岩手県蚕業試験場要報 第14号(平成3年3月発行)

ページ番号2004925  更新日 令和4年10月14日

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短繊維用原料繭(太繊度蚕品種)の超低コスト生産技術

佐藤正昭・壽 正夫・鈴木繁実・伊藤眞二・若澤 貢・橋元 進・宍戸 貢・及川直人・藤沢 巧・長岡正道・阿部信治・高田勝見・河端常信

 新規用途用として育成された太繊度繭品種を飼育し、太繊度用原料繭を安定的に低コストで生産するための適正な飼育環境条件、上蔟管理、生産繭の評価法などについて試験を行い、太繊度用原料繭を超低コストで生産可能な体系を策定し検討した。

  1. 太繊度品種の化蛹歩合は対照品種に比べやや低いが、繭糸繊度は3.61~4.21デニールと特徴があり、とくに春蚕期の太Bは安定的に4.0デニール以上を保持した。太繊度品種は、繭重が重く多収性であるが、繭糸長短く、生糸量歩合、解舒率、小節点がやや低い特徴を示した。
  2. 太繊度品種の人工飼料育適合性は良好であるが、対照品種に比較し毛振率・減蚕歩合がやや低く、3眠体重がやや軽い傾向であった。
  3. 太繊度品種の核多角体病・黄きょう病感染抵抗性は、対照品種と比較して有意な差はみられないが、やや低い傾向にあった。太Aの5齢起蚕児を高温条件で36時間絶食させると、軟化病症状を呈して高率で死亡した。
  4. 太Bは、低温・高温多湿条件で飼育しても化蛹歩合は対照品種と大差なかった。しかし幼若ホルモンの使用により低下する事例もみられた。
  5. 5齢前・中期、とくに中期(4~6日目)に給桑量を30%増加すると、太繊度化に有効であった。
  6. 太繊度品種は県内現地農家でも十分飼育可能で、太繊度品種の特性が発揮されると思われたが、高温蚕期の初秋・晩秋蚕期の飼育では環境良化が肝要である。
  7. 超多収桑園の桑収量は、標準区に比較して増肥液肥区・増肥固形区が多く、桑品種ではあおばねずみが多収であった。
  8. U字型蚕座の利用で、機械による廃条処理、無除沙飼育が可能になった。密植束給桑は普通桑給与に比べ56%程度、無除沙・機械による廃条処理は慣行の手作業に比べ54%省力し、作業強度も軽減した。以上の技術を体系化し経済評価したところ、従来の体系に比較し1日当たり家族労働報酬で133%上回った。
  9. 太繊度品種の繭を繰糸検定したところ、ほぼ基準の4.0デニールを満たしていたが、高温蚕期にはやや細くなる傾向であった。

苗木横伏せによる桑園造成法の確立試験 -造成当年の発条数-

土佐明夫・直井利雄・小林 亨

 苗木横伏法における植付け当年の発条数の確保により、安定した普及技術とする目的で、植付け約1か月後に覆土する横伏80cm(条長)区、同50cm区及び普通植区を設け、植付け当年における発条数の問題を普通植区を対照に検討を行ない次の結果を得た。

  1. 苗条を土壌面に平行に植付けた横伏せ用の苗は条の各位置から適当に発芽した。
  2. 植付け約1か月後に覆土したが9月の調査によれば活着率はいずれも100%を示した。
  3. 苗1本当たりの発条数は80cm区が4.8本と最大であり、この値は横伏50cm区の約1.5倍であった。 なお、普通植区は2.5本であった。
  4. 畦長1メートル当たり総条数は普通植区が最大で、横伏50cm区が最低であった。しかし、原苗の乾物増加量は横伏80cm区が最も大きく、約3倍に達した。
  5. 以上の結果から判断して、横伏80cm区は実用的な方法になるものと推察される。

古条さし木密植桑園の生産性 -造成15年目以降の生産性-

壽 正夫・及川直人・藤沢 巧・菊池宏司

 造成25年目のさし木密度の異なる古条さし木密植桑園(1)3本千鳥挿(4,999本/10アール)、(2)4列挿(6,666本/10アール)、(3)6列挿(15,000本/10アール)の実態と年次別収量の推移を調査し、その生産性について普通植桑園(925本/10アール)と比較検討した。

