岩手県蚕業試験場要報 第6号

ページ番号1042277  更新日 令和3年4月26日

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水沢地方における桑の発芽予想について

境田謙一郎・高木武人・菊池宏司

 岩手県水沢地方における1959年から1979年までの20年間における市平子、改良鼠返の脱ぽう日と気象との関保から発芽予想について検討した結果は次のとおりである。

  1. 脱ぽう日と気象要因との関係は、市平、改良鼠返ともに最低気温との相関が最も高かった。
  2. 4月中旬までの観測地を用いた市平の予想式は Y=35.32-0.80X1-1.64X2、改良鼠返: Y=38.12-1.02X1-1.12X2 が得られた。ただし、Y:脱ぽう日、X1:4月上旬、X2:4月中旬の最低気温である。この式で求められる平均偏差は市平が2.71日、改良鼠返は3.03日であった。
  3. 4月下旬(X3)の観測値を加えた予想式は、市平:Y=43.86-1.80X2-1.73X3、改良鼠返:Y=47.93-0.53X1-1.16X2-1.96X3 が得られ、その平均偏差は市平が1.79日、改良鼠返は1.77日と精度が最も高い。

 以上から、水沢地方の発芽予想には最低気温を用いることが適していると考えられる。
 しかし、岩手県は広大な面積を有し、地形的にも立地条件や気象条件が複雑であり、この予想式を県下全域に適応することは難しいと考えられるので、県北部、沿岸部地域の予想式についてはさらに検討を加えたい。

異常冷夏年における桑の生育

高木武人・壽 正夫・佐々木敬治

 '80年は、近年まれにみる異常な冷夏で、桑の生育が悪く、収量も減少した。そこで冷夏年における桑の伸長状況、収量調査ならびに桑品種別による再発芽状況、葉重と葉面積等を調査した。

  1. 平均気温は、6月下旬まで平年より高く、少雨、多照であった。7~8月の平均気温は平年より3~4℃も低い異常低温となり、多雨、寡照で、'76年の冷夏年よりきびしい冷夏となった。
  2. 夏秋期の桑の伸長は、水沢の春切りが7月下旬から生育不良となり、夏切りは収穫直後から伸長が悪かった。一戸の春切りは7月下旬まで平年を上廻ったがその後の生育は劣り、夏切りは水沢と同傾向であった。
  3. 桑品種別の伸長状況では、春切りで比較的伸びのよかったのが、水沢でゆきしのぎ、ゆきしらず、一戸では改良鼠返、剣持、六原では剣持、ゆきしのぎであり、夏切りでは水沢で改良鼠返、一戸では改良鼠返、ゆきしらず、六原では剣持であった。
  4. 桑収量では、水沢、一戸とも春蚕期は前年より多かったが初秋蚕期より減収傾向を示し、晩秋期は極めて少なかった。
  5. 桑品種別の再発芽状況は、8月4日に50cm株上伐採した枝条の再発芽がよかった品種は改良鼠返、ゆきしのぎ、わせみどりであり、市平、大島桑が悪かった。また、多くの桑品種で再発芽しない伐採枝条が多く認められた。
  6. 桑品種別再発枝条の生育では、しんいちのせ、剣持、改良鼠返、一ノ瀬わせみどりがよく、あさゆき、新桑2号、大島桑、市平は劣った。なお、あさゆき、新桑2号、市平は9月21日で伸長停止となった。
  7. 桑品種別葉重・葉面積では、前年に比べて葉身重は軽く、葉面積は小さかったが、春切りでは水沢の改良鼠返が前年よりよく、夏切りでは水沢、六原とも改良鼠返の葉身重は軽いが葉面積はやや勝った。
  8. 桑樹病害虫発生状態では、縮葉細菌病が全県的に多発し、特に改良鼠返の被害が目立った。また、クワシントメタマバエ、クワゴマダラヒトリの被害も例年より多く、クワ裏うどんこ病の発生が少なかった。

豚ぷん尿の多量施用が桑の生育および土壌の化学性に及ぼす影響

八重樫誠次

 豚ぷん尿を多量施用している桑園において、施用実態親査および土壌調査を実施し、次の結果を得た。

  1. 生ふん尿混合液を周年施用している桑園では、桑に伸長停止、枯死等の生育不良がみられ、また、生ふん尿混合液を全面被覆して耕うんを行なわない桑園では、桑の伸長抑制、縮葉がみられた。しかし、堆積ふんを隔畦施用している桑園および生ふん尿混合液を冬期間溝施用している桑園では、多量施用であっても障害が少なかった。
  2. 多量施用によって、表土の塩類濃度が過剰となり、塩基飽和度がきわめて高くなっていた。また、下層土では塩類濃度が高く、カリウムも比較的多かった。しかし、施用後2年を経通した場合、塩基飽和度は高かったが、塩類濃度は低かった。

