岩手県農業研究センター研究報告 第6号

ページ番号2004390  更新日 令和4年1月17日

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【報文】ウシ多生子における血液キメラのDNA解析

福成和博・吉川恵郷・児玉英樹・鈴木暁之

 自然または人為的に作出したウシ多生子(双子~四つ子、計38組)について、動物遺伝研究所が開発したマイクロサテライトDNA(MSDNA)マーカーを用い、血液キメラの解析および個体識別を試みた。さらに、異性双子雌のフリーマーチン発生防止技術の確立を目的とし、異なる双子生産方法における血液キメラの発生率を調べた。
 その結果、解析サンプルとして白血球および尾房の外根鞘細胞を用い、血液キメラの解析および産子間の個体識別が可能であることを確認した。異なる双子生産方法における血液キメラの発生率は、人工授精および過剰排卵処理後の未回収胚による作出法では91.7%(22/24組)であったが、両側2胚移植および追い移植法では50.0%(6/12組)と有意(p<0.01)に低下した。

【報文】岩手県で生産される家畜ふんたい肥の特性と簡易評価法の開発

高橋良学・高橋正樹・小田島ルミ子・小野剛志・佐藤 喬

 家畜ふんたい肥の利用促進を図るため、県内で生産された家畜ふんたい肥の (1)成分・施用法に関する情報と (2)供給等に関する情報を積極的に提供する必要がある。そこで、県内各地より収集した家畜ふんたい肥(総計511点)の外観評価・成分分析およびコマツナの発芽試験を実施した。また、成分分析を実施したたい肥について、たい肥生産者名・販売価格・運賃等の情報についてもあわせて調査した。
 今回収集した家畜ふんたい肥の成分分析値は、昭和58年の分析値と比較して、水分が低下し、成分含量は増加していた。外観評価・成分分析値とコマツナ発芽率との関係では、外観評価の臭気が低い(ふん尿臭の強い)たい肥およびECが高いたい肥で発芽率が下がる傾向が認められた。外観評価・成分分析およびコマツナの発芽試験結果をもとに、外観や成分分析値から、家畜ふんたい肥の腐熟度・使用上の留意点・化学肥料代替量等を評価する判定基準を明らかにした。
 また、この評価基準をMicrosoft Accessによりシステム化し、家畜ふんたい肥の特性を評価する機能と、たい肥生産者名・販売価格・運賃等のデータベース機能を併せ持つ「家畜ふんたい肥特性評価システム」を開発した。

