岩手県農業研究センター研究報告 第4号

ページ番号2004397  更新日 令和4年1月17日

印刷大きな文字で印刷

【報文】搾乳ロボットによる省力管理技術と乳生産

山口直己・大和 貢・菊池文也・川村輝雄・清宮幸男

 搾乳ロボットは、酪農における飼養管理に関わる労働時間の約半分を占める搾乳作業を大幅に削減し、現行の搾乳関連作業を軽労化することを目的に開発された技術である。そこで、搾乳ロボット稼働後の省力管理技術の確立と、生産性への影響を明らかにすることを目的とした。1998年6月から2001年12月の期間、搾乳牛の誘導・馴致、自発的搾乳率、搾乳回数、通路制限と牛の搾乳行動、搾乳関連の労働時間・内容、産乳成績について調査した。供試牛は20~25頭とし、飼養管理方法は一群管理およびTMR不断給餌形態とした。搾乳ロボットは、レリー社製を用い60分間のバルクタンク洗浄時間を除き1日24時間連続稼働させた。また、試験対照では、ミルキングパーラー(ヘリンボーン式)を用い、定時2回搾乳を行った。ロボット稼働後、3週間程度誘導・馴致することにより自発的搾乳率は80%となった。また、時間経過に伴い、誘導・馴致回数の減少および自発的搾乳率の向上、通路制限が搾乳回数を向上させた。搾乳関連の労働時間は75分間であり、パーラー搾乳のそれと比較して2分の1に削減され、その内容も著しく軽労化した。牛はロボットによる不等間隔多回搾乳とTMRの不断給餌飼養形態により、乳成分と乳質を維持しながら産乳量を11~15%増加させた。

【報文】日本短角種におけるウシ筋肉肥大(Double muscling)原因遺伝子の同定と産肉性への影響

鈴木暁之・太田原健二・杉本喜憲・田中修一・小松繁樹・吉川恵郷

 ウシ筋肉肥大(Double muscling;DM、通称豚尻)は、欧州の肉用品種では劣性遺伝様式をとる産肉性に優れた形質として注目され、原因遺伝子としてミオスタチン遺伝子が同定された。一方、日本ではDMは不良形質として扱われてきたため、1990年代以降確認されることがなくなっていた。ところが1998年、岩手県内において、日本短角種の子牛にDMと類似する体型の個体が確認された。そこで、我々はミオスタチン遺伝子の塩基配列を解析し、欧州の品種で報告されているnt821(del11)欠損変異を見出したため、この子牛をDMと診断し、この欠損領域を簡易に検出できる遺伝子診断法を確立した。この方法により日本短角種の種雄牛247頭のうち30頭が欠損変異をヘテロで保因していることが判明した。また保因牛産子61頭の調査では、32頭がヘテロ型であり、体型異常とされた4頭が欠損のホモ型であった。産肉性調査の結果、DM牛3頭は非保因牛6頭に比べ肥育終了時の体重は小さかったものの枝肉歩留が高く、枝肉中に占める筋肉重量割合は約20%大きくなったが、格付成績は全頭A-1であった。また、間接検定牛202頭の調査では、ヘテロ型を示した13頭は非保因牛189頭に比べロース芯面積が有意に大きく、ヘテロ個体であっても産肉性の向上が期待できることがわかった。生産農家の収益性を考えると、DMは現在の一般流通には向かないと判断されたが、赤肉生産を進める場合には貴重な遺伝資源となる可能性が示唆された。

【要報】日本短角種における飼料米給与実験

安田潤平・鈴木 賢・太田原健二・西田 清・小松繁樹

 近年、畜産物の安全性が非常に注目されており、国産飼料を用いた畜産物生産が強く求められている。また、水田転作の拡大により、飼料用作物の生産が促進されている。そこで、日本短角種去勢牛を用いて、慣行肥育法で用いる配合飼料の大部分を飼料用玄米で代替した肥育試験を行った。その結果、飼料米給与区では、慣行区と比較して増体が劣る結果となった。また、飼料効率も飼料米区で劣った。枝肉格付や脂肪含量、肉のかたさ等の物理性、遊離アミノ酸組成、脂肪酸組成、食味性では両試験区の間に有意な差は認められなかった。肥育牛の大部分が肉質等級「2」と格付される日本短角種の場合、枝肉重量が落ちると経済性の悪化に直結するため、飼料米多給による肥育に関しては増体性の低下が大きな課題となっている。また、飼料米はカルシウム含量が低いため、カルシウム不足に留意する必要がある。

