岩手県農業研究センター研究報告 第12号

ページ番号2004384  更新日 令和4年1月17日

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【報文】堆肥施用条件下におけるホウレンソウの窒素吸収特性と可給態窒素の評価方法

小田島ルミ子

 岩手県では、過剰に排出される有機物の有効利用を前提とした適切な土壌管理法を提案する必要があった。本研究では、(1)有機物施用条件下におけるホウレンソウの生育・収量反応および土壌から溶脱する硝酸態窒素のモニタリング、(2)ホウレンソウが吸収利用できる可給態窒素の実態把握、(3)ホウレンソウ栽培に適した土壌窒素の簡易評価法の開発、(4)有機物施用条件下における適切な窒素施用量の提案を行った。

 岩手県で行われている「雨よけホウレンソウ」栽培を対象に、有機物としてオガクズ牛ふん堆肥の連用試験を4年間行った。ホウレンソウを年間2~4作栽培し、生育および窒素吸収反応を調査した。化学肥料区には、年間で窒素を硝安で16~20g/m2、リン酸を重過石で20~24g/m2、カリを塩加カリで16~20g/m2、施肥した。堆肥区では、1作目播種の2週間前にオガクズ牛ふん堆肥を45gN/m2施用し、2作目以降は無施用とした。その結果、堆肥区の草丈、葉幅、葉数は化学肥料区のそれを上回った。また、堆肥区の乾物収量、窒素吸収量は化学肥料区より倍以上多かった。作付跡地土壌の無機態窒素含量は堆肥区が化学肥料区より低かった。この傾向は4年間同じであり、堆肥区における土壌の無機態窒素濃度は、化学肥料区よりも少なく推移していた。さらに、 ホウレンソウの体内における硝酸態窒素濃度は化学肥料区よりも堆肥区で極めて少なかった。すなわち、化学肥料区の土壌中の硝酸態窒素濃度は高く推移し、ホウレンソウ体内の硝酸態窒素濃度もそれに比例して高かった。地下へ溶脱した無機態窒素量および全窒素量は、堆肥区では化学肥料区より少なかった。これらの結果は、堆肥を施用した場合、栽培期間中の堆肥区の土壌の無機態窒素量が化学肥料区よりも少なく経過しているにもかかわらず、ホウレンソウの生育が旺盛となり、窒素吸収量も多いことを示している。すなわち、ホウレンソウの生育は土壌中の無機態窒素に対応していないことを示している。

 土壌に施用された有機物にホウレンソウが反応することが明らかになったが、ホウレンソウが吸収できる有機態窒素として、最も有力な存在はPEONであると考えられた(PEONとは土壌をリン酸緩衝液で抽出したものであり、分子量が8,000でUV吸収能を持ち、タンパク質と同様な反応をする(Bradford法で陽性の反応))。PEONを土壌から抽出し、これをウサギに注射し、PEON抗体を作成し、土壌中のPEONの定量が可能であることを確かめた。また、ホウレンソウの導管液を採取し、この抗PEON抗体を用いてELISA法によるPEONの定量を試みた。堆肥栽培の導管液では抗PEON抗体とは高い反応が認められ、化学肥料区から採取した導管液では抗PEON抗体との反応は低かった。この結果は、ホウレンソウがPEONを直接吸収利用する可能性が高いことを示している。さらに有機物施用土壌においては、無機態窒素だけでなく、PEON形態の 窒素の動態を把握することによって、ホウレンソウの生育および窒素吸収量を説明できることを示唆している。

 PEONがホウレンソウの生育に重要な役割を果たしているが、PEON以外の有機態窒素についても検討する必要がある。ホウレンソウが利用できる土壌窒素の形態を把握するために、逐次抽出法(A、B)を開発した。

  1. 逐次抽出A法:水、10%塩化カリウム溶液、1M酢酸、1/15Mリン酸緩衝液、0.4M硫酸、1M水酸化ナトリウム溶液の順とした。
  2. 逐次抽出B法:水、10%塩化カリウム溶液、0.01M硫酸、0.1M硫酸、0.2M硫酸、0.4M硫酸、0.5M硫酸の順とした。

