岩手県蚕業試験場報告 第8号(昭和44年5月発行)

ページ番号2004911  更新日 令和4年10月12日

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岩手県におけるヒメアカホシテントウの生態とその増殖について

及川英雄

 ヒメアカホシテントウについて、岩手県における活動期の生態を調べ、更にクワシロカイガラムシの増殖による該虫の飼育を試みた。

  1. 岩手県においてヒメアカホシテントウは、3月中・下旬または4月上旬から活動を始め、主として桑樹のクワシロカイガラムシを捕食しながら、10月下旬までに2世代をくり返すが、中には1世代に止まるものもみられた。
  2. 母虫の産卵数は1世代目で平均237粒をかぞえたが、2世代目は平均63粒であった。
  3. ヒメアカホシテントウは、幼虫、成虫とも、クワシロカイガラムシを好んで喰べ、そのほかヒモワタカイガラ、ワタカイガラ、また天牛やテントウムシの幼虫、更に蚕蛹、鶏卵、蜂蜜等も喰べるが、これらの食餌による飼育は出来なかった。
  4. ヒメアカホシテントウのクワシロカイガラムシ食虫数は、幼虫期でクワシロカイガラムシの雌成虫を350~450匹喰べ、成虫期は1日最高30匹位捕食した。
  5. ヒメアカホシテントウを増殖する手段として、代用寄主によるクワシロカイガラムシの増殖法を検討した結果、日本南瓜、ジャガイモに良く発育し、増殖の見通しが得られた。
  6. 上記増殖によるクワシロカイガラムシを用いて、ヒメアカホシテントウの飼育を行った結果、幼虫期から産卵まで、桑樹のクワシロカイガラムシと、遜色のない飼育成績を示した。

熟蚕が排せつする尿の起病性とその不活化

高木武人

 熟蚕が営繭直前に排泄する尿の起病性を蟻蚕添食により調べ、またその不活化を試みた。

  1. 蚕作が10分作に達し、外観上健康とみられる熟蚕が排泄する熟蚕尿に著しい起病性を認めた。
  2. その起病性のある蚕尿は全ての熟蚕が排泄するものではないが、本試験では25~40%のものに病原性が認められた。
  3. 熟蚕尿の添食によって発病した病蚕は強い再感染力をもっている。
  4. 熟蚕尿の起病性はホルマリン、クライト、ネオPPS等の薬剤によって不活化することができる。

 以上のことより熟蚕尿の早期処理は、単に繭糸質の向上を目的とした上蔟改良のみでなく、病原隔離の面からも有効な手段であること、また熟蚕尿は上蔟室、蔟器類、地面等を汚染し、病原性を高めることに与かっていることを考察した。

変温環境が家蚕に及ぼす影響に関する研究

河端常信

 変温環境が家蚕に及ぼす影響に関する研究を行ない、次の事項を報告した。

  1. 家蚕の3~5令期の各令期別に連続的な温度変化を与え、しかも温度の下限が14~15℃の低温に令期中接触する場合の影響をしらべた。変温環境下で3令および4令を飼育すると、まず経過時間に反応して飼育日数が延長し、次いで繭質にも影響して繭質劣化の方向を示して繭を小さくすることが収繭量の減少につながる。この3・4令における変温飼育の影響は、春に比較して栄養条件の劣る晩秋蚕期に顕著であることが認められた。しかし、5令期の変温飼育では経過時間の延長は小さく、繭質は(+)の方向を示し、3令・4令とは温度に対する反応が異なった。虫質については、蚕期・蚕品種によって変温に対する反応が異なるが、一般に4令変温で健蛹歩合が劣る傾向を認めた。
  2. 春蚕用交雑種5品種について、3令・4令期の飼育条件のうち変温環境(夜間15℃、昼間26℃)と恒温環境(26℃)、標準給桑量と半減給桑量を組合せて各要因の影響について分析した結果、飼育経過時間・繭質には温度条件の影響がもっとも大きく、3・4令の夜間低温育は劣化の方向に作用した。夜間低温が3令と4令のいずれに強く影響するかは品種によって異なり、4令低温によって収繭量を減少させる品種が多い。また、虫質については各要因に有意差が認められず、栄養条件は虫・繭質に対し第二義的に影響した。
  3. 蚕が正常に発育しうる広義の適温範囲内の変温飼育では、平均飼育温度が略等しい恒温飼育と比べて飼育経過時間、虫繭質とも差がないことを再確認した。
  4. 蚕の3~5令期を低温に変化する変温環境と標準恒温環境で各々飼育した各眠期における4時間ごとの脱皮蚕の頻度分布曲線について比較した。変温では脱皮蚕出現の平均時間は恒温に比べてやや短かいが、出現時間の幅は広く不斉いの傾向を示した。恒温常明下の脱皮曲線は朝方から正午にかけては脱皮蚕の出現が多く、夕方から深夜にかけては抑制される日周期性の存在が認められた。変温常明下では温度の日変化とあいまって日周期性は更に明瞭となる。
  5. 現行交雑種について3~5令を変温環境(15℃~25℃)で飼育し、そのまま変温下で自然上蔟を実施して登蔟蚕の出現状態を恒温飼育・恒温上蔟(℃)の場合と比較した。春の登蔟蚕の頻度分布曲線をみると、恒温上蔟では二山型か多山型を示し、変温上蔟では三山型を示す品種が多い。また、登蔟蚕の発現時期については脱皮蚕出現にみられるように明瞭ではないが、日周期性が存在すると考えたが、変温環境ではむしろ温度条件に影響されるところが大きかった。晩秋では春より単純な曲線型を示すが、変温では恒温に比べ登蔟時間が長く、変異も大であった。
  6. 屋外テント、露天など外界気温の影響を受けやすい場所で登蔟蚕の出現状況をしらべると、昼夜の日変化に呼応した二山型を示す場合が多い。また、登蔟時間の長短は登蔟蚕発現の時期によって左右されることが多く、登蔟の主勢を朝方から日中にもってゆくことが理想的である。
  7. 蚕品種によっては登蔟時間の幅の広いものが認められるので、低温に遭遇し易い屋外自然上蔟では品種の選定も重要な課題であることを論じた。

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