岩手県蚕業試験場要報 第11号(昭和63年3月発行)

ページ番号2004928  更新日 令和4年10月14日

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寒冷地向桑系統「東69-24」の性状

壽 正夫・佐藤正昭・及川直人・高田勝見

 1969年に蚕糸試験場東北支場において、耐病性、多収性で葉質良好な桑品種を目標として、一ノ瀬を母に、コルヒチンにより育成した4倍性「No.17-25」を父として交雑し、得られた実生群から選抜され、少雪寒冷地向として適応性を7ヵ年検討した。

  1. カラヤマグワ系に属する3倍性品種で、春の発芽は改良鼡返と大差ない。発育は旺盛で新梢は長いが葉数は少ない。
  2. 葉は5裂葉で、一ノ瀬に類似するが大きく厚い。枝条は直立で耐倒伏牲が強い。落葉長は3倍体品種では短かい。
  3. 収量は改良鼡返と比べ、春切年ではやや少ないが、夏切年では15~23%多収である。
  4. 蚕の飼育成績では、繭重は春蚕期で重く晩秋蚕期は改良鼡返並であるが、繭層重は重く、飼育価値は高いものと思われる。
  5. 少雪寒冷地の春秋兼用、夏秋専用桑園用として春夏秋壮蚕用に適する。適応地域は、岩手県奨励桑品種地域区分図(メッシュ気候図)に示す標高200メートル未満、年間平均気温10~11℃以上の県南部・北上川下流地域と考えられる。

新梢さし木におけるクヌギの増殖法

亀卦川恒穂・菊池次男

 クヌギの増殖法として桑の新梢さし木法を応用したクヌギ苗の簡易増殖法を検討し次の結果を得た。

  1. 新梢さし木によるクヌギ苗の増殖法として桑の新梢さし木技術の応用が可能である。
  2. クヌギの新梢さし木における発根促進にはIBA 0.4%(1.25ml/リットル)で24時間処理することにより水処理の24時間に比べ20~40%発根率が向上する。
  3. 新梢が20~30%の生育時(6月中旬)のさし木では発根率高く地下・地上部とも生育良好であり枯死率も低い。
  4. 新梢が長い時期(8月上旬)のさし木では木化部位を50%つけたさし穂が最も発根率の高いことが明らかとなった。
  5. さし木時期の遅い8月10日では発根しても腋芽の発芽生育は認められなかった。

組織培養における桑苗生産 2. 養液栽培における増殖効果と品種別生育反応

及川直人・壽 正夫

 養液培養におけるクワの増殖効率とクワ品種別の生育反応をみるために、液体培地による振盪培養を試みた。
 その結果、クワにおいても液体培地による振盪培養は寒天培地に比べ培養物の生育が早く、増殖効率の高いことが確認され、その生育状況にはクワ系統別品種間に寒天培地による培養と同傾向の生育差異が認められた。
 また、増殖用培地で培養したシュートの継代および発根培地へ植替えする場合の残った腋芽を利用して増殖の効率化を図るために、この培養腋芽を液体培地で培養したところ、総ての腋芽が有効に利用でき、液体培地での複数腋芽付きシュートの振盪培養は、生育が早く効率の良い増殖方法であることが確認された。

密植桑園の畦間ポリマルチと収量増加

壽 正夫・及川直人・高田勝見

 密植桑園では、畦間が1.0メートルと狭く機械利用による土壌面の被覆が困難であることから実用化に至っていない。そこで、桑苗横伏による造成時の植溝掘前に畦間をマルチャーを用いて被覆した場合の効果について検討した。

  1. 造成時の植溝掘前におけるマルチャーを用いた隔畦ポリマルチ労力は、3人総作業で0.33時間であり、植溝掘労力は、1人作業で1.89時間と容易であった。
  2. ポリマルチにより地温は3~5℃上昇し、夜間の地温は高く推移した。このことは、桑の伸長を促進し、収量の増収に顕著な影響を及ぼしたものと推察される。
  3. ポリマルチ区の造成1年目の伸長は旺盛で、収量は、無マルチ区に比べ40%以上増収した。

普通桑園の機械収穫を前提とした春・夏株下げ樹形改造と年次別収量

壽 正夫

 普通桑園では、仕立収穫法などから機械による収穫が困難であり省力化を進めるうえで問題となっている。
 そこで、既設桑園を春・夏処理の株下げによる樹形改造を行い、樹勢の回復を図るとともに桑刈機の導入による収穫作業の省力化と年次別収量について検討した。

