岩手県立農業試験場研究報告 第2号

ページ番号1041690  更新日 令和3年4月15日

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岩手県北畑作地帯における畜力農機具の導入利用に関する調査研究 -二戸郡安代町小屋畑部落における共同利用の実態と問題点-

中谷真也・松田主一・佐藤宏三・中野昌造・鈴木雅広

  1. この調査研究は岩手県北畑作地帯における畑作業畜力化の今後の推進方向に示唆を得るために行った。
  2. 調査は二戸郡安代町小足畑部落(旧荒沢村)の共同利用加入農家を利用開始後2年目と5年目の2時点について全戸聴取調査によって行った。
  3. この場合特に分析解明の重点目標とした点は、
    イ. 農家の営農諸条件が畑作業畜力化とその発展過程に及ぼす関与の仕組と程度。
    ロ. 畑畜力作業の様式、体系の実態と問題点。
    ハ. 畑作業畜力化の成果。
    ニ. 共同利用の規模様式の適否と意義及問題点。
    である。
  4. (以下3-イ)経営耕地規模の大きさ自体は畜力化程度決定の上の直接の動機とならない。直接対象の畑規模の場合も同様である。
  5. 畜力利用に対する耕地条件の良否は直接畜力化程度を規制すると同時に、当初は不可能畑の多い農家においては意識停滞の素因となって他の可能畑にも行われない。
  6. 農業従事者一人当り労働負担耕地面積の多少は諸要因の中でも畜力化程度決定に最も大きい影響を与える。
  7. 但し耕地全体の負担面積の多少が直接畜力化程度を規制するのではなく、畑と水田の規模の組合せ如何が対象作業とその量を決定する。
  8. これは田畑間又は畑作物間の時期的、量的競合合の結果としてもたらされるものであって、畑水田間の労働競合は畑においては耕起整地作業の畜力化を、畑作物間の労働競合は耕起整地、管理作業の畜力化を促す、競合の少ない農家では畜力化は行われない。
  9. 6~8の関係は後期に至って一層強くなったが、畜力化の進行と水稲耕種技術の変革によって水田規模の関与は少くなってきた。
  10. 耕種部門の労働負担量は作物の種類規模の組合せ如何でも異る筈であるが、一方的に労働力に対する耕地規模の関与だけが大きかった理由は、2年目当時は各農家共慣行自給作が主体で規模の配分も一様であったことによるものである。
  11. その後、たばこその他の集約商品作が導入拡大された、種類と規模によって労働負担が問題となる農家では促進されているが、これは主としてA群であるため全体の畜力化程度分化に対してはあまり顕著な関連は認められない。
  12. また、同一作物でも経営内の導入基盤が異なることや、畜力化の主要な対象時期には従来の自給穀作と所要労働にそれ程大きな差異のないこと等にも起因する。
  13. 耕種部門の資本集約度と畜力化程度との関連を作物に対する金肥投用額を指標としてみたが、この部落農家の現金収支がかなり兼業によって支えられているため、2年目には関連は認められなかった。5年目当時には畜力化による労働粗放化を金肥投用額の増加によって補っている傾向が認められた。
  14. 調査対象農機具以外の農機具所有利用及び発展段階と畜力化程度との間の関連は殆んど認められないが、最近集約部門の導入拡大と共に、時期的な労働配分上から畜力化を補完する機能をもった農機具の導入利用が行われる傾向がでてきた。
  15. 馬は大部分の農家が飼養しており、当初は借り馬も容易であったので、役畜の所有関係はあまり関与しなかった。その後畜力化の進行とともに借り馬が困難化したため、5年目当時ではこの点の規制が大きくなった。
  16. 馬に対する繁殖専用の意識が非常に濃厚であったので、その意識程度は初めの畜力化程度の分化に幾分かの影響を与えた。
  17. 現在そのような意識は緩和されたが、仔馬販売収入に対する依存は現在でも強く、放牧慣行はそのまま続けられているので、予定作業量と馬の里戻し労力との相対関係で管理作業の畜力化が規制される。
  18. 一部の農家ではその点と、小区画圃場畜力化のための役牛を導入している。
  19. 乳牛の飼養は耕地同様それに対する労働負担を通じて畑作業の畜力化を促している。飼養農家のうち粗放な飼料作を多く作付けている農家では、この面から労働負担が軽減されるので畜力化は必ずしも進行しない。
  20. 自給生産を基幹とする経営形態の下では耕地規模に対する消費人口の多少が農家の生産様式を規制することがしばしば見受けられるが、この部落では畜力化程度にもその反映が認められた。
  21. この場合、その根源は畜力作業に対する知識経験の欠如による減収不安感によってもたらされたもので、年次を経過するに従って不安は解消され、現在ではその影響が認められない。
  22. 従来の兼業は農作業と相互に競合しない労働慣行の下に行われる場合が多かったので兼業業態の関与は殆んどなかったが、近年業態の変化と共に多少関与が認められるようになった。
  23. 農家の技術選択は最終的には経営主の主観によって具体化されるが、この部落では慣行様式との対比が判断の基準とされた。慣行に対する固執程度の高い年令層の経営主や家族をもつ農家では作業畜力化は進行せず、経営権も青壮年層に移動していない。
  24. 関与する要因の働きは結局農家の経営構造の中から発現されてくるが、具体的に発現されるまでの仕組みは非常に複雑で、同一要素が促進的に抑制的に働く加重の程度、年内時期、発展過程の時点、他の要因との主従関係等何れも質的、量的に異っている。