蚕の人工飼料育の実用化に関する研究(第3報)-既在施設を利用した場合の清浄度および稚蚕人工飼料育配蚕児の壮蚕期農家実証-

橋元 進・河端常信

 稚蚕人工飼料育を行う施設として用いた簡易な防疫対策を講じた既存の施設における清浄度を調査するとともに、稚蚕人工飼料育、壮蚕桑葉(条桑)育体系の農家実証を行い、次の結果を得た。

  1. 稚蚕人工飼料育施設の清浄度調査の結果、人工飼料飼育前室、人工飼料飼育室とも床面からは掃立当日より多数の菌が検出されたが、こうじかび病菌は認められなかった。飼育室内空気中の浮遊菌は日を追って増加する傾向を示した。
  2. 農家実証試験の結果、1~3齢経過日数は桑葉育に比較し延長する傾向が認められたが、4・5齢期の発育は良好で、全齢桑葉育の場合と比べ特に異なる点は認められなかった。
  3. 初秋蚕期の繭質および繰糸成績は、当場においては全齢桑葉育の場合と比べ若干劣ったが、現地養蚕農家では全齢桑葉育の場合と同程度か、もしくはそれを上回る成績であった。
  4. 晩秋蚕期の繭質については、全齢桑葉育の場合よりも良好な成績が得られたが、繰糸調査の結果、現地養蚕農家において生糸量歩合が若干低い値を示した。

 以上の結果、稚蚕人工飼料育では1~3齢経過日数は延長するものの、4~5齢の発育は良好で、繭質、繰糸成績も全齢桑葉育に比較しさほど劣らないことから、一般養蚕農家においても人工飼料育蚕児を飼育できる見通しが得られた。
 既存施設を利用する場合の防疫対策については、さらに検討を要する。

増繭・増糸剤DS-20Aの投与効果

河端常信

 新しく開発された増繭・増糸剤DS-20Aを蚕に経皮投与した場合の効果について検討した。

  1. DS-20A剤の0.008ppm液(1,000倍)および0.004ppm液(2,000倍)を5齢桑付け36~40時間目および58~62時間目に経皮投与すると、5齢経過は無処理に比べて16~24時間延長した。その結果、給桑量は約10%多く要するが、繭重・収繭量は10%程度増大し、生糸量歩合も向上し、繭格も良好であり、繭価格に換算すると無処理に比べ8~14%(箱当たり5,250円~9,400円)価格が向上し効果が認められた。
  2. 薬液濃度については1,000倍液に比べ、2,000倍液の減蚕歩合少なく、上繭歩合も高いことから、2,000倍液が安全であると考察した。
  3. 散布時期については36~62時間と幅が広いが、36~40時間目散布でも増繭効果は高かった。

飼育条件と2・3幼若ホルモン剤の利用効果

河端常信

 現行交雑種を用いて、現行育蚕技術で繭重増加が期待できる飼育良条件を設定した上で2・3幼若ホルモン剤の投与効果とくに繰糸成績に及ぼす影響を普通条件の場合と比較検討した。

  1. 飼育良条件として条桑の2分の1上部葉を標準給桑量の30%多く与え、5齢飼育密度も0.1m2当たり100顕の薄飼いとした上で、幼若ホルモン剤「マンタ」「モア・シルク」および「DS-20A」を5齢桑付け60時間目に箱当たり2.5リットルあて経皮投与した。その結果、5齢経過日数は24時間程度延長し、繭重・繭層重は17~28%重くなり、収繭量も20%程度多くなる。繰糸成績でも繭糸長・繭糸量は20~30%向上し、生糸量歩合も4~7%多く、繭格も良好であり、箱当たり収支試算結果は無散布・普通条件に比べ26~29%、無散布・良条件に比べれば15~18%収益が増加した。しかし繰糸成績のうち解じょ率についてはやや劣る傾向がみられるので良条件・ホルモン剤投与ではとくに上ぞく保護環境の良化について留意する必要が認められた。
  2. 飼育条件として条桑の2分の1下部葉(粗硬葉)を標準給桑量の25%多く給与し、0.1m2当たり100頭の薄飼いで飼育しながら幼若ホルモン剤「マンタ」「モア・シルク」および「DS-20A」剤を各々5齢桑付け60時間目に箱当たり2.5リットルあて経皮投与した。その結果、5齢経過日数は無散布区に比べて41時間も延長した。繭重は17~23%、繭層重24~32%、収繭量11~15%増大し、生糸量歩合も9~12%向上し、繭格も良好であった。しかし収支試算した結果は労賃・桑葉代および燃料費が高くつき、無散布に比べて収益は劣った。即ち幼若ホルモン剤を利用する場合、栄養条件が著しく劣る場合は経過日数が延びすぎて経営的にはマイナスであることが判明した。
  3. 現行蚕品種では相当極端な飼育良条件下でも、幼若ホルモン剤投与によって増繭・増糸効果が認められた。ホルモン剤別にみた場合、試験に供用した3種類のホルモン剤は同一水準の効果をあげることが出来ると考寮した。

