岩手県蚕業試験場報告 特別報告

ページ番号1042024  更新日 令和3年4月21日

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積雪寒冷地に適する速成桑園の研究(昭和53年1月)

砂金 努

 筆者は、1954年以来積雪寒冷地に適する速成桑園に関する研究を行い、その主眼を、

  1. 桑苗自給の効率化
  2. 桑苗圃をそのまま生産桑園とする“速成桑園”の造成管理並びに収穫法と生産性
  3. 速成桑園の育蚕効率
  4. 条桑育蚕沙の家畜飼料価値

等においた。これらの研究を通じて、いくつかの理論的な妥当性と、技術的な対応策を見出し、それにより“速成桑園”の技術が確立された。以上の経緯を摘録すれば以下の如くである。

1 桑苗自給の効率化
 積雪寒冷地で、大量の桑苗を自給する育苗法として、さし穂を既設桑園より採取でき、しかも、育成期間を1ヵ年とする長所を持つ古条(前年枝)さし木法につき検討を行った。
 古条さし木法として、

  1. 癒合促進法並びに堆肥温床据置法による育苗を実施した。その結果、さし木初期に癒合促進によりカルスの形成と、根基組織並びに根原体の再生を促しても、裸地に移植後、発根発育機能が停止される。一方さし穂に貯蔵された養分が発芽に移行するため、さし穂の同化体制が整わず、活着不能となる場合が多い。しかも、この傾向は、桑品種の差が大きく左右し、剣持・かんまさりは、比較的低温で若干活着するが、白桑系品種は、殆ど活着しない。また、堆肥温床据置法でも実用に達するまでに至らなかった。その成因は、さし木苗床の地温の低さと、土壌水分の不足によること、桑品種間の発根に対する感応度が異なるためであることが明らかになった。
  2. さし木苗床を、ポリエチレンフィルムでマルチすることにより、地中10~15cm土層地温が15~36℃に維持でき、また土壌水分減少も防止された。フィルムの着色別の効果は、透明が最も優り、次が乳白色で、黒色は最も劣った。フィルムの厚さでは、0.02mmは実用的に有効である。
  3. 上記のポリフィルム床に、古条を直接さし木する方法(古条マルチングさし木法)を実施した結果、特に“剣持”は、1本の古条より2芽着生したさし穂を8本も採取でき、それらのさし穂は、72~98%の成苗率に達し、前記の実験成果をさらに向上させた。他方白桑系品種“改良鼠返・一の瀬”は、さし穂部位が上方になるに従い発根機能が著しく劣り、下方部からの採取のみに限定された。このため、さし穂を単位面積から大量に採取することができなかった。
  4. 前記3. の成果から、自桑系品種の苗木を大量自給生産する目的で、剣持の古条を接木用の実生苗台木に立替として用い、これに白桑系の改良鼠返・一の瀬の穂木を袋接し、そのままポリマルチ床にさし木して育苗した(ポリマルチ接さし木法)。その結果、自桑系の優良苗木を容易に大量自給することができた。

2 速成桑園の造成・管理・収穫法と生産性
 前記の方法による桑苗圃の苗木をそのまま生産桑園として、造成当年より収穫を始め育蚕に供し早期に慣行普通桑園完成時と同等以上の桑並びに繭を多収穫する“速成桑園”の造成・管理・収穫法を検討した。

  1. さし木密度は、密度が増加するに従い、1古条当りの収穫できる有効枝条長は短くなるが、単位面積当りの枝条数が多く総有効枝条長が長いヽ このため、単位面積の桑の収量は増加する。その適性密度は、耕転機使用の場合には、10アール当り15,000本(さし木床の間隔1メートル)、軽トラクター・条桑刈取機使用の場合には11,538本(さし木床の間隔1.6メートル)である。
  2. 慣行の普通栽植桑園で安定した収量を得るまでには、造成後5年を要するが、速成桑園では2ヵ年で普通栽植桑園の完成時の収量に達し、以後8ヵ年は、毎年普通栽植桑園よりも収量は優っている。維持年限は10ヵ年である。この結果は、限定された単位面積当りの土地と、太陽の受光量を最高に活用した桑栽培の新しい技術開発であった。
  3. 桑園造成・管理・収穫面で特に留意する点は、造成前に十分な土壌改良資材を投下しておくこと。造成当年の速効性肥料の施肥量は、完成時と同量を施用しておくこと。発芽期に整芽し、さし木古条1本当り1条を十分に生育させること。2年目以降の管理としては、除草剤利用による雑草防止を図ること。収穫は各蚕期に適合した桑を簡易に収穫できる専用桑園を分割設置すること。および条桑収穫に当っては必ず5葉以上を残して一斉に中間伐採をすること等である。