  25. 以上からこの部落の畑作業畜力化は、むしろ抑制的な意識を基盤として発展分化し、初期には自給生産物に対する依存度と農作業に対する労働負担に規制された範囲内で畜力化程度が決定され、不安感や馬飼養慣行の固執が次第に軽減されるに従って進行したが、現在でも馬の里戻し労働負担その他の制約があるため、それらと畜力化の必要度との相対的関係から限界が存在し、畜力化程度の階層分化はこれによって一層明確になってきている。
  26. (以下3-ロ)この部落の作業畜力化においても一般的な畜力化の発展過程と同様、無機的操作から有機的操作へ、全所要労働量の高い時期から順次低い時期へ発展する過程をたどっており、幾分でも管理作業が畜力化されている農家或は作物については、耕起整地作業がまず完全に畜力化されてから管理作業へ発展している。
  27. 管理作業は放牧馬を里戻しして行われるから、各作物とも同一時期にならざるを得ず、適期適作業がこの点から阻まれるが、現状では馬の夏期舎飼いは困難である。望ましい方向として里戻し共同化が考えられる。
  28. 慣行の「畦合せ」による耕起作畦の作業は育力一貫の作業体系に改変され、一作業が部分的に畜力化され鍬作業が組合わされることはない。
  29. 管理作業は固定された作業体系は存在せず、当初導入のカルチベーター附属の段階から発展していない、手労働補助作業が組合され特に多くの場合手取除草が組合されている。
  30. 補完機能をもった管理作業機、カルチベーター附属の導入と畜力作業技術の指導が望ましい。
  31. 作業畜力化に伴って、畦巾、播種様式、畦の長さ、圃場区画等が変更きれてきているが、交換分合、農道改修等個別経営の枠を越える点の対応合理化は行われていない。
  32. (以下3-ハ)畑作業畜力化による労働軽減の度合は、農家の畜力化程度によって異るが、表示した一般的な慣行作業と畜力作業の能率差に各作物作付面積を乗じた時間となる。
  33. 標準作物作付割合の農家では畜力化によって、5月1日~5月15日では一人当労働負担可能規模が1.5反増加し、6月15日~6月30日では2.5反増加する。
  34. 手農具補助作業と口取使役によって、この部落の畜力作業体系作業時間は一般的能率より低くなっているが、これらは進んだ農家では次第に排除されてきている。
  35. 畑作々業の主な担い手は畜力化の進行と山林稼働の縮小によって、婦女子から男子に次第に移行代替され、男女の担当作業の編成変えが行われるようになった。婦人労働は一般に軽減されている。
  36. 慣行作業による一人当労働負担限界耕地規模を超える農家において、ゆい作業が崩壊しても雇傭労力が増加していないことは、作業畜力化の成果といえるが、これらの農家の多くはなおその上労働吸収量の多い他の部門も導入拡大している。
  37. 一般に雇傭労力は減少しているといわれているが、この間に農業従事者数、耕地規模、作目構成が変化しているので量的節減の度合は把握できない。
  38. 畜力農機具導入後に行われた商品生産部門、兼業部門の導入拡大が、どの程度まで畑作業畜力化による余剰労力生産化の効果としてなされたものであるかは数量的に把握できない。それは他の要因との複合的な形でなされているか、或は反復的な発展をしているからである。しかし概して慣行様式では労力的に余裕のなかったC以上の階層農家に行われた、集約部門兼業部門の導入拡大は大なり小なり作業畜力化による労力余剰を基盤としているとみてよい。
  39. (以下3-ニ)この部落の畜力農機具共同利用は単純共同所有と称すべき形態で行われているから、経営の面に求められる具体的共同化の意義は導入資金節減の点だけである。
  40. 農家一戸平均の導入資金節約額は県・村の補助金を含めて、39,148円であって農機具一セット当金額41,000円の中の5%がけの負担しかしていないことになる。
  41. この事例では更に部落社会の変革という点でも共同購入利用の意義が認められた。それは作業畜力化によって起きた部落内労働需給の変化による、旧来の封建的労働収奪慣行の崩壊と革新的青壮年層の発言力の増加である。
  42. 当初から合理的な維持管理を考慮した利用上の規約、計画が設定されていなかったので、年次を経過するに従って利用順の混乱、破損摩粍が著しくなり、そのため共同利用の円滑な運営に難点が生じて来つつある。
  43. これについては維持管理の具体的な方策を考慮する気配が醸成されつつある。又一方中以上の階層の一部では個人購入も考えられているが大多数の農家は共同利用の継続を希望している。
  44. 農家の農業所得の大きさと資金投下効率、将来の発展等から考えると共同利用の方式は継続されるべきであるが、形態としては過去の経験から組編成、資金負担は実情に応じた形に再整備されるべきであろうと考えられる。
  45. この部落の作業畜力化は共同利用なるが故に、混乱も来さずに部落労働慣行を破壊してまでも導入されてきた。しかしながら一方畜力技術について農家の研究や指導が徹底しなかったので技術上の発展はなかった。
  46. これについては今後装備の充実とともに利用技術とそれによる経営発展の方向について、経営変化に対応した長期の指導が行われるべきである。

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