 水抽出では、硝酸態窒素が、塩化カリウム溶液でアンモニア態窒素が検出された。次いで、逐次抽出A法の酢酸、リン酸緩衝液、硫酸では有機態窒素が抽出されたが、HP-SECによるとこれらの有機態窒素はPEONと同じ保持時間にピークが検出された。

 逐次抽出B法における様々な硫酸濃度で抽出された有機態窒素は、どの抽出溶液においても比較的均質な分子量を持ち、それはPEONと同様なMW=8,000であった。また、この有機態窒素は鉄やアルミニウムと結合していることが明らかになった。すなわち、土壌有機物の窒素はPEONを1つの単位として、これが鉄やアルミニウムを介して、重層的な構造をつくりあげていると想像された。植物の根から分泌するクエン酸やホウレンソウからのシュウ酸などの有機酸によってこのPEONが溶解し、これをホウレンソウは直接吸収していると推察した。

 逐次抽出法によって抽出される土壌有機態窒素はPEONあるいはPEON様物質であったことから、逐次抽出A法を用いて、栽培跡地土壌の有機態窒素を評価した。ハウス土壌を用いて無肥料でホウレンソウとトウモロコシを栽培した。各作物の導管液を採取し、HP-SECで分子量分布を調べた。土耕栽培のホウレンソウの導管液中には、0.4M硫酸で抽出される土壌中の有機態窒素と同じ保持時間のピークが検出された。無機養分で栽培した水耕のホウレンソウでは、この保持時間のピークは検出されなかった。さらに、逐次抽出法を用いてホウレンソウが利用している有機態窒素の形態を調査した。トウモロコシを栽培した土壌を対照にホウレンソウを栽培した土壌の逐次抽出を試みた結果、ホウレンソウ栽培土壌の0.4M硫酸で抽出された画分の窒素が減少していた。すなわち、ホウレンソウは土壌中の有機態窒素に関しては0.4M硫酸で抽出される画分の窒素までも利用できることが示唆された。

 ホウレンソウ栽培土壌における可給態窒素量の推定法として0.4M硫酸抽出法を採用し、抽出液の280nmにおける吸光度と抽出窒素量との関係を検証したところ、両者には極めて高い正の相関が認められた。この結果に基づき、土壌の0.4M硫酸抽出液における吸光度(280nm)から求めた有機態窒素推定量を算出し、無肥料で栽培したホウレンソウ(年3作)の窒素吸収量との関係を検討した。その結果、土壌の有機態窒素推定量の増加に伴ってホウレンソウの窒素吸収量も増加する傾向が認められたが、土壌の有機態窒素推定量が540mg/kg以上の圃場では、ホウレンソウの窒素吸収効率は低下する傾向が認められた。0.4M硫酸抽出有機態窒素推定量が異なる圃場で化学肥料および堆肥を施用してホウレンソウを年間3作した場合、堆肥の施用により増収となり、硝酸濃度を低減する効果も認められた。一方、堆肥の施用によりホウレンソウ中の硝酸濃度は化学肥料区よりも低くはなるものの、0.4M硫酸抽出有機態窒素推定量が540mg/kg以上の圃場では3,000mg/kgを超える値となった。化学肥料および堆肥の施用量を判断する簡易な方法として0.4M硫酸によって抽出される土壌有機態窒素量を280nmの吸光度によって測定する方法が有効であると考えられた。

【報文】短稈・低アミロースヒエ新品種「ねばりっこ1号」「ねばりっこ2号」「ねばりっこ3号」の育成

仲條眞介・長谷川 聡・吉田 宏・漆原昌二・阿部 陽・阿部知子・福西暢尚・龍頭啓充・大清水保見

 良食味で短稈のヒエ品種育成を目的に、低アミロースで稈長が長い在来系統「もじゃっぺ」にガンマ線600Gyを照射した集団から「ねばりっこ1号」および「ねばりっこ3号」、重イオンビーム20Gyを照射した集団から「ねばりっこ2号」を育成した。3品種のアミロース含有率は原品種「もじゃっぺ」並みである。また、いずれの稈長も原品種より短いが、その変動幅や形態は異なる。

