岩手県立農業試験場研究報告 第12号

ページ番号1041674  更新日 令和3年4月15日

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水稲病害虫防除における農薬空中散布の実用化に関する研究

大森秀雄・大矢剛毅

  1. 本報告は、へリコプタの利用拡大をはかる目的で開発された新技術を現地で実証して、その実用化を促進するため、昭和39年から41年に行なった水稲病害虫を対象とした試験である。
  2. 試験は事業化を前提としたので、なるべく実際に近い条件で行ない、散布農薬の落下分散状況、作業効率、防除効果の調査のほか、色素法によって、農薬の付着量、付着分布の均一性、付着量と効果の関係等から、実用性について考察した。
  3. 液剤散布の試験で、穂いもち病とニカメイチュウ同時防除には、エアーフミロン(水銀3グラム)とスミチオン(成分で50グラム)の混合の3リットル散布は十分期待する効果が得られた。ブラエスMは薬害があった。また穂いもち病だけに対し、カスミン液3リットル散布も有効で、成分量として3グラムは必要のようである。液剤散布での有効散布巾は18メートル程度で、20メートルをこえると均一性を欠いた。飛行高度では5メートルが、8メートルより株当り付着量が高く、また株の垂直分布でも下部での付着割合が多かった。穂いもち病防除に必要な有効付着量は、水銀で0.5ppm、カスミンでは不明だが水銀とほぼ 同量と考えられる。ニカメイチュウ第2世代防除に必要なスミチオンの有効付着量は8ppm前後であった。出穂前後(株重100~120グラム)の散布で付着効率はおおよそ35.9%で、ヘリ散布の粉剤や地上防除より高率であった。全作業時間に対する散布時間の割合、すなわち散布効率は試験散布のため45%と低かった。
  4. 粉剤でニカメイチュウ第1世代、いもち病3回(うち、紋枯病同時防除1回)の通年防除は、圃場での発生は少発生ではあったが、散布農薬の分散状況、付着量とその分布から実用性が認められた。この場合の防除費は1,297円で、液剤の地上防除費1,027円にくらべ270円ほど高かった。通年防除は技術的には十分可能であっても、現状の防除機の保有からみて、急に増加するとは思わないが、今後は都市近郊を中心に実施されるであろう。
  5. いもち病に対する非水銀系粉剤について、出穂前後に2回散布した。圃場での発生調査や農薬の付着量からみた10アール当り投下成分量ほ、キタジン、ブラスチンは少なくとも75グラム、安全性からは90グラムが、カスミンは5グラムが必要である。
  6. 粉剤の場合の付着効率は、天候、作物の大きさ、飛行条件によってちがうが、ニカメイチュウ第1世代では2kg散布で6.6%、出穂前後で24.5~39.3%(夕上散布で上昇気流ない)であったが、事業散布では20~30%とみてよいのであろう。有効散布巾は18~20メートルで、高度は6~3メートルではあまり付着効率に影響しないが、8メートルでは低率となった。とくに飛行速度は付着効率に関係し、できれば50kmをこえない方がよい。均一性からみた粉剤の散布量は出穂期ごろでも2kgあれば十分である。もちろん投下成分量は一定であるから、地上散布用にくらべ、高濃度のものを使用すべきである。散布効率は43~54%であったが、事業化にあたっては60%程度に引上げたい。
  7. ニカメイチュウ第1世代に対し、BHC粒剤2kgを散布した結果は、分散状況は不均一でまた有効散布巾も狭く(15メートル内外)現況の水田区画から作業上問題がある。しかし粒剤は高空飛行および高速による影響が粉剤より小さく、また周辺への飛散も少ない利点もあるので分布の均一性と散布巾の点から、散粒器および粒剤の上から、改善する必要がある。

岩手県県南地帯における裏作イタリアンライグラスの栽培に関する実証的研究

清原悦郎・高橋紀一

 岩手県南地方のいわゆる水稲単作地帯は水田裏作の北限とされており、昭和20年代までは、実取作物や緑肥作物が栽培され、その作付面積ほ耕地面積の7.7%にも達した。しかし、時代の変遷とともに作付面積が減少し、作物の種類も青刈作物が主体となった。即ち、裏作は畜産との結びつきで、水田面積の2~3%の作付面積ながら固定化して来ていると云える。飼料作物の種類はれんげそう→青刈ライ→イタリアンと変り、次第にイタリアンの有利性が認められているので、この実用化について検討した。

