岩手県農業研究センター研究報告 第10号

ページ番号2004386  更新日 令和4年1月17日

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【報文】岩手県の里地里山におけるスミレ属植物の分布及び管理の違いが個体群密度に及ぼす影響

武田眞一

 伝統的な里地里山の景観で構成される岩手県内陸部の農村地帯で、アケボノスミレ、ナガハシスミレ、オオタチツボスミレ、タチツボスミレ、ニオイタチツボスミレ、スミレ、アリアケスミレ、ツボスミレの8種が確認された。その種組成は景観区分(山腹林縁、山麓林縁、ため池林縁、ため池草地、畦畔草地)で異なっていた。種組成の違いはそれぞれの景観区分が持つ光環境や土壌水分条件に対応していると考えられた。放棄畦畔草地や放棄ため池草地では、スミレ属植物の出現頻度、自生程度はそれぞれの管理草地に比較し、極端に低下していた。種の多様性が低下した原因としては草刈りと水管理の放棄が考えられ、スミレ属植物は農村における持続的な土地利用と植生管理のもとに、その多様性が維持されていると考えられた。大規模な土壌の攪乱があった改修ため池草地では、伝統的管理ため池草地に比較して出現種数は少なくなったが、スミレ属植物の出現頻度、自生程度は管理畦畔草地並に維持され、林縁の主要構成種であるナガハシスミレの自生程度が高かった。林縁、水田という異質な環境に近接するため池草地の立地環境が、スミレ属植物の多様性の維持に関与していることが示唆された。

【報文】リンゴ授粉専用品種の園地導入技術

高橋 司・田村博明・佐々木 仁・淺川知則

 リンゴの単一品種植栽園(以下「単植園」)における授粉専用品種の効率的な園地導入技術開発を目的に、ポットで養成した大苗の導入法、高接ぎ法、および数種の台木に対する授粉専用品種の適正組み合わせの検討を行った。その結果、授粉専用品種を生分解性ポットで養成し、大苗としてリンゴ単植園に植栽することにより、経済品種の結実が安定した。授粉専用品種を高接ぎによって導入する場合は、高接ぎ位置は樹冠頂部が有効で、経済品種の結実率と種子数が向上した。主要な台木に適合する授粉専用品種を選抜するとともに、台木はJM7台木が有効であることを明らかにした。

【報文】水稲新品種「つぶゆたか」の育成

阿部 陽・菅原浩視・佐々木 力・高草木雅人・中野央子・木内 豊・田村和彦・仲條眞介・高橋真博・小田中浩哉・扇 良明・尾形 茂・照井儀明・佐藤 喬・神山芳典

 「つぶゆたか」は、1994年8月に耐冷性、穂いもち圃場抵抗性に優れる中生の多収品種の育成を目標として、旧岩手県立農業試験場県南分場において「江70」を母、「ふくひびき」を父として人工交配を行い、その後代から選抜育成された品種である。飼料用米品種やバイオエタノール用品種の要望が高まる中、「つぶゆたか」は岩手県の気象条件に適した耐冷性の強い多収品種であることから、2009年1月に品種登録申請を行った。
 「つぶゆたか」は、出穂期、成熟期とも「ひとめぼれ」並の“晩生の中”に属する岩手県中南部で栽培可能な多収品種である。耐倒伏性は「ひとめぼれ」より強い“強”、障害型耐冷性は“強”、いもち病真性抵抗性遺伝子型は“Pia”と推定され、圃場抵抗性は葉いもち、穂いもちとも“やや強”である。収量性は「ひとめぼれ」に比べて明らかに優り、多収品種である「コガネヒカリ」「ふくひびき」並からやや多収である。

【報文】水稲新品種「つぶみのり」の育成

菅原浩視・阿部 陽・高草木雅人・佐々木 力・仲條眞介・木内 豊・中野央子・田村和彦・扇 良明・尾形 茂・小田中浩哉・神山芳典

 「つぶみのり」は、1999年岩手県農業研究センター旧銘柄米開発研究室(現奥州市江刺区、2001年3月廃止)において「北陸188号」を母として、「岩南20号」を父として交配を行い、その後代から選抜育成された品種である。2003年から生産力検定試験、特性検定試験に供試し、2006年に「岩手85号」の系統番号を付し、奨励品種決定調査に供試して有望と認められた。
 熟期は「あきたこまち」並の“中生の早”に属する岩手県中北部で栽培可能な多収品種である。障害型耐冷性は“強”、耐倒伏性は「あきたこまち」並の“中”、いもち病真性遺伝子型は“Pia,Pib”と推定され、葉いもち圃場抵抗性は“強”である。収量は「あきたこまち」に比べ明らかに多い。
 「つぶみのり」は、既存の多収品種よりも耐冷性が優れ、安定的に多収が見込まれる。岩手県の気象条件に適した飼料用米や米粉用など多用途に利用できる多収品種として品種登録の申請を行った。

【要報】北上市在来サトイモ‘二子いも’組織培養苗を遅植えした場合の生育特性

阿部 弘・阿部 潤

  1. 北上市在来のサトイモ系統‘二子いも’の培養苗を用いて、定植時期幅の拡大による田植え繁忙期との作業競合回避と作型の選択肢を増やすことをねらい、培養苗の早熟性を利用した遅植えを検討した。
  2. 小型ポット苗を用いた6月植の収量は対照の5月植に遜色なく、ロングポット苗を用いた7月植は対照の6月植に収量でやや劣るものの、現地の目標収量水準である株当たり子芋400グラムを満たしており、組織培養苗の遅植えは収量面では問題なかった。
  3. 今後は、扱いやすい小型ポット苗を中心に、定植時期をより細かく区切った試験を行うことが必要であり、収量品質に優れる定植時期、あるいは孫芋の着生を抑制する定植時期の解明およびそれらの種芋栽培への応用などが期待される。

【要報】北上市在来サトイモ‘二子いも’組織培養苗に由来する種芋の貯蔵性

阿部 弘・山田 修・阿部 潤・作山一夫

  1. 北上市在来のサトイモ系統‘二子いも’組織培養苗由来の種芋の貯蔵性および利用法を検討した。
  2. 培養当代株および培養1作株の階級SS以下の小さな孫芋は、粗放条件での貯蔵にもよく耐え、発芽率が高かった。
  3. 粗放条件で貯蔵した培養当代株の階級SS未満のごく小さな孫芋から、セル苗として育苗して栽培したところ、現地基準収量を超える株もあった。

【資料】岩手県における雑穀研究のあゆみとその考察

仲條眞介

【資料】リンゴを加害するハダニ類の発生動向と殺ダニ剤の変遷

鈴木敏男

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