岩手県蚕業試験場報告 第2号

ページ番号1042039  更新日 令和3年4月21日

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桑の根の生長に関する生態学的研究

大嶋利通

 本報は採葉法を異にした場合、桑の根が季節的にどのように生長度の変化を示すものであるか、土層別に新根の発育様相がどの様に異なるものであるか、また断根の時期を異にした場合に新根の発生並に生長とどんな関係があるかを栽培学的に検討したものである。

  1. 春季新根の発生時期は5月上旬であり、根の伸長停止時期は11月中旬であった。発根並に根の生長は気温よりも地温の影響が大きく、発根・生長ともに地温が10℃以上で行われるものと思われる。
  2. 桑の根には、冬芽におけるような休眠期がないことが判明した。地温と気温が適温ならば、落葉後いつでも発根する。
  3. 採葉法を異にした場合の新根の生長度の変化をみると、春秋蚕兼用桑で普通根刈仕立をすると、春蚕期の夏刈後は伸長が一時停止し更に根端が腐朽することが観察され、根量はむしろ減少し伐切後24~25日を経て再び発根して生長する。しかるに残条式の株上夏切法、古条利用全芽法では一時根の伸長が弱くなるが、伸長が全然停止することはなかった。
  4. 根の生長の盛期は、伐切・強度の摘葉回数によって決まるものである。
  5. 土層別に根の発育様相を観察すると、春季最も早く発根して展開する根は地表に近い土層内のものであって、下層ほど遅れる。また、夏刈のごとく地上部を剪除する場合は、土壌の上層土にあるものほど伸長が早く止まり早く腐朽するが、下層土の根はこのようなことはない。
  6. 松本地方では、断根時期によって新根の発生並に伸長度が異なるものであり、栽培学的にみて晩秋蚕終了後早目に行うと年内に発根することが明らかにされた。
  7. 株上夏切法や古条利用全芽法等を行うと根の生長が停止しない。また早く根の生長が回復することを明らかにした。
  8. 本報によって、桑の栽培上最も重要な肥培管理について従来の方法を改善すべき諸点に多くの示唆を与えた。すなわち施肥の方法及びその時期、耕転の程度及び時期の改善等に役立つことと思われる。

桑の根の生長に関する生理学的研究

大嶋利通

 本報は、桑樹の根から新しい根が発生し生長する現象と、その外部的要因としての温度、特に気温と地温、光、土壌中の酸素及び炭酸ガス濃度、土壌の過湿等との関連を論じ、また内部要因として発根には地上部の存在が必要であることを解明し、更にこのことは地上部に発根生長に必要な植物生長ホルモンが存在し、この植物生長ホルモンが根部に降下し、根に保有している貯蔵養分を活性化するためと推論した。

 供試材料は、主として枝垂桑の実生苗である。温度に関する実験は1951年から1953年にわたり恒温室において行った。そのさい地下部を恒温槽内に入れ、発根に及ぼす気温と地温との影響を調査した。光、土壌中の酸素並に炭酸ガス、土壌水分、発根との関係については、実験室内において1951年から1953年に実施した。光と根の生長に関する実験は、1952年一の瀬の代出苗を供試し、ガラス製ポット(内径20cm、深さ50cm)に壌土をみたしたものに植付けて行われた。また発根に及ぼす枝条の影響、植物生長ホルモンと発根との関係については、1952年から1953年にわたって実験室内で実験を行い、植物生長ホルモン類似物質としてナフタリン醋酸、ヘテロキシンを使用した。

  1. 桑の根から新根が発生し生長する最低及び最高限界温度はそれぞれ10~15℃及び40~45℃であり、またその適温は30~35℃であることを明らかにした。
  2. 気温と地温との関係が発根に及ぼす影響については、低い気温は発根生長に悪い影響を与えることが明らかで、0℃以下では特に発根生長が悪かった。根の発根生長には適当な気温が必要であることが明らかであり、その限界は5℃前後である。
  3. 冬眠状態の発芽前の桑樹では、光は発根に対してほとんど影響しない。すなわち発根生長にはある限界までは光の影響がないことが明らかである。ただし地上部が伸長し同化作用が活発化してくると、遮光によって根の伸長が停止することが知られた。
  4. 土壌中の酸素濃度と発根との関係については、酸素濃度が少なくなると発根並びに生長が不良になることが明らかで、その限界濃度は1%以下である。普通の発根生長が営まれるためには、土壌中の酸素濃度は5~10%以上であることが必要である。
  5. 土壌中の炭酸ガス濃度と発根並びに生長との関係は、炭酸ガス濃度が多くなると不良になることが明らかで、その限界濃度は約30%以上である。
  6. 土壌水分の多少と発根生長との関係は、土壌水分が欠乏してくると枯死するが、冬眠中の苗木を土壌水分の多い、いわゆる湛水状態におくと、ある限度まで発根し生長する。その限度は水中酸素のなくなる時期までと思われる。
  7. 発根並びに成長には地上部の存在が重要であり、地上部の存在が多い程良く発根するものであり、種々の外部要因が整備されても根だけでは発根し生長しない。
  8. 根が発根し生長するには植物生長ホルモンが必要であり、桑の根だけを用いたものでは外部的要因を良好な状態にしても発根生長が充分に行われなかった。特に0℃以下の気温の際は、地温を25℃にしても発根しなかった。気温は少なくとも5℃以上が必要である。根だけを使用して上極にホルモンを塗ると、根の全面から旺盛に発根し、下極に塗ったものは塗布局部からの発根は良好であるが生長が不良であり、無処理では全然発根しなかったことから、植物生長ホルモン類似物質が根の貯蔵養分を活性化するものであることが想像される。
  9. 本報の栽培学的意義
     桑の根の発根と温度との関係の試験結果によって、根には冬芽のごとく休眠期がないが、ある程度まで、すなわち0℃以下に気温が低下すると、発根が極度に不良になった。また、根の発育成長は10~15℃以上であることが明らかにされたので、春肥の施肥時期を考慮しなければならないだろう。また土壌中の酸素濃度、炭酸ガス濃度と発根との関係についてみると、発根生長には酸素の限界濃度が1~2%以下であること、炭酸ガス濃度は30%以上であることが判明した。従って、土壌通気の良好なことが発根生長を良好にするものであって、今後の耕転の問題を究明する上に参考になることは確かである。
     更に、根から発根し生長するためには地上部の存在が必要であること、その要因としては地上部から植物生長ホルモンが根に降下し、根の貯蔵養分を活性化するものであること等の事実は桑の採葉法において、残条式の採葉形式が収量の多いことの要因の解明に役立つものと思われることから、今後の採葉法改善の上に有意義となるものと思われる。

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