 「ねばりっこ1号」は、原品種よりも出穂期が早く、芒はやや短くて少ない。収量性は原品種並みであるが、栽培環境による稈長の変動幅が大きい。
 「ねばりっこ2号」は、出穂期が原品種並みの中生で、穂は小さいが穂数が多く原品種並みの収量性をもつ。無芒であることから機械調製への適性を有するとみられる。また、同品種の稈長変動幅は3品種中最小である。
 「ねばりっこ3号」は、濃緑色の幅広い葉をもつ晩生の品種である。原品種よりも低収だが、太くて剛性の高い稈をもつ。「ねばりっこ2号」および「ねばりっこ3号」は水田機械化栽培適性を有する。

 これら3品種は、その熟期と特性に応じて、「ねばりっこ1号」は県北部の畑作地帯、「ねばりっこ2号」は県下全域、「ねばりっこ3号」は県中南部での水田移植栽培用品種として普及を図る予定である。

【報文】イチゴの育苗期の夜冷短日処理と追肥による連続出蕾技術の開発

藤尾拓也・佐々木裕二・佐藤 弘

 イチゴの超促成栽培では、第1花房収穫後に第2花房の分化遅延による収穫の中休みが生じるため、年内収量の向上が課題であった。そこで、促成品種「さちのか」を用いて、第2花房の花成誘導により連続的な出蕾が可能となる育苗法と定植後の栽培法について検討した。

  1. 短日処理を60日以上に延長することで第2花房の花成誘導が確認され、花芽分化苗が得られた。しかし、短日処理のみでは花成誘導効果が不安定であることから、第2花房の花成誘導には夜冷短日処理が必要であった。
  2. 夜冷短日処理中の第1花房分化期以降に追肥を行うことで、第2花房の花成誘導が促進され、処理有効株率が向上した。追肥に用いる液肥の窒素濃度は50~75mgN/Lとし、毎日1回、1株当たり100mL施用することで、高い処理有効株率が得られた。また、育苗培地の容量は1株当たり360mL以上が適し、少量培地では同様の処理を行っても処理有効株率が低下した。
  3. 夜冷短日処理苗には第2花房未分化苗も混在するが、気温が低下してくる8月第6半旬以降に定植した場合、高温長日による影響は小さく、継続して花成誘導されることで連続的な出雷が可能になると考えられた。しかし、夜冷短日処理中に3日以上高温長日条件に遭遇すると第2花房の花成誘導が強く抑制された。
  4. 本試験地のように夏季冷涼な地域である本県の沿岸部では、夜冷短日処理中の夜冷温度は22℃設定で良く、目標とした80%以上の割合で処理有効株を得ることが可能であった。また、夜冷温度を低くすると花芽分化は早まるが、冷房負荷が増加した。
  5. 定植後の栽培管理では、3果に摘果することで平均1果重は有意に増加したが、摘果処理、電照開始時期、培養液濃度による増収効果は認められなかった。
  6. 夜冷短日処理(62日間程度)と追肥処理を行った苗を8月下旬に定植することで、同時期に定植する超促成(12月どり)栽培よりも収穫の前進化が可能であった。また、第1、2花房が連続的に発生するため、収穫期間の大きな中休みが無くなり、年内収量が増加した。

【要報】肥育豚における玄米混合給与が発育と肉質におよぼす影響

佐々木 直・吉田 力

 肥育豚に飼料用米を給与した場合の発育、肉質に及ぼす影響について検討した。

 試験1:供試豚はLWDを用い、試験区は肥育後期に粉砕玄米を市販配合飼料に20%混合給与した20%区、40%混合給与した40%区と、市販配合飼料を給与した対照区の3区を設け、それぞれ去勢3頭、雌2頭の計5頭ずつ配置した。その結果、肥育後期に市販配合飼料への玄米混合率20%および40%では、日増体量、飼料要求率等の発育成績及び背脂肪厚等の枝肉成績、皮下脂肪脂肪酸組成、脂肪色ともに対照区と同等の成績が得られた。

