岩手県畜産試験場研究報告 第5号

ページ番号1041805  更新日 令和3年4月19日

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放牧牛に対する吸血性昆虫類の防除

藤島富嘉雄・道又敬司・村田敦胤・佐藤彰芳・三浦由雄・沼田 茂・青木章夫・似里健三・戸田忠祐・久根崎久二・小野寺 勉・田中喜代重・大森秀雄・千葉武勝・長谷川 勉・粟津隆一・梶原 明

1 アブ類
(1)生態

 乳牛および肉牛の放牧衛生対策の一つにアブ類の防除が挙げられるが、そのためには、アブ類の生態が欠くべからざる要件である。

  1. 種類と寄生消長
     本調査によって発生が確認されたアブの種類は、岩手県で7属33種、秋田県で4属22種であった。そのうち、優占種とみられるものは、前者ではアオコアブ、ニッポンシロフアブ、アカウシアブ、アカアブおよびカトウアカアブ、後者ではホルバートアブ、シロフアブ、ニッポンシロフアブであった。これらのアブは、牛体への寄生数も多いことから放牧衛生上重要な種類と思われる。
     また、アブ類全体として発生最盛期は、7月下旬から8月中旬にかけてであるので、成虫を対象とする防除法を検討する際は、この時期に重点をおくべきであろう。
  2. 成虫の寄生活動
     成虫の寄生活動は、種頑によって朝または夕方に活発になるものもあったが、優占種の大部分は日中に多く、そのピークは午後1時から2時であった。とくに、むし暑い晴天時に活発で雨天時には活動が著しく低下した。
     また、牛の品種や個体により、アブ類の寄生数が異なり、とくに黒色の被毛を有する個体に寄生が多く、今まで経験的に云われてきたことを裏付けすることができた。
     アブ類の吸収行動を観察すると、牛体にとまってから十分吸血し飛び去るまでに5分前後を要した。なお、その吸収量は、おおよそアブの体重の50~80%であることが認められた。
  3. 産卵実態
     本調査によってアカアブ、カトウアカアブの産卵環境が確認されたが、両種とも湿原に生育しているヨシ、リンドウなどの地面から30~60cmの高さの葉裏に普通3層からなる円錐形の卵塊として産付けられている。
  4. 幼虫および蛹の生育環境
     本調査によって14種の幼虫および蛹の生息環境が確認された。すなわち、アカアブ、カトウアカアブなど11種が湿地や小流沿いの湿性土壌中に、ジャーシーアブ、アオコアブの2種が林床土壌中に、ニッポンシロフアブが牧草地または畑地の土壌中に生息していた。なお、蛹化に際して、幼虫の生息環境よりやや水分の少ない環境へ移動することが想定された。
  5. 幼虫および蛹の発育
     本調査によって、野外採集幼虫およびふ化幼虫とも、1世代を経過するのにアカアブ、アカウシアブは2年、カトウアカアブ、ウシアブおよびシロフアブは1~2年、ニッポンシロフアブは1年を要することが観察された。
     幼虫の発育とミミズ給餌の量との関係について検討したところ、カトウアカアブは、給餌制限(対照の2分の1)によって幼虫期間が約1年延長するが、アカアブは給餌量に左右されないことが観察された。
     なお、幼虫は、種類によってほぼ一定の発育段階で休眠・越年することが認められたが、野外条件において詳しい調査が必要であろう。

 以上、本調査からアブ類の成虫を対象とした防除対策としては有効な殺虫剤、忌避剤の応用が可能な見通しを得た。しかし、幼虫の種類によってその生息環境に相違が著しいことから、発生源対策の困難性が示された。殺虫剤等の使用にしても発生源対策は成虫対策に比してより多くの問題点がある。生態的な防除法の検討が今後は必要であろう。