【報文】水田作経営体の労働組織の編成と管理

村上和史

注「第6章・総括」の一部抜粋。詳細は全文をご覧ください。

 本論では、水田農業における担い手を育成する立場から、岩手県の水田作を主部門とする経営体、実際には常時雇用が20人強の農業法人を調査対象として、経営成長の進行に伴い労働組織が高度化する過程を分析した。多角化が展開する中で複数事業部門の生産を円滑に行うべく構成員の協業編成や組織構造を形成する論理の探求を行った。
 初めに、第1成長ステージ「設立初期」(1986~88年)について、法人経営への移行期であり、麦類を主とする転作作目の受託が中心であった。生産規模も小さく利潤も得ていない。労働力は常時12名程度(延べ20名は登録された)であり、役員と非常勤雇用で構成されていた。役員は作目全てを担当し、労働時間は多かった。一方、臨時雇用は農繁期だけの採用であり、役員と臨時雇用には労働時間の格差が大きかった。組織は3人の役員で構成され、階層は存在しなかった。この時期は、「労働時間の振れ」が大きく、農繁期に労働過多となりがちであった。収益性を保ちながら農繁期の労働集中を避けることが課題であり、周年就労への意識が芽生え、食品加工や野菜作を試験的に導入し始めている。
 第2成長ステージ「緩やかな拡大期」(1989~93年)においては、輪作技術が確立し、機械・施設も導入された。冬季の労働力利用を目的とした食品加工部門が成功した時期でもある。労働力の活用を目的とし、作業時期を考慮した輪作が実施され、更に売上高が1億円を超えるほど伸びたことから、オペレーターとして従事していた非常勤雇用を常勤雇用の待遇として採用し直した。一方で食品加工へと女性労働力も活用したので、非常勤雇用も増加した。これより労働形態別には役員・常勤雇用・非常勤雇用が混在するようになり、作業員は30名程度、年間労働時間は約3万時間まで増加した。
 協業編成においては、役員は労働時間が多く、集中度が低い。非常勤雇用はいまだ農繁期のみの採用なので、労働時間が少なく、特定の作目への集中度が高い。常勤雇用はちょうど両者の中間に位置する。労働時間の振れは前成長ステージより縮小した。
 組織は役員のみで構成されたままで、階層は存在していない。しかし、作業員の増加により、指揮管理がやや困難になってきた時期でもある。
 この時期は、常勤雇用、非常勤雇用いずれも、春~秋季に長期間にわたる作業体系が確立し、周年就労に近づいたことが大きな特徴である。一方、常勤化して間もないので、雇用形態別の役割は不明確であり、協業編成も専門分化が未発達である。また、組織分化も初期のままである。
 第3成長ステージ「急激な拡大期」(1994~97年)においては、安定的に収益を確保するために水稲部門を拡大し、転作作目やピーマンも徐々に拡大した。他には食品加工部門の売上高もピークを迎えたこともあり、売上高は急激に拡大し、3億円を超えた。
 これに伴い、労働力も急増し、作業員数で約50名、年間労働時間で約8万時間となり、最初のピークを迎えた。この時期は良質の労働力を求めて常勤雇用を外部から調達した時期でもあり、常勤雇用が現行体制の20名強にまで膨れ上がった。
 構成員の増加に伴い、指揮系統を明確にすべく、1995年に簡易な職能制による組織形態を形成した。この時期の大きな特徴は、労働組織が垂直的分化を行い、階層が生じたことである。代表取締役、専務取締役、常務取締役、取締役といった縦のラインが形成され、その下に職能に基づく総務・生産・機械・加工の4部を設置した。しかし4部はほぼ役員によって総括され、役員内での分化が進んだ段階であった。
 協業編成においては、組織の分化の影響はなく、役員、常勤雇用、非常勤雇用で構成される。しかし、この時期から、雇用形態別に作業体系の改善が行われ、補助作業を要さない技術の導入や、雇用形態別に作業時期を優先した作目編成が行われるようになった。このように、雇用形態別に作業の分化が展開し、いずれの形態も専門化が進んだ。更に作目・作業内容は固定化されるので、高度な技能や連携が身に付くようになり、組織内プロフェッショナル形成の基盤となったと考えられる。
 この時期には、徐々に作業員1人当たりの労働時間は増加し、労働時間の振れは低くなる。役員は特に労働時間が多いが、常勤雇用も担当する部門によっては、役員同等の労働時間となる。そして集中度は役員及び常勤雇用共に低く、各種の作目をまんべんなく担当していた。非常勤雇用は、長期的な採用が多くなったため、労働時間が増加し、食品加工や野菜作目を担当するので集中度が低くなった。
 この時期の特徴は、常勤雇用の増加に伴う階層の発生であり、常勤雇用を中心とした専門化の発現であろう。有能な構成員が配置され、作業員全体の技能が向上する中で、作業プロセスも高度化し、専門職としての位置に着く作業員が生じたと考えられる。
 第4の成長ステージ「成熟期」(1998年~現在)においては、転作作目の売上高は、現行の機械・施設装備では行き詰まり始めた。食品加工部門の停滞もあって、総売上高が伸び悩みをみせ、2000年現在で売上高は約4億円となった。食品加工部門の埋め合わせを図るべく、野菜部門の拡充を行っている。労働力は70名程度まで増員し、年間4万6千時間まで増加した。野菜部門の管理作業に当てるため、非常勤雇用を50名と大幅に増員している。
 一方、常勤雇用は20名強の人数を維持しているが、その構成をみると、良質の労働力を確保するため、大学を卒業したばかりの若い職員を次々と採用している。労働組織は70名の規模まで拡大し、野菜作目の新規導入等の水平的多角化や食品加工・直販等の垂直的多角化の展開により指揮管理が更に困難になった。
このため、優秀な構成員の能力を経営に活かすべく、2001年に部課長制を導入し、これまでの組織形態における各部の下に部門(作目)別の課を設けることで階層は更に深く分化した。なお、課には常勤雇用が全員配置され、主任・副主任制度を設けることで、常勤雇用も階層の中に取り入れた。こうして優秀な人材に役職を与えることで、その能力を引きだそうと試みている。部門制の導入により垂直的分化のみならず、水平的分化も広がりをみせた。
 しかし、作業の進行は簡易なプロジェクト・チーム(作業班)にて行われており、この水平的分化は生産計画策定や担当作目の責任を明確にしただけに過ぎず、今後の展開が期待される。
 協業編成においては、常勤雇用も階層内に取り入れられたことにより、作業上は役員と常勤雇用の区分が不明確となる。
 常勤雇用は、年間労働時間が2,000時間程度と労働投下が多い中で、更に労働時間の振れが縮小する。労働の集中度は担当によって格差が広がる。例えば、畜産や事務担当者は集中度が高まり、機械作業担当者や野菜作担当者は多部門を担当するので低下する。常勤雇用に集中度の格差が生じる点が前成長ステージからの大きな変化である。
 非常勤雇用は、労働時間は年間1,000時間程度が上限となる。特に野菜の作業をローテーションによって長期にわたって行っているので労働時間の振れは縮小する。集中度も同様に多角化の展開より極端に縮小する。前成長ステージと比較して、この集中度の縮小が大きな変化となっている。このように協業編成は多角化の展開と雇用形態別の専門化の進行により変貌を遂げる。
 組織内プロフェッショナルは、特定部門に対する専門化の進行により発現する。協業編成とプロフェッショナルとの関係について、L氏に代表される機械作業一般に秀でたプロフェッショナルなら協業編成モデル内の位置の特定は可能である。他の機械作業を担当する作業員より労働時間が多く、多様な作目の耕耘作業を請け負うので集中度は低い。S農産は春~秋季の間中、機械作業を提供しているので、労働時間の振れも低い水準であり、いずれの指標においても特異な値となる。作業上の貢献がこのような値となって現れるのである。また、プロフェッショナルは階層に含まれないが、役員と管理的立場、一般の作業員の間に立って、全体の作業進行をリードする潤滑油的な役割がある。これは経営成長による労働組織の大型化によって、発現するものであろう。
 このような経営成長過程における労働組織の変遷について、本論の課題に合わせてまとめると、以下の3点が明らかとなった。
 第1点は、協業編成について、周年就労化の進行に従い、作業員の労働時間が雇用形態毎に均一化すること、水平的多角化の進行と生産技術の高度化に伴って、特定部門に対する専門化が進行することが明らかとなった。
 第2点は、組織の分化について、常勤雇用の外部調達によって指揮管理が必要となり、垂直的分化がなされる。その後事業規模が拡大すると、経営の水平的多角化への対応や、被雇用者の能力活用を目的として水平的分化が行われる。このような階層形成の展開が明らかとなった。
 第3点は、専門化の進行に伴い、特定の部門における専門職と呼べるプロフェッショナルが生ずる。プロフェッショナルは、自己の裁量によって、組織作業の効率を高めるべく、暗黙知とされる領域を組織に還元する役割を果たす。経営が大型化することにより、プロフェッショナルが形成され、組織に貢献することが明らかとなった。
 本論において、以上のように、労働組織の成長の過程を整理することができた。

