岩手県立農業試験場研究報告 第10号(昭和42年2月発行)

ページ番号2004868  更新日 令和4年10月6日

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カスガマイシン(KSM)の種子処理、土壌処理、苗処理法によるいもち病防除効果

渡部 茂・小川勝美

 畑苗代いもち病を主な対象として、KSM粉剤、水和剤を使用して播種前の種子塗抹法、浸漬法、土壌潅注法、苗の生育期間中における潅注法、田植前の苗浸漬法等各種の処理を行い、本剤の滲透移行性を利用した新しい防除法とその効果について検討を加えた。

  1. KSM水和剤を種子重量の5%、2.5%、1%量を播種前の催芽種子に塗抹して播種して4、5、6葉期に接種して病斑形成状況をみたが、5%区では6葉期まで、2.5%区で5葉期まで、1%区で4葉期まで顕著に拡大型病斑の形成を阻止した。
  2. 種子の薬液浸漬法として100ppm、50ppm液に催芽もみ、未催芽もみ、生もみを24時間浸漬して播種した。3、4、6葉期に接種したが、いずれも6葉期まで拡大型病斑の形成を阻止したが、催芽の程度別では、催芽もみ>未催芽もみ>生もみの順に有効で、また、濃度別では100ppmが50ppmよりまさった。
  3. 催芽もみを50、100ppm液に12時間浸漬して播種し、4、5葉期に接種した。いっぽうこの5葉期接種の3日後に100ppm液を平米当たり5リットル潅注して比較した。浸漬処理では4葉期までは顕著な効果を認めたが、5葉期では低下した。浸漬濃度では100ppm浸漬がまさった。これに対し、5葉期接種3日後の100ppm潅注ではきわめて高い阻止効果を示した。
  4. 粉剤を播種前に平米当たり128グラム及びその2分の1量ずつ4グラムまで施用してその上に催芽種子を播種した。3、4、5葉期に接種したところ、いずれも有効とみとめられたが、3葉期がまさり5葉期で劣った。施用量は多いほど効果は高いが、平米当たり32~64グラム以上で高い傾向を示した。
  5. 水和剤40、20、10、5ppm液を平米当たり8リットル播種前に土壌潅注し、2、3、4、5葉期に接種した。各接種時とも40ppm潅注が最も有効で、低濃度になるに伴って効果は低下する傾向を示した。
  6. 水和剤40、20、10ppm液を平米当たり8リットル3.5~4葉期に潅注して、潅注当日、10日、15日、20日後に接種したが、20日後まで拡大型病斑の形成を顕著に阻止した。400ppmは最も有効であったが、10ppmでも効果は高かった。
  7. 畑苗代の3、4葉期に40ppm液を平米当たり1.82リットル、3.64リットル地上から潅注して防除効果を調査した。低温のため発病がおくれて播種56日後の発生となったが、この時期の発病調査では、4葉期3.64リットル>同1.82リットル>3葉期1.82リットル>同3.64リットルの順に有効であった。しかし各区間の差は大差がなく、いずれも高い防除効果を示した。
  8. 畑晩播圃場で一般散布用薬剤4種と、KSM40ppm液の平米当たり1.82リットル潅注を発生初期、まん延期の2回散布、潅注で比較したところ、KSM水和剤、ブラスチン水和剤各1,000倍液散布には劣ったが、オリ・ブラ水和剤、ブラエス乳剤各1,000倍液散布に比しては同等の効果が得られた。
  9. 土壌の種類とKSM潅注効果の差異を、沖積埴土、沖積砂壌土、火山灰土壌の3種で比較したが、これらの間では差異はみられなかった。
  10. 田植直前にKSM100ppm液に、茎葉、根、苗全体に分けてそれぞれ3時間浸漬して田植 2~25日後に接種した。田植10日後(浸漬10日後)までは各浸漬区とも高い大型病斑形成阻止効果を認めた。同17日以降では根部浸漬区以外ではその効果が低下した。浸漬部位別の効果は、根部>苗全体>茎葉浸漬の順であった。
  11. 根部浸漬時の薬液濃度を200、100、80、40、20、10ppmとし、根部を4時間浸漬して田植した。田植7日後に接種したところ、高濃度ほど有効であったが、10ppmでは他区よりもかなり劣った。
  12. 田植5日前、同前日に畑苗代に40ppm液を平米当たり5リットル潅注したものと、田植前日に40ppm液12時間浸漬した苗をともに本田に移植し、田植5日後、同10日後に接種したが明らかな効果はみられなかった。この原因としては、田植後深水としたこと、絶えず水の掛流しを行ったことによって、体内で稀釈されたか、流亡があったこと、さらに浸漬時の濃度も低いこと、畑苗代潅注区では苗取りによってそこからのKSM吸収が遮断されたこと等があると推定した。

