岩手県立農業試験場研究報告 第24号(昭和59年3月発行)

ページ番号2004854  更新日 令和4年10月6日

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岩手県南部丘陵地帯の火山灰性新規造成畑における耕土層の問題点と対策について

小野剛志・石川格司・白旗秀雄

 累積性の火山放出物に被われた丘陵地帯での新規造成畑における問題点と土壌改良法について研究した。得られた結果は次の通りである。

  1. 調査圃場は岩手県南部の奥羽山脈に連なる丘陵地上に位置し、10メートルにも達する厚い火山放出物に被われている。このような地域での水平畑造成は地下にあった各種テフラ(火山灰及び軽石)をモザイク状に地表に露出させる結果となった。耕土として問題の大きいテフラは軽石層および重粘火山灰層である。
  2. 軽石土壌はリン酸固定力が高く、有効リン酸および置換性塩基が欠乏している。また極酸性環境下では軽石層の透水性は最低となる。重粘火山灰層は不良物理性と酸性が問題である。一方黒ボク土は物理性は良好なものの、強酸性と銅欠乏等化学性に問題がある。これらの母材的性質の違いは圃場内耕土層を不均一なものとしている。
  3. 原土と耕土の理化学性を主成分分析で検討した結果、作土の理化学性改良は比較的容易に達成されているが、次層土および下層土改良は特に重粘火山灰土壌で困難であることが知られた。
  4. 小麦を指標作物として土壌生産力を検討した結果、山成畑の黒ボク土では安定して収量が高いのに対し水平畑の重粘火山灰土では収量のバラツキが大きかった。
  5. 重粘火山灰土では新墾プラウでの青刈ソルゴーすき込みにより次層土の物理性改良効果が認められ、排水良好な場所ではこの方法により小麦も増収した。
  6. 小麦収量調査項目と土壌理化学性の検討から土壌物理性に関しては透水要因が正の、圧密要因が負の関係が認められ、ソルゴーすき込みはいずれの改良に対しても有効であることが知られた。又土壌化学性に関してはCEC、苦土含量、苦土加里比、有効リン酸がいずれも正の相関を示し、リン酸、苦土による土壌改造と、表層黒ボクの重要性が明らかにされた。
  7. 以上の結果をもとにして新規造成畑および土地資源に関する基本的な問題に関して考察した。

パイプラインかんがい施設利用による水田用水の多目的利用に関する研究

岡島正昭・小澤龍生・米沢 確・石川 洋・千葉満男・築地邦晃・斉藤博之・鶴田正明

 本調査は、パイプラインかんがい方式を、単に、水田用水のかんがいに利用するだけでなく、かんがい用水に肥料、除草剤および殺菌、殺虫剤を混入施用する技術を確立し、パイプラインかんがい方式の多目的利用をはかることを目的として調査した。以下、昭和51年から55年までの調査結果を要約する。