 次に、成長段階に応じた組織管理の展開について考察する。
 労働組織の高度化に伴う組織管理の展開を、成長ステージに合わせて4つのステップに整理した。
 第1のステップは、常勤雇用が不在で出資者のみで構成されている段階であり、地域環境に応じた収益性の高い事業部門の導入とその技術の確立が要求される。その場合には、基幹となる部門の特徴を生かして、他部門を合理的にな組み合わせることに配慮すべきである。
 第2のステップは、非常勤雇用を常勤化している段階であり、周年就労を目指した技術確立に向けて取り組んでいる段階である。労働力を長期的に回すことができれば常勤化はより進行する。構成員が少ないので組織は未分化のままである。
 第3のステップは、常勤雇用を地域内から積極的に採用しており、労働力の確保が急務な段階である。構成員の増加に伴い、指揮管理が必要となり、労働組織に階層が生じ垂直的分化がなされる。
 第4のステップは、優秀な労働力を確保すべく、地域外から常勤雇用を採用している段階である。常勤雇用の能力を引き出すべく、様々なインセンティブを与えると共に、階層に取り入れることにより、階層は深化する。S農産の場合は水平的分化となって現れた。
 水田作を主部門とする経営体は、経営成長に伴い常勤雇用の導入をする上で、このような組織管理のステップアップを図り、労働組織が高度化するものと考えられた。これより、農業生産法人の育成・支援に当たり、その成長ステージを把握し、組織管理における適切なステップへの誘導を行う必要があろう。
 S農産においては、今後、多角化の展開とそれに伴う非常勤雇用の増員により、また違った形で労働組織の分化が進行するものであろう。水田作経営体において多角化がより進行した場合の協業編成や労働組織の分化がどのように展開するのかを今後の課題として注目していく必要があることを指摘して、本論のまとめとする。