(2)被害
 放牧牛に対するアブ、サシバエ類の吸血性昆虫とくにアブ類の寄生が、乳量、体重、牛体生理に及ぼす影響被害について調査検討した。

  1. 乳量への影響
     岩手畜試の調査によると各年次とも野外飼養試験区の平均日乳量は、金網牛舎に収容しアブの寄生を防衛した対照区よりも少なく、とくにアブ類の最多発期の7月下旬から8月中旬にかけて乳量が減少することが明らかに認められた。総じてアブの寄生による影響被害は8~10%程度の乳量減となることが推測された。
     なお、この調査の供試牛は、最高泌乳期を過ぎているためもあって、泌乳期の進行に伴い乳量は次第に低下する傾向はあったが、42~43年および45年の反転法による調査では、対照区から試験区に移るたびに産乳量が減少し、対照区に移すと再び回復するというパターンがみられ、44年の平行比較法による調査では、試験区の減少、対照区の増加がみられた。
     一方、秋田畜試の調査による減少率は、わずかに0.05%で、岩手畜試の調査結果と異なり、アブの寄生による影響被害は認められなかった。
     昭和44年に岩手畜試が行なったアブ類の寄生や気象等の諸条件の変化と産乳量との関係についての解析調査では、大型種のアブの寄生と輻射温の上昇が相乗条件となった際に影響度が増大することが認められた。
     なお、その影響は諸条件の感作を受けたその日よりも、むしろ4~5日後に現われる傾向が強く、同時に行なった摂取エネルギーとの関係でも、感作を受けた当日と3~4日めに影響があらわれたが興味深く思われた。しかし、この解析は十分とは云い難いので結論づけはできない。
     なお、アブの寄生、気温、輻射温、不快指数等の諸感作は、その日の夕方の産乳量よりも翌朝に響きやすいことがうかがわれる。
  2. 体重への影響
     岩手畜試の搾乳牛を用いた調査によると、牧乾草による粗飼料飽食条件をとった対照区に対する試験区の全期間平均増体割合は、昭和42年は4週間に1.2%の増、43年は9週間に、1.6%の増をしめしたが明らかな増体ではない。
     しかし、日本飼養標準のTDN120%の制限給与とした条件での全期間平均増体割合は、前年調査と異なり44年は4週間に逆に4%の減、45年も6週間に3.4%の減がみられたが、これも明らかに減少したものではない。また、試験期別の体重の推移は、42~43年は試験区で増、対照区で減の傾向が認められ、44年~45年は逆のバターンが認められた。
     なお、乳量への影響調査の解析と同様、アブ類の寄生と輻射温の上昇とが相乗条件になった際に増体に及ぼす影響があらわれやすい傾向がみられたが、むし暑い時期を過ぎアブ類の寄生が減少する8月下旬には十分回復できる程度の影響である。
     一方、育成牛を用いた秋田畜試の調査によるとA肉用牛繁殖育成センターにおいては、試験期間内の1日平均増体量は、試験区443g、対照区345gで明らかに差が認められた。この増体差は9月下旬時点で初めて明らかな差となり終了時まで続いた。また、B牧場においては、試験全期間の1日平均増体量は、試験区417g、対照区650gでかなりの差がみられたがこの差は明らかではない。
     なお、体重の変動と環境諸条件との間には、岩手畜試と同様明確な因果関係は掴めなかった。
  3. 牛体生理への影響
     岩手畜試の調査結果からアブ類の寄生と輻射温の上昇が牛体に相乗的に作用した場合、体温、心拍数、呼吸数にわずかながら影響がみられたが明らかではない。

 以上、本調査からアブの被害は、輻射温の上昇と相乗的に牛体に感作を与えた場合、産乳量に対して若干の影響を与えることが認められたが、体重、牛体生理への影響は問題視するまでに到らず、成虫の防除対策は7月下旬から8月中旬にかけてのアブの多発期を中心に行なう必要があると思われる。

(3)防除
 放牧牛に寄生するアブ、ハエ類の防除方法として薬剤の牛体噴霧、ダストバック、バックラバーの防除器具の利用効果について検討した。

  1. 牛体噴霧法による薬剤の効果比較
     秋田畜試において現在市販されている20種類の殺虫忌避剤を用いて効果比較をした結果、薬剤全体の傾向としてアブ類よりハエ類に効果が認められた。
     効果が期待できる薬剤は、アブ類にはネオキクトール、アレスリン、チグボン、パランの順に、ハエ類には、ネオキクトール、パラン、アレスリン、リペレントの順であった。また、薬剤の系統別には、アブ類に対しては効果に差はみられなかったが、ハエ類にはピレスロイド系がカーバメイトより明らかに効果が認められた。
     薬剤の希釈液として、ボルホ、松根エキスの油剤は速効性が認められたが24時間以降になると水和剤と同等若しくはそれ以上の効果が期待できなかった。むしろ、噴霧直後に皮膚の硬結、中毒症状などの薬害がみられたので油剤の使用は避けた方がよいと思われる。
  2. ダストバックの実用性
    ア ダストバックの防除効果
     低毒性有機燐剤アズントール5%の含有粉剤を入袋したダストバックの利用牛に対して、アブ類の寄生数はとくに減少するようなことはなく忌避効果は認められなかったが、ハエ類の寄生数は明らかに減少し、忌避効果によるものと思われた。
     ダストバックの利用回数は、41日間246頭を半強制的に利用させた状態における調査結果であるが、1日1頭当り頭部から背部まで牛体全部での利用は4.6回であった。また、アブ類の最多発期に利用回数が多く、アブ類の飛来数と利用回数との間には明らかに相関が認められた。
     薬剤の消費量は、試験全期間を通して1日1頭当り84.1gであったが、これはダストバックの利用回数の多寡と関係があって、実用規模の面積、頭数条件では半強制的に利用させたとしても消費量は大幅に減るものと推察される。

