岩手県蚕業試験場要報 第2号(昭和50年3月発行)

ページ番号2004937  更新日 令和4年10月14日

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ポリマルチによる桑の生育促進に関する試験

石亀英徳

A 未成桑に対するポリマルチの効果
 ポリマルチの効果については、地温上昇、水分保持、養分吸収、雑草の抑制により作物の生育を促進する効果があると言われている。
 桑の場合、原苗、ピン苗、新植苗などいわゆる未完成の桑は活着及びその後の生育において気象、栽培など環境の影響を強く受け易いと考えられるが、これら未完成に対するポリマルチの効果を検討した。

  1. 1963年に開こんした圃場を供し、'64年に原苗、ピン苗に対するポリマルチの効果について原苗が5区、ピン苗が4区計9区を設け試験した。
  2. 10月15日の伸長停止期における生育調査では、改良鼠返の原苗5区を供し調査した結果、対照区100に対し他のマルチ区は127~179、ピン苗改良鼠返で対照区100に対しマルチ区166、一の瀬ピン苗で対照区100に対しマルチ区147となり著しい伸長の増加を示した。
  3. 落葉期における解体調査の根重についてみると、原苗改良鼠返で対照区100に対し他の4つのマルチ区は113~195、ピン苗改良鼠返で対照区100に対しマルチ区は302、ピン苗一の瀬で対照区100に対し128となり著しい根量の増加を示した。

B 完成桑に対するポリマルチの効果
 桑園に対するポリマルチの効果のうち、新植桑のような未完成桑に対する試験はいくつかの条件のもとに可なり実施されているが、完成桑に対する効果については試験例が少ない。そこで著者は改良鼠返の樹令4~5年目の桑に対するポリマルチの効果を検討した。

  1. 改良鼠返の樹令4年目では春切り、夏切りの2区を設け、晩秋蚕期の収量を調査した。5年目は春切り、夏切りの2区に除草剤処理を加え年聞の収量、雑草発生率、労力調査を行なった。
  2. 樹令4年目についてみると、晩秋蚕期の収量は春切りで対照区100に対しマルチ区は158~179であり、夏切りでは対照区100に対しマルチ区は167~171であった。樹令5年目における春切りの年間収量は、対照区100に対しマルチ区は152~168であり、雑草の発生率は対照区100に対しマルチ区は22~16であり、労力調査では対照区100に対しマルチ区は101~116であった。夏切りの年間収量は、対照区100に対しマルチ区は113~121であり、雑草の発生率は対照区100に対しマルチ区は26~14であり、労力調査では対照区100に対しマルチ区は101~107であった。
  3. 成木桑の場合、収穫は各蚕期に実施されるためマルチ被覆効果と収穫作業とは互に支障をきたすおそれがあるから、1畦おきにマルチを実施することが望ましいこと、またマルチを実施する場合、新植桑にくらべ作業時間を多く要し、そのよしあしが効果に影響を及ぼすので予め工夫して実施することが肝要と思われる。

C 地温上昇に対するポリマルチの効果

  1. 1964年より'67年までの4ヶ年間裸地及びマルチ区を地下10cmの部位をA9に地温測定を行なった。ただし'64年はP4にも測定した。
  2. 地温調査は毎日実施するので、観測値に誤差を生じないように配りょすることが肝要と思われる。

D 経済性に対するポリマルチの効果

  1. 開こん圃場に植付した2年目の改良鼠返を供し、裸地区とマルチ区を設け、整地、施肥、ポリ被覆、除草などの労力及び資材代の費用と収量による収穫高との収支を検討した。
  2. 収支についてみると、10アール当りの所要経費では裸地区100に対しマルチ区は224~248と多く要しているが、収量による収穫高の収支ではマルチ区が著しく増収になり、裸地区が10アール当り-165円で赤字となるが、マルチ区は+4,295円~+5,565円と黒字を示した。

桑の植付1~2年目の収穫法

菊池宏司

 岩手県における植付1~2年目の適正な収穫法をみいだそうとして試験した。
 その結果、植付後6年間の収穫量の推移と累年値からみると、3年目から一春一夏二分割輪収として収穫する場合には、1年目は晩秋1.2メートル残し先端伐採、2年目は3年目に春切となる桑園では初秋130cm残し片側伐採、晩秋60cm残し片側伐採とし、3年目夏切となる桑園では初秋小枝間引、晩秋1メートル残し中間伐採として収穫する方法が最も良い結果を得た。