3 速成桑園の育蚕効率

  1. 剣持を用いた古条さし木速成桑と、改良鼠返の接さし木速成桑・改良鼠返の普通栽植桑・剣持の普通植桑を用いた4区の育蚕比較実験では、古条さし木速成桑給与区並びに剣持普通桑給与区並びに剣持普通桑給与区は、接さし木速成桑給与・改良鼠返普通桑給与区に比べ、虫質には影響はないが繭質が若干劣る傾向がある。この成因は、桑園型式による影響ではなく桑品種間の葉質の相違によるものである。すなわち、剣持は、山桑系品種で葉の硬化が早く、条桑給与しても萎凋し易いため、蚕児の食下量・消化量が少なく、改良鼠返等の白桑系に比べると、繭重が軽くなり従って収繭量もやや少なめにでるためである。しかし給与回数を1日2回とし、給与量を標準量の10%増により上記の影響を改善できた。
  2. 速成桑園造成8ヵ年間における桑の収量、育蚕結果から、速成桑園の養蚕経営収支を算出して見た結果、収繭量は、2年目で10アール当り124kg、上繭1kg当り収穫するのに要する労働時間は1.61時間、所得率55%で造成当年の赤字は解消でき、以後の養蚕経営を安定運営することができた。この成果を土台として、農家でも実施したところ、筆者と同一の成果を得、実用化が立証された(砂金・菊池 1968・1969・1970)。

4 条桑育蚕沙の家畜飼料価値

  1. 条桑育5齢期の蚕沙生産量:掃立1箱当り157~180kgで、そのうち糞は78~96%、食残桑は22~2%であった。
  2. サイレージ化並びに品質・飼料価値:サイレージ化するには、ビニール袋詰めにし冷所に貯蔵しておくのが適当である。品質は5齢期中除沙しないで育蚕を行うと、蚕沙に黴が発生し、良いサイレージにならない。このため、5齢中期に除沙を行い、蚕沙を前期と後期に分け、発酵促進剤(米糠5%)の添加をし、サイレージ化する。この飼料は、品質・消化率が向上し可消化粗蛋白質・可消化総養分ともに高く、蚕沙3kgは大麦1kgに相当する家畜飼料となる。また、春蚕期の蚕沙は夏秋蚕期の蚕沙に比べ、品質・飼料価値ともに優っている。なお、他の粗飼料の半乾物と混合し良いサイレージができることも明らかになった。

 以上の成果に基づき農林省では、1977年より積雪寒冷地における養蚕振興の新規事業として、速成桑園の造成による早期繭増産対策事業を行政普及に移行することになっている。

寒冷地における養蚕機械化に関する研究(昭和53年2月)

河端常信

 本報は養蚕の機械飼育によって蚕児発育経過が不揃いとなり、繭重の軽量化及び生産繭の繭質不良を招く原因を追究するため、各種飼育条件とくに切断条桑育における切断方法、給桑量・飼育密度・給桑回数・桑葉質等との関連を論じ、その改善技術を明らかにした。更に機械飼育では貯桑・温度管理が重要であることを述べ、新しい管理方式を考案してその効果を実証した。また桑園管理から稚蚕・壮蚕飼育に至る楔械化技術を組立てて試験し、寒冷地における年5回および6回飼育の技術体系を確立した。
 寒冷気象条件下にある本地域の養蚕機械化を更に進展させるためには、高い生産性を安定的に維持でき、しかも機械伐採に適した桑園形態でなければならない。それで従来の桑園形態とは全く異なる古条さし木密植桑園について育蚕ならびに経営的視点から検討した結果、密植桑園は高収益性を示し、桑園の短期回転が可能であることを明らかにした。また、人工飼料の安定性と価額の節減が可能である新しい人工飼料調餌システムを考案し、楔械飼育との関連を論じた。
 機械飼育の改善技術に関する試験は1973年から1977年にかけて、指定交雑種を用いて2段循環飼育装置で行なった。養蚕の機械化技術体系に関する試験は1970年から1976年にかけて実施し、らせん循環型稚蚕自動飼育装置、共立式および多段循環型自動飼育装置を供用して行なった。また密植桑園に関する研究は、1965~1976年にかけて実施され、人工飼料と機械飼育との関連試験は1974~1977年にかけて実施した。

1 機械飼育における改善技術

  1. 岩手県における大型機械を導入した養蚕協業経営組合の実態を調査した結果、生産性が極めて低く、多額の借入金で運営していることが判明した。また機械による育蚕作業では能率が劣り、箱当り収繭量が低いことが大きな問題点であった。
  2. 機械飼育で生産した繭は小形の傾向が認められ、とくに繭幅の極端に小さいものの含有率が多く、これら小形繭の繭質は不良であった。
  3. 機械飼育における繭重軽量化要因について統計的手法で解析した結果、切断条桑の切断方法に問題があることを明らかにした。ロータリーカッターによる条桑の切断は改善すべきであると指摘した。
  4. 単位面積当りの収繭量を増加させる技術としては、機械飼育の場合給桑量は標準量の範囲にとどめ、飼育密度を0.1m2当り137頭~110頭の範囲で調整するのが妥当であるとし、従来の技術に改善を加えた。
  5. 機械飼育では桑葉質と繭質は密接に関連し、密植桑を与えると繭重が軽くなり、収繭量も劣ることが明らかになったので、これの改善技術について述べた。
  6. 機械飼育蚕児に合成幼若ホルモンを散布することによって、経過日数は1日延長し繭重・収繭量が10%程度増加した。この場合薄飼い程効果が大きかった。また合成幼若ホルモンの濃度を0.63ppm~5ppmの範囲で変えることによって、経過日数の調節に応用できることを明らかにした。
  7. 機械飼育蚕児に熟化促進剤を使用することによって蚕児発育経過の斉一化が図られ、自然上蔟の登蔟率は良好であった。また合成幼若ホルモンと熟化促進剤を使用する二つの区を設けることによって上蔟作業の分散を図ることができ、繭質向上にも結びつくことを実証した。
  8. 新しくミストアンドファン方式による簡易貯桑装置を考案し、稚蚕用桑では4日間、壮蚕条桑であれば6日以内の貯蔵が可能であることを明らかにした。
  9. LPガス暖房機を利用して養蚕に必要な最小限の空間を暖房できる装置を考案し、燃料費の節減と蚕児への安全性を確認し、その応用について考えを述べた。