 試験2:供試豚は止め雄の異なるLWDとLWBの2品種を用い、試験区は肥育全期間に粉砕玄米を市販配合飼料に10%混合給与した10%区、20%混合給与した20%区と、市販配合飼料を給与した対照区の3区をLWDとLWBの2品種それぞれに設け、去勢3頭ずつ配置した。その結果、肥育全期間に市販配合飼料への玄米20%混合給与では、日増体量、飼料要求率等の発育成績及び背脂肪厚等の枝肉成績ともに対照区と同等の成績が得られた。肉質成績は、20%区で皮下脂肪内層の脂肪酸組成のオレイン酸割合が高くなり(p<0.05)、リノール酸割合が低くなった(p<0.05)。食味評価では、LWD対照区とLWD20%区の肉を比較したところ、LWD20%区の肉の方が香り、食感、ジューシーさ、甘み、脂の滑らかさ及び総合評価の全項目において良いと評価された。豚の品種の違いによる玄米給与の影響は、LWDはLWBと比較して、玄米給与によるオレイン酸割合、リノール酸割合の変化が顕著であることがうかがわれたことから、豚の品種によって飼料から受ける影響が異なる可能性が示唆された。

【要報】南部かしわ肥育における冷めんクズとさな粉の飼料としての給与法

佐藤直人・吉田 力

 製麺過程で発生する規格外の冷めんとそば粉の生産過程で発生するさな粉を飼料に用いて、南部かしわの肥育法について検討した。その結果、肥育期間を通じて、当試験で調製した「冷めん+さな粉」飼料の給与により、配合飼料給与と同等の発育が得られたが、発育性と産肉性には、冷めんとさな粉の配合割合が影響を及ぼすことが示唆された。

【要報】イムノクロマトグラフ法によるコムギ玄麦およびダイズ子実中カドミウム濃度簡易測定法

中野亜弓・高橋彩子・小菅裕明・阿部 薫

 コメのカドミウム濃度測定について適用法が確立されているイムノクロマト法について、コムギ玄麦およびダイズ子実中カドミウム濃度測定への適用性を明らかにした。
 コムギは、コメと同様、全粒粉砕の他は特に前処理を追加することなくイムノクロマト測定が可能であり、原子吸光光度法測定値に対するイムノクロマト法測定値の一次回帰式はy=0.99x(R2=0.79)であった。
 ダイズは、以下の操作を加えることにより適用が可能であった。すなわち、恒温乾燥機または電子レンジで焼成することにより、希塩酸抽出時に固液分離し、ろ過が容易となった。原子吸光光度法測定値に対するイムノクロマト法測定値の一次回帰式はy=1.0x(R2=0.80)であった。
 この他、振とう抽出の短縮やカラム洗浄液の減量(ダイズ)などの操作の改善により、試料の前処理時間を短縮できた。
 従って、市販キットを用いたイムノクロマト法によるカドミウム測定は、コムギ玄麦およびダイズ子実に対しても適用性があり、スクリーニング検査法として利用性が高いと考えられた。

【資料】2010年の夏季高温が水稲品質に及ぼした影響

菅原浩視・吉田 宏

 2010年は、6月から9月上旬にかけて盛岡では観測史上一位の高温多照で経過し、県内平均で出穂期は5日、成熟期は11日平年より早くなった。登熟期には夜温が高い日が続いたが、1999年と比較し最低気温が低く日較差は大きく、日照時間は多かった。また追肥と間断灌漑の実施により下葉の枯れ上がりは遅く栄養条件は良好であった。このため、登熟期の稲体の消耗が1999年に比べ軽微であり、登熟は良好で、乳白などの白未熟粒の発生が少なかったものと考えられる。
 幼穂形成期から減数分裂期の追肥と出穂後の間断灌漑とにより、白未熟粒(乳白粒など)の発生が抑えられた。

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