し、技術の普及と実証結果等の情報共有化を図りました。
農家らは、見慣れない直播栽培やロングマット苗栽培の様子に、初めは半信半疑の表情を見せていましたが、順調に生育が進むにつれ、革新的な技術の導入に対する期待感がうかがわれるようになりました。
9月には稲WCSの収穫作業の実演会も開催し、畜産農家の牧草用機械による収穫作業と、稲WCS専用収穫機の作業デモを行いました。
生産された稲WCSは3か月程度発酵させた後、成分分析と牛への給餌実証を行い、通常のサイレージと遜色ないことが確認されました。給餌した畜産農家からも、利用の継続について前向きな声が聞かれました。
このように、水稲の用途を広げることで久慈地域への革新技術の導入メリットを見出すことができました。
また、稲WCSの生産技術も実証され、稲作・畜産農家の双方が、水田を活用した飼料生産の可能性を感じました。
担い手農家による研究会発足
22年度は地域振興推進費により「久慈地域水田営農システム確立事業」を創設し、稲WCSや飼料用米生産のための実証試験を実施しています。事業実施主体として、省力・低コスト化技術の導入や、耕畜連携等をテーマに検討する「久慈地方低コスト水田営農研究会」を、担い手農家(稲作・畜産)や市町村、JA等関係機関を構成員として設立しました。
昨年度と同様の水稲湛水直播栽培やロングマット苗栽培の実証に加え、鶏ふんや豚ぷんを利用した飼料用米栽培法についても試験しており、生産コスト低減や耕畜連携に向けて、より幅広い成果が期待されています。
今年度は、研究会の主催で5月に湛水直播栽培およびロングマット苗栽培に関する研修会を、6月にはロングマット苗の育苗に関する研修会を開催し、担い手農家らが作業実演等を熱心に見学しました。研修会が開催されるたびに、新技術や耕畜連携に対する参加者の理解が深まっており、技術の導入に向けた具体的な質問や意見も聞かれるようになってきました。
耕畜連携による産地づくり
このように、久慈地域では革新技術の導入や耕畜連携を核とした新たな水田営農の仕組みづくりが始まっています。
久慈農業改良普及センターでは、従来の食用米の稲作に加え、このような取り組みを支援し、地域の特性を活かした産地づくりと農家の所得向上を目指していきます。
(久慈農業改良普及センター菅 広和)
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