岩手県蚕業試験場報告 第9号(昭和52年3月発行)

ページ番号2004910  更新日 令和4年10月12日

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古条さし木密植桑園に関する研究

菊池宏司

 著者は、1965年以来11年間にわたり、密植桑園の造成法について研究し、実用化技術としての見通しを得た。
 その方法は、苗木を用いず、桑の前年生の枝条すなわち古条を用いて、直接本圃にさし木し造成するものであり、10アール当りおおむね5,000~15,000本を栽植するものである。
 造成労力は10アール当り64時間を要したが、これは苗木を植付ける普通植桑園の約2倍であった。管理労力は、2年目の春切桑園で18.4時間、夏切桑園で13.4時間を要し、8年目以降ではそれぞれ、25.4時間、13.4時間であったが、これは普通植桑園とくらべ、春切桑園で多く、夏切桑園で少ないものであった。
 収穫は、1年目の晩秋蚕期より行なうが、普通植桑園の完成時なみの収穫量が得られ、2年目以降は10アール当り約2,700kgの条桑量を得、これは普通植桑園の完成時より350kg多かった。この場合はさし床の間隔を1.6メートルとし、耕うん機用条桑刈取機によって収穫したが、現地委託試験ではさし床の間隔を1メートルとし、人力で収穫し、最高6,500~8,000kgを得た場合があり、各試験地とも前例をみない高い収穫量であった。
 また、稚蚕用桑としては、10アール当り1~2齢用としての葉量で1,075kgが収穫できたが、これによれば、従来の普通植の稚蚕桑園で必要とされた面積の2分の1以下ですむことになる。
 以上の試験結果のほか、生育特性、改植方法などの検討も行ない、これらを総括して標準技術体系を策定した。

密植桑園に関する研究 -密植桑園収穫桑の飼料価値と飼育体系化-

河端常信・大塚照巳

 桑園の短期回転方式の確立をねらいとして古条さし木密植桑園を造成し、その収穫条桑の飼料価値について1965年~1970年に検討した。1971年~1975年には密植桑園の型式別に古条さし木密植桑園、接さし密植桑園、苗木密植桑園を造成して収穫条桑の利用効率および機械飼育での利用について普通桑園収穫条桑と比較検討した。また稚蚕用桑としての飼料価値についても検討し次のことを明らかにした。

1 古条さし木密植桑園収穫桑の蚕への飼料価値
 古条さし木密植桑園のさし木本数を6,640本~15,000本と異にしても飼育成績には差がなく単位面積当りの収繭量は密さしが多かった。
 密植桑の飼料価値は普通桑に比べると劣り、とくに枝条2分の1下部葉の飼料価値が劣った。このため密植桑給与によって繭重が軽くなり、5齢給桑量対1,000頭正葉21kg以下にすると繭重は極端に軽くなった。これは蚕の食下量・消化量が少なくなることに原因があることを明らかとし、繭重を普通桑給与並みに近づけるには標準給桑量の10%程度増量しなければならない。また密植桑の成熟度は普通桑に比べると遅いので掃立日を調整して対応する必要があることを明らかとした。
 密植桑園の造成年次別にみて10アール当り収繭量は、1年目47kg、2年目118kg、3年目117kgを示し、2年目には普通桑園の完成年次並みの生産性をあげることができ有利であることが明らかとなった。

2 密植桑園型式別収穫条桑による飼育体系化
 古条さし木密植桑、接さし密植桑、苗木密植桑の各密植桑と普通桑について造成当年目から年次別に飼料価値を検討した。
 各密植桑とも普通桑に比べて経過日数、虫質には差が認められなかった。繭重・収繭量に対する影響は密植桑によって異なり、接さし密植桑・苗木密植桑は普通桑より優ったが、さし木密植桑では普通桑より劣った。このことは葉質判定結果でも同一傾向を示し、この原因は桑品種の差であると考察した。さし木密植桑では繭重が軽く、箱当り収繭量は少ないが、10アール当りの桑収穫量が多いので10アール当りの収繭量はもっとも多い。また10アール当り収繭量を多くする育蚕技術としては給桑量の増量は得策とはいえず、5齢蚕対1,000頭正葉量で23~24kgが妥当と思われた。密植桑を機械飼育に利用すると繭重が軽くなるが、これの対応技術としては合成幼若ホルモンの利用が効果的であると考察した。以上の成果を基礎にして機械飼育および条桑育の2体系について標準体系を示した。

3 密植稚蚕用桑の飼料価値
 古条さし木密植稚蚕用桑園を造成し、稚蚕用桑としての飼料価値についても検討した。その結果、稚蚕飼育における防疫・貯桑管理を徹底することによって十分利用できることを明らかにし、その有利性について述べた。
 その他問題点に対する対応策、今後の発展方向などについて考えを述べた。

古条さし木密植桑園の経営経済的評価

河端常信

 桑を短年性作目としてみる新しい視野に立って、古条さし木密植桑園(10アール当り11,588本~15,000本)を造成し、とくに機械化体系を導入した場合の収益性について検討した。

  1. 古条さし木密植桑園は造成当年目の晩秋蚕期から収穫でき、2年目には10アール当り96kg~113kgの収繭量が得られ、その後も高い生産性を維持することができた。
  2. 古条さし木密植桑園と普通桑園(10アール当り833本)について機械化体系および条桑育体系の養蚕設計を示し、収益性を検討した。その結果、密植桑園の収益性が高いことを明らかにした。
  3. 寒冷地においても密植桑園の導入によって機械化体系の採用が可能となり、10アール当り粗収益所得が全国水準に近づくことを明らかにした。
  4. 密植桑園の耐用年数を10年と仮定して、植付けから改植までの1サイクルの投資効率をみても採算がとれ、桑園の短期回転が可能であった。

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