岩手県蚕業試験場要報 第15号(平成4年3月発行)
岩手県北部地域における密植桑園の桑収穫技術
土佐明夫・阿部末男・伊藤眞二・菊池次男・亀卦川恒穂
岩手県北部地域における密植桑園の年6回飼育に対応する桑収穫法の実証と、桑新品種の特性を生かした利用方法等について検討し、次の結果を得た。
- 年6回飼育対応の桑収穫法における過去4年間の平均収量は、10アール当たり約2,000kgの新梢・葉量が得られた。平均収葉量から蚕期別飼育割合を試算すると、第2春蚕期は11%と少ないが、他の蚕期は17~19%でおおむね均等飼育が可能である。
- 収穫型式別適応桑品種は一春・一夏輪収法および株上げ・株下げ輪収法には、耐寒・耐病性の勝る「ゆきしのぎ」が適し、夏秋専用桑園は多収性の「あおばねずみ」と「しんけんもち」が適する。
- 春切枝条を初秋蚕期と晩秋蚕期に基部80cm残して収穫する場合、2畦ごとの隔畦収穫が枝条下部の落葉抑制に有効であった。
- 9月(晩秋蚕期および晩々秋蚕期)の収穫は、伐採後の枝条に緑葉が不足すると桑枝軟腐病が発生する危険性があり、縁葉5~6枚残し伐採の必要性が認められた。
株下げ密植桑園の経年次における有機物施用と深耕効果
及川直人・藤沢 巧
密植桑園への有機物の施用は表面施用で行われているが、既設桑園を主幹の地際伐採と畦間補植で密植化した桑園(株下げ密植桑園)は根系の深い株下げ株を有することから、根系が浅く個体差の少ない新・改植密植桑園とは施用効果が異なると思われる。そこで株下げ密植桑園の有機物施用と深耕の効果について検討した。その結果、補植株と株下げ株では処理効果の発現時期や程度に差がみられ、株下げ密植桑園は新・改植密植桑園に比べ深耕の必要性が高く、有機物の施用には深耕との組合わせが必要であることが確認された。
Beauveria bassiana 付着キイロコキクイムシの野外放虫試験地における桑葉汚染の実態と蚕への影響調査
鈴木繁実・槇原 寛・藤岡 浩・宍戸 貢
キイロコキクイムシを運搬者とした天敵糸状菌Beauveria bassiana による松くい虫の新防除法が開発されつつある。蚕の病原菌であるB. bassiana 胞子を付着させたキイロコキクイムシ放虫地域における養蚕への安全性を解明するため、本菌胞子による桑葉汚染の実態について、蚕を供試した生物検定により検討した。
- 放虫数100,000頭と多い場合は放虫点から半径50メートルまでの範囲で、放虫数23,000頭と少ない場合は放虫点でのみ、供試菌による罹病蚕が発生した。
- 本菌胞子を付着させたキイロコキクイムシ放虫による胞子の飛散範囲は、放虫規模によって異なるが、放虫点の極く近接した小範囲に限定され、放虫点の付近に桑園がなければ、養蚕への直接的な影響は少ない。
- 多犯性の本菌が、ハゴロモ類など多種類の昆虫に感染伝播して地域の菌密度を高めることによる養蚕への影響については、さらに調査研究が必要である。
特殊用途繭生産技術実証と団地形成に関する研究 -農業体質強化地域拠点試験地設置事業成績-
中村勇雄・佐藤正昭・及川直人・藤沢 巧・鈴木繁実・壽 正夫・若澤 貢・菅原洋一・西城 力・多田勝郎・伊藤隆造・及川徳義
江刺市藤里地区において実施した農業体質強化地域拠点試験地設置事業の現地実証試験成果をもとに特殊用途繭生産技術体系を策定し、団地形成の一考察が得られた。
- 細繊度蚕品種の繭糸は「ハイブリッドシルク」などに利用されるため、特に繭糸繊度の均一性が要求されることから、飼育標準表による飼育技術等の平均化と農家での技術水準向上が必要であるが、現地実証試験の結果、繭糸繊度は蚕期間及び農家間でも用途規格(2.0~2.5デニール)の範囲内であり、均質性が確保された。