    イ 薬剤の殺虫効果
     アズントール5%含有粉剤を使用したダストバックの利用牛に接触したアブの死亡経過を観察した。供試したアブの種類は、大型種のアカウシアブ、アカアブ、カトウアカアブの3種であったが、接触したアブの死亡率は極めて高く、12時間めに20%、96時間めにはほとんど死滅することが明らかに認められた。また、平均生存時間は、接触しなかったアブの240.6時間に対し、接触アブは14.7時間と極めて短かく薬剤の殺虫効果は明らかに認められた。これらのことから、アブの種類によっては一般に吸血後4~5日以降に産卵すると云われているので、産卵前に殺虫可能なことが推察される。自然生態系の側面から異論はあると思われるが、対応療法的にはダストバック利用によるアブ類の防除は十分期待できる。
     また、アズントールの適正濃度を把握するために行なった調査によると、含有濃度を増すごとに死虫率が高まり、とくに5%単用0.5%とボルホ0.5%の混合に極めて速効性があることを認めた。しかし、アズントールの適正濃度については、野外実験、経口摂取された場合の牛体への影響など十分検討していないので言及することはできないが、アズントールの含有濃度が1%以上であれば実用性があるものと思われた。
     牛体に散布された薬剤の残効性調査では、降雨の多寡によって左右され、大雨の場合は直ちに効果が失われ、小雨条件では数日程度残効性が認められた。なお、含有濃度によっても残効性に長短が見受けられるようである。

    ウ 薬剤の牛体に及ぼす影響
     アズントール0.5%含有剤を牛体に散布し、それが経口的に摂取された場合の牛体生理に及ぼす影響について調査したところ、調査方法に難点があったので明確なものではなく追試の必要はあるが、ルゴール反応、コリンエステラーゼ活性値等肝機能にわずかながら影響を及ぼしたとみられる所見が見られた。
     また、利用することによってとくに増体がよくなるようなことは認められなかった。
  3. バックラバーの実用性
    ア バックラバーの防除効果
     トリクロロホン40%油剤およびネオキクトール乳剤を白灯油で稀釈した薬液を使用したバックラバーを利用した供試牛に対して、牛体上部に好んで寄生する大型種のアブ類の寄生数がわずかながら減る傾向がみられたが、全般的には忌避効果は認め難かった。ハエ類は明らかに寄生数が少なく忌避効果があったものと思われる。
     バックラバーの利用回数は、41日間延246頭を自由利用させた状態における調査結果であるが、1日1頭当り頭から腎部まで牛体全部での利用は3.3回であった。また、アブ類の最多発期に利用度が高く、アブ類の飛来数と利用回数との相関は、ダストバックよりも一層明らかに認められた。このことから、バックラバーは、牧柵や立木などに体をこすりつける牛の習性を利用したアブ、ハエ類に対する有効な防除方法になり得るものと思われた。
     薬剤の消費量は、試験全期間1日1頭当り平均158mlを要したが、バックラバーのケーブルへの薬剤浸潤量を絶えず一定量に操作することが条件となるので、利用頭数の増加によって、もっと効率的に利用され、消費量は減少するものと推察される。

    イ 薬剤の牛体に及ぼす影響
     バックラバーの利用によって牛の背部に軽い皮膚炎の発病がみられた。また、利用することによって増体がとくによくなるとは考えられなかった。 

2 サシバエ類
(1)生態

 ノサシバエの防除上の資料を得るためには発生消長を明らかにする必要があるが、初めに未確立の調査方法を検討し、その後に発生消長について調査することにした。

  1. 調査方法の検討
     掬い取り法は、寄生個体はほとんど捕獲されるので寄生数は正確に把握できるが、牛による個体差が大きく、また、特定個体でも、ふれが大きいので少数個体を対象とする掬い取り法では、条件設定を厳密にしなければならない。ノサシバエは、体の大きさおよび特徴のあるとまり方をするので数メートル離れた地点からでも他のハエ類と容易に区別できる。したがって、放牧牛群全体を対象として目測により牛体に寄生しているノサシバエの概数を読み取る方がむしろすぐれた調査方法と思われた。
  2. 発生消長
     滝沢の岩手畜試場内での成虫の発生は、5月下旬からみられ、6月中~下旬に急増して最高水準に達した後、9月下旬までおおよそ一定の密度を保ち10月に入って急減し、下旬までに終息した。また、標高700メートル前後の同場外山分場では、滝沢よりピークに達する時期がやや遅れるほかは似たような消長を示した。
     気象条件と寄生数との関係は明らかにできなかったが、ノサシバエ成虫は、つねに寄生吸血していなければ生命を維持できないことから、気象条件によって比較的寄生活動が影要されにくいように思われた。

