岩手県立農業試験場研究報告 第21号

ページ番号1041642  更新日 令和3年12月13日

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岩手県南地方におけるササニシキの窒素施肥法に関する研究

千葉満男・清原悦郎

 岩手農林水産統計年報では、岩手県の稲作地域を5大区分している。このうち本報で対象とした北上川下流地帯の水稲作付面積は56,700ヘクタールで、県下の水稲作付面積の約60%を占め、商品化率も約87%に達し、米作依存度のきわめて高い地域であり、農業総生産の中で稲作にかける比重はきわめて大きいとともに、良質米生産にかける意欲も高く、それだけに解決すべき今日的課題を多くかかえている現状にある。このような現状をふまえ、稚苗移植による良質米の安定生産確立のため、本県における主要銘柄米品種であるササニシキについて、主として窒素施肥法を中心とした試験を実施した。結果は次のとおりである。

1.課題解決の手法として、探索-確認-実証の流れの中で、ササニシキを中心とした省力、安定、多収法について多くの情報を得るため、直交表による多因子計画法を用いて、要因の解析を行った。

2.機械移植水稲におけるササニシキの生育収量が窒素栄養と深いかかわりあいをもつことを、本研究の要因解析結果で明らかにした。しかし窒素施用因子の効果は栽培上の他因子との関連で評価しなければならないと考えられるが、とりあえず本稿では、施肥体系上もっとも重要な元肥窒素施用量水準ごとに、因子の組合せと期待収量を次のように試算した。

  • 元肥窒素量2キログラム=密植+穂肥量4キログラム(T2Q1
    期待収量:10アール当り612~586キログラム
  • 元肥窒素量4キログラム=密植+穂肥量2キログラム+2キログラム(T1Q2
    期待収量:10アール当り661~653キログラム
  • 元肥窒素量6キログラム=標植+穂肥量2キログラム+2キログラム(T1Q2
                 標植+穂肥量1キログラム+1キログラム(T2Q1
                 密植+穂肥量2キログラム+2キログラム(T1Q2
                 密植+穂肥量1キログラム+1キログラム(T2Q1
    期待収量:10アール当り665~645キログラム
  • 元肥窒素量8キログラム=標植+穂肥量2キログラム+2キログラム(T1Q1
                 密植+穂肥量2キログラム+2キログラム(T1Q1
    期待収量:10アール当り709~649キログラム

3.要因解析で求めた元肥窒素量別の期待収量と信頼区間は、異なる気象条件、土壌条件、栽培技術にまで保証するものではない。しかし各因子間の要因効果は相対的なもので、それぞれの技術的解析には充分役立つと考えられる。

4.ササニシキの安定、多収の確立を前提とした好適元肥窒素量は、4~6キログラムの範囲におき、密植、健苗適期移植を基本として、幼穂形成期(出穂前)2キログラムと減数分裂期(出穂前15日)2キログラムを分施する施肥体系で、10アール当り玄米収量650~670キログラムとすることができると推定した。ササニシキの元肥窒素量8キログラムで多収を得たのは、試験当年の好適気象条件と地下水管理の透水附与条件が大きく作用したと推察され、一般施肥体系としては適用範囲がかなり限定されると考えられる。

5.晩生品種の統一化は、当然作期幅の拡大となってあらわれる。稚苗移植の早植は、元肥窒素量の多少にかかわらず目標穂数が確保される。一方晩植においては、施肥反応が異り、元肥窒素量多水準に分けつ期追肥を組合せると生育の制御が困難で、過繁茂と下位節間の伸長によって倒伏し穂肥の効果も少ない。収量の要因効果は、早植>晩植、トヨニシキ>ササニシキ、元肥窒素量多水準>少水準に有意差が認められるほか作期と耕深、作期と穂肥、元肥と耕探のそれぞれに2因子交互作用がみられることから、これらの因子相互の関連で評価する必要があり、早植の増収効果としての穂肥の効果は高い。また品種、作期と施肥反応についてみると、トヨニシキは元肥窒素多水準>少水準、ササニシキは元肥窒素少水準で安定収量を確保できる。

6.穎花数-収量曲線からみた収量は、トヨニシキ>ササニシキ、早植>晩植の傾向がみられた。収量的には、年によって平米当たり頴花数が47粒を越えたところにピークがみられることもあるが、概してササニシキはこれ以上の頴花数になると検査等扱が低下することより、安定多収をめざすためには、平米当たり頴花数を3.7~3.8万粒、稈長80~82cm程度に止め、登熟期の同化能を高めるとともに水管理などによる根の活力維持や倒伏防止をはかることが重要である。

