岩手県園芸試験場研究報告 第2号(昭和47年3月発行)

ページ番号2004884  更新日 令和4年10月6日

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訪花昆虫増殖利用保護に関する研究(第2報)訪花昆虫シマハナアブ(Eristalis Cerealis FABRICIUS)の人工増殖

小林森己

  • 成虫飼育について
     シマハナアブ(Eristalis cerealis FABRICIUS)を花粉媒介昆虫として利用するための大量増殖に関し、成虫について8種類のpollenを用いて飼育を試みた。

     供託したpollenの種頃は、apple, daffodil, lily, Corn, tree peory, Squash, tea oil plant, Camelliaであって、採集したpollenをあらかじめ定温器に乾燥保存して用いた。その結果、産卵のなかったpollenにはSquash pollenがあり、また、haneyのみを与えた場合も産卵しなかった。産卵の見られたpollen別について、成虫の最長生存期間はtree peoryが最も長く62日間を認め、ついで、Corn>lily>apple>daffodil=Camellia>tea oil plant>squash の順で見られ、haneyhの場合は20日間の生存を認め最も短かかった。

     飼育開始後の最初の死亡個体が現われるまでの期間は、一般に雄虫に早い傾向があった。雄虫の場合翌日からにはdaffdil(B), lily, Camelliaがあり、2日後からには、Corn, squashがあり、daffodil(B)は4日後、apple tree peory, tea oil plantは5日後からであった。雌虫について見ると翌日からにはlily, squashがあり、2日後ではcron, Camellia、4日後にtree peory、5日後ではtea oil plant、7日後からにはdaffodilが見られ、apple pollenの場合は最も長く10日後であった。

     飼育開始後から産卵開始までの期間では、Camelliaが最も短く9日後から産卵が見られ、最長はCronの42日を要した。Camelliaについでappleの12日、daffodilは10日から16日を要し、他のpollenは21日から34日を要して産卵を始めた。

     それぞれのpollen別の産卵数を見ると、apple, daffodil, Camelliaに多い傾向が見られ、他のpollenは少なかった。この場合0.2~1.3%範囲で未孵化卵が認められた。卵はまとめて1カ所に産卵されるが、その1まとめの平均卵数を見ると、appleが最も多く177.5卵であり、ついでdaffodilの162.9卵、Camellia126.0卵の順であり、またtea oil plantも多い傾向が見られた。しかし、自然虫の277.0卵にはおよばなかった。なお、産卵場所としてその性質上湿った土を用いた。

     このようなことからEristalis ceralis FABRICIUS成虫の飼育は室内環境においても、pollenを用いることによって飼育できることが判明した。この場合効果的なpollenとしては、apple, daffodil, Camellia pollenがあげられ、採集し易いことから見れば、Camellia, daffodil pollenがあるが、ことにCamellia pollenの場合は20花でおよそ3グラム(乾燥重)得られる。また短期間の成虫飼育には生花として与えることもできるが、長期の飼育には、当然pollenの貯蔵が問題になる。貯蔵pollenは随時これをとり出して与えることになるが、その場合、腐敗させないことが重要であり、常温において、乾燥貯蔵が必要である。また、長期貯蔵によるpollenの生死が問題になるが、飼育上大きな障害にはならないと考える。

     成虫の飼育環境は室内で行なわれるが、その温度条件として、22℃前後の環境で飼育することが好ましいと考える。
     
  • 幼虫飼育について
     シマハナアブ(Eristalis cerealis FABRICIUS)幼虫の大量人工増殖を目的に研究に着手し、1966年に至ってつぎのような人工増殖飼料を確立した。
Composition of man-made feedstuff for the larvae of Eristalis cerealis F. I.

ingredient

measure (g)

Water

1300

Sodium propionate

20

Dehydroacetic Acid

2

Casein (soy beans)

300

Casein from Milk

30

Ebios

10

Agar

80

 この飼料によって、室内環境で年間飼育を行ったところ、4世代まで飼育ができた。幼虫の発育率は最高4世代の、93.7%、最低3世代の78.0%であって、平均84.8%の高率で正常虫が得られた。幼虫期間の平均は14.2日であり、また、世代間の蛹化平均期間は7.5日であった。蛹化の消長は、準備翌日から見られ、peakは開始1~3日後であって、比較的斉一な蛹化が見られた。羽化については3世代まで検討したが、羽化率の最高は2世代の100%、最低は1世代の78%、平均92%の高率であった。羽化期間は4~8日で終了し、peakは羽化当日から2~3日後に見られた。この成虫を計測した結果、野外虫に比較し、やや大型の発育虫が得られた。