稲作・酪農経営群における機械化技術導入のための農家集団化に関する研究

中野昌造・佐藤宏三・藤巻正耕・宮部克己・佐々木 功・吉田功三・山本利介・小原繁男・三浦由雄

  1. 農業構造改善実施地区は生産性の高いしかも地帯農業の条件に見合った作目の選択拡大を行い、更に土地基盤、労働手段の整備を計画実施してきている。こうした基盤整備、機械施設の導入が農家経営、経済の発展に効率的に役立つまでには多くの問題が残されている。
  2. したがって、この研究は大型機械施設(大型トラクター利用)飼料生産施設(大規模放牧場、乾草生産草地)の農家集団による利用をめぐって起っている技術的・経営的な問題を指摘し、今後の農家の集団利用の方策を明らかにしてゆこうとした。
  3. 研究の対象としたのは、岩手県岩手郡西根町田頭地区であり、研究は、(イ)地区農業の背景分析、(ロ)想定された数種の技術的方策の経済性検討、(ハ)地区農業に見合った新技術体系の確定、(ニ)集団利用組織化方策の検討、(ホ)参加農家の経済効果に至る手段をとった。
  4. 地区農業は農業労働力の逼迫と農業生産の拡大を機械導入による稲作の省力化と、多収及び乳牛頭数規模の拡大に求めようとしており、それに伴う飼料生産を水田裏作と大規模な町営草地に乾草生産、放牧利用として依存しようとしている。しかし、現実こうした機械施設利用の理想と現状には大きなへだたりが存在しており、当面それをとり除くことが課題となった。
  5. すなわち、乾草生産草地及び放牧場における反収の低さコスト高、農家の需要の低さは目的とする酪農振興の支点となっていないし、調査時点におけるトラクター利用についても稼動率・稼動限界の低さが指摘された。
  6. そして、かかる問題を取除くよう考慮されながら技術体系の確定、集団計画がたてられた。その構想は水田拡大による農業所得の増大には大きな期待はもちえない。他方、広大な草地と耕地を有機的に結びつけることが農業展開の基本方向であるとした。
  7. 農家の農業所得目標水準を一応60万円とした。これは地区内農家は農外所得を得る機会が多く、農閑期における収入は農家所得の20~30%を得ている。したがって、農業所得60万円を確保し得れば在村で農業を続けられうると考えた。
  8. 新技術体系のうち稲作については移植刈取結束型技術体系を考え、現行反収470kgを530kgに引き上げ、更に飼料生産拡大のための労力を生みだすことを目標に大型トラクター利用省力体系を設定した。裏作跡水稲の反収は500kgを見込んだ。牧草については畑牧草はサイレージ利用、生草利用とし、裏作物はサイレージ利用を考え刈取運搬にトラクター利用を行い労力競合及びピークの切崩しを考慮して新技術体系を確定した。なお草地は8年で更新するものとし、反収は7,000kgを見込んだ。
  9. 乳牛飼育管理技術体系は、頭数規模と産乳量の増大をはかるため乾涸牛、育成牛は放牧する。分娩間隔の短縮に力を入れた体系の設定を行い、特に今後はホルスタイン一種類の飼養を考えた。産乳量は5,500kgとした。
  10. 乾草生産草地は大規模生産の有利性を発揮出来るよう、トラクター複数体系の導入を考慮し、放牧地は輪換放牧による集約的利用を行い、コスト引下げを前提とした技術体系とした。
  11. 集団設計は、トラクター利用をめぐる農家の集団化設計と、町営草地の設計とに大別されるが特にトラクター利用を中心とした集団化のあり方を決める場合、どのような農家構成のもとに集団を考えればよいかの吟味のため地区内個別農家の標準経営設計を行った。