  1. 株下げ労力は、対1株の切断時間がチエンソーで14~22秒であった。
  2. 処理前後における株の状態は、処理前の状態の良好な株ほど処理後の発条・枝条生育がよかった。
  3. 処理時期別による枝条数、枝条長は、春処理で枝条数が多く、夏処理では枝条数は少なかったが枝条長は長い傾向を示した。また、樹齢の古い株で枝条数が多く、枝条長は長い傾向を示した。
  4. 収量調査については、樹齢の古い株の春処理の株当たり年次別収量は対照区(100)と比べ、1年目(67)、2年目(74)、3年目(85)であり、10アール当たり収量は対照区(100)と比べ、1年目(68)、2年目(71)、3年目(84)と、年次経過とともに収量差は少なかった。
  5. 条桑刈取機の収穫能率では、株下区の夏蚕期は対照区に比べ約4倍の能率であり、晩秋蚕期では株面拡大のため機械刈りによる刈残しが多かったが約2倍の能率であり条桑刈取機の導入は可能であった。
  6. 株下げ処理1年目の晩秋期に不発芽であった株でも、その後2~3年目で発芽・発条する株が認められた。

超多収桑園の技術開発 -超多収桑園における造成1年目の桑生育-

高田勝見・壽 正夫・及川直人

 耐冷性新桑品種を用い施肥効率の高い液肥多回分施技術を中心に超多収桑園造成1年目の桑の生育と収量について検討し、次の結果を得た。

  1. 液肥施用は固形肥料施用に比べ枝条の伸長がよく、7月10日以降の夏秋期の伸びが特に旺盛であった。
  2. 液肥の多回分施により桑の生育が良好で収穫量も増加したことから、肥料の利用率が高まるものと考察される。
  3. 桑苗横伏法によるみつしげりは、地下の古条部の肥大生長が旺盛で発根も良好であることが認められた。

桑樹に対するブロイラー鶏ふんの施用効果(第1報)

菊池次男・亀卦川恒穂

 低コスト養蚕の推進にあたり、肥料費低減の一方策としてブロイラー鶏ふんを用い、桑代替肥料としての効果と経済性について検討した。

  1. 単肥配合肥料の代替としてブロイラー鶏ふんを桑園に利用した場合、全量を代替すると桑収量は減少するが、窒素施用量の60%をブロイラー鶏ふんで代替し、残りを単肥でで春肥として施用すると、単肥配合肥料の施用と同等の桑収量が得られる。
  2. 桑粒状固形肥料の代替としてのブロイラー鶏ふん施用は、桑品種による収量差が大きく、肥効に不明確な点はあるが、改良鼡返で増収効果を示していることから代替可能と判断できる。
  3. 慣行の桑園施肥に比べ桑収量に差異のみられなかった窒素施用量の60%をブロイラー鶏ふんで代替した場合の施肥経費は、単肥配合肥料においては約70%の節減が可能であり、桑粒状固形肥料の代替としては約54%の節減が見込まれる。

桑の芽葉に生息する氷核活性細菌と凍霜害発生との関係

小澤龍生・鈴木繁実

 氷核活性細菌と桑の凍霜害発生との関係を明らかにするため、岩手県内桑園の芽葉に生息する細菌の氷核活性を調べるとともに、氷核活性細菌による凍霜害発生について2、3の実験を試みた。

  1. 桑の芽・葉表面における氷核活性細菌の時期別分離状況:キングB培地上に検出される細菌は各時期とも白色集落を形成する集団が優勢であり、氷核活性細菌はこの集団に属していた。氷核活性細菌の分離率は季節的に変動し、春の5~6月は高く、8~9月は殆ど検出されず、10月に再び高くなった。
  2. 核活性細菌による再発芽枝条の霜害発生:霜害発生のための温度を-5℃に設定して経過時間をみた場合、5分以上の処理で霜害発生葉率が高くなり、接種濃度では107/ml個以上で高くなった。菌株別では氷核活性の高い菌株は霜害発生葉率が高く、非氷核活性細菌に比較し、霜害発生に明らかな差異が認められた。
  3. 以上のことから、桑の芽葉に生息する氷核活性細菌は現地の桑園で低温遭遇時に凍霜害を増大させていることが示唆された。

