岩手県蚕業試験場要報 第3号

ページ番号1042308  更新日 令和3年4月26日

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春蚕用品種の夏蚕期における適応性について 1. 春採即浸種および晩秋採越年種を供用した場合

大塚照巳

 最近、養蚕家における夏蚕飼育の増加にかんがみ、主として春蚕用品種を夏蚕期に飼育する場合の適応性について検討した。

  1. 春採即浸種および晩秋採越年種とも夏蚕期に春蚕葉品種を供用しても夏秋蚕用品種と比較して計量形質に大きな差がないところから利用できると判断される。
  2. 飼育要領は岩手県飼育標準表(初秋蚕期)によるが、給桑量は蚕児が食桑不足とならないように適宜増量した。
  3. 夏蚕飼育の時期は不安定な気象条件(梅雨)の季節でもあることから、とくに屋外飼育環境下では低温時の4令期の取扱い、高温飼育下での蚕児の取扱いならびに蔟中管理は蚕児の生理を害することのないように留意する必要がある。

蚕の人工飼料育の実用化に関する研究

大塚照巳・河端常信

 人工飼料による稚・壮蚕飼育、蚕品種の適応性、桑の収穫時期別による飼料価値について比較検討した。'74年には給餌回数を異にして稚蚕を人工飼料で飼育し、壮蚕は切断条桑を給与した場合の飼育、収繭、繭質について、'75年は桑葉を固形乾草(ヘイキューブ)と同様な方法で成形処理し人工飼料に添加して蚕児飼育を行なった。また、数種類の人工飼料についても比較検討した。

  1. 稚蚕期(1~3令)を人工飼料育した蚕児は桑葉育した蚕児に比べて飼育経過は4日ほど延長し、繭重は8%程度軽めであった。
  2. 人工飼料に対する蚕品種の適応性をみると高い適応度を示す品種もみられ、また同一品種でも蚕種製造所により摂食状況が異なった。
  3. 桑の収穫時期別による飼料価値について調査した結果、年間を通して6月中・下旬に収穂した桑葉が優り、次いで9月中・下旬に収穫した桑葉の飼料価値が優れている。
  4. 稚蚕人工・壮蚕機械区は稚蚕人工・壮蚕条桑区に比べて繭重で5~10%軽<、飼育経過は1日ほど短縮した。また稚蚕人工壮蚕機械区の減蚕歩合は対照区に比べて多かったが、これは主として切断条桑給与によって、蚕座内埋没蚕が多くなるためであった。
  5. 民間会社製の飼料について比較検討した結果、蚕児の摂食良好で発育経過もよく、桑葉育の成績に近い数値を示した飼料もみられた。
  6. 桑葉成形物の粉末添加飼料区は、各蚕期を通じて2令起蚕率、3眠蚕体重の数値が一定しており、熱風乾燥粉末添加飼料と比べて飼育成績に差はなかった。また保存期間11ヶ月目における成形物の形状は成形処理した当時と比べてほとんど変化なかった。これらのことから桑葉を乾燥圧縮成形処理して貯蔵し、必要に応じて粉末にし人工飼料に添加して蚕児飼育に供用することは可能であることを明らかにした。

壮蚕条育における隔沙材料の検討

都築 誠・高木武人

 壮蚕条桑育における除沙の際に網下に残る蚕児の多少は作業能率に著しい影響を及ぼすので、蚕児の這上りを促進し網下蚕児を少なくする方法として7種類の隔沙材料(忌避剤を含む)について検討した。
 その結果、300倍クレゾール石けん浸漬籾殻を除沙投入・給桑前に蚕座に(2リットル/m2)散布することにより短時間で蚕児を網上に這上らせ、網下残蚕数を少なくする促進効果が蚕期や飼育場所・型式にかかわらず認められた。他の隔沙材料については、その効果がみられなかった。

