高カリ施用で牧草の栄養バランスは? ~ 配合飼料等との組合せで牛の健康に問題なし

ページ番号2005723  更新日 令和4年11月4日

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 岩手県では、東京電力福島第一原子力発電所事故で放射性物質(放射性セシウム)に汚染された牧草地の除染対策に取り組んできました。除染対策は、(1)汚染された牧草地の土壌を念入りに撹拌すること、(2)通常よりもカリ(カリウム)を多量に施用すること、この二つが基本となっています。
 (1)については、「土壌中の粘土質がセシウムと強く結びつく性質を利用したもの」で、(2)については、「カリウムとセシウム、二つの元素の化学的類似性を利用したもの」です。この二つの方法を組み合わせることによって、効果的な除染対策が進められてきました。

 一方、除染対策はうまくいったものの、「通常より多量のカリ施用によって、牧草中のカリウム含量が増えることの弊害が出るのではないか」と心配する声が生産現場から上がりました。なぜかというと、牛ではテタニー比が一定値(2.2)以上になると、起立不能症を引き起こすリスクが高まることが知られているからです。
 そこで、除染対策を実施した牧草地178か所から収穫された牧草中のカリ(K)、カルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)の含量を調査しました。その結果、それぞれの含量は通常のカリ施用で生産された牧草中の含量とほぼ同じ(平均値)であることがわかりました(表1)。さらに、テタニー比が最大の5.12となった牧草でも、通常行われている配合飼料との組み合わせで給与することにより、起立不能症を起こす心配がないことがわかりました(表2)。

 念のため、高カリ施用で生産された牧草を牛に給与する際には、飼料成分分析を行い、配合飼料との組み合わせなど、最寄りの農業改良普及センターにご相談いただくことをお勧めします。

注:テタニー比=飼料中K%×25.6÷(飼料中Ca%×49.9+飼料中Mg%×82.3)

表1 高カリ施用牧草地で収穫された1番草のミネラル含量

区分

K

Ca

Mg

テタニー比

高カリ施用

3.34%

0.34%

0.15%

2.92

標準カリ施用注1

3.50%

0.38%

0.15%

2.86

注1:日本標準飼料成分値
 

表2 配合飼料等と組み合わせた場合のK/Ca+Mg

通常給与飼料

給与量

K

Ca

Mg

テタニー比

1番草サイレージ注2

27kg/日

5.30%

0.20%

0.20%

5.12

ビートパルプ

2kg/日

0.48%

0.59%

0.31%

0.22

配合飼料

10kg/日

1.00%

0.70%

0.45%

0.36

全体

39kg/日

3.37%

0.41%

0.30%

1.91

注2:今回調査の牧草でK含量が最大だったもの

(畜産研究所家畜飼養・飼料研究室 主任専門研究員 佐藤 まり子)

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