【要報】「岩手地鶏」を活用した高品質鶏肉生産のための基礎鶏の作出

吉田 登・仁昌寺 博・太田原健二・鷲盛 精・小野寺 勉・小松繁樹

 第4世代までの改良効果は、16週齢時体重で+0.09kg、産卵率で+2.43%の遺伝的改良の効果が見られ、16週齢時体重2.94kg、産卵率56.3%と目標にする軍鶏を上回る能力を示した。
 この基礎鶏を種鶏として他の鶏種と交配することにより、その作出された鶏の「体重の増加」及び「早期出荷」が期待できる。
 基礎鶏を繁殖供用した組合せ検定を実施の際は、官能試験及び呈味成分の分析を実施し、コクがあり美味しい県独自のオリジナル高品質鶏肉生産ができる交配様式を決定する予定である。

【要報】岩手県における農畜産物生産・消費に係る窒素収支の推定

平賀昌晃

 窒素は農作物生産に必要不可欠である一方で、地下水の硝酸性窒素濃度の上昇や閉鎖水域の富栄養化などの環境への負荷が問題視されてきており、適切な窒素バランスに基づいた循環社会の構築が求められている。そのためには、現状の窒素動態を把握する必要がある。
 本報告では、松本等の方法を用いて岩手県の農畜産物生産及び消費に係る窒素の動きの現状を推定した結果、以下のとおりであることがわかった。

  1. 岩手県外から移入した窒素58千トンは、再び県外出荷農畜産物などとして31千トン(53%)県外へ移出されている。県内循環(摂食・排出・再利用・蓄積)している27千トン(47%)のうち、16千トン(59%)が未利用である。
  2. 農地への窒素のインプットは41千トン(245kg/ha/年)、アウトプットは28千トン(173kg/ha/年)である。したがって、化学肥料の他それと同量の13千トン(72kg/ha/年)が農地において蓄積または溶脱されることになる。
  3. 畜産においては、購入飼料として35千トンが移入されている。家畜ふん尿は堆肥として70%が利用され、18%が廃棄または未利用である。
  4. 食生活においては、約7千トンの食料が摂食され、県外からの購入食料がその57%を占める。排出される窒素は農地にあまり還元されず、循環利用はほとんど行われていない。

【要報】集約放牧を組み入れた飼養管理技術による高位乳生産ならびに周産期疾病予防

山口直己・大和 貢・菊池文也・清宮幸男

 泌乳中・後期の搾乳牛および乾乳前期牛を対象にペレニアルライグラス草地を用い、栄養価および草勢維持を考慮した草高20cm以下で多回利用する集約放牧を組み入れた飼養管理を実施した。
 泌乳中・後期の搾乳牛は昼間6時間(夏期は夜間11時間)の時間制限集約放牧とし、放牧時間以外は放牧草の生産量および栄養成分の季節推移に対応した併給飼料を給与することにより、高位な乳量・乳成分の確保が可能であると考えられた。
 なお、泌乳前期の搾乳牛の集約放牧利用は、栄養管理面から慎重な検討を要する。
 乾乳前期牛は、乾乳処置後約7日からクロースアップ期(乾乳後期)開始直前である分娩予定21日前まで昼夜集約放牧とした。乾乳後期の給与飼料は、乾乳期用TMR(乾物中TDN74.9%、CP15%)の段階給与とし、給与開始直後の1頭あたり原物で6kgから分娩直前の12kgまで緩徐に増加させながら個体別に給与した。乾乳前期の集約放牧管理において、放牧草の乾物摂取量および栄養を充足し乾乳後期の飼養管理に移行することにより、周産期疾病予防対策を施した通常の飼養管理と同様に周産期病の予防は可能であると考えられた。

PDFファイルをご覧いただくには、「Adobe(R) Reader(R)」が必要です。お持ちでない方はアドビシステムズ社のサイト(新しいウィンドウ)からダウンロード(無料)してください。

このページに関するお問い合わせ

岩手県農業研究センター 企画管理部 研究企画室
〒024-0003 岩手県北上市成田20-1
電話番号:0197-68-4402 ファクス番号:0197-68-2361
お問い合わせは専用フォームをご利用ください。