岩手県蚕業試験場要報 第9号(昭和61年3月発行)

ページ番号2004930  更新日 令和4年10月14日

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近赤外分析法による桑葉成分の迅速定量の試み

八重樫誠次・菊池次男・及川伝弘

 桑葉成分の迅速測定法として、近赤外分析法について検討した結果、化学分析値とかなり高い相関の認められた成分もあったため、測定サンプルを随時蓄積し、測定精度を向上させて、桑葉成分の近赤外分析法を実用化して行く必要がある。

組織培養による桑苗生産(1)クワの分離芽からの苗木生成

壽 正夫・高木武人・及川直人

 密植速成機械化桑園の推進と相俟って普通桑園においても多植化へと進行しており、桑苗の需要は増大傾向にある。そこ で、クワの組織培養を利用した増殖法が望まれていることから、クワの分離芽を用いた試験管内培養から露地栽培による苗木育成について検討した。

  1. 冬芽、種子はMS+BA(1mg/リットル)の初代培地で、培養開始約40日で苗条の採取が可能となった。
  2. 冬芽・種子培養により採取した苗条はMS+NAA(0.1mg/リットル)の発根培地で良好な発根を示し、約1ヵ月で馴化育成が可能となった。
  3. 馴化培養した稚苗は、馴化後約1ヵ月で露地への移植が可能であったが、低温、早魃の影響で2~3ヵ月後の移植となった。成苗率は冬芽培養の改良鼡返60%、しんけんもち67%であった。種子培養の剣持は72%、魯桑では96%で、分離芽による苗木育成は容易であり増殖法として有効と考えられる。

桑園形態別の除草剤使用体系

及川直人・壽 正夫・高木武人・境田謙一郎

(摘要なし)

ヤマセ気象下における農作物の安定生産技術の確立 -桑の安定栽培技術-

亀卦川恒穂・大津満朗・及川英雄・小田喜代治

1 耐冷性桑品種の選定
 ヤマセ地帯における耐冷性多収桑品種の選定目標を項目別に総括して得た成果は次のとおりであった。

  1. 伸長良好:しんいちのせ、しんけんもちは、植付2~3年目の調査から他の品種に比べ良好であった。
  2. 耐冷性:ゆきしのぎ、しんけんもちが内陸に接近した生育を示した。
  3. 多収性:しんけんもち、剣持、ゆきしのぎが3ヵ年の調査から多収性を示した。
  4. 良葉性:しんけんもち、剣持は晩秋期の桑葉水分率が高く、また葉面積比でも他品種より良質性が認められた。
  5. 直立性:あおばねずみ、しんいちのせ、改良鼡返は展開が少なく、直枝割合が多い傾向がみられた。
  6. 病害抵抗性
    1)縮葉細菌病には、剣持、しんけんもちが耐病性を示した。
    2)クワ裏ウドンコ病には、しんいちのせ、しんけんもちが安定した耐病性を示した。
    3)胴枯病は、ゆきしのぎ、しんけんもちが他に比べ耐病性を示した。