クワ胴枯病に対するホルマリン・マシン油の混用効果

及川英雄・鈴木繁実

 ホルマリンとマシン油の混合液によるクワ胴枯病の防除効果を検討した結果、ホルマリン15倍とマシン油20~30倍混合液は、安定した防除効果を示し、実用効果が高いと考察された。

クワ胴枯病罹病枝条・支幹における胞子形成の推移

鈴木繁実・及川英雄

 クワ胴枯病罹病枝条・支幹における胞子形成推移を精査し、次の結果を得た。

  1. 柄胞子は5月中旬頃から形成されはじめ、そのピークは降水量によって左右されたが、5月下旬から7月中旬にみられ、8月下旬以降は漸減した。
  2. 子のう胞子は罹病枝条を地表面、土中および水浸などでの多湿状態においた場合、7月下旬~8月中旬に形成されはじめ以後多少の増減がみられたが、その数は少なかった。
  3. 柄胞子の皮目への主要な定着時期について考察した。

養蚕複合経営農家の経営・技術に関する調査研究 -養蚕と葉たばこの組合せ事例-

菊池次男・河端常信

 北上川下流地域のうち、養蚕と葉たばこの組合せ類型の比率が最も高い千厩地区から、O農家(養蚕+たばこ+水稲)とTI農家(水稲+養蚕+たばこ)を選定し、両農家の経営内容を調査した。

  1. 養蚕と葉たばこの組合せ類型にありながら、養蚕の規模拡大が図られ、繭1トン以上の生産実績を上げ得た背景には、たばこによる蚕児中毒被害を回避する方策がとられた。即ち、施設の分離、作業者の分担制、作業衣の交換などを実施し、更に多回育を導入することによって養蚕と葉たばこの労働競合をさけ、家族労働力の適正配分を図っていることによると考察された。なお、桑園がたばこ畑から隔離されて立地していることも見のがせない条件の1つである。
  2. 年間の旬別労働配分をみると、年5回育を実施したO農家においてはほぼ平準化されているが、飼育量の多い春蚕期および晩々秋蚕期の壮蚕期から上蔟期に労働ピークが形成されているので、各蚕期における飼育量を検討する必要がみられた。年3回飼育のTI農家では、6月下旬、7月下旬~8月上旬、および9月下旬に労働ピークを形成し、7月上~中旬、8月中旬~9月上旬に労働の谷間がみられる労働配分図を示した。繭生産量の増加を図る場合、労働の谷間を形成する時期に育蚕を配した多回育導入の必要性がみられた。
  3. TI農家における現状の労働配分は繁閑の差が著しいので、年間の労働を平準化するような蚕期別掃立量を検討した。その結果、完成桑園1ヘクタール、年間25箱の飼育が可能とみて、春蚕(5月30日掃)4箱、夏蚕(7月3日掃)3箱、初秋蚕(8月1日掃)3箱、晩秋蚕(8月23日掃)7箱、晩々秋蚕(9月7日掃)4箱とした年5回飼育が妥当と考えられた。
  4. 養蚕と葉たばこの組合せ類型では、葉たばこの品種別にみて作業時期が異なるところから、葉たばこ品種に合わせた養蚕の蚕期別掃立量比率を調整する必要が認められた。
  5. 両農家とも、たばこによる蚕児中毒被害の回避方策の確立により、箱当たり収繭量は34kg以上と高く、蚕作は安定していた。
  6. 両農家の生産性および収益性を繭生産費調査の全国平均と比較した。O農家では10アール当たりの上繭収量がわずかに下まわる以外、労働生産性・収益性ともに全国平均を上回った。TI農家では土地および労働生産性は低い水準であった。生産費では全国平均値より少ない金額で繭生産を行っているものの、収益性では低かった。このことは養蚕の規模拡大途上にあるが、作業能率の向上と多回育の導入による飼育数量の増加、労働配分の適正化を図り、生産性および収益性の向上に努める必要が認められた。
  7. 両農家の複合経営における部門間の経営収支を比較した。所得額からみたO農家の経営は、養蚕が63%を占めて経営の中心作物であり、葉たばこ34%、水稲3%の複合経営である。TI農家では水稲が60%で経営の柱であり、養蚕19%、葉たばこ21%の複合経営であった。

[資料]桑の発芽・発育調査、交雑種比較試験成績(付・1980年気象調査表)

境田謙一郎・佐々木敬治・及川直人・菊池次男

(摘要なし)

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