岩手県蚕業試験場要報 第12号

ページ番号1042191  更新日 令和3年4月22日

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高接ぎによる耐寒性桑苗木の育成

菊池次男・亀卦川恒穂・及川英雄

 寒冷地において胴枯病の消毒を必要としない桑裁培の普及を目標に、極耐寒性品種を台木に用い、優良多収品種を穂木として高接ぎし、耐寒性桑苗木の育成について検討した。

  1. 高接苗の台木育成には、胴枯病耐性桑品種「新桑2号」を用い、古条を利用したさかさ伏込発根処理により、30~40日で台木育成ができる。
  2. 寒冷地における穂木育成は、古条全芽処理及び摘芯処理で育成できるが、先枯れのない充実した穂木を得るためには、9月上旬の摘芯が必要である。
  3. 高接ぎ方法は発根枝条上部に切接法で行なうが、穂木の固定に実験用パラフィルムを使用することにより、接木部の安定化が図られ、接木労力も節減できる。
  4. さかさ伏込発根処理枝条への高接ぎでは、接木部の乾燥防止を図るため、山形に盛土した床を設け、苗木伏込後ポリ トンネル保護をすると活着率が向上する。
  5. 台木に極耐寒性桑品種を用い、優良多収品種を接木した高接苗の圃場栽植は、主幹に胴枯病の罹病もみられず、桑収量においては期待収量が十分可能である。しかも、従来の耐寒性桑品種とされるヤマグワ系品種に比べ、優良多収品種が接がれていることから、晩秋蚕期の葉質低下もみられず、優良繭生産が期待できる。

組織培養による桑育苗 (3)・(4)

及川直人・壽 正夫

(3)「みつしげり」の分離芽培養における好適培地条件
 寒天培地による分離芽培養法における「みつしげり」の好適培地を明らかにするため、培地条件について検討した。
 「みつしげり」の頂芽培養における培地条件別の生育状況をみると、BAの濃度は0.1mg・0.5mg・1.0mg/リットルの範囲では1.0mg/リットルが良く、次いで0.5mg/リットルであった。糖の種類はシュクロースに比べフラクトースの生育が勝り、特にBA 1.0mg/リットルでの生育が良く、濃度では3%が1%に勝る生育を示した。寒天の添加量を0.4%と0.8%で比較したところ0.8%の生育が良かったが、これは0.4%では外植体が培地中に完全に沈みこんだためと思われる。また、「みつしげり」の腋芽をMSにBA1.0mg/リットル・フラクトース3%・寒天0.8%添加した培地で培養したところ、他のクワ品種と同様に高い増殖効果が認められた。
 以上のことから、「みつしげり」の寒天培地による分離芽培養の好適培地は、多くの桑品種の好適培地条件と同様に、MS培地を基本にBA 1.0mg/リットルとフラクトース3%および外植体が沈み込まない程度の寒天を添加した培地であった。なお、最適培地条件を明らかにするためには、さらに成長物質や糖の種類及び濃度、寒天やpHの適正値など要因を拡大して検討が必要である。

(4)組織培養桑樹の形態的特性
 組織培養樹の桑品種の特性を知る一環として、桑葉の着葉部位別に葉重と葉面積を測定し、形態的な面から特性調査を行った。
 着葉部位別による葉重と葉面積を桑品種別にみるとあおばねずみ、しんけんもち、ゆきしのぎ、剣持では15葉部位で最大となり、これにより下部葉で順次小さくなる傾向を示し、改良鼡返では着葉部位による一定の傾向が認められなかったことから品種特性を継代しているものと考察した。

密植桑園における発芽前伐採の秋冬期処理と生育促進

高田勝見・壽 正夫・及川直人

 発芽前伐採処理を秋冬期に行なった場舎の翌年の生育状況と芽出し肥・葉面散布による生育促進効果について検討した。

  1. 発芽前伐採の秋冬期処理は慣行処理に比べて発芽・伸長とも若干遅れ、収穫量の減少傾向が認められた。
  2. 芽出し肥の施用効果は、秋冬期伐採・慣行伐採共に認められたが、伐採時期による差がみられ、秋冬期伐採に比べ慣行伐採で効果が大きい傾向を示した。
  3. 葉面散布による生育促進処理は、ポリコープ・尿素とも処理効果が認められ、無処理に比較し6~8%の増収となった。しかし、これらの処理(秋冬期の基部伐採・芽出し肥の施用・葉面散布)による効果は、クワ品種や年次(気象状況)により発現程度が異なった。