 この飼料の調製法は、水1300グラムに全体をよく混合し、加熱後冷却し、固形化したら荒く砕いて飼育箱に移し、さらに飼料上面1cmくらいまで水を加えて、卵を接種する。飼育中の水分減少時は逐次補給する。難点としては、腐敗臭の強いことや、黴の生ずることであるが、幼虫の発育には影響が見られなかった。幼虫の回収は網かごで飼料を水洗すればよいが、蛹化場所としてはWood mealの水漬けしたものをやや固めに水を切り、飼育容器に入れて用いるのが簡便と考える。

 その後、この組成工の飼料を改良するためにWood mealを基にして、これに動植物質、栄養剤を加えて検討した結果、つぎのような組成2による人工飼料を得た。

Composition of man-made feedstuff for the larvae of Eristalis cerealis F. II.

ingredient

measure (g)

Water

1300

Sodium propionate

20

Wood meal

200

Ebios

10

 この飼料の基材のWood mealは、あらかじめ水漬けして、これを固く水を切った重さである。水300グラムに全部を混合したのみででき上がる。飼料の水分状態は、常に上面1cm程度にして、深水にしないことが望ましい。この組成量に飼育できる幼虫数は100匹が限度と思われ、その幼虫の回収、蛸化は組成1に準ずる。

 組成2の検討において、動物質を添加することによっても、飼育可能な傾向がうかがえるものであるが、さらに植物質について検討した結果、組成3による人工飼料を確立した。

Composition of man-made feedstuff for the larvae of Eristalis cerealis F. III.

ingredient

measure (g)

Water

500

Sodium propionate

5

barnyard grass*

200

Ebios

5

Agar

50

*dry measure

 主とする飼料はbarnyard grassであるところから、その調製は一度加熱後全体を混合し粉砕してから、組成1の調製法に準ずる。幼虫の発育率、状態は組成1と同等であって、大量飼育の容易な飼料といえよう。この調製した飼料100グラムに飼育し得る幼虫数は200匹が可能と思われた。また、この飼料も組成1の場合と同様に黴が多少生じるが、発育には影響が見られなかった。なお、腐敗臭は組成1より少ない。

 幼虫の飼育環境は室内で容易に飼育できるが、年間多世代飼育とした場合減少はまぬがれない。能率的には温度環境を20℃前後に保って飼育することが望ましく、25℃以上では発育が悪化するようである。なお、本種の生態からして無菌的飼育の必要はないと思われるが、防腐、防黴、累代飼育上の諸問題について、なお検討を進めなければならない。

 このように、シマハナアブ幼虫の人工飼育は、植物質をもとにして、大量飼育の可能性が判明したことから、作物における花粉媒介昆虫としての実用場面への展開が期待できると思われる。

リンゴ腐らん病に関する研究(第1報)発生状況および発生生態に関する2、3の知見

平良木 武

 本報告は、リンゴ腐らん病の発生状況に関する調査結果と発生生態に関する2、3の知見について述べたものである。

  1. 発病の品種間差異は明確ではないが、紅玉≧デリシャス系>旭>印度・ゴールデン≧ふじ・国光の傾向を示し、樹令別では、10~30年生の成木で発病が多い。
  2. 樹体における発病部位は、主枝、亜主枝に多く、主幹部や枝梢での発病は相対的に少ない。太枝に発病した場合は、幹周全面に罷病し枯死させるに数年を要するが、枝梢発病の場合は「枝枯れ症状」を呈し、生育期間中に枯死する。
  3. 本病の侵入門戸は、剪定傷、風雪害による枝幹部の有傷および日焼け、凍寒害、虫害食痕による樹皮部の枯死部である。
  4. 本病菌の子のう殻は、主として柄子殻の外側に3~9個(平均8個)輪生して形成され、細長いBeakをもち、表皮を破って外部に突出する。Beakの先端部はPapillae状を呈する。
  5. 柄子殻の形成にはBlack light blue蛍光灯の照射が有効であった。
  6. 本病菌はリンゴ、洋ナシ、桃などの樹皮煎汁液で良好な発育を示し、柄胞子の感染適温は20℃~30℃であった。
  7. 付傷接種による感染時期の調査の結果、7月上旬~9月下旬で感染率が高く、その盛期は8月上旬~9月下旬であった。5月~6月ではカルス形成が旺盛なため感染率は低下した。しかしながら、自然圃場での発病推移では、5月~7月の梅雨期および9月の多雨期に、病斑がいちじるしく伸展し、8月の高温乾燥期には病斑伸展が停止した。
  8. 本病のまん延に関与する要因としては、立木荒廃園が有力な伝染源となる場合が多く、廃園に隣接する園ではほぼ100%の感染率を示し、半径500メートルの地点であっても、なお、30~40%の発病があり、きわめて高い影響を受けることが判明した。

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