岩手県畜産試験場研究報告 第13号

ページ番号1041767  更新日 令和3年4月16日

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寒冷地における草質改善による放牧牛の栄養障害防止技術の確立 第1報 放牧地における低マグネシウム(Mg)血症性テタニーの発生要因と防止対策

及川稜郎・久根崎久二・小針久典・谷地 仁・落合昭吾・新渡戸友次・笹村 正・山田和明・蛇沼恒夫・道又敬司・菅原休也・帷子剛資・渕向正四郎・桜田奎一・佐藤勝郎・沢田 実・太田 繁・吉川恵郷・菊池文也

1 放牧地における低Mg血症性テタニーの発生要因

1. 低Mg血症性テタニー発症牧野の特徴
 放牧地における低Mg血症性テタニーの発生要因の第1は、放牧地ならびに放牧環境にある。
ア)土壌の化学性
 置換性MgO、CaOが少なくK2Oが多い。このためK2O/MgO比が著しく低下している。
イ)施肥による土壌の変化
 苦土、石灰を施肥することなく草地化成N(2):P2O5(1):K2O(1)のみの施肥では、5年後には低Mg血症テタニー発症しやすい土壌となり、K2Oの多施用は土壌の悪化速度を早める。
ウ)牧草中のミネラル含量
 Mg、Ca含有量が少なく、N含有量が多くK/Ca+Mg当量比が高い。
エ)牧草地の植性
 オーチャードグラス、チモシー等の一般的にMg、Ca含有量の少ないイネ科牧草の割合が多く、Mg、Ca含有量の多いマメ科牧草の割合が極端に少ない。
オ)気象状況
 放牧時の平均気温が10℃以下で気温の不安定な冷湿な気象条件が続く。
カ)放牧時期および放牧地の飼料草
 低Mg血症性テタニーの多発する時期は早春晩秋であり、牧草地が大部分を占める放牧地に放牧された時に発症することが多い。

2. 低Mg血症テタニーの発症しやすい放牧牛の特徴
 発症要因の第2は放牧牛個体の側にある。
ア)子付の繁殖牛である。
イ)放牧時の泌乳量が多い。
ウ)高年齢牛ほど発症する確率が高い。
エ)舎飼期の栄養状態が悪い。
オ)放牧前の血清Mg値が低い牛ほど発症する確率が高い。
カ)放牧馴致がほとんど行なわれていない。
 低Mg血症性テタニーの発症要因を現象面から捕えると以上のように要約される。

3. 低Mg血症性テタニーの発生予知
 放牧牛の血清Mg値を推定することにより、低Mg血症性テタニーの発生予知技術を確立した。
 牧草のミネラル成分および放牧環境を用いて行なわれた重回帰分折の結果からは、春季における低Mg血症性テタニーの発症要因は、牛体に摂取されるMg量も大きな要因であるが、むしろMgのルーメン吸収を阻害するN、Pの摂取量ならびにエネルギー代謝を促進する低温が最も大きな要因であろうと推定された。
 また、分析により得られた結果から放牧牛の血清Mg値の推定式を作った。
 Y=4.756x-1,898x3-0.173x5+0.02x8+2.148
  Y…推定血清Mg値
  x…牧草中のMg含量(DM%)
  x3…牧草中のD含量(DM%)
  x5…牧草中のN含量(DM%)
  x8…平均気温(DM%)
 この式から得られた血清Mgの推定値と実際に測定して得られた血清Mg値を比較したところ、両者の間には高い相関があり、かなりの正確度で放牧牛の血清Mg値を推定することが可能であった。
 この結果から、推定値で血清Mg値が1.80mg/dl以上であれば低Mg血症性テタニーの発症する危険性はなく、1.80mg/dl以下~1.20mg/dlであれば低Mg血症性テタニーが発症する可能性があり、1.20mg/dl以下であれば発症する危険性がかなり高いと推定された。
 但し、この推定式は高標高の寒冷放牧地のデーターを用いて作られたものであるため、その適用範囲は同条件の放牧地に限定されるべきものと考える。