 この結果、

  1. 稲間中まきが出来、播種法が極めて容易で導入しやすい。
  2. 多収、耐寒雪性で且良質で、飼料値がライ麦よりすぐれ、県南地方では安全に栽培出来る。
  3. 肥料(特にN質)に対する反応が極めて大で、多肥多収性である。
  4. 多肥条件では2回刈りが出来る。この場合は水稲の晩播晩植が前提となるので、この適品種や栽培法が問題となる。更にイタリアンを周年栽培することにより多収をあげることが明らかであるが、利用限界は7月いっぱいでその後は、青刈飼料作物の作付体系を組み立てる必要があるのでイタリアンの追播、飼料カブ、レープについて検討した。
  5. イタリアンの適品種としては、マンモスイタリアン、オオバヒカリ、輸入系がすぐれている。
  6. イタリアン跡地の水稲安全栽培については生育阻害要因の軽減を健苗、穂数確保上の栽植法、N適量施用法、水管理に求めた。一般に、前作イタリアンの生草収量が500kg/アール以下のやや少収な跡地では、Nの施用法の適正によってあまり収量減の傾向はみられなかったが、安全栽培上適正な栽培法を組立てることが大切である。
  7. 多肥多収跡地においては、晩播晩植栽培に伴って、ハツニシキに代る晩植適応性品種の選抜並にその栽培法について検討されねばならないが、まだきめてがない現状であり、又土壌肥料面からの検討が残されている。

 現在裏作の伸びは固定化しているが、水田における粗飼料の自給が水稲単作地帯の畜産経営に有利であると思われるので、表作水稲の安全栽培を前提として、特にイタリアンの多肥多収跡地の水稲作の問題点を地域性に立脚して解明する必要がある。

銅欠乏土壌に関する調査研究(第2報)

黒沢順平・内田修吉・中野信夫・関沢憲夫・高橋良治

  1. 硫酸銅を用い薬面撒布の効果について検討した。その結果オーチャードグラスについては効果なく、小麦については効果は顕著であった。
  2. 葉面撒布の濃度は0.4%が適当であろう。撒布の時期は出穂期直前においてもより充実した穂の出現を期待しうる。
  3. 銅の施用形態の相異による小麦収量への影響は少なく、いずれの形態にても効果があることが判明した。中でも難溶性とみられる水酸化銅にても同様の効果があった。
  4. オーチャードグラスに対する硫酸銅の施用適量は 6~8kg/10アールと考えられる。
  5. とうもろこしに対する硫酸銅の施用適量は麦類におけるそれより低い水準とみられ、2~4kg/10アールと考えられる。