桑の脱苞期における凍霜害と回復処理法別の収量

伊藤眞二・亀卦川恒穂・菊池次男

 凍霜害被害桑園の実態調査及び回復処理法別収量について検討し、次の結果を得た。

  1. 破苞から脱苞期に-4℃前後の強い凍霜害にあった桑芽の枯死状態は品種により異なり、発芽の早い品種ほど被害率が高く、ゆきしのぎが100%で最も高かった
  2. 被害3週間後のゆきしのぎにおける再発芽状況は、主芽の発芽はみられず81%の鱗葉腋芽に活動がみられた。なお春蚕期の収穫時には、鱗葉腋芽の再発芽新梢の他に枝条基部からのおう盛な潜伏芽の発芽・発育がみられた。
  3. 再発芽後に枯死する芽は一ノ瀬に多く、次いで改良鼡返、市平の順であり、ゆきしのぎにはみられなかった。
  4. 1)ゆきしのぎ
    (1)春蚕期の収穫を目的とした枝条の先端切詰処理は、無処理に比べ多収となる。
    (2)第2春蚕期の収穫を目的とした枝条の先端切詰処理は、無処理に比べ21%減収した。
    (3)夏蚕と晩々秋蚕期の収穫組合せ及び初秋蚕期の1回収種では、基部伐採処理の収量が多い。
    2)改良鼡返
    (1)春蚕期の収穫を目的とした枝条の先端切詰処理は、無処理とほとんど差がなかった。
    (2)第2春蚕期の収穫を目的とした枝条の先端切詰処理は、無処理に比べ18%減収した。
    (3)夏蚕と晩々秋蚕期の組合せ及び初秋蚕期の1回収穫では、中間伐採処理の収量が多かった。
  5. ゆきしのぎ、改良鼡返の場合、生長点枯死割合95%以上の被害であっても、次の処理法によって年間飼育計画を大きく変更することなく春蚕期から利用できる。

1987年岩手県に多発した桑枝枯性病害とその発生要因に関する2、3の考察

小澤龍生・鈴木繁実

 1987年春に多発した桑枝条の枯れ込みと不発芽は県内全域に及び、養蚕計画に支障を来す農家が続出した。多発要因について前年秋の収穫法や気象経過などを中心に2、3検討した。

  1. 前年秋の収穫法では収穫時期が遅くなる暁々秋蚕期の桑樹ほど、又深切りするほど被害は大きかった。
  2. 気温経過の関連では、前年9月中旬~10月初めの高温は桑生育を促進させたが、10月中旬~下旬の例年にみられない低温~早霜害は耐寒性が十分でない桑にとって樹勢低下の原因となり、冬期の寒枯れ、翌春の各種枝枯病を誘因したと考えられる。
  3. 枝枯れの種類は芽枯病が最も多く、これに胴枯病、枝軟腐病、寒枯れ、凍霜害などが併発し被害を増大した。
  4. 枝軟腐病の発生してない桑園でも本病原細菌が検出されることから、密植桑園などで多発の懸念もあるので、今後十分留意する必要がある。

核多角体ウイルスの蚕児への齢期別接種と発病並びに熟蚕における感染防止法

鈴木繁実・小澤龍生

 主に核多角体病ウイルスの感染によってひき起こされる内部汚染繭の発生を防止するために、核多角体病ウイルスの齢期別接種と発病との関係、さらに熟蚕における感染防止法を検討し、次の結果を得た。

  1. 3齢起蚕から熟蚕まで、齢期別に核多角体病ウイルスを接種したところ、接種時期・濃度により発病率・発病時期に差が認められたが、概ね3齢起蚕および4齢起蚕接種では5齢期に、5齢起蚕接種では5齢末期~繭中に、5齢3日目の接種では蔟中~繭中に、5齢5日目~熟蚕接種では繭中で発病した。
  2. 熟蚕における核多角体病ウイルスの感染防止に、ケミクロン粉剤、改良パフソールおよび消石灰の蚕体表面散布が有効であった。

蚕室蚕具消毒剤ジクロル酢酸への植物油製防錆剤添加による防錆・消毒効果

鈴木繁実・小澤龍生

 蚕室蚕具消毒剤シルゾールの散布に伴い、施設・機械類の金属に発生する腐食(錆)を防止するため、植物油製防錆剤サビコンをシルゾールに添加し、防錆効果および蚕病病原に対する消毒効果について検討した。