2 放牧地における低Mg血症性テタニーの防止対策

  1. 野草・樹葉の利用が放牧牛の血清ミネラル組成に及ぼす影響
     野草、樹葉の放牧利用による低Mg血症性テタニーの防止技術を確立した。その内容の第1は野草、樹葉の大部分はミネラルバランスが良好であり、これらの放牧利用により牛体の血清Mg濃度は上昇もしくは維持されることが確認されたことから、秋期の低Mg血症性テタニーの防止に野草地放牧が有効であることと、第2に野草地の放牧開始は平均気温が前半旬期より2~3℃低下する時期、もしくは10℃以下になる時期を目安とし、また利用期間は約4週間程度でよいということである。
  2. 牧草と野草、樹葉の組合せ利用が放牧牛の血清ミネラル組成に及ぼす影響
     低Mg血症性テタニー防止のための野草地のタイプと、それに組合わせる牧草地の比率ならびにその配置を明らかにした。
     低木雑草型野草地の植生はバラ科、キク科の野草が多く、これに樹葉が加わった形のものであるため、そのミネラル組成もCa、Mg含量が多く、N、P、K含量が少なくK/Ca+Mg当量比も低い。したがって、ミネラルバランスの良い野草地であるといえよう。
     このような野草地に牧草地を数か所に20%前後の割合で点在させた場合、野草の利用率も高く、その結果利用した牛群の血清ミネラルは、ほぼ正常に推移し、同時期に牧草地に放牧された牛群の血清Mg値より有意に高い値を示した。
     このことから、低木雑草型の野草地に牧草地を20%前後の割合で点在させた形の組合せ牧区であれば、低Mg血症テタニーの発症は防止できるものと考える。
  3. Mg入り配合飼料給与による低Mg血症性テタニーの予防効果
     Mg入り配合飼料給与による低Mg血症性テタニーの予防効果は、激烈な発症が予想される放牧環境にあってもその効果は多大であり、放牧前の血清Mg値の差に関係なく低Mg血症性テタニーの発症を防止することができる。
     Mg入り配合師料の給与方法は、放牧前の血清Mg値が低い牛の場合は、1日1頭当り1kgのMg入り配合飼料を放牧前後2週間給与し、放牧前の血清Mg値が正常な場合には、放牧直後から2週間給与すれば良い。また、注射法と本法を併用する場合には、放牧前の血清Mg値が低い牛であっても放牧直後から2週間の給与で良いものと考える。但し、前例において放牧時の気温が長期にわたり低下する場合には、あと1週間程度の給与の延長が必要である。また、放牧前だけのMg入り配合飼料の給与や注射は低Mg血症性テタニー防止効果はないものと考える。

3 低Mg血症性テタニー牛の治療

1. Mg剤投与による治療効果
 低Mg血症性テタニーの治療法を明らかにした。
 本試験で発生した痙攣発作を主微とする疾病は、臨床症状、血液所見、病理解剖所見から低Mg血症性テタニーであることが確認された。本症は血清Mg濃度が0.77mg/dl以下でCa濃度が8.0mg/dl以下、Ca/Mg重量比が10以上の期間が数日続くことにより発症し、Ca濃度の低下は病勢をより悪化させるものと推定された。
 本症の治療は軽、中症のものであれば、下表に示したMg入り配合飼料の給与で病状が回復するが、Mg剤注射を併用すれば病勢回復速度を早める。重症例では痙攣発作をくり返し起すものでは予後不良となる例が多く、その原因は骨格筋および心筋織の変性によるものと推定された。痙攣発作が1回で治まるような症例では病勢の回復も早く予後も良い。
 重症例の治療には硫酸Mgの20~25%溶液を200mlを連日3日間皮下注射し、ボログルコン酸Ca250mlの静脈注射を1~2回連日または隔日に行ない症状に応じて、抗性物質、強心、強肝、輸液などの処置を適宜実施することにより、骨格筋、心筋維織等に変性を起してないがぎり病勢は回復するものと考える。

表 Mg入配合飼料の配合割合

材料

配合割合

備考

大麦

30%

全粒粉砕
小麦

21.6%

2m/mパス
フスマ

30%

 
大豆粕

7%

 
動物性油脂

2%

豚脂又は鶏脂
糖蜜

3%

 
炭酸カルシウム

2%

 
酸化マグネシウム

3.3%

 
食塩

1%

 
ビタミンADE剤

0.1%

 

合計

100%

 

TDN・69 DCP・11 7m/mペレット

寒冷地における草質改善による放牧牛の栄養障害防止技術の確立 第2報 施肥法による牧草のミネラル組成の改善と低Mg血症防止効果

久根崎久二・及川稜郎・小針久典・佐藤勝郎・谷地 仁・笹村 正・山田和明・沢田 実・菅原休也・蛇沼恒夫

1 追肥加里量の多少と石灰、苦土の同時施肥の組合せが土壌の化学性と牧草の塩基含量・組成に及ぼす影響について検討した。

  1. 牧養力が30C・D/10a程度の放牧が行なわれている草地では、加里の還元がなされ、加里無追肥でも、土壌加里が20mg/100グラム以上に維持され、加里の施肥による乾物増収率は少ない。
  2. 10アール当たり石灰(CaO)30kg、苦土(MgO)8kgの連年追肥では土壌の石灰、苦土は維持あるいは増加傾向を示すが、石灰、苦土無施用区では加里の追肥により減少傾向が大きい。放牧地への追肥は、加里は窒素の2分の1以下とし、石灰(CaO)は30~50kg、苦土(MgO)は8~10kgの連年施用が望ましい。
  3. 土壌の塩基含量と早春の牧草の塩基含有率の関係は、牧草のK含有率は土壌のK含量と高い正の相関を示し、Ca、Mg含有率は追肥加里によって支配された。草中Mg含量とK/(Ca+Mg)me比を改善するためには土壌MgO/K2O比の改善が有効である。
  4. 早春の牧草はKの吸収が優先され、Ca、Mgの吸収に強く括抗的に作用した。特に低Mgの吸収が抑圧され平常年より0.03%少なかった。
  5. 混播牧草ではK/(Ca+Mg)me比を2.2以下とするためには草中Mg0.21%、Ca0.49%以上、Kは3.5%以下になることが必要で、K含量はオーチャードグラス単播より高くとも良く、放牧草のミネラルバランスを良くするためには多草種の混在が有効であった。

