岩手県蚕業試験場報告 第1号(昭和26年3月発行)

ページ番号2004918  更新日 令和4年10月12日

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稚蚕期の簡易飼育法に関する試験及び調査成績 第1報 防乾紙使用稚蚕齢中一回条桑育に関する試験

堀口宣之・小林幸雄・菊地資美

 昭和十八年より昭和二十一年に至る四ヵ年にわたる稚蚕期のパラフィン紙による簡易飼育法に関する試験及び調査の結果を摘要すれば次の如くである。

  1. 交雑種の飼育試験は四回行われたが、総合すると虫繭質、収繭量においては各試験区間大差はないが、繰糸成績においては概して給桑回数の少ない飼育法である防乾条桑齢中一回育、条桑一日一回育、全芽(全葉)一日一回育が優れる傾向がある。
  2. 原種の飼育においては、防乾条桑齢中一回育と全芽育の間において蚕児飼育成績は大同小異であるが、第一回は前者がやや優り、第二回は後者が僅かに優れる成績を得た。
  3. 全芽の萎凋調査においては、補湿焼糠防乾紙区、二枚防乾紙区、防乾紙区の順に萎凋度が遅く、一昼夜後における萎凋度は補湿防乾紙平均成績88%で、その桑葉は尚飼料価値があることを示している。齢中一回育蚕座内における桑葉の萎凋状態調査においては、齢中一回育形態の条桑二枚防乾紙区及び全芽包紙区は各々その対照区に比べて萎凋度が遅く、三昼夜後における全芽の萎凋度は平均成績において両者共84%強であって、齢中一回育が可能であることを裏書している。
  4. 東日本各県試験場の稚蚕ざ芽(桑)、全芽(全葉)、条桑育の比較試験成績を集計したところ、三者間の成績の差は僅少であるが飼育成績において春蚕は条桑育、秋蚕は全芽育・ざ芽育、繰糸成績においては秋蚕条桑育と全芽育がよい成績を示し、簡易飼育法が従来のざ芽(桑)育に比し同等あるいは同等以上であることが明らかにされた。

 以上の試験及び調査の成績より、稚蚕期の防乾紙による種々なる簡易飼育法は何れも実用価値あるものと認められるのであるが、特に防乾条桑齢中一回育、及び各一日一回育が普通防乾紙育に比し、優るとも劣らざることが分明されたのであって、これ等の飼育法が主として労力の節減を図るものであるとされていた概念は是正されなければならなくなったのである。而して、かような飼育法においては給与桑の萎凋防止を完全にはかることが絶対の条件であり、また給桑回数が少ないため、蚕座面積は正確に、給桑量は絶対不足なきよう留意すべきことは勿論であるが、この点防乾条桑齢中一回育は体積において相当余裕があり、したがって操作も比較的簡単であるので実施も容易であると思う。要は防乾紙育法の種類の如何を問わないのであって、さらに生理的な労力を節減し得る方法が案出、実施されることが望ましいのである。

稚蚕期の簡易飼育法に関する試験及び調査成績 第2報 飼育資材を異にする飼育法試験(防乾紙の代用資材)

小林幸雄・菊地資美

 昭和二十・二十一両年における飼育資材を異にする飼育法試験(防乾紙の代用資材)の結果を摘要すれば次の如くである。

  1. 二ヵ年にわたる飼育試験成績を総合すれば、虫質、収繭量においては三者間大差ないが、繭糸質においては濡藁渋紙育及び青草育は防乾紙育に比し優れる傾向がある。
  2. 桑葉の萎凋状態調査においては、渋紙、蚕座紙は防乾紙に比し給与桑の萎凋防止力が少ないので、そのままの状態では到底防乾紙の代用として実用価値のないことが分ったが、渋紙と濡藁とを合わせた既述の濡藁渋紙条桑育蚕座内では、防乾条桑育の場合より防乾力において僅かに優った成績を示し、明らかに実用価値あることを証明した。

 以上の成績より、濡藁渋紙育及び青草育は防乾紙育の代用として実用価値あることが認められるのであるが、最初からの試験を通じてこれを考案するに、防乾紙代用資材を用いた飼育は概して多湿状態にあるため、給与桑の萎凋防止カはあるが、飼育型式によってはやや低温となること、重圧等の関係で蚕児の食桑状態が緩慢となり、経過が延長する傾向があるので出釆うるだけ防乾紙内のような環境に近からしめるよう工夫を必要とするのであって、濡藁渋紙育はなお改善すべき点もあろうが、ややこの条件を具えているように観察するのである。また、この飼育法においては渋紙の代わりに他の紙類または古い損傷した防乾紙等の応用も考えられるのである。今後防乾紙の補給状態が再び悪い様な場合、代用資材による飼育法については真剣に検討されねばならない。

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