  1. さし木密度の高い区ほど枯死株が多いが、いずれの区も苗木植密植桑園の栽植目安本数である2,500本以上の株は生存している。
  2. 収穫量は、さし木密植各区とも普通植より多く、10アール当たり新梢・葉量で1,800kg(繭換算96kg)以上が得られた。
  3. さし木密植の年次別収量の推移は、普通植と比較して、造成16・17年目までは同程度であり、18年目以降はさし木密植が多収傾向にある。しかし、この収量差は、普通植の収量減少による相対的なものと思考した。

 これらのことから、栽植密度は桑園の使用年限に直接影響するものではなく、密植桑園の使用年限を普通桑園並の生産水準とすると、従来から考えられている使用期間より長期となることが示唆された。

桑枝軟腐病の発生生態の解析

宍戸 貢・鈴木繁実・小澤龍生

 密植桑園で桑枝軟腐病の突発する事例が多く、発生実態を調査したところ、前年度の中間伐採と関係が深く、桑の抵抗反応を支配する要因を検討する必要のあることが明らかとなった。そのため、中間伐採の程度や時期などと被害の関係を調査し、抵抗反応との関わりを解析した。

  1. 中間伐採の程度は本質的な桑の抵抗反応の強弱とは関係がない。しかし、深切りの場合、被害率としては総量が小さいことから高くなり、残葉量の関係から抵抗反応の低下する恐れが大きい。
  2. 中間伐採で桑の抵抗反応の低下する時期があり、枝条伸長停止期前約20日間は危険が大きい。抵抗反応の低下の程度は残葉量で決まり、全摘葉に近い状態の伐採では枝条伸長停止期前10~15日頃の抵抗反応が最も低下する。
  3. 抵抗反応の発現に関与する物質は光合成で産生され、生長点の伸長で消費されるものと思われる。9月の桑では枝条皮層部に蓄積されるが、中間伐採の時期や残葉量、再発芽の状況等で蓄積量が決まり、抵抗反応の強弱が定まると考えられる。
  4. 桑枝軟腐病菌は比較的高温域を好む菌であり、9月の中間伐採の切口に定着した状態を想定すると伐採の早いほど増殖速度が大きい。したがって、桑薬の抵抗反応が低下した場合には伐採時期が早いほど被害が大きくなると考えられる。

クワシントメタマバエ越冬世代成虫の発生時期予測の試み

鈴木繁実・宍戸 貢

 クワシントメタマバエ越冬幼虫の加温飼育を行い、その羽化消長から野外における越冬成虫の羽化時期を予測し、防除適期を判定するために2、3の調査を行った。
 得られた結果の概要は次のとおりである。

  1. 桑園の株間から表層土壌とともに採集した越冬世代を加温飼育したところ、50%羽化日までの発育速度(y)は、15℃から27℃の間では飼育速度(x)と正の高い相関が認められた。50%羽化日までの発育速度は、次の回帰直線式で得られた。
    1)5月1日採集: y=0.00212x -0.00588 (r=0.974**)
      発育零点: 2.8℃
      有効積算温度: 474.5日度
    2)5月29日採集: y=0.00834x -0.10034 (r=0.914*)
      発育零点: 12.0℃
      有効積算温度: 122.4日度
  2. 越冬世代の発育零点を明らかにするために、発育零点を2℃から13℃まで1℃刻みで仮定し、各50%羽化日までの有効積算温度を求めた。それぞれの発育零点における有効積算温度の変動係数は5月1日採集土壌では4℃で最小となり、5月29日採集土壌では11℃で最小となった。
  3. 採集時期の早晩即ち本種の発育ステージの違いによって、発育零点に大差があり、5月1日から5月29日までの間に生理生態上の一大転換点の存在が示唆された。
  4. 加温を開始してから50%羽化日までの日数と発育零点から有効積算温度を求め、毎日の羽化数(累積)を野外の有効積算温度(日平均気温-発育零点)と対応させてプロットし、野外における羽化消長を推定した。