  1. シルゾール30倍液にサビコンを0.05%量添加したところ、錆の発生を抑え、高い防錆効果が認められた。
  2. シルゾール30倍液の蚕病病原(糸状菌、ウイルス)に対する殺菌・不活化効果は、サビコンを0.05%量添加しても影響が認められなかった。

細繊度蚕品種の飼育特性と蚕品種

佐藤正昭

  1. あけぼのは、対照品種の日134号×支135号に比べ食下量は3%少ないが、消化率は逆に3%多かった。
  2. 標準給桑量を5齢時期別に30%増減させた場合、5齢前期における減量は繭糸質に影響ないが、中・後期とくに後期における減量は繭糸質を大きく低下させ、また前・中期における増量は繭糸質を向上させるが、目的の繭糸繊度より太めになることから、適正な給桑量は5齢前期30%減量または標準量給与が適切と思われた。
  3. 高湿度・無気流環境が細繊度品種の繭糸質に与える影響は対照品種(日137号×支146号)より大きく、特に解じょ率の低下が顕著であるので、上ぞく環境の良化に努める必要がある。

抗幼若ホルモン活性物質投与による早熟3眠蚕の4齢期におけるウイルス病抵抗性の推移(予報)

鈴木繁実・阿部信治

 抗幼若ホルモン活性物質投与による早熟3眠蚕の4齢期におけるウイルス病抵抗性について検討した結果、CPVおよびIFVでは4眠蚕の4齢期より明らかに高く、4眠蚕の5齢期とほぼ同じ水準であったが、NPVでは4眠蚕の4齢期および5齢期と有意な差が認められなかった。

抗幼若ホルモン活性物質投与濃度と飼料への混入時期による3眠化率の変化

阿部信治・佐藤正昭

 4眠蚕から3眠蚕を誘導するため、SSP-11を濃度を変えて蚕に添食させた。SSP-11を高濃度に含む飼料に対して、蚕は忌避行動を示し、摂食量の減少による遅れ蚕、減蚕の発生が増加した。
 また、飼料調整前の粉体にSSP-11を加えて蒸煮処理を行なった場合の3眠蚕誘導効果の減少は2分の1程度と推察された。

特選繭生産団地の育成と繭質診断分析 -特選繭生産団地育成指導事業成績-

河端常信・白澤義勝

 需要動向に即した和装用高格生糸や洋装用新規用途(ホワイト・シルク、ソフト・シルク)にも向く原料繭を特選繭と命名し、原料から製品までの一貫流通ルートの確立と本県の養蚕基盤の維持・拡大をねらいとして特選繭生産団地育成指導事業を1984年以来実施している。その成果の概要は次のとおりである。