2段循環型飼育装置の導入と効率的暖房法による育蚕技術

河端常信

 寒冷地の気象条件をふまえて、飼育施設経費を節減し効率的な暖房効果をあげうるように、育蚕に必要な最少限の空間を被覆した装置を試作しその中に直接LPガス暖房機の温風を吹き込む方式について検討した。
 その結果、装置の被覆材は徴気象・耐久性・簡便性などからみてテント布(防水性)が適当であった。また装置が大型になるとダクトを引きこんで補温すれば目的温度維持は容易であり、湿度については蚕座前方に比べ後方の湿度が低湿の傾向がみられたが、飼育・繭質成績は良好で悪影響はなかった。なお灯油燃焼による温風暖房機のダクトを引きこみ補温した場合は、装置内湿度は過乾の傾向がみられた。
 次に労働生産性の向上と空間利用の効率化という見地から、暖房装置内に2段循環飼育機をセットし飼育、上蔟試験を実施した。
 その結果、保温効果は良好であり燃費は蚕室暖房の63%に節減された。2段循環飼育機を利用して飼育する場合は条桑育でもよいが切断条桑育にすると労働能率は向上し、この場合繭重軽量化防止のため切断長を飼育中は15cmとし、初熟蚕出現時点から10cmにするのが良く、給桑量はむやみに増量(標準給桑量の20~30%増)しても得策とはいえなかった。上蔟は自然上蔟とし、後片付けした後飼育機上に蔟を保護しても繭糸質に影響は少なかった。このユニット暖房機械化体系の上蔟1kg当たり生産費は1,509円であり、普通条桑育体系の107%であった。
 今後の課題としては、当初露天に設置することを目標としたが耐風性に問題がみられ、また夏期高温時の対策がむずかしいところから更に装置の改替について検討しなければならない。

園芸ハウス利用による育蚕技術

菊池次男

 壮蚕簡昇ハウスの周年利用の一環として、既設の園芸用ビニールハウスを用いて蚕児飼育の可否及び目的環境維持について検討した。

  1. 園芸ハウス内で蚕児飼育をする場合、1日2回給桑でも虫質に及ぼす影響はみられなかったが、繭質面からみれば1日3回給桑とするか、給桑量を増す必要を認めた。
  2. 園芸ハウス内に上蔟しても繭・糸質には影響がみられなかった。
  3. 大量(蚕種2箱)飼育を行っても虫・繭質に影響するようなことはなく、園芸ハウスでの育蚕は十分可能である。
  4. 園芸ハウス内の温度は密閉状態であると蚕座面が40℃以上にもなり育蚕は不可能になるが、側幕の開放、換気扇の運転等で蚕児飼育に可能な環境が得られる。
  5. 防暑資材を使用すると中天井の設置は必要なく、防暑資材の断熱効果がみられ、目的温度保持が容易であった。
  6. 以上、園芸ハウスにおける育蚕は十分可能であるが、園芸作物を栽培した後に蚕児飼育をする場合は、前作物の消毒薬剤を確認し、蚕児に被害の及ぼさないよう注意すること。また、園芸ビニールハウスを密閉状態のまま暖房機を使用すると不完全燃焼を起こす場合があるから、新鮮空気の取入口を設けるなどの注意が必要である。

生理活性物質の利用について -蚕の5令短縮増糸剤と登蔟促進剤の利用に関する試験-

都築 誠・壽 正夫・高橋幸夫

 5令短縮増糸剤と短時間に熟蚕を登蔟させる登蔟促進剤(ダツラン)とを併用し、飼育経過の短縮と登蔟促進および繭質におよぼす効果について試験を行った。

  1. 給桑量標準の5令短縮増糸剤添食区は対照区(無添食)と水添食区に比べ、蚕児の経過日数・繭質ともに差異が認められなかった。
  2. 給桑量20%減量区は、給桑量標準区に比べ5令経過が長く、繭質においてもやや下回る傾向がみられ増糸剤の効果は認められなかった。
  3. 増糸剤+登蔟促進剤散布区は、晩秋蚕期の経過日数において6時間短く、又、各蚕期における蔟器撤去時の残蚕も少なかった。登蔟促進剤は、室温が比較的低温(19℃位)でも登蔟効果はあるものと思われるが、原則として室温は22~24℃に保つことが必要である。なお、登蔟促進剤の使用にあたっては、熟蚕が夕方に出現し上蔟が夜間にかかる場合、特に初秋蚕期は気温が高いため登蔟促進剤を使用すると登蔟がよく熟蚕の若上げの傾向が出たり、平面吐糸が多くなったりするので注意を要する。

大規模養蚕農家の経営・技術に関する調査研究

河端常信

 岩手県における大規模養蚕農家の経営実態について、一般的な傾向について分析した。また、代表的な養蚕主業経営農家2戸については、昭和43年から47年の5年間に亘り啓示的に経営展開過程、内容を調査し分析した。
 