7.要因解析より得た期待生育の栄養生理的条件や、穂肥要否判定に重要な幼穂形成期を中心とした稲体窒素濃度をもとに、葉色帳による穂肥要否判定を検討した結果、葉色値で6GY(色相)が一つの基準値になりうると推定した。葉色帳を使用する場合ほ、各生育段階とも一定葉位(n-2、n-3)を採取し、判定する部位は葉位の中央部表面の葉脈間が判定し易い。またスターチテストを試み、葉鞘染色率による稲体窒素濃度の予測が可能であることもあわせてあきらかにした。これら簡易診断によると、葉色値6GY(色相)以下、葉鞘染色率50%以上で穂肥の効果がみられる。

8.ササニシキの窒素施肥法と安定多収に関して、地下水を制御した基盤整備圃場と稲作期間中地下水位が高い一般農家圃場において同一施肥法で比較検討した結果登熟、収量とも整備圃場がまさった。とくに未整備の農家圃場は元肥窒素3キログラム水準で10アール当り520±55キログラムの玄米収量に対し、元肥窒素6キログラム水準は同483±55キログラムにとどまり、元肥量少肥水準が安全で、施用法は従来の元肥重点より生育に応じた分施が良い。このように基盤整備圃場と一般農家圃場の一施肥反応および収量水準が異るので、良質米の安定多収をめざすためには、県南地方の透水不良地帯では、広域的な基盤改善が望まれる。

9.ササニシキの施肥法を中心とした要因解析で得られた結果をもとに、ある時期の期待生育、収量を固定し、従来説明変数として扱ったものを目的変数として求める手法により、良質米の安定多収を確立し、予測結果に基づいた技術体系を県内の地域ごとに立てるべくさらに研究を進める必要がある。

畑土壌改良基準策定のための基礎研究 第2報 畑土壌肥沃度に及ぼす有機物の効果解析

千葉 明・石川格司・新毛晴夫・千葉行雄・宮下慶一郎・佐藤久仁子

 畑土壌の地力増強にはたす堆厩肥をはじめとする粗大有機物施用の意義を具体的に明らかにしようとして、栽培試験及び現地農家圃場の土壌調査を行った。その結果を要約すれば次の如くである。

  1. 粗大有機物の種類として、厩肥、稲わら、豚ぷん(洗脱)、オガクズ堆肥、鶏ふん及び緑肥(ライ麦・レープ)を供試した。これら有機物施用による土壌環境の変化は、標準的な施用量の3年程度の連用ですでに認められる。すなわち厩肥2トン、稲わら1トン、豚ぷん2トン、オガクズ堆肥1.5トン程度の施用で、腐植、塩基置換容量の増加、置換性加里をはじめとする塩基類、有効燐酸の富化が認められ、また微量要素の供給効果も明らかである。多量要素の供給効果として、最も重要と考えられるのは燐酸であり、この場合有機物の投入による燐酸の供給量よりも、有機物の投入に伴う施肥燐酸の土壌中における有効化率の著しい上昇が認められる。このことは、火山灰土壌の燐酸による土壌改造に際しての燐酸資材の節減にも役立つものである。微量要素では亜鉛、マンガン、硼素の供給能が明らかであるが、この中で亜鉛は、家畜の飼料として与えられたものに由来するところが大きい。この他粗大有機物の施用に伴う土壌微生物相の変化としてB/F値の上昇がみられ、また微生物活性の高まりによる炭酸ガス発生量の増加も認められる。しかしながら、これら有機物の中でライ麦・レープの鋤込みは、鋤込み量、鋤込み回数が少ないためか、土壌環境に及ぼす影響や、生育収量に及ぼす影響は、極めて小さかった。
  2. 九戸郡軽米町車門及び二戸郡一戸町奥中山の農家圃場で、堆厩肥多用畑及び少用畑さらに無施用畑の土壌調査を行ない土壌分析を行った結果、堆厩肥多用畑は全般に多量要素の含有率が高いほか、有機物由来と見られる微量要素含有率の高いことが認められた。とくに軽米町周辺は、県下でも有数な微量要素欠乏地帯であり、微量要素欠乏解消にはたす有機物施用の重要性が認められた。また、奥中山地域の土壌について、土壌pHと置換性マンガン及び可給態鉄との相関を検討した結果、pH(H2O)が6.0前後においてすでに欠乏水準といわれる置換性マンガン3ppm以下、可給態鉄8ppm以下になる危険性があり、この意味でも堆厩肥の多用による微量要素の補給と、土壌緩衝能の増大が重要であると考えられた。
  3. 最近利用が多くなっているオガクズ牛ふんとオガクズ鶏ふんを原料としたオガクズ堆肥は製品のpHが高いため極端に多量の施用は、可給態のマンガン、鉄、銅を減少させ、また土壌改良資材としての過石の多用も、可給態鉄を減少させる傾向がみられる。しかし、1.5トン程度の施用量で、腐熟の進んだものであれば、作物の生育障害も認められず、土壌肥沃度も良化される傾向にあることが知られた。

