岩手県立農業試験場研究報告 第20号

ページ番号1041650  更新日 令和3年4月14日

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畑土壌改良基準策定のための基礎研究 第1報 炭カル添加通気法による中和石灰量測定法

千葉 明・新毛晴夫・石川格司・佐藤久仁子・千葉行雄・宮下慶一郎

  1. 畑土壌の酸性矯正のために現地圃場において炭酸カルシウムを施用した時の土壊pHの動きを示す指標として、風乾細土に炭酸カルシウムを添加し土壌水分を最大容水量の60%とし、25℃で20日間インキュベートした時のpHをとると、このインキュベート法により得られる緩衝曲線と土壌に炭酸カルシウムを加え水懸濁液として振とう後通気を行って得た緩衝曲線とは、pHが7以下においてはかなり近似した曲線になり、炭酸カルシウム添加通気法は室内分析による中和石灰量算出の実用に供し得る。
  2. 炭酸カルシウム添加通気法は風乾細土10グラムに炭酸カルシウムをそれぞれ0、10、25、50、75、100mg加え、さらに水25mlを加えてよく振りまぜてから24時間放置し再び5時間振とうする。ついで先端を細くしたガラス管を通じてエアコンプレッサーより1分間約2リットルの割合で2分間空気を通じ、通気終了後ただちに土壌懸濁液のpHを測定し緩衝曲線を作成する。
  3. 上記分析法において通気を行わないと土壌懸濁液のpHの上昇は極めて緩慢であり、その結果中和石灰量の算定は過大となり、圃場でのpHは目標よりかなり高くなるおそれがある。
  4. また上記分析法において炭酸カルシウムの添加に伴って生成する炭酸ガスの影響は、加熱によっての除去は不可能であり、一方水酸化ナトリウムによる中和石灰量の算定は過少になる傾向が強い。

新第三系強酸性硫酸塩土壌に関する研究

佐々木信夫

  1. 新第三系のある種の地層の堆積岩砕屑土壌に農作物の激甚な枯死現象が発生したが、その事例を詳細に検討をした結果、新第三系堆積岩に由来する強酸性硫酸塩土壌であることが判明した。
  2. 新第三系堆積岩中の硫黄化合物の存在形感としてパイライトをX線回折により同定確認した。
  3. 東北地方の新第三系について、主に岩手地方に分布する地層について硫黄含量とH2O2酸化による酸性度を調査した結果、鮮新統では油島層・有賀夾炭層・金沢夾炭層・本畑層に、中新統では黒沢層・下黒沢層・小志戸前層・鈴鴨層・湯本層・門の沢層に強酸性化する母材が存在することが知られた。
  4. H2O2酸化によるpH3.5以下を示す母岩および砕屑土壌を強酸性硫酸塩土壌の領域とし、母岩では王水可溶性S400mg%以上の硫黄を含むものを、この素因をもつ母材とした。
  5. 新第三系堆積岩の砕層による農耕地土壌化の際問題となる可能性のある重金属類の含有量について検討したが、特に問題となる濃度を示した地層の母岩はなかった。
  6. 岩手県花泉町上油田地区にかかる母材による農業災害が発生し、その改良対策として炭酸カルシウム中和法を検討し、あわせて現地改造試験を推進した結果、実用性ある改良方策が確立された。
  7. 中和石灰量は、H2O2酸化処理後、水酸化カルシウム粉末添加緩衝曲線法で求め、実施する中和石灰は1.35倍して炭酸カルシウムで施用することが合理的かつ実用的であることが知られた。
  8. 新第三系堆積岩に由来する強酸性土壌である上油田土壌の中和石灰量は、この緩衝曲線法により、耕土20cm深改良において炭酸カルシウム4,000kg/10アール必要であると求められた。
  9. 水田では炭酸石灰4,000kg/10アール施用で初年度から旺盛な水稲生育を得、高収が示され、緩衝曲線法で求めた中和石灰量の適量とよく一致することが確証された。
  10. 畑では禾本科の青刈くさもろこしは炭酸石灰5,000kg/10アール程度で最高収量が示され、第2年度においてはさらに普通畑に近い6,000kg以上の生草収量がえられた。
  11. 荳科ではやや酸性に弱く、実取大豆では炭酸石灰5,000kg/10アール区で最高収量を得たが、熟畑の2分の1程度の収量水準であった。なお、根瘤の着生はみられなかった。
  12. その際の作物の養分吸収は、炭酸石灰の増施により水稲ではCa・Mnの吸収が増大し、Si・Mg・P・K・Nも高まる傾向が示され、FeやSは低減してくる。青刈くさもろこしではほぼ水稲に近似した養分吸収がみられたが、Mnはやや低減する傾向が示されたのが異なる傾向であった。
  13. 跡地土壌の塩基類は施用石灰量の増大に伴いCaO含量は増大し、逆にSは減少してくること、Fe2O3は水田では増大するが、畑では減少してくることがみられ、Mn2O3は何れもpHの上昇により溶解度が低下するため減少してくることが示された。
  14. 土壌pHにより重金属類の検出量に差が示された成分もあったが、何れも農耕地土壌の規準値以下であった。
  15. 新第三系岩砕屑土壌は、腐植に乏しく重質で物理性が劣るので、堆厩肥の連用により徐々に土壌化作用を促進する必要性が認められた。
  16. 新第三系に由来する強酸性硫酸塩土壌は、石灰資材多投による土壌改造と有機物の連用による土壌化作用の促進により、通常の農耕地土壌に改造しうることが実証された。
  17. 新第三系の地層を砕屑して耕地土壌とする際の理論的根拠と実用的な改造方策が明らかに示された。