2 施肥法による草質が放牧牛の血清成分に及ぼす影響について検討し、施肥改善により早春放牧期における低Mg血症の予防の可能性を明らかにした。

  1. 放牧牛の血清K、P、Caは施肥による影響は少なく、血清Mgは加里施肥により低下し、無加里区と有意の差が認められた。低Mg血症の発症しない早春放牧期の血清Ca/Mg血症の発症しない早春放牧期の血清Ca/Mg比は加里施肥区でやや高くなる傾向にあるが、いずれの施肥区でも正常値の5.6近くにあった。
  2. 春の混播牧草の成分は加里多肥区では草中K含量が5.7%、K/(Ca+Mg)me比が4.3と高い値を示し、Mg含量は0.2%以下であったが、気象的に平常な早春放牧期には放牧牛の血清Ca、Mgは安定した値を維持し、低Mg血症の発症はなかった。
  3. 牧草成分と血清成分の関係は年により異るものが多く、放牧牛の血清成分に与える影響は草質のみならず、気象など多くの影響を受けた。低Mg血症と関係の深い血清Mgは草中N、Kとは負、草中Mgとは正の有意の相関を示した。草中K/(Ca+Mg)me比と血Mgは負の関係にあるが必ずしも有意ではなかった。
  4. 低Mg血症の発症例
    ア 低Mg血症の発症は加里多肥区で早春放牧開始後9日目に起り、その間の平均気温は5.7±1.4℃(平年比3.5℃の低温)の異常低温で、草中Mgは0.16~0.17%と低かったがK/(Ca+Mg)me比は非発症年のそれより必ずしも高い値でなかった。
    イ 低Mg血症発症年の放牧牛の血清Mgは放牧開始後低下傾向を示し、加里多肥区では特に血清Mgは1.5mg/dlから0.35mgまで低下し、血清Ca/Mg比が20以上となり低Mg血清を呈した。
    ウ 施肥改善区(N:12-P2O5:6-K2O:6-CaO:30-MgO:8kg/10a三要素年2回分肥)では放牧開始直後血清Mgの低下が認められたが、回復傾向を示し、Ca/Mg比も安定した値が維持され、低Mg血症の発症を予防することが出来た。

寒冷地におけるアルファルファの栽培と利用技術

佐藤勝郎・太田 繁・落合昭吾・伊藤陸郎・久根崎久二

  1. 岩手県における遺品種は収量性、永続性、耐病性から検討した結果、サラナックとナツワカバである。
  2. 土壌改良資材施用:炭カルはPH6.8矯正量、燐酸は燐酸吸収係数の2%相当量を熔燐で施用する。
  3. 土壌改良深:一般牧草の15cmでは不足でできれば20~15cmが望ましい。
  4. 堆厩肥の施用量:造成時10アール当り6トンの施用で3ケ年の増収効果が認められる。
  5. 硼素の施用:造成時に10アール当り硼砂で2kg、BM熔燐で180kgの施用が必要である。
  6. 三要素施用量:10アール当りNは基肥に4kg、根粒菌着生後は不用である。P2O5とK2Oは基肥と追肥(早春及び刈取毎)にそれぞれ5kg、8kgの施肥が必要である。
  7. 除草剤の使用法:造成当初の広葉雑草に、DNBPが効果があり、その使用濃度は、10アール当り200~300ccが適量である。ギシギシにはアージラン液剤が適し、使用濃度は10アール当り400ccが適量である。
  8. 播種適期:原則として春播種がよいが、秋の播種適期は、牧草の生育停止時期(日平均気温5℃)を基点としてみると、有効積算気温(Σx-5℃、x:日平均気温)は1,650(8月1日)~1,540℃(8月10日)の時期が適当である。
  9. 刈取頻度:初年目春播で2回、秋播で1回、2年目以降は開花始期を目安に、年4回刈が最適である。
  10. サイレージ調製における添加物、予乾法:単播材料では、ギ酸を0.6%~0.8%添加すると良質のサイレージが調製できる。細断予乾材料および予乾後の梱包サイレージでは、品質は良好であったが、好気性変敗を考慮すると、プロピオン酸0.4%程度調製時に添加する必要がある。
  11. とうもろこしとアルファルファ併用サイレージ調製:とうもろこしにアルファルファを20%混ぜ詰めすると、粗蛋白質1.1倍、カルシウム2.1倍、マグネシウム1.2倍上昇し、バランスの良いサイレージが調製できる。
  12. ハリガネ架掛乾燥法:小規模面積の場合、水分を60%毎度に予乾し、架掛すると葉部の脱落も少なく、良質の乾草が調製できる。

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