超多収桑園の技術開発 -超多収桑園の生産性-

高田勝見・壽 正夫・及川直人

試験1 超多収桑園における造成2年目の桑生育と収量
 密植適応桑新品種を用いた苗木横伏密植桑園をベースとして施肥効率の高い液肥多回分施技術を中心に造成2年目の桑生育と収量について検討し、次の結果を得た。

  1. 液肥の多回分施により桑の生育が良好で収量も標準固形区(100)に対し125と増加した。
  2. 夏秋期における品種別落葉長は、みつしげりが短く、次いであおばねずみ、しんけんもちの順であった。
  3. 苗木横伏法におけるみつしげりは、あおばねずみ、しんけんもちと比較し生育が良好であり、寒冷地向、密植桑園適応性が発揮されることが認められた。

試験2 太繊度用繭品種を用いた場合の桑品種別の繭層生産効率
 単位面積当たりの産絹量の向上をはかるため密植桑園用品種「みつしげり」と、密植桑園適応品種「しんけんもち」「あおばねずみ」を用い、密植桑の飼料効率を繭層生産効率の視点から太繊度蚕品種を用い検討した。

  1. 初秋蚕期における桑品種別による繭層生産効率(繭層重/食下量)では、しんけんもち>みつしげり>あおばねずみの関係を示し、蚕品種では対照品種に比べ太Bが優る傾向を示した。
  2. 晩秋蚕期における桑品種別による繭層生産効率では品種間で大差なく、蚕品種別では対照に比べ太B、太Cとも優る傾向を示した。
  3. 桑品種別繭層生産量の試算では、年間収葉量が多く、繭層生産効率の高かったしんけんもち、みつしげりが高い傾向を示した。また、5齢初期に食下量が多く、消化率が高い桑品種で繭層生産効率が高い傾向が認められた。

超多収桑園における土壌中無機態窒素の消長

宍戸 貢・高田勝見・鈴木繁実

  1. 超多収桑園を対象として窒素の施用法と土壌中無機態窒素の消長を調査したところ、液肥による多回分施では窒素多施用(50kg/10アール)でも土壌中無機態窒素は10.0mg/100グラム以下で推移した。これに対して、春肥・夏肥(60対40)分施の固形肥料施用では窒素多施用(50kg/10アール)で最高28.6mg/100グラム、標準(40kg/10アール)で最高20.8mg/100グラムを記録したほか、NH4-Nが長期間残存し、硝酸化成が抑制された。
  2. 桑の収量は液肥による多回分施区が最も高く、無機態窒素が10.0mg/100グラム以下で推移しても良好な生育を示した。気象条件などが良好で桑の生育量が大きい場合の検討が必要である。
  3. 土壌管理の面から窒素多施用と土壌化学性について検討したが、造成2年目までは窒素施肥法による差異は認められなかった。なお、造成時に施用した粗砕石灰などが崩壊し始め、pHが上昇してきており、今後の動向が注目される。

桑園かんがい施設の多目的利用技術

伊藤眞二・菊池次男・土佐明夫・亀卦川恒穂

  1. 施設の多目的利用技術としての凍霜害防徐では、降霜の強弱は年により差はあるが、スプリンクラー散布による散水による霜防除効果は明らかである。
  2. スプリンクラー散水によって早霜を防除することにより、翌春の寒枯を少なくすることができる。
  3. 希釈器を使い、スプリンクラーによる除草散布は雑草発生量が少なく、防除作業の省力化も併せて効果が期待できる。
  4. 希釈器を使い、スプリンクラーで夏肥として散布した液肥は、春切桑の収量に効果が大きく、また、密植化することによってさらに高い増収効果が期待できる。

クワシントメタマバエの発生生態に関する調査研究

鈴木繁実

 気象変動に対応したクワシントメタマバエの防除適期を予測することを目的として、幼虫の年間発生消長、老熟幼虫から成虫までの発育速度および第1世代幼虫の初発時期と気象との関係について調査検討した。
 得られた結果は次のとおりである。