 以上、桑の耐冷性、多収性、病害抵抗性からみて、ヤマセ地帯ではしんけんもち、ゆきしのぎが適応桑品種と考えられる。

2 桑の耐冷性の仕立と収穫法の確立
 ヤマセ地帯における桑の仕立収穫法および桑の病害、桑園肥培管理等の耐冷性桑栽培技術を検討し次の結果を得た。

  1. 桑栽培改善技術の組立
    1)桑園肥培管理の実態調査:施肥量および有機物の施用量が少なく生産性が低い。縮葉細菌病に弱い改良鼡返が95%栽培されている。桑収穫法では春切割合60%夏切割合20%その他であった。
    2)施肥法の改善:時期別施肥量割合での桑収穫は、春蚕期は春肥60%夏肥40%区、晩秋蚕期収量では春肥40%夏肥60%区が多収の傾向を示した。
    3)仕立法の改善:根刈仕立(30cm)中刈仕立(60cm)の比較では生育は根刈仕立がややまさり、桑収量では中刈仕立が多収であった。
    4)収穫法の改善:二春一夏輪収法が、交互と株上株下輪収法より桑枝量が多く、時期間収量では晩秋期割合が多い傾向を示した。二春一夏輪収法と株上春切株下春切輪収法の組合せがヤマセ地帯の多回育対応の桑収穫技術として適応性が高いと思われる。
  2. 桑による防風風食軽減効果
     桑生垣の効果は、ヤマセ防風では、桑生垣の風下側で生育抑制が緩和され、有効枝条数多く縮葉細菌病の発生が少なかった。風食防止では、桑生垣の風下側10メートル地点でも風食土壌量は約30%少なく土壌飛散距離でも減風効果が認められた。桑生垣は防風効果と併せて利用効果が期待できる。
  3. 桑病害の発生実態と防除
     ヤマセ地帯の主要病害である縮葉細菌病の発生は改良鼡返に多発(植栽面積比95%)の傾向があり、内陸よりヤマセ地帯において発生が多かった。桑園の条件別では海岸に近い桑園、栽植密度の高い桑園に発生が多く、最高気温が20℃以下で多発の傾向がみられた。ヤマセ地帯における縮葉細菌病対策としては耐病性品種の栽培が実用的な手段と考えられる。クワ裏ウドンコ病の発生は内陸部に多く、ヤマセ地帯に少ない傾向を示し、桑品種ではしんいちのせ、しんけんもちの被害が少なかった。胴枯病に対してはゆきしのぎ、しんけんもちが安定した耐病性を示した。
  4. 多回育養蚕の蚕期調整と技術体系の組立
    1)育蚕技術の実態調査:一戸当たりの蚕舎数が少なく、1棟で育蚕と上ぞく室兼用農家が78%あり、年間飼育回数は最高7回、平均5回であるが、1回当たり飼育箱数は3.3箱と少量多回育型養蚕である。育蚕と上ぞく室が兼用で多回育のため蚕作は不安定で箱当たり収繭量が少なかった。
    2)桑葉質調査:春蚕期、晩秋蚕期の桑葉で人工飼料を調整し、1~2齢期に給餌した結果、ヤマセ地帯の春蚕ではヤマセの強い年度は劣る傾向がみられ、晩秋蚕では内陸部より勝る傾向を示した。
    3)気象環境(3、4齢)と虫繭質:3齢起蚕児の低温接触はその時間の長いほど3齢期の経過が遅延し、4齢期蚕児においても3齢期蚕児と同傾向を示した。毎日15℃9時間(平均21.4℃)接触では対照区に比べ51時間も経過が遅延し繭質への悪影響がみられた。
    4)養蚕技術体系の組立:二春一夏輪収法と株上、株下春切法を組合せた年5回飼育によるヤマセ地帯適応の養蚕技術体系を組立てた。

条桑刈取時期と樹勢及び収量に関する試験

高木武人・菊池宏司・壽 正夫・境田謙一郎・川村東平・佐々木敬治・亀卦川恒穂

(摘要なし)

積雪寒冷地における桑の超多収栽培に関する試行

八重樫誠次・菊池次男・及川英雄

 積雪寒冷地における桑の多収限界を把握するために、従来の多収技術を組み合わせ、加えて土中埋管による液肥栽培を行ったところ、10アール当りの桑葉収量が単年度では3,239kg、一春一夏の平均では2,851kgの実績を得たが、問題点も多く、この解決技術の開発により、さらに生産性の向上が期待できる。