稲紋枯病の発生予察に関する研究 -とくに、岩手県における発生経過と薬剤の散布要否について-

小川勝美・渡部 茂

  1. 本研究は寒冷地の岩手県における稲紋枯病の発生予察を目的として、発生経過および被害解析をおこない、それに基づいて薬剤の散布要否を決定しようとしたものである。
  2. 本病の発病程度と収量構成要素との関係を株単位および群落として調査した。稔実、収量に対する発病の影響は第3葉鞘以上の発病株でみられ、とくに、第2葉鞘以上の発病株では稔実歩合、粒厚、千粒重および完全米の低下、茶米、死米の増加が著しかった。成熟期発病度と精玄米重との間には高い負の相関関係が認められ、減収率(Y)と成熟期発病度(X)の間には、レイメイ、Y=0.19X、ササミノリ、Y=0.23X、トヨニシキY=0.25Xの関係が得られた。ただし、レイメイでは発病度20以下では減収傾向が判然としなかった。
  3. 稚苗移値における発生様相について調査した。稚苗移植は慣行移植に比較して、稲の生育が旺盛でうっ閉密度が高く、株元が密閉状態にあること、株間、株内の湿度が菌の発育、侵入に好適条件にあること、m2当りの茎数が多く、接触による二次伝染が容易な状態にあることなどから、本病の発生を多くしていると考えられた。
  4. 稚苗移植における稲葉鞘の感受性の推移を調査した。稚苗移植では感受性の高い期間が慣行移植に比べやや長めであった。これは、稚苗移植に対する肥培管理、とくに窒素施用(追肥)による影響が大きく、稚苗移植では出穂後も各葉鞘の窒素含量が高く推移したことによると考えられた。
  5. 接種の時期をかえて稚苗移植、慣行移植における発生推移を比較調査した。稚苗移植では接種時期の早い6月下旬でも、接種菌の株元付着が安定した状態にあり、慣行移植に比べ初発生時期も早く、発生量も多くなりやすい傾向が認められた。
  6. 温度経過と病斑上位進展との関係について解析した。病斑上位進展の有効温度を23℃とし、有効積算温度T=Σ(t-23)(tは23℃以上の日別最高気温)を求めた場合、有効積算温度と病斑高の間には高い相関(r=0.959~0.994)が認められた。また、両者の関係には品種による差異が認められ、同一温度経過の場合、熟期の早い品種ほど病斑の上位進展が高くなる傾向が認められた。
  7. 本病の薬剤散布適期内(前期)の発生量と成熟期(後期)発病度との関係を検討した。前期発生量の指標としての発病株率、病斑高および発病度は、単年度でみた場合、成熟期発病度と高い相関(r=0.684~0.998)が認められた。穂孕期発病株率と成熟期発病度の関係には品種、年次によって変動する傾向がみられ、発病株率に対する発病度は夏季高温年では高めに、夏季低温年では低めに、また、熟期の早い品種で高く、おそい品種では低めになる傾向が認められた。
  8. 多発年の発生経過より、薬剤散布適期内の発病株率と成熟期発病度の関係を考察すると、本病による玄米減収率の許容範囲を4%以下とした場合、要防除水準は穂孕期発病株率で、ササミノリ(中生種)が15%、トヨニシキ(晩生種)が20%と考えられた。なお、薬剤散布による実証試験においては、トヨニシキの場合、穂孕期発病株率20%以下では散布による減損防止効果が明らかでなかった。

土壌改造に伴うアスパラガス紫紋羽病の動向と被害軽減について

小澤龍生

  1. 燐酸資材多投による畑土壌改造に伴う土壌の理化学性と紫紋羽病菌、土壌微生物相との関係並びに被害軽減効果について1968年~'73年にわたり検討した。
  2. 本病防除上において、土壌改造の意義は、土壌の熟畑化を促進し、本病の衰退をはかることにある。それは土壌の有効燐酸および置換性塩基の増加、バクテリヤ型の土壌をめざすことでもある。
  3. アスパラガスの草勢を増大させ、発病拡大を防ぐには土壌改造の上に堆肥施用を併用することが有効であり、これは増収効果にもなる。また、株の苗令や、植付後の経過年数にみあった収穫日数を守ることは、以後の草勢劣化を防ぎ、収穫年限を長期に持続させる要因ともなる。
  4. 土壌改造により、発病が軽減されるのは土壌中の病原菌の活動抑制にあるが、一方では寄主作物の生育良化による耐病性の増加が大きいと考える。
  5. 具体的な土壌改造方式は、土壌の燐酸吸収係数の10%相当量以上の燐酸資材(熔燐4、過石1の現物重量比による混合物)を20cm以上の深さまで混入し、併せて慣熟堆肥ならびに石灰(pH6.5以上の矯正量)を投入することである。