積雪寒冷地における多収穫栽桑法に関する試験 桑園土壌類型別地力増強試験

引地栄一

 本試験は桑の収量で2500kg/10アール以上、収繭量で150kg/10アール以上の生産を一応の目標として腐植質火山灰土壌につき土壌改良を行った。3、4年目において凍害など思わざる障害を受け目標に達しなかったが5年目においては最高3297kg/10アールの収量を得ることができた。
 本県の標準技術体系によると10アール当り堆肥1800kg、石灰100kg、施肥量としてN:25kg/10アール 、P2O5:10kg、K2O:12kgを単肥配合又は桑専用肥料として施用し、繭100kgを目標としてきたが、本県の造成桑園の現況よりみて栽植前にさらに積極的な土壌改良を計らなければならない。
 本試験の結果よりみると、土壌酸度をpH6.3になるように緩衡曲線により塩基の必要量を算出した苦土石灰およびりん酸吸収係数の5~10%相当量をようりん4:過石1に全面20cm又は植溝に施用したほか、別に総合改良として全面20cmと植溝に対し酸度矯正と、りん吸10%相当量のりん酸を施用したほか冬肥として毎年切ワラ1000kg、苦土石灰160kgを施した結果目標とした収穫量2500kg/10アールの達成が可能であることを認めた。
 桑植付時における土壌改良がその後の化学性に及ぼす影響について5ヶ年間分析した結果、りん酸、塩基類の施用量の多いほど留存量が多く認められ、今後も相当期間にわたり土壌の化学性が維持できるものと考えられる。一方本県において最近造成された桑園土壌をみると、石灰、苦土、りん酸、腐植の欠乏した土壌が大部分で、これらの土壌を改良するには、一時的に多量の改良資材を必要とすることになり、経済的負担が大きいが、これらを考慮する場合少なくとも苦土石成による酸度矯正とりん吸5%相当量をようりん4対過石1(強酸性の場合はようりんのみ)に全面又は植溝に施用する必要がある。

密植稚蚕用桑の飼料価値

河端常信・大塚照巳

 桑古条マルチングさし木法により密植桑園(剣持)を造成し、この桑葉を稚蚕用桑として利用しても、稚蚕専用桑園の市平・改良鼠返を給与した場合と飼育成績は大差ない結果がえられた。
 しかし密植桑給与によって就眠歩合がやや劣ること、絶食による体重減耗率が大きいこと、減蚕歩合が多い傾向がみられることなどから稚蚕飼育における防疫管理の徹底、貯桑管理・育蚕技術について留意しなければならないことを指摘した。

切断条桑給与試験

都築 誠・河端常信・菊池次男

 切断条桑を壮蚕期(4~5令)に給与した場合、飼育、収繭、繭質への影響および切断条桑給与における飼育密度、給桑回数、給桑量と繭質との関係について試験した結果は次のとおりである。

  1. 切断寸法の短いほど食下量の減少を招く傾向がみられたが、経過日数には影響なく同一程度であった。
  2. 切断寸法の長短による減蚕歩合や健蛹歩合からみて虫質への影響は少ないものと思われる。
  3. 収繭量は切断寸法の短いほど少なく、また繭重、繭層重も軽くなる傾向が顕著にみられた。
  4. 切断条桑給与は条桑給与に比べ、春、初秋、晩秋の何れの蚕期においても繭重、繭層重が軽くなる傾向を示した。
  5. 切断条桑給与において飼育密度は条桑育標準密度より少なくした方が繭重、繭層重が重く、とくに初秋蚕にこの傾向が大きく現われている。
  6. 切断条桑の給桑回数は1日2回と3回では繭重、繭層重に及ぼす影響は少なかったが極端な高温乾燥の条件下では給桑回数を3回に増すことにより、繭重の軽量化を防止する傾向がみられた。
  7. 切断条桑を給与する場合、給桑量を条桑育標準量の10%増量して給与することによって繭重、繭層重の低下をある程度防止する傾向がみられた。