蚕ぷん・蚕沙利用による桑の紫紋羽病防除

及川英雄・鈴木繁実

 蚕ぷん・蚕沙を用いて、桑の紫紋羽病に対する防除効果を検討し次の結果を得た。

  1. 室内試験
     蚕ぷん・蚕沙と畑土を混合し、これに紫紋羽病菌を培養した桑枝切片を埋没して発育状況をみた結果、未熟な蚕ぷん・蚕沙を5%混入した区で制菌効果がみられ、15%以上混入した区では完全に制菌された。しかし、腐熟した蚕ぷん・蚕沙では、50%混入区でも制菌効果が不充分であった。なお、白紋羽病菌では20~25%以上の混入区で生菌がみられなかった。
  2. 圃場試験
     紫紋羽病に侵された桑株の周囲を掘り、蚕ぷん・蚕沙を株当たり5~10kg処理した結果、発病の進行が抑えられ、樹勢が回復した。しかし、菌糸膜および菌糸束が完全に抑えられたものでなく2年目以降菌糸の着生が多くなる傾向があるので、実用に際しては2~3年継続処理することが望ましい。

クワシントメタマバエの被害解析

及川英雄・亀卦川恒穂

 時期別に桑を摘芯して人為的なクワシントメタマバエの被害状況をつくり、再発枝の生育状況および桑収量との関係を検討した。

  1. 摘芯時期と再発枝条の関係をみると、8月中旬まで再発枝の伸長をみたが、8月下旬以降の摘芯では再発枝の伸長がみられなかった。再発枝条の本数は、春切の場合7月25日摘芯区が最も多く、以下8月5日>8月15日>6月27日の順であり、夏切の場合は8月5日>8月15日>7月25日の順であった。なお、桑品種では春切、夏切ともゆきしのぎより改良鼡返の再発枝条数が多かった。
  2. 桑の収量は、株の全枝条を摘芯した場合、春切では7月下旬>9月上旬≒.8月上旬>6月下旬≒8月下旬の順に収量が少なく、とくに8月下旬および9月上旬の芯止まりは、葉の硬化が促進され葉質の低下が著しかった。夏切では8月上旬>8月中旬>7月下旬≒9月上旬>8月下旬の順に収量が少なく、またゆきしのぎは改良鼡返より収量の落ち込みが大きかった。なお、枝条の半数を摘芯した場合、無摘芯の枝条に生育を阻害されるため摘芯時期の早いほど収量が少なかった。

葉タバコによる桑園のニコチン汚染とその対策(3)タバコ畑隣接桑園の収穫法

鈴木繁実・八重樫誠次・及川英雄

 タバコ畑に隣接する桑園のニコチン汚染を回避する収穫法について検討し、次の結果を得た。

  1. 夏切桑を9月中旬以降に80cm残し中間伐採し、壮蚕に数日間給与したところ軽症蚕がわずかに発現したが次第に回復した。
  2. 春切桑を初秋蚕期に80cm残し中間伐採し、壮蚕に数日間連続給与したところ軽症蚕がわずかに発現したが次第に回復した。
  3. 前報の結果をも総合的に考察しニコチン汚染回避の収穫法を検討した。
    1)タバコ畑に隣接する桑の1~2畦を毎年春切無収穫とししゃへい物とする。
    2)夏切桑は9月中旬以降に80cm残し(翌年夏切)または50cm残し(翌年春切)で中間伐採収穫する。
    3)春切桑は8月上旬までに80cm残し中間伐採収穫する。再発枝条を利用する場合は9月中旬以降に基部より収穫する。

低コスト養蚕施設の改善

阿部信治・千葉波男・橋元 進・及川 論

 アルミパイプハウス内部の環境改善のため、次の改良をおこなった。

  1. パイプハウス内部にポリフィルムを使って一層の内張を行い保湿性の改善をはかった結果、保湿性が高まりパイプハウス利用期間が拡大した。
  2. 初秋蚕期等の高温に対処するため、パイプハウス屋上からスプリンクラーで散水した。その結巣、散水直後からハウス内部の温度は降下し、飼育環境が良化した。