水田果樹経営群に適用する新技術体系の確定とその集団生産計画に関する研究

八重樫瑞郎・米沢 確・佐々木 功・瀬川貞夫・菅野広義

  1. 岩手県の北上川流域中部地帯は、水田果樹作経営が展開され、所得拡大を果樹作に求めている。しかし、戦後の新増植園地の成園化とともに、労働需要の増大が要請されているのに反し、この地帯は、都市集中の商工業の発展地帯で労働市場が拡大して、農業労働力の不足は深刻化している。
  2. この研究は、上記の社会経済的条件を背景に構造改善事業の実践地区を研究対象に選定し個別経営の条件に適用する機械化技術体系の確定と集団的利用、運営方式を明らかにし、今後の農家集団化計画樹立の参考に供するためにおこなったものである。
  3. この研究をすすめるにあたっては、水田・果樹作(りんご)地帯の代表と考えうる花巻市湯口、橋本地区の農家集団を対象に農業構造改善事業計画との関連で次の諸点を分析解明、計画検討の目標とした。
    1)個別経営及び集団的組織活動の現状を分析し問題点を摘出しつつ、
    2)集団化計画基本構想を樹立し、
    3)その集団的組織活動に適合する新技術体系の確定と、
    4)現在の条件下で採用すべき農家集団組織及び運営方式を明らかにし、
    5)この組織下での個別経営の経営経済的評定し、且つ検討する方法をとった。
  4. 構造改善計画の概要は、地区農家の耕地規模の拡大は不可能であるから、従来の低収益性の雑穀畑をりんご作に転換し、所得拡大を狙う。このため生ずる農作業労働競合の解消には労働生産性、土地生産性の高い水田トラクター、りんごSSを導入し、組織的利用運営をはかる。
  5. (以下3-(1))個別経営における農業生産の現水準は、水稲作において洪積層の壌土のもとにフジミノリを中心に栽培し、10アール当450~480kg、りんご作では紅玉60%、デリ系15%の品種構成で10アール当2,000~2,300kg、秀、優等級も50%程度の地域平均水準に停滞している。
  6. 集団組織としては、りんご共同防除組織と水田トラクター利用組織がある。前者は橋本地区ほか4部落におよぶ63戸、16.41ヘクタールの属地集団組織であり、後者は橋本地区ほか2部落の13戸26.83ヘクタールの属人的集団組織で、その利用方式は単一組織活動で個別経営の生産構造の中では体系化されず、相互に有機的組織的な関連性をもっていない。
  7. SS利用の実態は、10アール当作業時間が0.269~0.300時間で成園換算14.00ヘクタールの1回当散布 期間は3.5~4.0日(40~45時間)を要し、集団園地としては低能率である。水田トラクターにおいても水田耕起代掻のみに利用され、しかも組織的利用方式に欠除し年間400~600時間(水田作業延50ヘクタール)程度である。
  8. (3-(2))集団化計画の基本構想は、以上のような個別経営、組織活動の現状を改善合理化し、所得拡大を目指すためには、経営耕地規模を現状として、栽培技術の内容及び大型機械利用組織を再編成しつつ、主要作業の共同化をはかるために作業班を編成することが必要である。一方、農業生産の組織活動の合理化によって下層農家では兼業の機会が増大し、全体として目標所得に接近可能なものとなりうる。
  9. (3-(3))りんご作の新技術体系は、品種構成をスターキングデリシャス45%を中心とし、紅玉、国光、ふじその他とし、合理的防除、肥培管理技術を基本として樹容積を拡大して結実の確保をはかり、10アール当3,060kgの収量とする。一方、樹型の改善、摘果、草刈、着色管理の労働節約的技術導入によって秀50%、優30%の上位等級を生産する。
  10. 水稲作では、フジミノリを中心に10アール当収量540kgを目標に健苗育成、栽植密度施肥管理の改善合理化、雑草防除体系を基本に栽培期間を次の如く設定する。すなわち、フジミノリを5月15日~5月28日を田植期、成熟期を9月12日~9月19日とし、刈取は9月20日~10月10日とする。このためトラクターによる耕起代掻を中核に、防除、動力刈取、半生脱穀、ライスセンター方式とし藁稈は同時切断し堆肥とする。
  11. (3-(4))りんご共同防除組織は、合目的的機能集団とし、その規模は現行に変化ないが、防除適期3日以内に16.41ヘクタールの薬剤散布が可能である。その条件は河川からの給水場所の増設、農道整備、通し散布及び水槽新設であり、この場合の10アール当散布作業時間は0.195時間となる。
  12. また、この規模の管理作業を計画的組織的に遂行するには、機械の稼働可能限界期間と機械作業能率からトラクター、S.S及びへーレーキ、PCP、除草剤散布アタッチメント各々1台で可能である。
  13. S.Sの利用時間は、491時間で薬剤散布のほか、摘果、落葉剤散布に利用する。これに随伴するトラクター利用時間も1,031時間で現行対比1.8倍に効率利用され10アール当機械利用経費は9,041円となる(補助50%の圧縮計算では7,747円)。
  14. 水田トラクター利用は、橋本生産組合が行ない、この構成はS.S組合員27戸、現水田トラクター組合員2戸、その他橋本部落の8戸、計37戸の利用が適正である。水田・りんご両組織の関連は、りんご共同防除組織が4部落63戸を対象にした広域的組織であり、これに包含された形態で水田・りんご作経営群としての生産組合が存在する。この経営耕地は水田34.28ヘクタール、りんご9.48ヘクタール、タバコ畑0.81ヘクタール、普通畑6.61ヘクタール、農業専従者63人、農繁期補助者20人等である。
  15. 水田トラクター1台当の稼働限界規模は、代掻期間に規制される。すなわち、5月11日~5月26日までの14.8日では22.67ヘクタールで集団水田規模の66%しか処理出来ないが、耕転機1台セットすれば34.28ヘクタールが可能である。
  16. 水田トラクターの利用は、新技術体系の導入によって現行のおよそ1.7倍836時間で10アール当械機利用経費は4,900円(補助50%の圧縮計算では3,889円)である。
  17. りんごS.S、水田トラクターの利用運営は、各組織の機構のもとに実施するが、オペレーターは両組織に兼務専従し、S.S作業員(薬剤係)もS.S組織の委託専任者とする。この場合労務、健康管理上からオペレーター6名、作業員3名の輪番制が適切である。
  18. 機械作業と並行する手作業については、37戸を5~12戸の5作業班に編成し、部分的共同作業を実施する。特に水田代掻作業は水利との関係で実施され、更に田植作業が並行されるが、作業班編成による共同作業によってこの関係がスムーズに行なわれ得る。
  19. 運搬用トレーラーは、水稲及びりんご共同組織で単独所有利用するよりも、共同利用方式が経済的に有利である。その限界をりんご運搬に限定して検討すれば、りんご1箱当トラック運賃が15円46銭までである。
  20. 作業班ごとの労働需給関係は、第1、第2作業班が5月下旬、9月下旬~中旬に不足するが、班間の労働調整を若干行なえば技術的適期作業が可能である。
  21. 以上のようにして組織活動の結果を算出された機械利用の費用からみれば、農薬費除きのりんご防除費は4,888円(現行昭41同6,410円)その他管理作業費4,153円で合計9,041円である。水田トラクターの場合は耕起890円(現行900円)、代掻830円(現行800円)、その他刈取、生脱穀作業費を含めた10アール当費用合計は4,900円となる。
  22. また、これを10アール当の利益係数としてみれば、りんご作で粗収益168,732円、費用計105,031円で10アール当所得が63,701円となる。一方、水稲作では粗収益64,260円、費用計17,768円で、46,492円の所得になる。
  23. これを地区農家の類型別代表経営に適用し、その経営経済的評定を検討した結果、いずれも現行方式より優れ、農業所得の増大をもたらし得るし、一方集団生産方式は半商品生産農家及び専業農家へも兼業の機会を与え農家所得の向上に寄与することが立証された。

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