2 養蚕の機械化技術体系

  1. らせん循環型稚蚕自動飼育装置の作業プログラムについて検討し、掃立から配蚕に至る効率的な作業手順・飼育取扱いを決定し稚蚕機械飼育標準表を策定した。
  2. 稚蚕機械飼育における飼育密度は、普通飼育で公表されている標準的な密度(蚕種1箱分当り1齢0.8m2、2齢1.6m2、3齢3.2m2)に対して1・2齢は2倍、3齢は1.25倍に高めても、蚕の経過のそろいや蚕作に影響はないことが認められた。
  3. 稚蚕飼育期間中、1日の光線リズムを10L、14Dとすれば各齢の眠起がよくそろい熟蚕の出現状態もそろう傾向が認められた。この場合の照度は20ルックスでよく、蚕品種による差は少なかった。
  4. 密植稚蚕用桑の飼料価値について検討し、稚蚕飼育における防疫・貯桑管理の徹底によって利用できることを明らかにした。
  5. 寒冷地でも年6回の壮蚕機械飼育が可能であることを実証した。その場合の飼育時期は春I(5月24日)、春II(6月13日)、夏(7月5日)、初秋I(7月20日)、初秋II(8月10日)、晩秋(9月1日)に各々掃立て、その間隔を約20日とすれば蚕期が重複せず、労働配分も合理的で 飼育成績も良好であった。また、この技術体系について経営経済的評価を行って経営指標を明らかにした。
  6. 5ヘクタールの機械化管理桑園を設定して近代的な機械装備をととのえ、栽桑から育蚕に至る普及性の高い養蚕実用化技術を組立てて試験し、寒冷地における養蚕専業経営のための機械化技術体系を実証するとともに問題事項を指摘した。

3 今後の養蚕機械化技術

  1. 桑を短年性作目としてみる新しい視野に立って、古条さし木密植桑園(10アール当り11,538本~15,000本)を造成し、機械化体系を導入した場合の収益性について検討した。密植桑園は造成当年目の晩秋蚕期から収穫でき、2年目には10アール当り96kgの収繭量が得られその後も高い生産性を維持することができた。また桑園の耐用年数を10年と仮定して、植付けから改植までの1サイクルの投資効率をみても採算がとれ、桑園の短期回転が可能であった。
  2. 人工飼料における飼料価格の大部分を占める桑葉粉末および寒天について新しい調整技術を開発しそのシステム化を明らかにした。桑葉については家畜用のへイキューバーで乾燥・圧縮成型処理を同時に行い、そのまま長期貯蔵しても蚕児に対する飼料価値を損なうことがないことを確認した。また寒天の代替として寒天原藻を利用する方法を明らかにした。
  3. 稚蚕人工飼料育と壮蚕機械飼育の組合わせについて検討し、今後の養蚕技術として有望である見通しを得ることができた。また桑粉末を主とする強化飼料をつくり桑葉の代替として利用できることを明らかにした。

4 本報の養蚕実用上の意義
 機械飼育で問題となっている蚕児発育の不揃いと繭重軽量化については、光線管理方式の導入と薬剤利用によって改善されることが明らかとなり、現場への普及は早いと思われる。また機械飼育では箱当り収繭量の増加技術も重要であるが、労働生産性の向上を第一義にすべきであると考える。そのことからして単位面積当りの収繭量増収技術が明らかになった点は従来の技術に多くの改善すべき事項のあることを示唆している。簡易貯桑装置・暖房装置については単に機械飼育のみならず、寒冷地における育蚕法の基本技術でもあるので参考となることは確かである。
 養蚕の機械化については機械導入だけが先行し、技術体系の策定が見られなかったが、本報によって寒冷地でも年5~6回の機械化技術体系が明らかになったので養蚕機械化の進展が期待できる。資本投資額の大きい機械化養蚕では桑園の生産力を安定的に維持することが基本となるが、密植桑園の開発によって光明を見出した。今後の本県における北上山系開発構想などにみられる大規模プロジェクト計画では肉牛生産団地と養蚕団地は近接しているので、人工飼料調餌システムの具体化には好条件であり、施設の多目的利用方式としても注目されるものと考える。

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