- 細繊度繭品種「あけぼの」の発育特性を十分に活かすことが必要であったが、実在農家における飼育・上蔟管理の不慣れ等のため、生糸量歩合及び解じょ率は蚕期間差、農家間差が大きかった。
- 現地飼育実証での経営試算については、細繊度蚕品種の発育特性を十分に活かす飼育技術の向上によって蚕業試験場での技術体系が活用できると思われる。
- 蔟器、蚕具類及び上蔟室の簡易消毒技術の実証によって蚕病防除管理意識の高揚が図られた。
- 蔟器消毒には、小型ビニールハウスを利用したホルマリン原液くん蒸消毒が有効であった。また、重複蚕期における施設の利用と蚕室蚕具消毒について、改善点を提示した。
- バインダ型条桑刈取機による収穫能率の向上と緑肥作物(セスパニア、ソルゴー)の作付け・鋤込みにより、桑の生育促進効果が認められた。さらに、選択性茎葉除草剤の効果が実証された。
- クワシントメタマバエの越冬世代成虫の発生時期を加温法によって予測した。
- クワシントメタマバエの省力防除法としてT型多口噴頭を装着した背負動力散布機による殺虫剤(ダイアジノン微粒剤F)の地表面散布技術を実証した。
- 3ヵ年間の実証試験成績からみた10アール当たりの繭生産量は117kg、粗収益201千円、経営費133千円で所得が68千円となり、所得率が33.5%と試算された。
- 農家における細繊度蚕品種の飼育実証は蚕業試験場の細繊度蚕品種飼育成績あるいは農家における普通蚕品種の飼育成績と比較すると、経済性では低位であったが、細繊度蚕品種の特性を最大限に活かせる飼育管理技術の向上を図れば蚕業試験場並みの成果が期待でき、実証農家の単位面積当たりの繭生産量の増加が可能となる。
- 細繊度蚕品種による繭生産量は年々増加してきているが農家の反応が今ひとつ低調気味であった。
- 養蚕と稲作の作目間の作業労力競合調整技術としては、稲の播種期及び移植期を慣行よりも10日遅らせることにより、出穂期で3~5日遅らせることが出来た。さらに、晩々秋蚕期の蔟中に当たる10月1日~7日間であれば、刈り取り時期としては米の品質を落とすことなく収穫することが可能であった。
- 特殊用途繭の流通の円滑化が図られなければ細繊度繭生産団地の産地化はかなり難しいものと考えられる。
天蚕繭の安定生産技術 第4報 天蚕卵の生産技術
橋元 進
大量の天蚕卵を計画的に採卵するため、羽化の最盛期を交尾率が高く安定する時期に合わせた天蚕飼育を試み次の結果を得た。
- 天蚕の交尾率は、8月は一定の傾向が認められず平均交尾率は69.1%であった。9月は前半に比較的高く安定した交尾率が得られ、後半は日別の変動が大きかった。
- 交尾率は、交配翌日から3日間の最低気温が13~17℃になる時期に高い傾向を示した。
- 採卵用天蚕としての飼育、交配、採卵はほぼ当初の計画どおり行われた。
- 以上の結果から実用的な天蚕卵の生産技術について考察した。
天蚕繭の安定生産技術 第5報 天蚕の稚蚕人工飼料育
橋元 進
天蚕の稚蚕人工飼料育の安定化を図るためいくつかの問題について検討し次の結果を得た。
- 天蚕卵の保護法では、冷蔵期間、孵化率、孵化期間からみて2.5℃冷蔵が妥当であった。
- 天蚕用人工飼料の調製法では、湿体調製時の加熱湿度を70℃にすることで脱皮障害蚕の発生を防止できる。
- 湿体調製後の人工飼料は長期の保存に耐えない。
- これらの結果及び既往の研究成果から天蚕の稚蚕人工飼料育の作業手順を組み立てた。
[資料]交雑種比較試験成績、桑の発芽・発育調査(付・1991年気象調査表)
佐藤正昭・藤沢 巧・伊藤眞二
(摘要なし)
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