1 大規模養蚕農家の経営実態分析

  1. 繭生産量1トン以上の大規模養蚕農家数は87戸(49年)で、北上川下流地域が72%、北部地域が24%を占めている。
  2. これら農家の平均耕地面積は2.7ヘクタールと大きい上層農家であり、桑園面積は149アール、10アール当たり収繭量87kgで、年4.6回の多回育を実施している。また10アール当たり収量では地域較差が判然としており、北上川下流地域の平均102kgに対し北部地域では73kgと低い。
  3. 耕地面積と桑園面積の関係をみると、北部では正の高い相関がみられるが北上川下流では相関関係は低い。この関係を土地利用の三元構成比から分析し、水田率の高い北上川下流地域と桑園率の高い北部地域の特長を述べた。
  4. 畑地面積と桑園面積の関係では、北上川下流では高い正相関がみられたが、北部では相関が低かった。また畑地面積が290アール以上の農家では桑園面積との関係は負の相関に逆転するところから、現行技術では面積限界がみられその水準は従来の報告より高い線にあると推定された。
  5. 桑園面積が拡大するにつれ10アール当り収繭量は減少する傾向がみられ、この傾向は北部地域で著しい。このことは気象、立地条件が厳しい地域の養蚕経営では低単収を面積で補う傾向がみられるところに原因の一端があると考えられるが、一方低反収のままで面積拡大を図ることは危険がともなうことも指摘し、土地生産性の向上には改善対策が望まれる。
  6. 大規模養蚕経営では箱当り収繭量が低い傾向があるといわれるが、本調査の範囲では規模と籍当り収繭量については一定の傾向はみられなかった。しかし箱当り収繭量の上下限の開差は大きいところから育蚕技術についても検討の余地が残されている。

2 効率的養蚕農家の経営技術に関する調査

  1. 北上川下流地域の平地農村にあるS農家(養蚕+水稲+なめこ)と農山村にあるY農家(養蚕+水稲)について、43年から47年の5年間に亘り経営の展開と経営内容を調査し経営評価を行なった。
  2. 調査期間におけるS農家の経営発展段階画期は養蚕部門展開期から充実期にあたり、従来の主位部門の水稲作の基盤整備と省力多収技術の進展により労働力がが大幅に節減されたことと減反政策もあって、その労働力を副次部門であった養蚕にまわし資本装備も整え規模拡大を実現した。さらに休閑期労力の効率利用から「なめこ」の導入を図った。この複合経営タイプでは粗大有機物などの経営内循環の視点からもメリットは大きい。
  3. Y農家では近代桑園を造成して以来、完成桑園に至る過程で技術的には大きな変化はなく、桑園の生産力向上に伴って年6回の多回養蚕で対処するとともに繁殖牛(5頭程度)の飼養は中止した。
  4. 養蚕技術としては規模拡大とともにS農家では3分割輪収法の採用、給ワゴン、条払台等の簡易器具類を遂時導入するとともに簡易施設も増設し、収容できない蚕児は一部露天で飼育している。Y農家では土地生産性の視点から交互法による採桑型式をとっている。
  5. 両農家とも桑園管理の徹底と合理的肥培管理・粗大有機物の増設により10アール当り収繭量は98~125kgと高く、上繭100kg当り労働時間も43年対比47年では52~63%に省力された。
  6. 年間労働配分は年5~6回の多回育に移行することによってほぼ平準化されているが、田植から春蚕飼育、初秋蚕飼育、晩秋蚕上蔟期から稲刈の三時期に労働ピークがみられる。
  7. 年次別の養蚕の生産性指標は向上を示したが収益性指標では繭価によって左右され、とくに資本投資額の大きいS農家でその傾向が強い。
  8. 47年次における10アール当り粗収益はS:128千円、Y:111千円であり、10a当り所得はS:69.2千円、Y:69.7千円であった。これは繭生産費調査の全国平均値とほぼ同一水準で東北平均値よりは高いが全国30箱以上掃立階層と比べるとまだ低位にあり、とくに10アール当り粗収益向上に努力する必要が認められた。
  9. 複合経営における部門間の収益についても比較した。
  10. 今後の規模拡大の可能性について検討した結果、S農家の事例では桑園面積240アール程度が面積限界と推定された。

桑の発芽前および夏切後における食芽性害虫の防除試験

及川英雄・鈴木繁実

 クワヒメゾウムシ、クワヒメハマキ、クワゴマダラヒトリ、クワシロカイガラムシを対象に、桑の発芽前または夏切後における薬剤の防除効果を検討した。

  1. 桑の発芽前における防除では、T-75バイセフト乳剤100倍、ガットキラー乳剤50倍、スミバークE乳剤50倍の100倍液が、クワヒメゾウムシ、クワヒメハマキ、クワゴマダラヒトリに対して著効を示し、3害虫の同時防除が期待出来る。しかしクワシロカイガラムシに対しては、マシン油との混用を検討する必要がある。
  2. 夏切後の防除ではT-75バイセフト乳剤100~300倍、ガットキラー乳剤100倍、スミバークE乳剤50の200倍、PAP・マシン油の40~50倍液が、クワヒメゾウムシおよびクワシロカイガラムシ(2令幼虫)に対して有効であり、両者の同時防除が出来る。

[資料]桑の発芽・発育調査、交雑種比較試験成績、新農薬の蚕に対する残毒性検定試験(付・1974~1975年気象調査表)

川村東平・及川直人・壽 正夫・鈴木繁実・及川英雄

(摘要なし)

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