寒冷地における壮蚕露天育の技術と経済性(2)給桑台車と飼育装置利用による露天育について

大塚照巳・河端常信

 壮蚕の露天育は資材と施設が少なく、投下労力も少ない特徴をもっている。しかし低温時と連続降雨時の取り扱いが問題点として指摘されている。そこで養蚕用資材も新しいものが開発されてきたので、給桑台車と組立式飼育装置を用いて、被覆資材としてピロシートおよびダンネツエアーシルバーを併用して露天育を実施した場合、気象条件に対応した飼育技術・経済性について検討した。

  1. 飼育装置は軽量簡易な単一資材で組立でき、側枠の上はレールとして使用し、そこに給桑台車を走行させることができる。この台車は条払い機にもなり、このほかあらゆる運搬作業に利用できる。
  2. 飼育装置利用による露天育の春、晩秋蚕期の飼育経過は対照区に比べて1日ほど延長するが慣行露天育に比べては1日ほど短縮された。露天育の虫繭質については対照区に比較してとくに劣るということはなかった。
  3. 露天育の飼育蚕座内外の温度の推移によると、春、晩秋蚕期のような低温時は他の被覆物に比べてダンネツエアーシルバーの保温効果が認められ、ダンネツ区は蚕座熱を有効に利用できた。またダンネツエアーシルバーを被覆するととによって蚕児の垂直分布も他のものに比べてやや浅く、露天育での被覆が蚕児の発育・生理におよぼす影響もみられなかった。
  4. 露天育に給桑台車と飼育装置を用いることにより、飼育作業時聞は慣行の露天育に比べて、20%程度省力できた。
  5. 桑園10アール当りの経営収支試算では、本年の場合露天育の養蚕所得は普通量外条桑育より7~8%多かった。1日当り労働報酬では給桑台車料用1日1回給桑露天育が対照区の119と多く、慣行露天育は対照の97であった。採算については対照区に比べ露天育区では年平均利潤が63~66%でよく、資本利益率では対照区の1.7~1.9倍であった。
  6. 昭和46~47年の2年間の成績からみて、本県で露天育を実施する場合、飼育期間については春、晩秋蚕期は5令期から、初秋蚕期は4令期から露天に移し、座熱を有効利用する方向で被覆資材・側幕などを選択するとともに給桑台車の利用・1日1回給桑の採択によって労働能率の向上を図れば経営的にみても有利である。したがって養蚕経営の規模拡大に対処する一つの経営技術として露天育を再認識してもよいのではないかと考える。

キヌミーンの眠座乾燥とこうじかび病予防効果

高木武人・及川英雄・鈴木繁実

 キヌミーンによるこうじかび病の予防と眠産乾燥剤としての効果を検討したところ次の結果が得られた。

  1. 蟻蚕にこうじかび病菌を接種し、キヌミーンの殺菌効果をみたが、キヌボンより劣るものの菌発育抑止効果が認められ、2齢起蚕消毒ではキヌボンに近い効果が得られた。
  2. 慣行の眠座乾操に消石灰・起蚕消毒は蚕体消毒剤の体系に比べ、眠座乾燥にキヌミーン・起蚕消毒キヌボン散布はこうじかび病の予防面で優れた効果が認められた。
  3. 眠座の乾燥効果は、消石灰と同等か或いはやや強い効果が期待できる。

Bacillus thuringiensis(BT)製剤の蚕に対する毒性

鈴木繁実・及川英雄

 チュウリサイドAほか3種のBacillus thuringiensis(BT)製剤の蚕に対する毒性を桑葉塗抹添食法により生物検定し、また圃場における残毒性について試験を行い次の結果を得た。

  1. チュウリサイドA、チュウリサイドB、アローBT101およびアローBT601を2齢起蚕から3齢末まで連続投与した所、蚕に対する毒性は極めて強<LC50(-log)は5.6~5.975であった。
  2. 致死させない濃度において蚕の発育の遅延が認められ、発育遅延をきたさない濃度は4製剤とも10-7~10-8であった。
  3. チュウリサイドAおよびチュウリサイドB汚染桑葉の蚕に対する残毒性は散布35~37日後まで認められ、特に20日後まで強い毒性を示したが、50日後では解毒された。

[資料]桑の発芽・発育調査、交雑種比較試験成績、新農薬の蚕に対する残毒性検定試験(付・1971~1973年気象調査表)

川村東平・及川直人・大塚照巳・河端常信・鈴木繁実・及川英雄

(摘要なし)

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