  1. 土壌調査
     基肥の流入施用は土壌の有効態リン酸に影響し実用上問題があるが、追肥の流入施用は4か間の試験結果では土壌の理化学性に与える影響はみとめられなかった。
  2. 用水量調査
    1)代かき用水量は、代かき用水入水時の土壌水分によって左右され、10アール当り平均80トン、最大113トン、最小42トンであった。また、代かき用水量は短時間に集中的に入水することによって用水量の節約となる。
    2)日減水深(ほ場)20~30mmの当ほ場での管理用水量は稚苗体系で10アール当り平均1,700トン、最小1,300トン、最大2,300トン、中苗体系で、10アール当り平均1,400トン、最小1,000トン、最大1,800トンであった。降雨を含めた総用水量は稚苗体系で、平均2,500トン、中苗体系は2,100トンであった。
  3. 地温調査
     パイプラインかんがい方式による夜間かんがい法は、慣行水管理法(朝、夕水管理)に比較して、地温上昇効果が高く、とくに、寒冷地稲作に重要な生育前半の6月の地温が高く経過する。また、パイプラインかんがい方式は水口、中央、水尻の地点間差がなかった。昭和55年の調査結果から、慣行水管理法においても日の出前後のかんがい水の入水はパイプライン夜間自動かんがいと同様な地温経過であった。
  4. 肥料の流入施用
    1)基肥流入施用
     基肥の流入施用は、施肥基準量を現在一般的に使われている資材(この試験では液肥+単肥)を使用した場合、ほ場内の濃度分布が不均一となり、生育、収量に大きく影響し実用性がなかった。
    2)追肥流入施用
    (1)本装置による二次希釈液(吐出口)は、液肥、単肥(硫安、塩加)ともほぼ均一な濃度となった。
    (2)追肥の流入施用は、分けつ期、幼穂形成期ともに、完全落水条件で流入施肥することによって均一な濃度分布となり生育収量にも影響を与えず実用性が高い。
    (3)流入施肥による田面水中の窒素濃度低下は希釈、土壌吸着、土壌微生物による窒素形態の変化、脱窒、水稲および水生植物による吸収が考えられる。
  5. 農薬の流入施用
    1)除草剤流入施用
    (1)デルカット乳剤の移植直後の流入施用は、多少の薬害の発生もみられるが、除草効果も高く、実用性が認められた。
    (2)粒剤は水に溶難く、濃度分布も不均一となり、除草効果も濃度分布に対応して除草効果もバラツキ、対照区と比べて除草効果も劣り、実用上問題がある。
    2)殺菌剤流入施用
    (1)フジワン乳剤の流入施用濃度分布は、乳剤ということもあって、均一な濃度分布であった。
    (2)稲体中の濃度は対照区と比較して低目であったが、いもち菌の接種試験の結果は一応防除効果は認められた。
    (3)実用化に際しては、ほ場での防除効果の確認等、さらに検討を要する。
    3)殺虫剤流入施用
    (1)サンサイド乳剤の流入施用濃度分布は、ほぼ均一は濃度分布となった。
    (2)稲体の体内濃度は対照区と比較して高濃度であった。
    (3)防除効果も十分あり、サンサイド乳剤の流入施用の実用性は十分認められた。
  6. 結論
     パイプライン方式を利用して、かんがい水に資材を混入施用する技術の実用化のためには、資材の開発にかかっている。その資材の要件は、(1)水に溶解し易しいこと、(2)稲体への吸収移行性があること、(3)流入施用を行なっても薬害がないこと、(4)土壌への吸着性が適度であること、これ等の条件を持つ資材であればかんがい水混入流入施用は十分実用性があり、管理作業の省力化とともにパイプラインの効率的利用も図られる。

水田転作における青刈りヒエの生産力の安定向上と利用技術の確立に関する研究

大野康雄・千葉行雄・菅原 明・伊五沢正光・大久保一明・宮下慶一郎・神山芳典・太田 繁・伊藤陸郎・佐々木武虎・佐々木信夫

 転作ヒエの栽培に水稲の機械移植技術を適用して省力機械栽培体系を確立した。

  1. 水田状態での栽培が容易で安定多収が得られる。
  2. 稲用の機械(田植機・バインダー・脱穀機)や施設がそのまま使え、作業の省力化ができる。
  3. 青刈り稲に比べ、病害虫の発生も少なく管理に手がかからない。
  4. 飼料として良質で家畜の好みもよい。
  5. 自家採種が容易で増殖率高く、常温貯蔵で少なくとも3カ年は発芽勢は劣らない。
  6. 青刈り(生草給与・サイレージ・乾草)と実取り両用に使える。
  7. 以前、県北では水田の水口に作付していたこともあり、冷水に強い特徴を示している。

 また、試験の成果について、総括的な栽培技術は次のとおりである。

  1. 多収省力移植栽培法
    1)田植機への適応性は、苗マットの強度などからみて箱当り30~40グラムの播種量が好適し、窒素施肥量は箱当たり1.0~1.5グラムが適当である。
    2)青刈り収量は1回刈り(穂揃~糊熟)で10アール当り6~7トン、2回刈り(8月上旬と10月上旬)は10トンであり多収であった。
    3)除草剤はMO、X-52、マーシェット、サターンSなどが使える。
    4)自給肥料として牛厩肥、オガクズ入り牛糞は10アール当り3~6トン施用が可能である。
    5)収穫はバインダー、モーアー、コーンハーベスター等の活用で収穫できる。
  2. 調製利用体系
     サイレージ用品種として「赤ひえ」が適し、フリーク評点で品質は良~優で、噂好性も優れており良好な粗飼料が得られる。
  3. 採種栽培体系
     青刈りに好適したヒエ品種として、「赤ヒエ」を準奨励品種に編入した。また、晩生品種の前進栽培(早期育苗、4月中~5月上旬播種)で完熟した種子が得られる。種子は常温貯蔵で実用的保存年限は5年である。
  4. 経営経済的評価
     転作ヒエ導入農家の実態調査では、青刈り、サイレージ利用が有利であった。