  1. クワシントメタマバエ幼虫の発生量および発生時期は気象条件、地域、桑園管理の良否で異なり、さらに春切り・夏切り桑園で異なった。
  2. 幼虫の年間発生消長調査に基づいて、岩手県県南地域における本種の生活史のモデルを春切り桑園・夏切り桑園毎に作成した。
  3. 夏世代における幼虫から成虫までの発育速度(y)は、18℃から27℃の間では、保護温度(x)と高い正の相関が認められた。羽化初日および50%羽化日までの発育速度は、それぞれ次の回帰直線式が得られた。
    1)羽化初日までの発育速度(y1
      y1=0.0078566x-0.0823485(r=0.997**
      発育零点: 10.5℃
      有効積算温度: 127日度
    2)50%羽化日までの発育速度(y2
      y2=0.0055966x-0.0435985(r=0.972*
      発育零点: 8.0℃
      有効積算温度: 178日度
  4. 春切り桑園で桑の芽に食入している第1世代幼虫の初発時期についての4ヵ年の調査資料と気象要因を利用して、第1世代的虫の初発時期を予測し、それをもとに越冬世代成虫の初発時期を推定しようと試みた。6月30日を基準として、それ以前の期間毎の気象要因と第1世代幼虫の初発時期との関係を検討したところ、第1世代幼虫の初発時期Zは、6月21日から30日までの10日間の(平均気温-10.5℃)の積算値x1、あるいは最高気温の積算値x2と、6月11日から25日までの15日間の降水量yを説明変数とする重回帰式
     Z1≒-0.409x1+0.100y+45.529 (r  Z1・x1y=0.996)
    および
     Z2≒-0.599x2+0.026y+152.716 (r  Z2・x2y=0.993)
    により推定された。
  5. この予測式より算出した初発時期の値から、幼虫期間3日、卵期間4日および成虫期間3日の合計10日を減じた値が越冬世代成虫の初発時期、すなわち、薬剤の地表面散布適期であると推察した。

超多糸量系蚕品種「翔萌」の品種特性と収益性

佐藤正昭

  1. 翔萌は対照品種の太平×長安に比べ繭重、収繭量とも指数で109、繭層重、繭糸長では115、118と優れた計量形質を示した。
  2. 翔萌の食下量は対照品種の日134号×支135号に比べ5齢中、後期に大きく上昇する傾向が見られた。
  3. 新梢100kg当たり繭生産効率は太平×長安に比較し指数で106と高く、桑園10アール当たりの所得額、所得率も、124,206円(124)、54.1%と非常に高収益性の蚕品種であることが実証された。

テンサン繭の安定生産技術(第2報)

阿部信治

 岩手県内88農家で44,000頭の天蚕飼育を行い飼育数の41%を収繭した。飼育成績をもとに経営試算を行ったところ、繰糸を委託した場合の農家所得率は34%、自家繰糸した場合は73%であった。

桑の超多収と優良繭生産技術の実証に関する研究 -地域農業開発拠点試験地設置事業成績-

高田勝見・壽 正夫・及川直人・若澤 貢・長岡正道・鈴木繁実・大津満朗

 北上川下流地域の養蚕主産地において実施した地域農業開発拠点試験地設置事業の現地実証試験成果をもとに、超多収桑園を基本とした優良繭の生産技術体系を策定して、その収益性について検討した。
 その結果、桑園10アール当たりの収益性が大巾に向上することを明らかにした。

  1. 本体系は密植桑園と普通桑園を組み合せた、年5回育で、10アール当たり収繭量137kg(密植桑園150kg/10アール、普連桑園101kg/10アール)目標の主業型と、年4回育の、10a当たり収繭量128kg(密植桑園145kg/10アール、普通桑園108kg/10アール)目標の補完型の2タイプを策定した。
  2. 本体系の組立に用いた技術
    1)密植桑園の造成時における徹底した土壌改良(粗砕石灰と有機物の多投および深耕)と、多肥栽培(N:60kg、P2O5:32kg、K2O:40kg)によって高い桑の増収効果が得られた。
    2)密植桑園の機械収穫では、手刈り収穫に比べ、バインダ型条桑刈取機により収穫は85~87%の大巾な省力化となった。
    3)超多収桑園から生産された桑葉と普通桑園からの桑葉を比較した桑葉利用効率では、初秋蚕期および晩秋蚕期の繭層重、生糸量歩合で密植桑が勝った。
    4)アルミパイプハウスのポリフィルムによる内張と床面の被覆によって、木造蚕舎並みの飼育環境に保持できることが明らかとなった。
    5)条払自然上蔟法は、上蔟作業労力が大巾に軽減され、繭重、繭層重が重いことが明らかとなった。
    6)バインダ型条桑刈取機による密植桑の給桑では、解束給桑より小束扇型給桑法は26~31%給桑作業労力が軽減された。
    7)クワシントメタマバエ防除は、T型多口噴頭を装着した背負式動力散布機を使用することにより1人作業が可能で、防除効果も高かった。
    8)蔟器の消毒には、小型ビニールハウスを利用したホルマリンくん蒸消毒が有効であったほか、重複蚕期におけるシルゾールによる蚕室蚕具消毒について体系化した。

[資料]桑の発芽・発育調査、交雑種比較試験成績(人工飼料育)(付・1988年気象調査表)

及川直人・伊藤眞二・佐藤正昭・阿部信治

(摘要なし)

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