岩手県立農業試験場研究報告 第17号(昭和48年3月発行)

ページ番号2004861  更新日 令和4年10月6日

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山背風地帯における気象並びに水稲生育相の解析に関する研究

宮部克己・田中義一・藤原 宏

 山背風地帯の稲作期間の気象解析、偏東風の気候特性、および耕種条件を同一にしたポットを水田に設置して、気象条件と水稲生育の関連性等について検討を行ない、多収阻害要因を明らかにしながら、水稲収量の安定、向上を計るために必要な対策技術研究の問題点を摘出しようとした。

  1. 軽米、種市、宮古では、Eに偏した風向が低温風向であり、6~8月の平均状態として低温風向、すなわち山背風の平均範囲は、軽米、種市ではNE~SE、宮古でNE~Eである。
  2. 軽米では、6~8月平均で、E、SEの風が平均-2.0℃の最高気温偏差をしめし、次いで、NEが低く、種市では、NEの風が、最も低温(-1.4℃)で、続いてSE、Eの順となる。宮古では、NEが平均-0.9℃、続いてEの-0.5℃の順となる。
  3. 6~8月の平均で、種市の偏東風の出現割合は、70%にも達し、軽米の2倍以上の頻度で、いちじるしく高い。
  4. 軽米では、山背風が吹出しても、5日以上連続することが少ないのに対し、種市では、長期間にわたることがしばしばみられ、連続日数16日にも達することがあって山背風の勢力が強い。
  5. 山背主風は、偏西主風に比べて、良い天気の出現割合が少なく、両主風の同一天気間の温度差は、霧の日を除き、軽米の場合は、2.3℃山背主風が近い。
  6. 6~8月を平均し、軽米では最小湿度でみて、山背風が約11%、宮古では平均湿度で9%高湿である。
  7. 安全移植期早限日は、低温年次を考慮すると、内陸に比べて沿岸では遅くなり、温度条件からみて安全に早植しにくい。
  8. 内陸に比べて、沿岸では安全成熟期晩限日が10日位遅れ、安全登熟期間が長い。
  9. 北部沿岸の山背風地帯では、内陸に比べて稲作期間中の気温条件に恵まれず、遅延型生育となりやすい。山背風の吹出しが少ない高温年にはその差が少なくなるが、そのような気象型の出現頻度は少ない。
  10. 軽米、種市の水田水温を比較すると、高温年では場所による差が少なく、低温年において差が増大し、種市に比べて軽米の水温が高く、低温年の6、7月には2~3℃の差がみられる。
  11. 北部沿岸地帯の6月気温が低いのは、山背風の吹出しによるもので、この期間の低温は水稲の活着と分けつの発生を遅らせ、遅延型冷害を招きやすい。
  12. 低温年には、沿岸の活着がいちじるしく遅れ、移植10日後における地下部の乾物重が、内陸の30%程度にとどまる。
  13. 移植後30日間の平均最高気温と出穂との相関が高く、沿岸では移植時の気象経過が、生育速度を強く規制する。
  14. 低温年には、内陸に比べて沿岸の主稈葉数が1葉増し、出穂期で9~13日位遅延する。
  15. 移植から出穂までの間の積算気温は、内陸に比べて沿岸の方が大きく、生育に対しての無効温度が多く含まれ、冷害年次においてその程度を増す。
  16. 山背風地帯の安全出穂期間巾は、県内でもっとも短く、8月の第3半句が確率遅延日数をみこんだ安全出穂期間となる。
  17. 低温年には、北部沿岸では温度不足から遅延型の生育をたどり、生育量が小さく、短稈少けつ型の生育相をしめす。
  18. 山背風地帯の収量が、内陸に比べて劣るのは、生育が初期から抑えられ生育量が小さく、さらに、出穂のフレが大きくて登熱が低下しやすいためである。
  19. 山背風地帯では、初期生育の確保と生育の促進を図る技術がとくに大事で、基盤整備、適品種選抜、健苗育成、水地温上昇対策、施肥技術等について改善策を打ち出し、安全性の高い稲作技術の体系化を共同研究で進めることが必要である。

亜鉛欠乏土壌に関する調査研究

関沢憲夫・内田修吉・千葉 明・中野信夫・高橋良治・佐藤久仁子

 岩手県下に亜鉛欠乏が発見され、その発生要因、対策、作物による感応、有効態亜鉛分析のための溶媒等について検討した。

  1. 土壌pHの上昇によって、欠乏症状は激しくなり、収量も減ずるが、亜鉛の増施によって得られる増収量はごくわずかであり、作物自身の最適pHへの調整が極めて重要であった。
  2. pH5.2~5.5の酸性土壊において、燐酸、苦土、石膏、塩化カルシウムの施用は、実用的な施用量の範囲では、亜鉛の吸収を妨げなかった。また亜鉛の施用は、マンガンおよび多量の苦土の吸収を抑制する傾向が認められた。
  3. 亜鉛欠乏が発生するのは、機械開墾、土壌侵食、階段畑の造成などのように、表土が除去された場合に認められた。母材別では、火山灰、石灰岩土壌でおこりやすく、次いで花崗岩、輝緑凝灰岩土壌が発生しやすかった。三紀層は、供試土壌の範囲では発生をみなかった。
  4. 土壌による亜鉛の吸収と置換は石灰に類似した。亜鉛欠乏土壌でも、亜鉛の吸着や置換に特異性はなかった。
  5. 対策としては、10アールあたりZnとして1kgの亜鉛資材の施用が有効であった。
  6. 亜鉛欠乏に対する作物の感応は、およそ次のとおりである。
    ・欠乏に敏感なもの 畑稲、とうもろこし、結球白菜、大麦
    ・感受性が中位のもの 燕麦、大豆、小豆、ほうれんそう
    ・欠乏に鈍感なもの 馬鈴薯、小麦、そば、ラヂノクローバ
  7. また、畑稲のなかでも、感受性は品種間に差があることが認められた。
  8. 数種の溶媒によっで抽出される土壌中亜鉛と、作物による亜鉛吸収量との関係について比較した。0.1規定酪酸、1規定醋酸アンモン(pH4.6)、0.05規定塩酸、0.1規定塩酸、0.1規定炭酸アンモン+0.01M-EDTAによる抽出は、いずれも作物による吸収量と高い相関を示した。しかし、抽出量が少ない土壌の中には、発生、非発生の両土壌が混在し、両者の分離は簡単でなかった。このことについては今後の研究にまたなければならないが、供試溶媒のうちでは醋酸アンモンがややまさった。

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