  1. 特選繭生産目標への繭質分類を設定するため、生糸量歩合(s)、選除繭歩合(e)、繭糸長(l)、解じょ率(r)の4項目を選び、I:特選繭(s:19%以上、e:0.8%以下、l:1.250m以上、r:85%以上)、II:標準繭(s:18%以上、e:1.5%以下、l:1.150m以上、r:75%以上)、III・IV:普通繭の4つに分類し基準値を設けた。'84年にA・Bの2団地、'85年にC・Dの2団地を指定し、団地内で掃立規模別(大・中・小)に計15戸程度の農家を選定し、濃密指導しながら繭質診断と生産環境分析調査を行なった。
  2. 4団地の繭質は指定前に比べ、指導実施2年目では大幅に向上し、特に選除繭歩合・繭格の向上が著しく、飼育環境の改善及び選繭を徹底していることが伺われた。特選繭の繭質基準にもとづいて分類し、比較してみると、I類に該当するものは4団地の平均で指定前の0.7%から1年目2.8%、2年目7.8%と向上し、最下位に属するIV類の繭が大幅に減少し技術水準が向上した。項目別にみると、春・初秋・晩秋の三蚕期総合で選除繭歩合77%、繭糸長66%、生糸量歩合51%、解じょ率28%が各々特選繭基準に該当しており、解じょ率の向上がネックであることを示している。生産環境と繭質との関連については各農家ごとに解析したが、一般共通問題としては、(1)農家間格差が大きい。(2)単繭重が軽い。(3)内部汚染繭が多い。(4)解じょ率が低い。ことが指摘され、生産環境との関係について論じた。なお、掃立規模の大小と繭質との関係は団地により異なった。
  3. 4団地について桑園土壌を分析した結果、団地により異なるが強酸性土壌が多く、有効りん酸の低下、苦土欠乏、微量要素欠乏等が目立った。また、施肥成分量をみると団地間の差が大きく、有機物・土壌改良資材の施用が少ない団地もあり、桑園土壌管理については更に改善が必要である。
  4. 各団地とも年間を通じて内部汚染繭の割合が高く、その類別割合をみると、春・晩秋蚕期はハナツキが多く、初秋蚕期は膿病・軟化病によるものが多かった。これらの発生原因と防除対策について指摘した。
  5. 本県の繭検定成績の推移を述べ、全国的にみて最下位グループにあった繭質も、指導実施の'84年を境に生糸量歩合、解じょ率とも大幅に向上し、選除繭歩合も少なくなったが、繭糸長については東北および全国平均に比べまだ低位にある。'86年の本県での生産繭を地域別・蚕期別に分類した結果、県全体で4項目ともI類に属するものは1.8%にすぎず、生糸量歩合、解じょ率がネックになっている。指定4団地を含む市町村の生糸量歩合・繭格は、いずれも県平均値より高く、指導事業の成果が周辺に波及しているものと思われた。
  6. 特選繭産地化推進型事業として現地6団地に導入された紬加工は、極めて好評であり、流通ルートに乗って地域特産品として定着した団地もみられる。
  7. 今後、岩手県が進めようとしている用途別繭生産団地育成構想の考えを述べた。

特選繭生産団地における繭計量形質に及ぼす飼育環境要因の貢献度

長岡正道

 本県が実施している特選繭生産団地育成指導事業の調査データをもとに、繭の主要形質(繭糸量、繭糸長、生糸量歩合、解じょ率)に関与する飼育・上蔟環境要因の貢献度を重回帰分析によって計測し、繭質向上を図るための技術上のチェックポイントを検討した。

  1. 繭糸量:春蚕では5齢飼育温・湿度、5齢給桑量等の回帰係数に正の有意性が認められるので、繭糸量の増加を図るために5齢飼育温度及び5齢給桑量は県で定めている飼育標準の上限を目標とする。初秋蚕では5齢飼育温度日較差、5齢飼育密度等の係数に負の有意性があることから、防暑対策による昇温防止平米当たり100頭程度以下の薄飼いとすることが繭糸量の増加につながる。晩秋蚕では5齢飼育温度と上蔟4日間温・湿度に正、5齢湿度と選除繭歩合には負の有意性が認められた。
  2. 繭糸長:春蚕では特に5齢飼育温度と上蔟4日間温度の繭糸長に対する正の効果が高い。初秋蚕では5齢飼育密度並びに選除繭歩合に負、蔟器消毒の実施に正の有意牲がみられた。晩秋蚕では5齢飼育温度、蔟器消毒の実施、上蔟4日間温度に正、4齢飼育密度、上蔟室内気流に負の有意性がそれぞれ認められた。
  3. 生糸量歩合:春蚕では5個の係数に有意性が認められたが、他の3形質(繭糸量、繭糸長、解じょ率)に比べて各係数の絶対値が小さいことから特定の要因を制御して得られる生糸量歩合の改善効果は相対的に低い。しかし回帰式による推定結果の当てはまりの良否を表わす決定係数が高いことから判断して、計測に用いた全要因が分散的に生糸量歩合に関与しているものと考察される。初秋・晩秋蚕の決定係数は低く、回帰式の有意性が認められなかった。
  4. 解じょ率:春蚕では特に4齢飼育温度、上蔟室内気流、繭糸繊度の解じょ率への寄与が大きい。晩秋蚕では4~5齢飼育温度並びに5齢飼育密度の飼育標準維持に努め、選除繭を少なくすることが解じょ率向上につながる。
  5. 以上の要因分析結果に基き、農家が繭質改善を図る際に実施すべき技術上の重点管理事項を蚕期別に取りまとめた。

[資料]桑の発芽・発育調査、交雑種比較試験成績(付・1987年気象調査表)

及川直人・伊藤眞二・佐藤正昭・阿部信治

(摘要なし)

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