限性蚕品種の雌雄間における繭糸質の特徴

佐藤正昭・壽 正夫・若澤 貢

  1. 限性蚕品種の食下量・消化量調査をしたところ、繭層生産効率はいずれの品種も雌に比較し雄が上回る傾向を示した。
  2. 限性蚕品種を飼育調査したところ、普通蚕品種に比較して繭層重、解じょ率に雌雄逆転現象がみられた。これは限性蚕品種の雌に転座障害が残っていることを示していると思われた。
  3. 限性蚕品種を雌雄別に繰糸試験したところ、雌に比べ雄が生糸量歩合、繭糸長、繭糸繊度等で非常に優れていた。
  4. 限性繭品種の繭は、雌雄混合の場合に比べ雌雄分離した方が繭重の偏差が小さくなることから、雌雄分離して繰糸することはより均一な繭糸を得る方法と思われた。

天蚕繭の安定生産技術 第3報 天蚕の採卵

橋元 進

 天蚕卵の効率的安定生産技術を確立するため、天蚕の交尾率の日別推移を調査し、気温との関係から、採卵の適期について検討するとともに、交配方法と産卵状況についての調査を行い、次の結果を得た。

  1. 天蚕の交尾率は8月中は日別の変動が大きく一定の傾向を示さなかった。9月は日別変動があるものの後旬ほど向上する傾向が認められ、第6半旬に低下した。
  2. 交配翌日から3日間の最低気温が13~17℃の時期に高く安定した交尾率が得られた。
  3. 寒冷沙張りのケージを用いた集団交配では、産下卵の正常卵割合から推定して個別交配と比べ交尾率には大差なかったが、1蛾当たりの産卵数が少なかった。
  4. 7月31日~10月16日の期間に交配した交尾蛾の産卵数は1蛾当たり227粒であった。
  5. 以上の結果から実用的な天蚕卵生産技術について考察し、採卵用天蚕の飼育管理スケジュールを作成した。

低コスト人工飼料で飼育した広食性蚕の核多角体病感染抵抗性

鈴木繁実

 低コスト人工飼料で飼育した広食性蚕の核多角体病ウイルスに対する感染抵抗性について検討した。得られた結果の概要は次のとおりである。

  1. 人工飼料育蚕のNPVに対する感染抵抗性を各齢期毎に調べたところ、蟻蚕、2齢起蚕、3齢起蚕、4齢起蚕では桑葉育蚕と有意な差が認められなかったが、5齢起蚕では桑葉育蚕より感染抵抗性が低下した。
  2. 1~3齢人工飼料育蚕の4齢起蚕のNPV感染抵抗性は桑葉育蚕と大差ないが、1~4齢人工飼料育の5齢起蚕は桑葉育蚕に比べてNPV感染抵抗性が低かった。桑葉育蚕と同じ水準まで抵抗性が到達するには桑葉育移行後約48時間を要した。
  3. 人工飼料育蚕を起蚕直後から絶食処理した場合のNPV感染抵抗性は、2齢起蚕、3齢起蚕及び5齢起蚕では24時間の絶食で、4齢起蚕では48時間の絶食で低下した。

蚕室蚕具消毒剤としてのジクロルイソシアヌル酸ナトリウムの効果並びに蚕に及ぼす影響

鈴木繁実

 ジクロルイソシアヌル酸ナトリウムの蚕室蚕具消毒剤としての効果並びに蚕に及ぼす影響等について検討した。得られた結果の概要は次のとおりである。
 
1 糸状薗に対する効果

  1. 浸漬による分生胞子殺菌試験(クリーン条件)ではこうじかび病菌・黄きょう病菌に対して3,000倍液・10分処理で殺菌効果が認められた。
  2. 材内侵入こうじかび病菌の浸漬殺菌試験では、500倍液の30分処理でも効果が認められなかった。
  3. こうじかび病菌及び黄きょう病菌に対して、1,000倍液を1平米当たり1リットル散布消毒したところ、ホルマリン2%+アリバンド500倍の混用液と同等以上の効果が認められた。

2 ウイルスに対する効果
 NPVは100倍液の30分間の浸漬処理で不活化されなかった。
 
3 蚕に及ぼす影響

  1. 浸漬消毒した催青容器を供用して、催青による蚕卵孵化への影響を調べたところ、250倍液浸漬でも影響が認められなかった。
  2. 散布消毒した蚕室内での飼育では、虫質・繭質に全く悪影響が認められなかった。
  3. 250倍液及び500倍液を5齢幼虫に蚕体散布しても、中毒症状がなく、虫室・繭質への悪影響もなかった。

[資料]交雑種比較試験成績、桑の発芽・発育調査(付・1990年気象調査表)

佐藤正昭・藤沢 巧・伊藤眞二

(摘要なし)

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