 このように水田転作の作目として、水田保全とともに、作業体系・機械施設などが現状のまま使える有利性もあって、えさ米のような収量性、食管法との関連等での識別性等飼料化にあたっての問題点も少ない。栽培ヒエは、水田状態でも栽培が可能で耐冷性も強い等から容易に転作物として導入され、岩手県内における転作ヒエの栽培面積は約400ヘクタールで、かつ年々の伸びが期待できる。

岩手県における微量要素欠乏に関する研究

千葉 明・白旗秀雄・新毛晴夫・千葉行雄・古沢典夫・内田修吉・中野信夫・関沢憲夫・佐藤久仁子・黒沢順平・高橋健太郎・夏井和七

 岩手県内に発生した微量要素欠乏で、その欠乏症状が顕著であった作物で、しかも対策試験の結果が明らかに認められた作物について取りまとめた。なお欠乏症状の著しかった苦土もあわせてとり上げた。

  1. マンガン欠乏症は麦類とくに裸麦に多発し、発生の土壌条件は置換性マンガン(MnO)5ppm以下、易還元性マンガン30ppm以下であり、収穫期裸麦の茎葉中のマンガン含量は30ppm以下で欠乏症は明瞭であった。マンガン欠乏対策としては、高pHの場合が多いので酸性肥料の施用、硫黄華による土壌pHの低下、硫酸マンガン10アール当り10~15kgの施用及び硫酸マンガン0.5%液の葉面散布が有効である。
  2. 銅欠乏症は麦類に多発し、発生土壌条件は0.1規定塩酸可溶銅(Cu)でほぼ0.2ppm以下、1対10塩酸可溶銅で10ppm以下と見られる。欠乏水準にある麦類の収穫期茎葉中の銅含量は5ppm内外であり、銅欠乏対策としては、硫酸銅を10アール当り麦類では4kg、オーチャードグラスでは6~8kg、デントコーンでは2~4kgの施用が有効である。
  3. 亜鉛欠乏症は陸稲(畑稲)ととうもろこしで著しく、大麦、白菜でも収量減は顕著である。欠乏症発生の土壌条件は0.1規定塩酸可溶亜鉛(Zn)で1ppm以下であり陸稲では収穫期茎葉中の亜鉛含量は20ppm以下である。亜鉛欠乏対策としては、硫酸亜鉛を陸稲では10アール当り4.4kg(亜鉛として1kg)、とうもろこしでは同じく3.5kg(亜鉛として0.8kg)の施用が有効である。
  4. 硼素欠乏は白菜、ビート、カリフラワー、菜種等多くの十字科作物に発生するが、欠乏症発生の土壌条件は水溶性硼素(B)として0.2ppm以下である。白菜、ビート、カリフラワーの収穫期の硼素含量は30ppm以下では欠乏水準である。硼素欠乏対策としては上記のいずれの作物も、10アール当り1~2kgの硼砂の施用が有効である。
  5. 鉄欠乏は畑稲に見られている。欠乏症発生の土壌条件はpH4.8の1規定酢酸ナトリウム抽出鉄(Fe)の8ppm以下である。幼穂形成期頃の茎葉の鉄含量は75ppmが欠乏水準である。鉄欠乏対策は土壌酸性の低下が根本対策であるが、硫酸第一鉄の施用、あるいほ同資材の0.1%溶液の葉面散布も応急対策として有効である。
  6. 苦土欠乏も多くの作物に発生が認められるが、本県では陸稲の発生症状が特異的であった。欠乏発生の土壌条件は置換性苦土(MgO)の10ミリグラム%である。苦土欠乏対策としては硫酸苦土の効果が高いが、硫酸苦土は土壌中で下層への移行が多いので、熔燐のようなく溶性の苦土を含むものが効果的なこともある。

 岩手県内にはこれら微量要素欠乏が複合している土壌も多いから、総合的な対策も必要である。

[資料]奨励品種編入に関する資料

水稲(うるち)「みちこがね(空育110号)」(昭和59年1月)

(摘要なし)

水稲(うるち)「コチミノリ(ふ系126号)」(昭和58年1月)

(摘要なし)

大豆「ワセスズナリ(農林78号)」(昭和58年1月)

(摘要なし)

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