  12. 酪農の規模拡大、新技術体系に対する農家の反応は直接的な飼料生産基盤である水田、畑のもち方であるから、この研究は水田率と耕地規模を指標として経営タイプ区分を行い、タイプ毎の農家群が夫々新技術体系の導入による酪農規模拡大、所得増大がいかに可能であり、そのための土地利用のあり方はどうかについて検討を加えてきた。
  13. 抽出された標準農家の設計結果この地区の如く稲作+酪農といった比枚的単純な部門の組合せである場合は、畑面積の大小と耕地規模が同一の場合は、水田化率によって乳牛の包容力が変化することが判った。
  14. 労働需給の問題は新技術体系を設定する時点において春期田植から始まりサイロ詰めに至る労働ピーク秋期における稲刈労働のピークの切崩しをはかれる技術の採用を行ってきているが、水田面債1ヘクタールを越える面積を所有する規模から何らかの方法で雇傭労働の導入を必要とするし、新技術体系自体も常に作業実施に当っては組作業を必要とする場面が多いから、集団設計を行う場合は当然作業の再編を考慮する必要が生じた。
  15. 個別経営試算の結果稲作の反当所得の平均は43,973円、酪農の反当所得は29,917円であり新技術によれば、水田135アール、畑190アールを結ぶ線が農業所得60万円の等所得線として算出された。
  16. トラクター利用集団の経営タイプ別戸数及土地利用方式の基本的形を決めるため個別標準農家の設計方法に基いて、地区70戸の農家を抽出し、設計した結果は、その基本型として単作水田94%、裏作跡水田6%、畑地利用は牧生草畑29%、サイレージ用牧草畑33%、普通畑が38%の割合で利用されることが推定出来た。
  17. かかる割合で利用される場合の夫々の面積の算出は、代掻きと水田裏作のサイロ詰込、畑牧草一番草のサイロ詰込み時期の能率で決定される。すなわち、単作水田19.98ヘクタール、裏作跡水田1.31ヘクタール、合計21.29ヘクタール畑は牧生草畑4.93ヘクタール、サイレージ用牧草畑5.71ヘクタール、普通畑6.55ヘクタールである。
  18. このような、土地利用を中心とした場合のトラクター1台当りの農家集団は30戸あり、この範囲で作業班の再編成を行い時期別労働自給が可能であることを検証した。
  19. 各トラクター作業の作業原価は従来の一般料金よりも安価に出来ることが判った。
  20. 町営草地については乾草生産、放牧場共に大規模生産の有利性を充分発揮出来るよう機械の組合せ、作業編成計画・草地利用方式など充分考慮し設計計画を樹てた。その結果、放牧地では20ヘクタールで1日100頭の包容力をもつことが出来るし、乾草生産草地は100ヘクタールを4台のトラクターでセット稼動すれば最も効率的であることが知られた。
  21. 草地の生産費の試算結果は、補助ある場合の圧縮計算でkg当12円79銭、であるから乾草の一般市価より著しく安価であるし、放牧コストは22ケ月令で1頭1日当101円25銭で放牧可能であることが判った。放牧コストについては現行の放牧料金をかなり上廻っており、単純な比校では今後に問題が残される。
  22. 結局トラクター利用集団のとらえ方については農家のタイプ分類から始まる一連の手法で行ってきたが、その指標のとらえ方抽出された標準農家の設計から70戸と云う大数農家の設計を行うことにより農家集団のタイプ土地利用の在り方などを類推し、現実抽出された30戸の農家集団と対比させてきたが、若干の誤差は認められたが、いずれも許容出来うる範囲のものであることが判り、かかる手法でもって設計計画を行ってよいと考えられる。
  23. 町営草地についてはその生産費試算結果から新技術の導入運営方法いかんでは個別農家に果す役割のいかに大きいかが再認識された。

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