種子消毒における薬害発生とその対策

渡部 茂

  1. 本報告は1973年1月に登録されたべノミル・チウラム水和剤(ベンレートT水和剤20)並びにこれに引続いて登録されたチオファネートメチル・チウラム剤(ホーマイ顆粒)の催芽種子処理法における薬害(草丈、根長の抑制、葉の黄化、根上り等)について明らかにし、その解消法について試験した結果を記述したものである。
  2. 催芽種子に対し濃厚液短時間浸漬(20倍液・10~30分浸漬)、低濃度長時間浸漬(200~400倍・6~12時間浸漬)、粉衣、スラリー法等の薬剤処理を行い、これを畑土壌(火山灰土壌)、数種の人工培土に播種し、根上り、草丈を調査した。
  3. 全般に根上りの多いのは、粉状培土2種、畑土壌で、粒状培土、ウレタンひもでは少なかった。苗の生育は粉状培土(パールマット)、ウレタンひもで伸長不良のものが多かったが、根上りと苗伸長の良否には傾向の一致はみられなかった。薬剤処理別では、ベンレートT水和剤20、ホーマイ顆粒とも20倍液10~30分浸漬で薬害が顕著であった。また、この処理では浸種前種子でも草丈の短小が若干みられた。
  4. 粉衣量や浸漬濃度と薬害の関係を明らかにするために行った実験では、催芽1mm程度の種子に処理した場合、ベンレートT水和剤20では乾燥種子重の0.7~1%粉衣、浸漬濃度では20倍液10分浸漬で、ホーマイ顆粒では50倍液10分浸漬でも生育抑制が顕著であった。浸種前種子でもベンレートT水和剤20の多量粉衣、20倍液浸漬で草丈の伸長抑制が若干みられた。
  5. チウラム・チオファネートメチル含量と薬害については、チウラム成分を40~5%に規定して、0.5%量粉衣した場合、催芽種子処理では15%以上の含有で、浸種前種子処理では30%以上の含有で根上りや、草丈の伸長抑制がみられた。また、同剤の20倍液10分浸漬の場合は催芽種子では10%以上の含有で根上り、草丈伸長抑制がみられた。チオファネートメチルそれ自体ではどの種子を使用しても薬害症状は出なかった。このことから苗の生育遅延や、根上りなどを伴う薬害発生の主因は、その成分がチウラムであり、これを10%以上含有する製剤で処理した場合に催芽種子では発生の危険性がある。また、浸種前種子でも30%以上含有する製剤で処理すると発生するので、ホーマイ顆粒のように30%を含有する製品では使用をさけるべきである。
  6. 催芽程度を鳩むね程度、芽長1mm、同3~5mm程度にした種子に対し、ベンレートT水和剤20を0.5、1%粉衣、20倍液10%スラリー、200倍液12時間浸漬等の処理を実施した場合の生育への影響は、鳩むね催芽、1mm催芽の種子では200倍液浸漬で、3~5mm催芽種子では20倍液スラリー法でとくに芽長が短い傾向を示した。根長では催芽程度による差はなく、一様に1%粉衣、200倍液浸漬で短い傾向を示した。
  7. ホーマイ顆粒を水にとかすと溶解後に沈殿を生ずる。この沈殿部と、上澄液の消毒効果は、明らかに上澄部で劣った。苗の伸長抑制、葉の黄変は各濃度とも沈殿液中に浸漬した場合に顕著であった。このことから液中の成分分布の不均一を生じ、下層の沈殿部で高いことが推定された。またホーマイ顆粒の溶解直後で沈殿前の薬液では、催芽種子で20~50倍液10分浸漬で短小苗が発生した。
  8. 催芽種子の薬害発生は登録条件下では顕著であるので、その防止策として浸程前処理の方法を考えた。ベンレートT水和剤20の20倍液浸漬、同スラリー、200~400倍液浸漬、粉衣法等でこれを処理したが、根上り、葉の黄変はみられなかった。消毒効果は低濃度長時間浸漬(200~400倍液12~48時間)を除いては完全に認められた。
  9. 浸漬前種子に薬剤処理して、各種人工培土に播種した場合の消毒効果と根上りについて試験した。この結果大半の培土では根上りは発生しなかったが、2種類の人工培土では濃厚液短時間浸漬で根上りを認めた。根上りは培土の特性に起因する点もあるように観察された。消毒効果にも若手の差がみられ、粒状培土で多発した。
  10. 浸種前種子処理法は籾上に薬剤を付着させた後に浸種する方法であるから、浸種条件がその効果を左右する。湿籾粉衣、乾籾粉衣法では湿籾粉衣で効果が高い。浸漬条件では掛流しや、連日の換水で劣り、無換水で効果が高い。これらのことは浸種中の薬剤の流亡が原因と考えられる。消毒効果の高いベンレート、ベンレートT水和剤20の湿粉衣法は、水の移動による効果の減退はきわめて少なく、このことから実用効果が高いと判断される。

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