岩手県蚕業試験場報告 第4号(昭和35年3月発行)

ページ番号2004915  更新日 令和4年10月12日

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家蚕の健康診断方法に関する研究(1)栄養・環境障害と蚕血液中の血球との関係

河端常信

 家蚕の健康診断方法に関する研究の一環として、栄養・環境障害を与えた蚕血液中の血球数および血球の種類とその割合を調査するとともに病蚕、蚕品種、変態と血球との関係をも調査し、血球調査が共同飼育の稚蚕児の健康診断方法の一つになり得るか否かを検討したものである。

  1. 軟化病、膿病蚕血液の血球の種類とその割合は原白血球の割合が減少し捕食細胞の割合が増加することを認めた。
  2. 蚕品種を異にし1~3令の葉質・温度障害が血球の種類とその割合に及ぼす影響について5令起蚕に調査したところ、捕食細胞の分散(変異)に有意差を認めた。このことは、捕食細胞の変異係数の大小によって蚕が健康か否かをある程度予測出来る可能性がある。
  3. 3令期に日覆桑を給与した蚕幼虫の血球数は給与初期では減少するが、眠期に近づくと正常蚕と大差がなくなり変態になる影響が大きかった。
  4. 原種を供用し、4令期に嫩葉給与多湿育を行うと血球数の減少を示したが、交雑種では障害蚕と正常蚕とで著しい変化はみられなかった。
  5. ナイトロミン処理蚕の血球数の消長をみると、処理後短時間で急速に血球数を減少し、極端に低い値を長く維持した。また、ナイトロミン用量に比例して短時間(17~42時間)における血球数の減少程度も大きかった。
  6. 冷蔵および高温処理蚕の血球数の消長をみると処理から病徴の発現する時期までは各々特異の消長を示したが、病徴が発現すると血球数は減少し、発病末期では急速に減少した。
  7. 4令蚕の時期別に頭胸部間の結紮処理したものおよび同じ時期に絶食した蚕について血球数の消長をみると、熟蚕から化蛹態を示すものは熟蚕になると急に血球数を増し、幼虫態のものおよび脱皮態のものは漸次血球数を減少して絶食蚕と同じ傾向をたどった。絶食しても眠に入るものは眠期に血球数が増加するが、脱皮後は急に減少した。
  8. 異常高温(36℃)に接触すると接触中は血球数を減少するが、普通温に移すと急に増大する。この場合アラタ体、前胸腺両ホルモンの分泌の臨界期付近で高温に接触すると血球数の増減が著しく、障害の影響が大きいようである。
  9. 裸蛹蚕および平板吐糸蚕の血球数は、熟蚕から化桶にかけて著しい増大を示した。
  10. 蚕品種別の血球数、血球の種類とその割合について3令起蚕および4令起蚕に各々9品種を供用して調査し、その平均値をもって種々の障害を与えた場合における血球密度の変化を知るための指標とした。
  11. 1~2令に種々の栄養・環境障害を与えた3令起蚕に血球調査を待った結果、血液1mm3中の血球数が極端に増大又は減少する飼育群および血球数の変異係数が大きい飼育群の減蚕歩合は多い傾向を示した。このことから、血球数・全変異係数の大小により蚕作をある程度予測出来る可能性がある。
  12. 以上の実験によって、蚕血液中の血球は栄養・環境条件と密接な関係があり、これらの条件により敏感な反応を示すところから、血球調査は蚕の健康診断法として重要な項目と思われる。

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