【要報】高泌乳・高蛋白牛群に適応した飼養管理技術の確立

茂呂勇悦・山口直己・松木田裕子・川村輝雄・菊地正人

 高泌乳・高乳蛋白を達成するための飼料給与及び飼料中蛋白質の効率的な利用について検討した。
 乳量及び乳蛋白質率が高く、特に牛群として斉一的に高い県内の酪農家2戸について飼料給与内容を調査した。粗飼料は、とうもろこしサイレ-ジと購入乾草が給与されており、乾物、TDN、CP充足率は適度に満たされていた。栄養成分と消化性に優れた高品質粗飼料の給与が、高泌乳、高乳蛋白質率を達成するために必要と考えられた。
 泌乳牛において、飼料中CP含量を一定としTDN含量を72%から74%に向上させたところ、乳量、乳蛋白質率及び無脂乳固形分率が向上した。その一方で、乳中尿素態窒素濃度は低下した。これらの結果は、第一胃内へのエネルギ-供給量の増加により分解性蛋白質が効率的に利用され、微生物合成量が増加したことによるものと推察された。
 泌乳牛における給与飼料にル-メンバイパスメチオニン製剤を1日1頭あたり10グラム添加したところ、泌乳前期牛においては乳蛋白質率及び無脂乳固形分率が高くなったが、泌乳中・後期牛では有意差が無かった。これは給与飼料中のCP15.6%が泌乳前期牛ではやや低めであるのに対し、泌乳中・後期牛では十分な範囲であったことによるものと推察された。
 飼料中のCP含量を低減させると共にル-メンバイパスリジン及びメチオニン製剤により代謝蛋白質中のリジン及びメチオニン含量を増加させたところ、泌乳前期牛及び泌乳中後期牛のCP含量の高い区と低い区の乳量、乳蛋白質率及び無脂乳固形分率に差は無かった。これらの結果から、代謝蛋白質中のリジン及びメチオニン供給量を調整した飼料給与は、産乳効率を向上させ、窒素排泄量の低減を可能とすることが示唆された。

【要報】細断型ロールベーラ体系の能率向上に向けた改良ハンドラの開発

増田隆晴・平久保友美

 細断型ロールベーラ体系において、2条刈りハーベスタを使用した場合のベーラ作業能率に較べ専用ラッパによる密封作業の能率が劣ることから、ベール成形後に密封遅延が生じることが想定される。このため、第1にこの遅延時間がサイレージ品質に及ぼす影響について調査し、次に密封遅延を抑える新たな作業体系として密封作業の能率向上を目的とした改良ハンドラを組み入れた体系を考案し、作業精度・能率の評価を行った。
 密封遅延時間は、ベール成形当日中の密封(密封遅延時間6時間)ではサイレージ品質に影響は認められなかった。一方、成形翌日の密封ではベール表層部の乳酸含量の低下及びpH、VBN/T-Nの上昇が認められ、この傾向は放置期間中の被雨により大きくなった。このことから、細断型ロールベーラによるサイレージ調製では密封作業をベール成形当日中に行うことが望ましいと考えられた。
 改良ハンドラの作業精度では、ハンドリングにより発生するロスが合計でも0.3~0.4%程度であり、ごく僅かなロスで、ベールの大きな変形を伴うことなく作業を行うことができた。また、ハンドラの形状はベール保持部分を広くかつ分散させることで、保持部の窪みを抑えることができた。
 改良ハンドラを組み入れた作業体系では、ベーラ、ハンドラ及びラッパの各機械の作業能率がほぼ同等となり、密封遅延時間を生ずることなく梱包、密封作業が並行して行うことができた。延べ労働時間では専用ラッパを用いた体系に較べ作業員数が1名増加することから、これに伴い延べ労働時間も増加するが、固定式サイロ(タワーサイロ)調製との比較では依然省力性を確保することができた。

【資料】統計資料からみた雑穀栽培とその特徴

長谷川 聡

 1878年(明治11年)から2004年(平成14年)まで126年間の「農林水産統計」数値から、全国及び岩手県の耕地面積及び雑穀(ヒエ、アワ、キビ、ソバ)の作付面積、10アール収量、収穫量について整理し、併せて収量等の推移から作物毎の特徴について考察した。

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