岩手県の放牧牛に対するノサシバエ Haematobia irritans LINNE'の寄生量

千葉武勝

 岩手県内の代表的な放牧地19か所で、ノサシバエの寄生量を調査した結果は次のようであった。

  1. 岩手県内の放牧地におけるノサシバエの寄生量は、成牛1頭当たり200ないし500頭程度で、地理的条件などの違いによる寄生量の相違は顕著でなかった。
  2. 放牧牛の頭数が多く、また、放牧地の単位面積当たり放牧密度の高い牧場ほどノサシバエの寄生量が多い傾向がうかがわれた。
  3. 放牧牛に対して定期的に殺虫剤処理を実施している牧場ではノサシバエの寄生量が著しく少なかった。

殺虫剤の牛体噴霧法によるノサシバエの防除効果

千葉武勝

 動物用殺虫剤ナンコール水和剤40%(有効成分 Fenclorphose)を用いて、室内試験および放牧牛への噴霧試験を行いノサシバエに対する防除効果を検討した。 

  1. ナンコール水和剤のノサシバエに対する実用濃度は200倍ないし500倍、残効期間は1日程度と見積られた。
  2. 放牧牛1頭当たりの所要薬液量は約1リットルであった。
  3. 殺虫剤処理直後における防除効果はほぼ完全であったが、その後、新成虫の羽化によって密度が回復した。
  4. ノサシバエの寄生量は、発生期間中に3回の散布を実施した場合には約40%、5回散布の場合は15%まで抑制された。
  5. ノサシバエを防除することにより、放牧牛(成牛)の増体重率は明らかに向上した。

種籾の大量消毒法の開発

渡部 茂・小川勝美

  1. この報告は水稲種子消毒作業の能率化と、効果の均一化、安定化をはかるための新しい消毒法の開発、ならびにその方法を応用した消毒機械の考案と、さらにそれを使用して消毒した種子の消毒効果について述べたものである。
  2. 薬剤としてはチウラム・ベノミル剤(ベンレートT水和剤20)を主として使用し、その処理法について検討した。その結果薬液を乾燥種子に噴霧する方法をとることにした。
  3. この場合の薬液の適正な吹付け量は乾燥種子重量の3%程度がよいと判断した。
  4. さらにこの際の薬液濃度は4~15倍液で試験したところ、馬鹿苗病防除効果には差がなく、ともに完全に発生を防止したところから、実際は慣行法の0.5%湿粉衣法よりも薬剤投下量の少ない7~10倍液程度が適当ではないかと推定された。
  5. 吹付け処理種子の浸種条件と消毒効果について検討した。慣行法の0.5%吹付け法に比して同等以上の消毒効果があるところから、浸種に際しては薬剤の流亡が少ないものと推定した。
  6. いもち病、ごま葉枯病罹病種子に対しても慣行法に比して同等以上の効果が認められる。
  7. 育苗箱で多発して苗立枯れの原因となるRhizopus、Trichoderma、Pythium、Fusarium属菌を土壌接種又は発生を誘発する処置をしたあと、吹付け種子を播種したところ、菌の発生と苗立枯れを顕著に防止した。
  8. その効果は稚苗育苗方式(育苗期間20日間)でも、中苗育苗方式(育苗期間30日間)でも同様に認められた。
  9. 苗立枯病の病原菌種別の慣行防除薬剤の土壌施用と、この吹付け種子の播種による発生防止のための処置は、併用効果が高く、実用性も十分にあると考えられた。
  10. 吹付け消毒種子の玄米水分消長を調査した。測定標本の諸条件によってその消長に若干の差異が認められるものの、処理1~2カ月後には処理前の水分にもどり、貯蔵中に水分過剰による異常醗酵や、播種後の生育阻害等の現象は認められなかった。
  11. 吹付け種子の消毒効果は、他の消毒法に比較して高いが、その理由として薬剤の付着性をとりあげ、浸種時の薬剤流亡量を測定した。その結果吹付け法で最も流亡が少なく、次いで湿粉衣法であった。乾籾粉衣法は最も流亡が多く、投下成分量の半数以上が流失した。
  12. 吹付け種子は塩水選によってその効果が低下するようなことは認められない。
  13. 消毒機械を開発して、実際にかなり多量の種子消毒を実施した。1976年2月から、77年12月までに5回、1,400キログラム、2,000キログラム、3,000キログラム、7,000キログラム、46,000キログラムの種子処理を行い、この種子を配布して農家、育苗センターで育苗した。その結果各種病害の発生がなく、生育も良好であった。
  14. 種子生産組織がもつ種子センターで種子消毒を行い、これを需用者が購入するシステムは農家や育苗センターでは好評で、今後普及をはかってほしいとの要望が強かった。

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