複合経営作目の選択 -養蚕と肉牛(夏山冬里方式)との組合せ-

千葉波男・及川 論

 養蚕と肉用牛(繁)の代表的複合経営農家を選定し、蚕畜兼用舎の構造、労働配分の調整方策、肉用牛の粗飼料確保、複合経営の確立等を調査検討し、次の結果を得た。

  1. 蚕畜兼用舎の利用は養蚕が6月上旬~10月中旬 、肉用牛が10月下旬~5月中旬、構造的には、牛のふん尿処理器、床面洗浄ができる。肉用牛、養蚕の内部施設が容易に装脱着できる。室内の温湿度、通風換気調節ができる等が必要である。低コスト兼用舎例としてアルミハウスが有効である。
  2. 労働配分において労働競合のピークは、6月下旬と9月中下旬である。これは主に育蚕、上ぞくと肉用牛の粗飼料確保作業であるので、蚕期別の掃立量調整、乾草調整量の縮小、サイレージ原料を廃条に代替等で労働競合調整ができる。
  3. 肉用牛の粗飼料サイレージは夏秋蚕期から産出された廃条を原料として調整し、1日1頭当たり10kg給与して良好な成果をあげている。また、廃条サイレージはTDN換算でデントコーンサイレージと調整コストを比較して約24%安くなることから、サイレージ原料の廃条代替が有効である。
  4. 調査農家の経営実態は、土地、労働生産性が低い、草地、施設の利用効率が低い等の問題があって収益性が非常に低いので、モデル営農類型の3タイプから選択して、桑園の土づくり、密植化、収穫の単純化、掃立の単純化、廃条のサイレージ化、作業の省力化等を図り規模を拡大して収益性を高める。

合成ピレスロイド系殺虫剤の蚕に及ぼす影響

菊池次男・鈴木繁実・及川英雄

 フェンバレレート等を主成分とする合成ピレスロイド系殺虫剤の蚕に及ぼす影響について、濃度別中毒発現、桑葉、桑条及び発芽期汚染による残毒性、浸透移行性及びドリフト等を検討した。

  1. スミサイジン乳剤の濃度別中毒発現は、塗布処理では50,000倍、経口処理では100,000倍までみられ、経口処理は塗布処理に比べ中毒及び死亡蚕発現が早かった。
  2. 桑葉汚染の蚕に対する残毒性は、パーマチオン乳剤及びアグロスリン乳剤共、1,000倍液で100日経過後でも100%の死亡蚕が出現するほどの強い残毒性を示した。
  3. 秋から冬期の桑条汚染は、ベジホン乳剤1,000倍液で、150日経過後でも強い中毒症状がみられた。
  4. パーマチオン水和剤1,000倍液の春発芽前後における散布の場合、脱苞期汚染では、その後開葉した桑葉には残毒性が全く認められない。また燕口期汚染では、薬液の付着した桑葉に強い中毒症状がみられるが、散布後に展開した新梢先端部には残毒性が認められなかった。
  5. 桑葉及び桑株からの農薬主成分の浸透移行による中毒症状は、いずれの薬剤についても全く認められなかった。
  6. SS等大型防除機による散布時のドリフトは、毎秒1メートル前後の微風状態では50メートル程度であった。

 以上の結果から、桑葉汚染では100日経過後でも強い残毒性がみられ、また、秋~冬期の桑条汚染及び発芽前後の桑条汚染でも150日間もの長期にわたって毒性が残留することから、桑園の周辺で本剤が使用され、桑葉や桑条が汚染された場合、年内蚕への給与が不可能になるばかりでなく、翌年の春蚕期においても、条桑の形態での給与ができなくなることから、養蚕地帯における本剤の販売、使用に関する規制を強める等、被害防止には細心の注意が必要である。

[資料]交雑種比較試験成績、桑の発芽・発育調査(付・1984~1985年気象調査表)

阿部信治・及川直人・伊藤眞二

(摘要なし)

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