(2)防除

  1. 内服殺虫剤バイミックスによるノサシバエの防除
    ア バイミックスの有効濃度
     直腸から採取した牛糞にバイミックスを混入した後ノサシバエ卵を接種し、幼虫発育の有無、蛹化数を調査した結果、幼虫の殺虫効果がみられ、その下限有効濃度は0.1~0.5ppmの間にあるものと思われた。

    イ 経口投与の効果
     バイミックスを濃厚飼料に混入し5日間連続投与して得た牛糞にノサシバエ卵を接種したところ、無投与区に対し投与期間中に蛹化や幼虫の発育は全くみられず完全な効果を示した。
     また、1日体重1kgあたり1.5mg(成分量)投与区では、投与終了後2日めで一部に幼虫の発育がみられ濃度も有効下限濃度附近まで低下したが、3.0mg区ではまだ有効で投与終了後4日目で両投与区とも効果が消失した。

    ウ 野外放牧牛群に対する投与
     ホルスタイン育成牛群にバイミックスの有効成分を2%含有するように調製したブロックタイプの鉱塩を野外で自由舐食させ投与効果について検討したが中毒事故が発生したのでこの試験を中止した。
    a 鉱塩の消費量
     期間中の消費量は1日1頭平均約30グラムであった。この量はバイミックスの1日体重1kgあたりの有効成分量では1.18mgとなり標準投与量とされている1.5mg以下である。しかし、中毒事故発生前3日間は標準投与量の約3倍量が摂取されたがこの原因は明らかにできなかった。
    b 生物検定および糞中バイミックス濃度
     無投与区では各サンプルとも接種卵数の約半数が蛹化したが、投与区のサンプルでは全く蛹化個体がみられないもの、無投与と同程度の個体数がみられるものとほぼ半数ずつに分かれた。
     糞中バイミックスの濃度はさまざまで鉱塩の摂取量に大きな個体差がみられた。
     なお、濃度が0.1ppm以上のサンプルでは幼虫の発育は完全に阻止されることが確められた。
    c 野外糞塊中のハエ類幼虫に対する効果
     ハエ類全体の幼虫数を調査したところ、ほぼ半数の糞塊でバイミックス投与によって幼虫の発育が阻止され効果がみとめられた。
    d 牛体に寄生しているノサシバエ成虫個体群に対する効果
     この調査では、投与開始直後からノサシバエ成虫の寄生数が明らかに少なくなり、バイミックスは予想以上に消化管から吸収された疑いが強く、ノサシバエ成虫は血液中にとり込まれたバイミックスの影響を受けたものと考えられる。
    e 投与牛で発生した中毒事故
     バイミックスの投与によって2頭の死亡牛がでたが、総じて牛群全体に異常がみられ重度な症状をあらわしたものが10頭、軽度のものが16頭でいずれも施療によって治癒した。
     これら発病牛の血液検査では肝臓の機能障害がみられ、有機燐剤による中毒の特徴とされるコリンエステラーゼ活性は、中~重症中で顕著に低下するのがみとめられた。
     また、死亡牛の体組織等への残留量は、肝臓に異常に高い量がみられた。
     なお、死亡牛について標準投与量の約8倍に相当する1日体重1kg当り12.5mg前後のバイミックスが摂取されたことが試算された。

     以上、内服殺虫剤バイミックスを鉱塩方式として放牧牛に投与する方法は、一応ノサシバエおよびその他のハエ類に対する防除効果は期待できるものの、牛の摂取量に個体差が大きく、牛に対する中毒の危険性が高いので実用化は困難と結論される。
  2. 微生物殺虫剤Bacillus moritaiのノサシバエに対する効果
     内服殺虫剤バイミックスによるノサシバエの防除は実用化が困難という結論に達したので、昭和47年から新たな考えのもとに微生物農薬Bacillus moritai利用によるノサシバエ防除の可能性を探ろうとして、まず本剤の殺虫効果について検討中である。

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